表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/223

第五十九話 死闘の後で~放った魔法は異常な魔法~

ズズゥン・・・



 辺りに静かなる沈黙が流れる。



一度にあれほどの魔族、あれほどの死闘が消え去った後のこの静けさは、異様な雰囲気をかもしだし、不気味ささえ感じる。



後から来る静けさの威圧。それはそれまでの激しい戦闘の傷跡を物語っていた。



「ここまで来ると驚くというよりも呆れますね・・・」



玲の方に倒れ込んだまま動けなくなっている俺の後ろから、工藤がやってきて呟く。



「あれほどの魔族を一蹴する、あなたの紋章の力がこれほどとは。それもまだ未完だというのに、いやはや、その力は我々の予想の領域をはるかに超えていますね」



「工藤君、さっきのは一体なんだったの??」



玲はケガを負いながらも、倒れこんできた俺を受けとめ、なんとか支えながら工藤に尋ねる。



「そうですね~、と、その前にまずはご自分の体のことを心配したほうがいいんじゃないですか?伊集院さ~ん!」



工藤はなにかを言いかけながらも、玲のケガを見てすぐさま伊集院さんを呼ぶ。



そしてどこからともなく伊集院さんがスッと現れる。



「柳原さんの治療をしてあげてください。さきほどの戦闘で右肩を負傷したようです」



工藤がそう言うと、伊集院さんはなにも言わずにコクリと頷き、スタスタと一直線に玲の元へと歩み寄ってきた。



そしてそっと玲の右肩に手を添える。



「少し痛いかもしれない。我慢して」



「え、あ、うん・・・」



伊集院さんは一言だけ言葉にトーンを付けずにそう言うと、ゆっくりと目をつむって詠唱を始める。



「聖なる光と共に、その光でこの者の傷を癒し、再構成せよ」



「Holy healing of re-composition・・・」



伊集院さんが詠唱を終えた瞬間



フウァァァ・・・



激しく光る魔方陣と共に、玲の右肩を優しく、おぼろげな光が包み込む。



その様子は、見る人をも魅了する暖かな光だった。



そして、1、2分が経過した後



シュオン・・・



「・・・修復完了」



その音と共に伊集院さんが一言呟くと、玲の右肩に添えていた手をそっと離し、ゆっくりとその体を起こして、工藤の横に立った。



「・・・凄い。もう元に戻ってる」



玲は伊集院さんが離れたのを確認した後、自分の肩をぐるぐると回してその効果を実感する。



その右肩にあった傷は跡形もなく、普段の姿へと戻っていた。服に染みついた赤色のシミが一体どこで付いたのか目を疑うほどに完璧にその傷は消え去っていた。



伊集院さんの持つ癒しの力、それはまさに天使というべき聖なる力。



俺なんかの力とは違う。むしろ正反対な力だ。




 その時、傷の痛みから解放された玲が今の状況を冷静に考えられるようになる。



「・・・はっ!?」



今の状況、座り込んでいる玲と、そこに身をあずける俺。そしてそれを玲が支える。



その光景は、はたからみればある意味とても微笑ましい光景だった。



まあ当の本人からすればかなり恥ずかしい状況なのだが。特に女の人に至っては。



ほかの人から見れば半ば二人は抱き合っているようにも見える。その状況を改めて玲は今その瞬間理解する。



そしてみるみる玲の顔が赤くなっていく。玲の体に顔を押し付ける形になっている俺は、玲の体がどんどん熱くなっていくのをその肌で直接感じ取る。



って、もしかしてこれってそんな悠長なことをいっている場合じゃないか?これ。



タッタッタッタッタ・・・



そしてこの場面で一番きて欲しくない奴ナンバー1の人物が不幸にも、そしてまるで計ったかのようなタイミングで現れる。



「お~い!」



まあわかるとは思うが健だ。



「一体どうなったんだこれは・・・っておお!?」



健は俺達の元へと辿りついた直後、その光景をみてピタリとその体が止めて声に出す。まあおそらく多分きっと言うだろうと思った言葉を見事に期待を裏切らずに健は口にする。



「こ、これは・・・お前らもしかしてそんな関係!?」



あ~・・・めんどくせえ(笑)



「キャッ!?」



「うお!?」



ビターン!!



玲は健の姿を見つけた瞬間、寄りかかっていた俺の体を慌てて強く突き放す。その反動で俺は空中で一回転した後、ベターンと地面に思いっきりその体を打ちつけてしまう。



い、痛いっす玲さん・・・



自分の体の下となっている、床がとても冷たかった。



「ち、違うのよ!!これは蓮君が私のところに倒れかけてきてそれで思わずそれを受けとめちゃって、それでこんな形になっちゃって・・・と、とにかく違うの!!!」



玲が慌てて健に状況を説明する。床に叩きつけられ顔をそれに押し付けている格好になっている俺でも、今玲が相当テンパってることが手に取るようにわかる。話の口調もそうだが、必死になっているところ、そして状況を説明しようとして見事に失敗しているところを聞けば誰にだってわかる。



「いや別にそんな謙遜しなくていいって。俺はなにも野暮は言わないよ(笑)」




「だから違うって!!」



 

 そんな微笑ましい二人の会話を聞いている中、ふと、二人の会話から耳を離すと、前の方向からなにやら会話が聞こえた。



「大丈夫ですか?伊集院さん」



「問題ない。特に体に異常はない。いつでもいける」



(・・・?)



なんだなんだ?なんのことを話してるんだ??



玲と健の会話とは裏腹に重苦しく、真剣な会話が二人の間に流れている。その会話の温度差は灼熱の太陽とキンキンに冷え切った氷並みに違っていた。



「まあ、まあ。微笑ましくていいじゃないですか」



工藤は突然玲と健の二人に声をかける。



「く、工藤くんまで・・・って工藤君はその場面見てたでしょ!」



玲は工藤に言いかえすが、言った本人はなぜかそれを受け流し、いきなり本題へと入っていった。



「まあ、それはいいとして。さきほどの一之瀬さんの件ですが、おそらくあれは魔族本体を攻撃するものではなく、その魔族の根源そのものを破壊、無効化する魔法だったようですね」



「魔族の根源・・・?」



 玲は不思議そうに首をかしげた。確かに工藤の言うことはよくわからなかった。魔族単体を攻撃じゃなくて根源を破壊、無効化?



いまいち違いがわからないのだが・・・



その魔法を放った本人がわかってないというのも変な話だが、俺はあのとき、ただ自分の魔法書に記されていた未知なる魔法を唱えただけだったから、その魔法がどんな魔法で、どんな効力があったのかはわからなかった。とりあえずわかっているのは



それがただの魔法ではない、それだけだ。



「おそらくうすうす気づいてはいたとは思いますが、あの魔族の群れは魔族そのものではありません。あれは幻影、おそらくあれは何者かの魔法によって召喚されたものでしょう。倒しても次から次へと現れる、それはここではないどこかで、誰かがあの魔族を作りだし続けていたからです。その本体がいるかぎり、あの魔族達は無限に作りだされていたでしょう」



「幻影・・・」



俺達があれだけ苦労して倒していたのは全部幻影。それがわかると、俺達の努力って一体何だったんだ?という感じになる。つまり、工藤の言うことが正しければ俺達がしていたことは全部無駄骨だったことになる。



そもそもそれを知っていながらなんであいつは戦い続けてたんだ?



「そして一之瀬さんが放った魔法は、この廊下にかけられていた魔法そのものを無効化するものだった、というわけです。魔法で作られたあの魔族は、それによって全て消滅したわけです」



無効化、あの魔族の大群を一瞬にして消し去った魔法が無効化とはな。そもそもあの魔族が魔法で作られていたというのにも驚きだが、それ以上に、俺は自分の放った魔法がどんなものなのかが知りたかった。



「その・・・無効化ってのはそんなに凄いものなのか??」



俺がそう尋ねると、工藤は驚いたような表情でうつ伏せになりながらも話す俺を見つめる。



「おやおや、その魔法を放った張本人がその凄さをわかっていないとは。まあ無理もありませんが、そもそも、魔法自体を無効化、っていうことが常識的な考えからして無茶苦茶なことなんですよ。普通他人が放った魔法を回避、または防御することはできますが、それを消し去るなんてことは普通なら到底出来ることではありません。それも今回のような大規模な魔法ならなおさらです」



そして工藤はそう言った後、追い打ちをかけるように一旦間を開けてから話す。



「正直、あなたの放った魔法は異常です。私たちからみればあり得ないほどに強力な魔法なんです。私自身も、あの魔法の力には鳥肌が立ったぐらいです」



「異常、か・・・」



自分で放った魔法が、そんなにも強力な魔法だったとはな。まあ実際、あの状況を覆すほどの魔法なんだ、弱いわけがなかったがそれほどだったとはな。



工藤に鳥肌を立たせるほどの力。俺の力はやはり「非常識」なものなんだな。



その割には、あんまりその力を活かせてないんだけど・・・



「まだ未完の紋章でその威力とは・・・それが完成したら一体どんなことになるのか、想像するだけでも恐ろしいですね」



(恐ろしいか・・・)



俺の力は、やはり伊集院さんの力とは正反対な力だ。伊集院さんの力は誰かを癒し、力となるものだが、俺の力はどんなに強くともそこからは恐怖しか生まれない。



そんな力、本当ならほしくないんだけどな・・・



「あ~突然わりいけどちょっといいか?」



 俺があれこれ考えていると、突然それまで黙っていた健が話を切り出す。



「それで・・・なんで蓮は床に寝っ転がったままなんだ??」



健は俺の方を指さしながら言った。



今の俺の状況は、うつ伏せ状態で地面に顔を押し付けている、はたからみればかなり間抜けな感じになっている。



だけど立とうにも体は動かない。



「それは、あの魔法で自分の力、魔力をいっぺんに使い果たしたからですよ。しかし、あの一発でここまで衰弱するとは・・・。あの魔法がどれだけ強大なものなのかがわかりますね」



「・・・・・・」



魔力を使い果たすねえ・・・それでここまで体が言うことを聞かなくなるのか。



魔法をあまり使ったことのない俺からすれば、それは初めての体験だった。まあ体験できてもなんにも嬉しくないけど・・・



「つまり、あなたのその紋章の力は多用できないということです。いうなれば玉砕覚悟の一撃必殺、といった感じですね」



結局、俺のこの力は本当に大事な局面でしか使えないということか。




だけどそれでも、それで誰かを守れるなら俺はその力が嬉しい。




どんなに自分にダメージを負ったって、誰かのために役に立てることができるんだから。俺にもそんな力があることが素直に嬉しい。



たとえそれが、周囲に恐怖を植え付けるような魔法だったとしても・・・



「まあ、個人的にはあまり使ってほしくはないんですがね・・・」




(・・・?)



工藤は、ぼそりと意味深な言葉を呟くと、その顔をくっと上げてみんなに向かって言った。



「それではこれからについてですが、こうなった以上、今回のターゲットは私と伊集院さんの二人で倒します。相川さんは担ぐなりおんぶするなりして一之瀬さんをなんとかして支えて、負傷して間もない柳原さん、そして全く動けない状態の一之瀬さんは私たちの戦闘を見学してください」



「わ、わかった」



そういえば、さっきの魔族の大群との死闘のせいで、今回の戦闘の本当の目的を忘れかけていた。



俺達の目的、それは屋上に潜むターゲットの殲滅。そのために俺達は必死の思いで戦っていたんだ。



「今までの二体のターゲットはいずれもそちらが倒していますからね。少しぐらい、私たちの力も見せておかないとね。伊集院さんもそれでいいですか??」



工藤がなにも言わずに横にいる伊集院さんに尋ねる。そして伊集院さんはいつものように無言で一度だけ頷く。



「ではこれで決定です。それでは行きましょうか、ターゲットの「殲滅」へ」




 そして俺達は、ターゲットのいる屋上へと歩き出した。俺は健に担がれながらなんとか前を進んだ。



死闘の後のターゲットの戦闘。俺はそこで、ターゲットとの「本当」の戦い方を目の当たりにする。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ