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第五十八話 解放される紋章~全てを無に帰する魔法~

都合により文が少し長く、プラス更新が遅れました。スイマセン><

シャキーン、ピキーン、バシュッ・・・



 廊下で繰り広げられる激しい戦闘。倒しても倒しても出現する魔族。一体一体は弱くても、それが積み重ねればやがてはその数が脅威となる。



まさに無限回廊。俺達は魔族の攻撃を退けながらも、少しずつ、確実に体力の限界が近づいていた。



「はあ・・・はあ・・・」



俺は完全に息が上がっていた。胸が苦しい。体が酸素を欲している。なんだかこうして立っているだけでもクラクラする。俺はもう立つことさえ苦しくなっていた。



シャキーン、ビシ、シャ、シャキーン・・・




遠くから武器と武器がぶつかり合う音が聞こえる。音からしておそらく玲か健のものだろう。二人もさっきからずっと戦い続けている。俺とは違い魔力を使って戦う二人は、俺以上に体力を奪われているだろう。



その証拠に、先程から聞こえる戦闘の音は、最初に比べてかなり乱れている。たしかに戦い続けてはいるが、そこに本来持っているキレのようなものはなかった。




だがそれもそうだろう。みんなもう30分以上も戦い続けているんだ。普通の人間ならとっくのとうにぶっ倒れているだろう。体を鍛えている人でもさすがにここまでくると非常にきつい。今の状態は全力で走っているのと同じぐらいに体力をつかう。今の体力の消費を30分も続ければ誰だって体力の限界が訪れる。



いや、もう体力の限界は超えているのかもしれない。健はわからないが玲は相当負担がきているだろう。男でも辛いのにこれを女子がこなすのは酷なことだ。今は体力というよりも精神力で保っているような感じだ。



みんな限界がきているはずなのに、それでも戦い続けている。




自分たちがここでやらなければ、多数の命を失うことになることを知っているから




自分たちが戦う理由、自分たちが担っている大きな責任、それを知っているから気力を振り絞り、限界を超えているであろう体を必死に動かして戦っている。



まさに死闘。己の全てを賭けて戦い続けている。




「はあ・・・はあ・・・くそっ!!」




 俺は剣を地につけて体を支えた。自分の体重を支えている腕がプルプル震えてそれに合わせて剣も揺れる。



もう俺には剣を振るう力はとっくの昔に無くなっていた。こうして立っているのが精一杯だった。



だけど、そんな中でもみんなは戦っている。俺以上の負担を抱えながら確かに戦っている。



 なのに、俺の体はもう思い通りに動いてくれない。その先に、みんなが、仲間が戦っているというのに、俺にはもうそこに飛び込んで戦う力は残されていなかった。



意識では戦いたいのに、体は完全にその命令を拒否していた。そんな自分が情けなくて、歯がゆかった。



同じ仲間なのに、同じ場所にいるのに、俺は一人、戦場の中で取り残されていた。




「はっ・・・」




 俺が体を支えることに意識を向けていると、目の前にはもう魔族が立ちはだかっていた。




「くそっ・・・またかよ・・・」




俺は自分の体とは思えぬほど重い体を起こそうとする。しかし体は全く反応しなかった。それどこらか剣にかける手の力が逆に弱くなっていった。



(やばい・・・)



体が動かない。だけど目の前に魔族はいる。いまにも俺を殺そうと飛びかかろうとしている魔族がいる。だけど、俺はもう剣さえ動かすことができなかった。



(くそっ・・・動け!!)



必死に俺は手に力を込めた。そして叫んだ。するとその時



「無駄ですよ」



「!?」



突然後ろから声がした。そして俺が振り向こうとした瞬間



ビシュッ



一本の矢が俺の頭すれすれを飛んでいく。そして、俺の前に立ちはだかっていた魔族を一瞬にしてその一本の矢が貫く。



そして魔族は消えた。



「大丈夫ですか?一之瀬さん」



「工藤・・・」



そこにいたのは工藤だった。大きな弓を下ろし、目標物の消滅を確認した後俺にいつもの笑顔で話しかける。



「どうやらもう限界のようですね。魔力の使えないあなたにはこの長く激しい戦闘に対する負担は相当なものでしょう。その様子をみると、これ以上こなすのは無理でしょう。一之瀬さんには一旦退いてもらいましょうか」



そう言って工藤は俺に手を差し伸べる。



「ま、待て・・・みんなを残して俺一人逃げろってのか??そんなことできるわけないだろ!!俺がこうしている時にも、みんなは必死の思いで戦ってるんだ。俺だってまだまだ戦える・・・だから・・・」



俺は必死に自分の体を動かそうとする。しかし無情にも、それに反して体が動くことはなかった。



「もう自分の体を動かすことさえできないんでしょう?それに、そんな状態で戦えると思うんですか??」



そう言って工藤は俺の脚を指さす。



俺の脚は、自分の体重を支えるだけで精一杯だった。無意識にガクガクと大きく揺れている。もう無理ですと、脚がSOSサインをだしていた。



「くっ・・・」




「戦いから退くことは決して恥ずかしいことではありませんよ。誰にだって限界はあります。誰にだってどうしようもない時はあります。そんな時、退くことだって戦闘において重要な作戦の一つです。たとえここで退いたってだれもあなたを責めませんよ。今のあなたが退くことを責める人なんてどこにもいません。あなたは充分すぎるほどに戦いました。だからもうここで・・・」




自分にとっくに限界がきてる事なんて知ってる。それは自分が一番よく知ってる。




だけど・・・それでもここで退くなんてこと、できないだろ普通・・・



「だけどそれでも俺は・・・」



俺がそう言いかけた時




「いい加減にしてください!!」



突然、工藤の罵声が廊下に響いた。いつもの工藤からは到底考え付かないような鋭い目つきと大きな声。



真剣に、真っ直ぐに俺の目を見つめて言う工藤。そんな工藤を俺は初めて見た。



「これだけ言ってもわからないんですか?ではいいでしょう。率直に言わせてもらいます。今のあなたがここにいてもほかのみなさんの「邪魔」になるだけなんですよ。これ以上戦えない人が戦場に残っても仕方ないんですよ。かえってほかのみなさんの集中力を削ぐだけです」



「・・・・・・」



なにも言いかえせなかった。



みんな戦っている中、一人体力切れで動けない状況で戦場に居座り続けることがどれだけ迷惑、邪魔なことなのか、それは工藤の言ったとおりだった。



みんな大切な仲間だ。誰一人として傷つけたくない。それ故に、誰かがピンチに陥れば自分を犠牲にしてまで守ろうとする。無理をおかしてまで駆けつけようとする。



たとえ自分一人の身を守るだけで精一杯な状況であっても。



俺はこの戦闘で一度助けられている。まず玲に後ろの敵の存在を教えられ、そしてそれを伊集院さんが倒し、助けてくれた。



確かに伊集院さんにいたっては戦闘に余裕があるかもしれないが、それでも俺を助けることが負担になることには違いなかった。



 もう、俺がここに居続けることに意味はなかった。かえって「邪魔」な存在と化していた。



工藤の言うとおり、俺には退く以外に選択肢はなかった。




だけど



1+1+1+1+1=5



 数からすれば確かに5人。だけど戦力としては元の俺の力はその「1」にも満たない。0.3、0.2、いやそれにも満たないか。



そして今となっては完全に「0」となっている。今まで少なからず倒してきた魔族を今度はほかのみんなが補わなければならない。それがどれだけ負担をかけることか。みんなもう一杯一杯だ、その負担は計り知れないものになる。



そんなことがあっていいのか??俺にはみんなの力になれないのか??俺は本当に「邪魔」な存在なのか??



俺に、力があれば・・・




魔法、俺はそれを使えない。「リファイメント」という初歩中の初歩の魔法は使えるが、そんなもの今は全く役に立たない。



今の状況を打開するには強大かつ、強力な魔法が必要だ。




俺に・・・魔法を使う力があれば・・・




「一之瀬さん、もうわかったでしょ?ここは一旦退いてください。後は我々でなんとかします。だから今は・・・」



工藤が一人うつむく俺にそう言った時



「キャッ!!」



一人の悲鳴が聞こえた。



俺が振り向くとそこには



「玲!?」



なんと玲が手で右肩を押さえてひざまずいていた。手の下には赤い染みが滲み出ていた。



次々と襲い来る魔族の攻撃を抑えきれなかったのだ。本来なら一掃できるだけの力はあるが、今はもう限界、今まではすんでのところでかわしてきたがとうとう魔族の攻撃を受けてしまったのだ。



「くっ・・・」



玲はなおもひざまずいたままだった。手で押さえている箇所から赤い液体がこぼれおちる。その液体は服の上でどんどん広がり、手で隠しきれなくなっていた。




玲の使う武器はくさり鎌。そして利き手は右手。利き手である右肩を負傷した以上、戦うことはおろかくさり鎌をふるうこともできない。



しかし、無情にも魔族達はそんな玲に対してもなんの抵抗もなく刃を向ける。



冷たく冷え切った目を玲に向けながら



「くっ・・・敵が邪魔で弓が打てない・・・」



玲の悲鳴を聞いてすぐに工藤は弓を構えたが、玲の前にまたさらに魔族が現れたせいで玲への視界が狭まる。



そのせいで正確に標的を射ることができない。一つ間違えばその矢は玲に当たってしまう可能性がある。




今玲を助けられるのは剣を持つ俺だけ




だけど、俺の体は言うことを聞いてくれない。そこに仲間の命がかかっているというのに・・・



チャリ・・・チャリ・・・



玲を狙う魔族がその刃を打ちつける音を鳴らしながら玲に近づいていく。



そして玲の目の前へと辿りつく。



「玲、逃げろ!!!」



俺は叫んだ。だけど玲は傷のせいで動くことができない。




手の届くところに玲はいるのに・・・そこに仲間が助けを求めているのに・・・




それでも体は動かない




フッ・・・



玲が覚悟をして目をつむって下を向けた



そして魔族が剣を振りかざす



「やめろーーーーーー!!!」



その時




ピキーン・・・




俺の右手に刻まれていた紋章が光った。そして俺の体は突然、それまでどうやっても動かなかった呪縛から解き放たれた。



そして俺は考える前に玲の元へと走った。



シャキーン・・・



俺は魔族のもつ剣を思いっきり切り裂き、その刃を真っ二つに割った。



ブシャッ



そして魔族をその漆黒の剣で切り裂いた。たちまち魔族は黒煙と共にこの場から消えた。



「玲、目を開けろ。まだお前は死んでないぞ」



「・・・!?」



俺の声と共に玲はゆっくりと、その閉じたまぶたを開いた。そして俺の姿を見つける。




「蓮君・・・?どうしてここに・・・」




「さあ、俺にもわからない。だけど、とにかく玲を助けたい、そう思ったら突然この手に刻まれてる紋章が反応してさ」



 俺の手に宿っている紋章。工藤いわく「未完の紋章」。ただの一筋の引っかき傷だが、その傷は赤く、眩く光っていた。



「集中しろ・・・俺・・・」



俺は目をつむった。今のこの状況を打開するには強力な魔法が必要だ。ここにいる全ての魔族を消し去るような魔法が。



その一見無茶苦茶な魔法を、魔法を使えないはずの今の俺は、なぜか今なら放てる気がした。



「なにか・・・なにかあるはずだ・・・」



俺は頭の中のあの昼休みの鍛錬の時につくった「魔法書」を開いて、ページをめくりまくった。



最初のページに刻まれた武器精製魔法「リファイメント」。それ以来なんの魔法も覚えていないし、本当ならほかのページは白紙のままだ。



だけど・・・だけど必ずなにかある。俺はそう感じていた。



パラララ・・・



凄まじいスピードでページをめくっていった時



ピシッ



突然、光輝く1ページを開いた。



そこには、あるはずのない呪文が一つだけ記されていた。



「これだ!!」



そして俺は手に持つ剣を床に突き刺し、その呪文を詠唱し始めた。



「我に宿りし闇の力よ。我の前に存在する魔の力全てを無に帰し、我の前にある全てのその力を闇に葬りこの場から消し去れ・・・」




「Dark dispel to the gospel・・・」




その瞬間



フウォン・・・




紋章の強い輝きと共に突然俺の足元に巨大な魔方陣が現れ、そしてそこから一筋の波動が放たれた。



シュィィィィィイイーンン!!!




その波動はこの廊下に存在する全ての魔族を切り裂いた。




そして次の瞬間



パーン



魔族達は一斉に黒煙を上げ、全ての魔族が一瞬にして同時に消え去った。




「す、凄い・・・」




その光景を前にして玲が目をまんまるにしてその言葉を口からこぼした。



「蓮君あなたこんな魔法が・・・って、わ!!」



パタリ



突然、俺は玲に向かって倒れ込んだ。



「だ、大丈夫蓮君??」



玲が驚きながら心配そうに俺に話しかける。



「あ、ああ・・・ちょっとクラッときちゃって・・・」



俺はあの魔法を唱えた後、いきなり脚に力が入らなくなって立っていられなくなった。



一瞬にして、俺の体から完全に力が抜けた。意識と体がその時完全に分離した。



なんとか声に応えることはできるが、それ以外は全くできない。体が動かない。



「しかしまあ・・・、あなたの紋章の力がここまでとはねえ・・・」



 半ば玲に身をあずけるような格好になっている中、呆れたような感じで手を上げる工藤が俺達の元へと歩み寄ってきた。




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