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第五十六話 Trap-罠-~忘れられた空間の魔方陣~

 タッタッタッタッタ・・・



廊下に走る音が響く。小刻みに一定のリズムを刻みながら音は続いていく。




走るたびに心地よい風が俺を襲う。そしてめまぐるしく景色は移り変わっていく。




辺りに動くものはなにもない。音を放つものもない。たしかにそこに人は大勢いるが、どれもこれも動くことはない。結界によって完全に固まっている。



今ここで動いているのは俺達竜族だけ。後はまだ見ぬターゲットだけだ。それ以外動き、そして音を放つものはなにもない。俺達の走る音以外にそこで音を放つものは一切ない。俺達が止まれば、そこには静粛の時が流れる。



そこは完全に俺達だけの虚空の世界と化していた。



 

 俺はこの空間が嫌いだ。今までいた世界と同じ世界なのに、時が止まるだけでこんなに冷たく、不気味な空間になるなんて。今まで俺の中で芽生えていた恐怖がさらに成長、大きくなっていく。



なにも音も生きている存在の気配もしない世界、それはあまりにも不気味で、悲しい世界だった。



「あ、みえたわ!」



 玲の声と共に俺は前方を目をこらしてみる。そこには、こちらに手をふる工藤と伊集院さんの姿があった。



「ごめんごめん。ちょっと遅くなっちゃった」




「いえいえ、私たちも今来たところですよ」




息を切らしながら遅くなったことを謝る玲と、それに対してまるで恒例行事のような返事をする工藤。言葉だけをみれば、それはデートなどの待ち合わせの際の会話と同じだった。しかし二人の姿は、それとは全くかけはなれたものだった。



言葉というのは凄い。同じ言葉でもその状況によって幾通りもの意味に変化する。




「それで?ターゲットはどこなんだ??」




そんなよくわからない二人の会話をよそ目に、健が工藤に本題を切りだす。




「はい。反応があったのは11時37分。場所は屋上のようですね」



そう言って工藤はちらりと向こう側にある階段を見つめる。



あそこにあるのが屋上に通じる階段。あそこを昇って二つ三つ廊下を介した後、その先にある階段を昇った先に屋上への扉がある。




逆にいえば、そこを通らないと屋上へはいけない。その道以外に屋上に通じる道はなかった。




「じゃあとっとと行こうぜ。場所がわかってんなら話は早いな」



「そうね。ここで話してても仕方ないしね。今は一刻も早くターゲットを倒して安全な空間に戻さなきゃ」



「そうですね。ではいきましょうか」




いつもならそのターゲットを捜すところから始まるのだが、今回はあっちから動いていたため場所が事前にわかっている。それは健のいうとおり、捜す手間が省けていいことではあるのだが、逆に考えれば、相手はわざとこちらに場所を示しているということも考えられる。



今までの動きからいっても、この先なにもなくターゲットのところまで辿りつける感じがしない。




「ちょ、ちょっと待ってくれ工藤」



俺は動きだそうとする工藤に話しかけた。急にストップをかけられた工藤が不思議そうにこちらに顔を向ける。



「どうしましたか一之瀬さん?」



「え、えっと・・・」



言いたいことは既に頭に浮かんでいるのだが、それをそのまま言ってもいいのかわからず躊躇してしまう。だけど、今このことをいわなきゃなにか事態は悪い方向へと傾くような気がする。



「いきなりどうしたんですか?急にターゲットと怖くなっちゃいましたか??」



そんな俺をみて工藤はいつもの笑顔で俺をちゃかす。そのカンに障る一言で俺の中でその言葉に対するむかつきと共にその言葉も自然と口から滑りだす。



「そ、そんなわけないだろ!そうじゃなくて、このまま普通に真っ向からターゲットに向かっていいのか、ってことだ」



「・・・・・・」



俺の一言で工藤の目つきが一瞬変わった。しかしそれもまた、すぐにいつもの笑顔へと消えていった。



「どうしてそう思うんですか??」



そして工藤は俺に尋ねる。



「いや・・・なんか今回異様に胸騒ぎがするんだよ。なにか裏がある、なにか不気味な感じがするんだ。だからこのままでいいのかなと思って・・・」



これは罠である、自分の中のその考えを表には出さずにそれとなくそれに迫ることを言ってみる。工藤がこの異変に気付いていないわけがないし、これだけでも充分俺が言いたいことがわかるはずだ。



いつも一つ上のステージで戦う工藤。その工藤がこの状況に対する違和感を感じ取っていないわけがない。




 しかし、工藤の答えは意外なものだった。



「そうですか?私は別に何も感じませんが。勘違いなんじゃないですか?私も、そして伊集院さんもなにも感じてないようですし。目の前のターゲットに対する恐怖感が違う形で、今回はその違和感として具現化されているんじゃないですか?」



「え、あっと・・・」



俺の想像していた答えとは全く違っていた。てっきり俺の言っていることを理解してくれると思ったら逆にこちらがなにか丸め込まれてしまった。



いや問題なのはそこではない。今問題なのはこの状況に対する違和感を、工藤、ましてや伊集院さんまで感じていないことだ。



今回の状況はあきらかにおかしい。この俺でさえそう感じるんだ。工藤や伊集院さんがそれを感じていないなんてありえない。それこそそっちの方が不気味だ。その先に裏があると感じずにはいられない。



だけど、工藤の様子はいつもと変わらない。特になにかいつもと違う行動を取っているわけでもない。



それとも、工藤の言うとおり俺の気にしすぎなんだろうか??



「お~い早くいこうぜえ~!!」



 工藤と話している間に、健達はもう階段を昇りかけていた。



「はい、今行きますよ」



工藤はその声に応えた後、工藤はこちらを振り向いた。



「さあ、いきましょう。ここからが我々の仕事です。私たちがやらないと誰かが犠牲になります。それだけはなんとか阻止しないといけませんからね・・・」



「あ、ああ、わかった・・・」



工藤の言葉と共に俺は健達に向かって走り出した。心の中に残る疑問とそれでも感じる違和感を残して




<3階廊下>



 俺達は屋上目指して走っていた。この3階廊下には、普段あまりつかわない教室が多くあり、ある意味色んなものの倉庫的な感じになっている。



普段、あまりここには人はこないので、あまり整理はされておらず、色んな機材や本、教材などが入った段ボールが山積みになっている。そう意味では、ある意味ここは忘れられた空間になっている。



以前、昼休みに鍛錬のためにここを通っていたが、DSK研究部という部室が出来た後、屋上へは行かなくなった。そういえば、鍛錬もそれっきりやってないことになるな。



その時にも、今と同じように教室の中は段ボールで一杯で、ここにあまり人がこないことはわかっていた。




 しかし、こうして結界の中のこの廊下は、そのいつものさびれた、忘れられた空間とは違い、その長い廊下の先になにか潜んでいるような、不気味な廊下と化している。



電気も灯されていない、暗い教室が立ち並んでいるのもその不気味さの一つなのかもしれない。




「ふう~屋上ってこんなに遠かったっけ??」



 走りながら健が呟く。



「まあ屋上っていうけど結構教室から離れてるし、それも人がこない理由の一つなのかもしれないわね」




普通屋上っていうと、その開放的な空間から昼休みなどに人気の場となるものなのかもしれないが、この学校の屋上は、玲の言うとおり教室からかなり遠く、無理してまで行くこともないというのが大半の生徒の見解だ。



その割には、あの屋上は結構整えられてるんだけど・・・



その屋上の役割を変わりに担っているのが中庭。あそこは屋上と同じように解放感があるし、そこまで教室から遠くもない。だから昼時にはそこそこに中庭に人が集まる。



そのせいで、この学校に屋上なんてあったっけ?なんて言う生徒もいるぐらいだ。



結論から言うと、あの屋上に行く奴はよっぽどの用事があるか、それか変わった奴ということだ。



「う~んだけど確かに結構走っているのにあんまり近づいていないような・・・」



 さっきから全力とまではいかないが結構なペースで走っているが、一向に廊下の終わりが近づいてこない。



そもそも、本当に進んでるか?俺達。



そう言われると気付くが、廊下が長いんじゃなくて俺達が進んでいないような・・・



だけど確かに景色は移り変わってるしな・・・




「・・・・・・」




俺の後ろを走る工藤と伊集院さんは、なにも言わずにただ淡々と走っている。なにかあるなら工藤が言うだろうしな~。



やっぱり俺の勘違いか??でもやっぱり・・・



俺があれこれ考えていた時



「わあ!?」



突然前を走っていた健の叫び声が廊下に響く。



「どうした、健!!」



俺がその健に急いで駆け寄ると




ブオーン・・・




「わっ、なんだこれ??」



突如として俺達の足元に巨大な魔方陣が広がる。やがてその魔方陣は完全に俺達の足元を覆い尽くす。



「これは・・・う~ん困ったことになりましたね~。どうやらこれはトラップのようですね」



工藤がいつもの笑顔でさらっとそう口に出す。




「トラップって・・・」




俺がその工藤の声を聞いて振り向くと




ブウォン! ブウォン!



「・・・!?」



突如まわりに無数の存在が現れた。



その姿はどう考えてもこの世界の者ではなかった。目は死人のような目をしているし、なにより雰囲気がただ事じゃない雰囲気をかもしだしていた。そしてその存在は、こちらを威嚇するように眼光を光らせている。



「ふむ、どうやら囲まれてしまいましたね・・・」




「囲まれてしまいましたねってそんな呑気に・・・」




 屋上まであと少しという手前の廊下で、一転して俺達は突如ピンチの状況へと陥った。




 


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