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第五十話 二つの世界~空間の超越さえも可能な力~

「で?新情報てのはどんなのなんだ??」



 俺は机に自分の鞄を放り投げると、真っ直ぐ自分のイス目指して歩いた。今の工藤の顔をちらりとも見ずに。



というより、今の工藤の顔を見たくなかった。あんなに満面の笑顔で言われても、今の俺のテンションとは全く釣り合わない。釣り合わなさ過ぎて逆に疲れるだけだ。



ドサッ



鞄が机に無造作に叩きつけられる鈍い音が部屋に響く。



「そんなにせかさなくても今お話しますよ」



そんな俺を見て工藤がまたにっこりと微笑みかけて言う。その笑顔に俺は背中に寒気が走るような感覚を覚える。



あいつの満面の笑みほど怖いものはない。




そもそもまるでなんか俺がその新情報を聞くのが楽しみみたいな感じの言い方をしているが、そんなことはこれっぽっちも思っていない。



どんなにその一言が聞こえなかったらよかったか、今のお前にじっくりと懇切丁寧に聞かせてやりたいぐらいだよ。




「では本題に入ります」



 そう言って工藤は俺がイスに座ったのを確認すると、すっと体を前にだして話し始めた。



「情報部からの情報によりますと、第三のターゲットが出現するとの報告がありました」



出現する・・・?



俺はその言葉が妙に頭に引っかかった。



「おい、出現するって学校外からの襲撃ってことか??」



今まで、というよりアビシオンの時は荒木先生という学校内の存在を利用して俺達に攻撃を仕掛けてきた。それにその時工藤は言った。



「これ以外にも何体かこの学校内にターゲットが潜伏しているようです」



てっきり、今回も学校内の誰かから魔力の反応があってそしてまたそいつを俺達が捜査する、という流れを想像していたんだが・・・



「ええ、まあちょっと違いますがそういうことになりますね」



「?」



 やけにまた引っかかるような言い方だ。学校内でもなく、そして学校外ということも違う。そうなるともう選択肢がないような気がするんだが。



「一之瀬さんは「ワームホール」、というものをご存知ですか?」



「ワームホール??」



工藤から発された言葉は聞いたことのない言葉だった。



「その様子だと知らないようですね」



「・・・・・・」




・・・いちいちカンに障るようなことを言う奴だ。この世界では知ってて当たり前のことさえ知らない俺が、その「ワームホール」とかいうやつのことを知らないことを知ってて聞きやがる。まあいい、知らないのは事実なんだし俺がとやかく言える義理じゃないな。



「ではご説明しましょう」



そう言って工藤はいつぞやの時にも出してきたホワイトボードを引っ張ってきてなにやら書き始める。



あれ?前にも思ったことだがあんなホワイトボードこの部室にあったっけ?




 そして工藤はホワイトボードになにやら二つの円を書きこむ。



「まず始めに聞きますが、そもそもどこからターゲット、いわゆる魔族が我々の世界に現れるのでしょうか?」



「んん?え~と・・・」



俺は首をかしげた。考えてもそれに直結するような答え、いや考えは出てこなかった。



そう言えば、ターゲットがどこからやってくるのかなんて考えたこともなかった。



今まではただ目の前に出現するターゲットと戦闘し、人間たちを守ってきただけだったのだが、そのターゲットそのものについて、俺は何も知らなかった。


ターゲットは魔族の大将格であり、そして倒すとカケラを落としていく。そんな基本にも満たない情報しか俺にはなかった。



「そっか、蓮君はターゲットについても知らないんだよね」



玲がにっこりとした笑顔で俺に微笑みかける。先程の入り口での工藤の動作と同じではあるのだが、それとこれとでは天と地の差だ。工藤のはただ心の中に怒りと落胆と気味の悪さが残るだけだが、玲の笑顔は、ほんわかと温かく、それでいて優しくこちらを包み込むような笑顔だ。みているだけでほっとする、なにか癒しの力があるな。



「本来魔族はこの世界にはいないの。でも遠い昔、今からずっとずっと昔、魔族と人間は同じ世界に存在していたの」



「え・・・魔族が同じ世界にいた!?」



人間と魔族が存在していた??



竜族が昔人間と同じ世界にいたっていうのは前に聞いたけど、あんなターゲットみたいなやつらと人間が共に同じ世界に存在していたっていうのは信じられない。というかその世界を想像することができない。



そもそも共存することなんてできるのか?その両極端ともいってもいい二つの種族が。



「うん。でも次第に、二つの種族との間に壁ができてしまったの。そしてその二つの種族は争いを始め、やがて戦争にまで発展したの」



「戦争・・・」



人間と魔族。相反するその種族が共に共存するということは、あまりにも難しいことだったんだろう。自分達とは違う姿、自分達とは違う存在、どんな生き物でも、その自分達とは「違う」存在を認め、共に生きていくというのは大変難しいことだ。いくら最初は共存できたとしても、それが永遠に続くことはありえない。



自分とは違う種族、存在を認める。それができたら争いなんておこるはずがないんだ。



ま、それができたら世話はないんだけど・・・



もしかしたら、争いがあるから生き物は進化できるのかもしれない。



「戦争は魔力の使える魔族が圧倒していったんだけど、当時の人間の王、メリルという人が竜族の長、あなたの父親であるシリウスに力を求めたの」



「シリウス・・・」



俺は父親のことをなにも知らない。そんな過去があったことももちろん知らない。



知らないことだらけだ。俺にとってこの世界は。



「そしてシリウス、竜王様はメリルの存在を認め、その命と引き換えに、その力で人間達と魔族を同じ時空上に「二つ」の空間、つまり二つの種族のいる世界を異空間化して世界をつくり、その人間たちのいる世界から魔族そのものの存在を無くして争いを鎮めた、とまあざっと説明するとこんな感じかな。まあ私も聞いた話だから正確じゃないかもしれないんだけど」



「二つの世界・・・か・・・」



同じ時空上にもう一つの世界、こうして俺達が暮らしている時でも、俺たちとは別の空間、世界で同じ時を過ごしている。そんな途方もない話を、想像するのは難しいことだった。これを一回聞いただけで全てを理解できる奴は、相当な頭の持ち主だ。きっと素晴らしい学者かなにかになれるだろう。



「だけど・・・実際そんなことが可能なのか??」



俺は尋ねた。いくら俺達竜族が魔力が強いといってもそんな空間を二つ作ってそれぞれの種族を分けるだなんて、そんなゲームでいえばチートみたいなことを、本当にできるんだろうか?



「まあ、できてしまったものは仕方ない・・・といった感じですかね」



俺の問いに工藤が答える。



「我々のような普通のドラゴンではそんなこと到底できませんよ。しかし竜王、最強のドラゴンであるシリウス様の力は、あなたの思っている以上に強大なものなんですよ。我々竜族でも、シリウス様の力の全てを把握できていないんですから。案外、あの方にとって空間を超越することなんてそんなに難しいことではなかったのかもしれませんね」



「空間の超越・・・か」



俺の親父がそんなに凄いだなんて。実際、親父が竜王である、ということを知っていても、具体的にどれだけ凄いのかということまではわからなかった。だけど、今の話を聞いただけでも親父、竜王の力の凄さが充分伝わってきた。



空間の超越。それすらも可能である父であるシリウス。俺には到底追いつくことのできない存在だったのか。



「まあ、あなたにもその力は宿っているんですが・・・」



「うん??」



工藤がなにかをぼそっと呟いた。



「いえ、なんでもありません。まあとにかく、これでこの世界についてはわかって頂けたと思うんですが」



「ああ。一応はわかった」



今いるこの世界とは別に同じ時空、同じ時間軸にもう一つの世界がある。そこに魔族はいてそこから・・・



あれ?



「えっと・・・それでなんでターゲットはこの世界に現れるんだ??もうここの世界とあっちの世界は切り離されているんだろ??」



玲や工藤の説明が正しければ、この世界に魔族という異空間の存在が現れるはずがない。だけど実際、この世界には魔族が現れている。これじゃあなにか矛盾してないか??



「ええ、そこが問題なのですが・・・」



そう言って工藤は持っているペンを置くと、なにやら険しい顔をして遠くをみつめる。



「それが、なぜ世界が切り離されたはずの魔族がこの世界に現れるようになったのか、わかってないんですよ。一説によると、その二つの世界は完全に切り離されたのではなく、一部がつながっていてそこを封印かなにかで守られている。そしてその封印がなにかのショックで弱まった。だから魔族が現れるようになったのではないか。というのが今のところの考えですね」



そう言って工藤は俺に視線を向き直す。



「ちょっと待て。完全に切り離されたわけじゃないってどういうことだ。それにその一部がつながっていてそこを封印で守っているだなんて、なんでそんなことわかるんだよ。そもそもその仮説はなんか強引過ぎやしないか?なんか取ってつけたような話だし・・・」



その仮説は、このことを説明するにはあまりにも強引なものだった。なにか無理やりこの結果につじつまを合わせたような、そんな雑さを感じた。



「だからこれはあくまで仮説ですよ。本当のことはこの空間をつくった竜王様以外、だれにもわからないんですから。ですが、たしかに一見強引にもみえますが、あながち方向性は間違っていないのかもしれませんよ」



そう言って工藤はもう一度先程置いたペンを持つ。



「どういうことだ」



俺がそう尋ねると



「ええ。そこで先程のワームホールの話です」



 工藤は待ってましたといわんばかりにそう言うと、一つ一つ確かめるように話し始めた。




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