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第四十九話 そしてまた、非日常へ~嬉しくない未来予知~

 六月



夏休みまでまだ一ヶ月もあり、それでいて特に行事やイベントもなく、そして祝日などの休みがほとんどない。



なんとなく中途半端で、身に力が入らない季節。



 俺もこの学校に入学してもう二カ月。この学校の雰囲気にも慣れ、少しずつ学校生活というものに溶け込み始めている。



日常というのは凄い。どんなにインパクトがあってファンタジーな出来事に身を費やしていても、その日常という波にのまれれば、次第に自分自身も知らず知らずのうちにその日常という生活の一部となってゆく。



自分にとって良い出来事の後の日常というのは、なにかつまらなく、寂しく、心にポッカリと穴があいたような気持ちになり、憂鬱になってしまうものだが



逆に反対に悪い出来事からの日常というものは、なにかその生活に安心感、安らぎを覚える。



だってどんなに平凡な毎日だったとしても、悪い日よりは幾分は、いやずっとましだ。



ゼロとマイナスなら、確実にゼロのほうがいい。ゼロでもどんなマイナスよりは上なのだから。



 

 アビシオンの一件の後、ターゲットに関する情報は寄せられなかった。情報部とかいう本当にあるのかないのかわからない機関からも、なにも情報は寄せられなかった。



つまり、一応部室には毎日行っているが、これといってやることはなにもない。



適当に駄弁ってお茶飲んでそしてまた取りとめもない会話で時を過ごしていく。そして下校時刻になると、それぞれ支度をし、それぞれの帰る場所へ歩いていく。



はたから見ればおもしろくもなんともない生活かもしれないが、俺にとっては今の生活はとても充実した生活だ。



そもそも今までが異常な日々だったんだ。



 ターゲットと戦闘し、そして得たカケラをつなげて自分の過去の世界へと飛んでいく。普通に考えたらありえないだろそんな生活。



そんなのは本やアニメの中だけの世界だ。現実にそんなことがあっては本来いけないのだ。



そういう生活を望んでいたとしても、いざそんな生活になれば、今までいた日常がどれだけ平和で、平凡で・・・良いものであったのかがわかるはずだ。そしてそいつは言うはずだ。



「元の世界に戻りたい・・・」



それは別に、そいつの心が弱いからじゃないんだ。その反応は弱いということじゃない、「普通」の反応なんだ。



そもそも非日常ほど生活しにくい環境はない。結局、一番住みやすく、平和に暮らせるのは日常なんだよ。



 

 だから今のこの生活を俺は気に入っていた。ずっとこのままでいいと思った。もういっそのこと、「今までの出来事は全部は夢でした~」、という無茶苦茶な夢オチでも構わないと思った。



だけどなんでだろうな~。



この平和な日々が、もうすぐ終わりを告げるような気がしてならない。そうなってほしいとはこれっぽっちも思わないのに、心の中でその予感が次第に大きくなっていった。




<6月3日 放課後>



「はあ~・・・」



 放課後の部室に向かう途中、俺は深くため息をついた。



一歩一歩、廊下を歩くごとに嫌な予感が大きくなっていく。それも部室に近づくたびにその予感は濃くなっていく。



この時の俺には、未来予知能力でも身についていたのだろうか。



「・・・もう、終わりかな」



 終わり。今その言葉が意味すること、それは今この瞬間まで続いていた平凡な日々、「日常」という安らぎの時間の終わりのことを意味していた。



自分でもなんでかわからない。だけど確かに、その時俺は感じていた。



日常が終わる。そしてまた、非日常が始まる・・・




<DSK研究部部室前>



「はあ~・・・」



 本日二回目の大きなため息。それもさきほどよりも幾分か大きく深いため息。



今ほどこの部室のドアを開けたくないと思ったことはない。




もし、俺がこのドアを開けば、おそらく・・・いや必ずと言っていいほど面倒なことが起こる。




俺の中で、その予感は確信へと変わっていっていた。



 おそらく、いや必ず、俺がこのドアを開ければ、正面にはいつもよりもさらに憎たらしい笑顔を向ける工藤が、俺に向かってこう言うだろう。



「やあ一之瀬さん。今日、情報部からターゲットに関する新情報が入りましたよ」



・・・このままいっそのこと逃げちまおうかな。



ドアを開ければ災難が降りかかるとわかっていて開けるバカがどこにいるんだ??



俺のドアノブにかけようとする手が後ろに退く。



だけど・・・



 もう自分でもわかってるんだ。今の俺にはこのドアを開ける以外選択肢はないってことは。



ターゲットと戦う、人間たちを守る。そして自分の過去をみつける。そのために俺はここに存在してるんだから。



ここで逃げたら俺はこの世界に存在する理由がなくなる。そんなことは自分が一番よく知ってる。




そしてここには、かけがえのない仲間もいる。




ここで開けたら災難がふりかかる。それでもドアを開ける奴は確かにバカだ。だけど、今俺はそのバカにならなくちゃいけないんだ。それは人のためだけじゃない。自分のためにも、だ。




「・・・いくか」



自分の手とは思えぬ重い手をゆっくりと動かし、ドアノブを恐る恐る右に回した。



カチャリ



恒例の音と共にゆっくりとその先の景色が俺の目に現れてくる。



そして



「やあ一之瀬さん」



笑顔の工藤の姿



「今日、情報部からターゲットに関する新情報が入りましたよ」




・・・未来予知って、使えてもなんにも嬉しくないな。




 そしてまた、俺の「非日常」な生活が始まる。



窓から入ってくる、日の光がとても眩しかった。



 

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