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第四十八話 夕暮れの談話~踏み入れられない中心~

「全くあなたって人は・・・」



 やれやれ、一番会うとめんどくさい人に出会ってしまった。しかも今日というありえないぐらいに色んなイベントがあった日に限って、こうなっちゃうんだよなあ。



俺はふう~とため息をついた。これから始まるであろう口論に備えてとりあえず態勢を整えた。この人のことだ、またなにかいちゃもんを付けてくるんだろう。



「全く・・・まあいいわ。丁度あなたに言いたいことがあったし」



そうらきたぞ。さあて今回はどんなことで俺につっかかってくるんだ??



「あなた、玲の一体なんなのよ!?」



「・・・はあ!?」



千堂から発せられた一言。それは俺が予想だにしていなかった言葉だった。



「あの~いまいち質問の意図が読めないんですけど・・・」



なにを言い出すのかと思えば、俺が玲のなにかって?一体どういうことなんだ??



「だからあなたは玲とどんな関係なのってことよ。全く、それぐらい察しなさいよ・・・」



そう言って千堂はなにやらぶつぶつつぶやきながら俺から視線を外す。



 しかし、俺と玲の関係?なんでそんなこと聞くんだ??



たまたまぶつかって出会ってしまったこの状況で、なんでそれを聞いてくるのだろうか。しかし、今はそんなことはどうでもいい。



俺と玲の関係。それは・・・



俺はふと、その時あることに気がついた。



(そういえば、玲について考えたことは今まであまりなかったな)



普段、普通に一緒に過ごしている時は、なにも考えずに、ただ同じ時を過ごしてきた。一緒に学校生活を送り、同じ部活、いやドラゴンとして活動し、ターゲットと戦闘してきた。



目覚めたばっかりでなにもわからず、戸惑っていた時も、当たり前なことまで一から詳しく説明してくれた。学校のことであったり、魔法のことであったり、そして竜族のことだったり。



そして、俺に嬉しいという感情を初めて与えてくれたのも玲だった。



玲には本当に助けられっぱなしだった。だけど、その玲を特別意識したことは今まで一度もなかった。



同じ竜族であり、クラスメイトであり。そしてよき仲間であった。



 同じ時を過ごし、同じ世界にいて、そして同じ目標に向かって走る。



仲間、友達、友情。今の俺達の関係を例えるならこういうことなんだろうか。それとも、千堂先輩はこれ以上のことを想像しているのだろうか。



これ以上・・・



友達、そして仲間を超えた関係。俺はそんな目で、玲を見たことはなかった。そして俺自身もそれを望んでいなかった。



今の関係を、俺はすこぶる気に入っていたのかもしれない。他人の領域に無理に入らず、つかず離れず過ごすこの日々を。



「えっと・・・とりあえずクラスメイトで、友達で、そして部活の仲間ってところですかね・・・」



俺はじっとこちらを見つめる千堂先輩に戸惑いながらもそう答えた。今の俺と玲の関係はそれ以上もそれ以下でもないと思う。それは俺から見た関係だが、玲が俺との関係をどう思っているのかまではわからない。いや、それはわかっちゃいけない気がした。



「仲間!?・・・そう、仲間・・・ね・・・」



千堂先輩は、一度こちらに険しい顔を見せたあと、風船がしぼんでいくようにしだいに寂しげな顔に変わっていった。



 そして数十秒、なにも動かず話さずの時間が続いた。その時間は実際に進んでいる時間よりも、遅く、そして重く感じた。なぜこんな時間が生まれたのかはわからない。だけど会話そのものが行方不明になっていた。



そして先に口を開いたのは、千堂先輩のほうだった。



「そう・・・わかったわ。あなたと玲の関係はその程度の関係でしかないのね。なら話は早いわ」



そう言って千堂先輩は、先程の表情から打って変わって鋭い眼光を飛ばし、まるでこちらを威嚇するかのような表情で叫んだ。



「とにかく、なにがあってもあなたにだけは玲はわたさない!!たとえ玲自身がそれを望んでいたとしてもね」



そう言って千堂はくるりと俺に背中を向ける。その長髪の髪がふわりとねじれながら方向を変える。



「では、ごきげんよう。お先に失礼いたします」



千堂はそう言って、後ろで立ちつくしている俺をちらりとも見ずに、俺とは反対方向の道を歩いて行った。



「たくっ、一体なんだったんだ??」



いきなり玲との関係を聞かれ、そしてその後の俺には玲は渡さない発言。全く意味がわからない。



だけど、前に始めて会った時にも感じたことだが、千堂は玲に対して、なにか特別な感情を持っていたような気がする。それは好きとか嫌いとかじゃなく、なにかこう、俺にはわからないなにかで結ばれていたような気がした。だけどそれは、なぜかうまく具現化されていないような気もした。



まあ、二人の間柄が小学校が同じだけということしか知らない俺が、語れるものじゃないけどな。



「ふ~。さて、遅くなったけど部室に行くか」



ちらりと廊下にある時計をみると、時刻はもう教室をでてから30分も経っていた。



そして俺が歩き出そうとした時



「いけませんねえ。彼女にはあまり関わらないほうがいいと言ったんですが、あまり伝わらなかったですか?」



突然聞き覚えのある声と口調。そしてその声がした先の影にいたのは



「く、工藤!?なにやってんだよそんなところで!!」



そこにいたのは腕組をしながら静かにこちらを見つめる工藤の姿があった。



「いえ、たまたま通りかかったところであなた方の姿が見えたもので。少し見物させていただきました」




「てことはさっきの話、盗み聞きしてたってことか??」



そんな陰湿なところで人の話しを盗み聞きなんていよいよたちが悪い。それも千堂さんと俺の会話、しかも玲に関わる話を聞かれるとは。本来なら怒鳴ってもおかしくはないところだが、それよりも、今は気になることがある。



「大体、なんで俺が千堂先輩とかかわらない方がいいんだ?なにか困ることでもあるのか??」



別にすすんであの人に関わりたいだなんてこれっぽっちも思っていないけど、理由も聞かされずに人の関係に口をだされるのはいささか納得がいかない。そもそもなぜ俺があの人と関わらないほうがいいんだ。



「そうですねえ。あまり話すわけにはいかないのですが、情報部からの情報によると、近く、ターゲットに動きがあるという情報が入りまして。そのターゲットとの戦闘の前に面倒なことを起こしたくないんですよ」



そう言って工藤は壁にもたれていた背中を起こすと、俺の前に立った。



「面倒なことってなんだ!?」



俺がそう聞くと



「今そのことをあなたにいうわけにはいきません。あなたには目の前の敵にだけ集中していただきたいんですよ。いつ何時、なにが起こるかわかったもんじゃない世の中ですから」



工藤は手を広げながらいつもの笑顔で俺にそう言うと、その手をぱたりと下ろし、今度は一変して鋭い視線をこちらに向けながら言った。



「一つ、言えることとしては・・・」



そしてその時、窓から差し込む夕日の光が工藤の体を赤く染めた。



「自分がどういう存在であるのか。それをもう一度よく考えてみてください」



工藤はそう俺に言い放つと、そこに俺一人残して、文化部の棟へと歩いていった。




「・・・なんだよ。なにが言いてえんだよ・・・」



 俺は一人、その場に立ちつくしていた。



「なにが・・・なにが自分の存在をどういうものか考えてみろだ・・・」



確かにそこに俺は関わっているのに、なのに俺自身は今置かれている状況がわからない。いつもこうだ。いつだって工藤達だけが知っていて俺達が知らない。なにもわからないまま戦場に出て行っている。



なぜだ。なぜあいつは知っていて俺はなにも知らないんだ。



同じことをしているはずなのに、同じ時を過ごしているはずなのに、俺とあいつとでは置かれている状況がまるで違う。俺達はあいつだけが知っている世界の中でただ踊らされているだけだ。



クソッ!



俺は自分の拳に力を入れた。




 なぜ俺自身が大きく関わっていることにその俺がなにも知らないんだ。なぜあいつは俺になにも教えようとしない。



あいつはいつも核心を話さない。ただそのことの一部だけしか話さない。




俺は常に、話の中心に足を踏み入れることができなかった。



つまり、あらかじめ用意されたシナリオの上で俺達はただ戦っていただけだった。



クソッ!俺が物語の核心に迫ったらなにか困ることでもあるっていうのか。




そう思うと、途端に苛立ちは怒りに変わっていった。



「くそっ!!いつまでもこのままお前の操り人形でいると思うなよ!!」



 

 そして俺は、地面に置いていた鞄を乱暴に担ぎあげると、部室目指して歩き出した。



夕日の光が、いつもより一層濃く、こちらを照らしているような気がした。





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