第二話 出会い~新生活のスタート~
私立御崎山学園、今日からここに俺は通う。
しかし本当にこうなっちまうとは。まだ目覚めてから数時間しか経ってないというのに。ここまで環境がかわっちまうとは・・・
私立御崎山学園は、都市部からバスに乗り15分ぐらいの距離にある緑にかこまれた広大な土地にそびえる高校だ、そうだ。正直俺もあまり知らないんだけど、そう部屋に置かれていたパンフレットに書いてあった。
「しかしすごいな・・・」
俺は目覚めてから初めて外に出た。そこには、いくつもそびえる高層ビルとかいうやつ、道路をはしる車というもの、そして、早足で道を行き交う多くの人間たち。俺にとってなにもかもが新鮮なものだった。
「空があんなに狭い・・・」
高層ビルにかこまれた空。空はこんなにも狭く、高く感じるものだったのだろうか。
初めてバスというものに乗り、私立御崎山学園前というバス停にたどりつく。
「うわ・・・」
バス停からすぐに校門があったが、そこからみえる大きく、そして美しい学校におもわずみとれてしまう。
「こんなところに俺は通うのか」
大きい高校だとは聞いていたがここまでとは・・・。想像を超えるなんてものじゃない、なんだこれは。大きすぎだろ。
「と、とりあえず校舎にむかおう」
このまま立ち尽くしても仕方がない、そう思いまた立派な校門をくぐり歩き出す。
「てか、校門から校舎まで遠すぎじゃねえか?」
校門から校舎は肉眼で見えるのだが歩いても歩いても校舎は近づいてこない。
そして、校舎までの道のりにも色とりどりの花草が植えられしっかりと世話もいきとどいている。
「どこもかしこもすごいな・・・」
そんなことを思いながら歩くこと数分、ようやく校舎前までたどり着く。
「おっとクラス分けをみていかないとな」
この私立御崎山学園は一学年A~Eの5クラスある。
そう思い、クラス分けの紙を見に行こうとすると
「だ~れだ!!」
「!」
突然後ろから目をふさがれる。きいたことのない少女の声だった。
「んん?全然わかんねえや」
「私の勝ちね」
少女はそう言うと俺の目をふさいでいた手を離した。
俺が振り返るとそこには金色に輝く髪に、赤い髪飾りをしたツインテールの少女が笑顔で立っていた。
「あなたが一之瀬 蓮君ね」
「え、あ、そうですけど」
突然名前を言い当てられた。俺は全く少女のことを知らないのだけど。
「あの~君は?」
思い切って尋ねてみる。
「私の名前は柳原 玲。あなたと同じドラゴンよ!」
「ドラゴン・・・」
いきなりの少女の告白に俺は唖然とする。そんな簡単に自分の正体を明かしていいのか??
「あの、どうして俺の名前を?」
なぜ俺の名前を知っていたのか、それが俺の一番の疑問だった。少なくとも俺の記憶にはない。まあ、まだ俺の記憶は一時間ぐらいしかないんだけど。
「あなたのことは母さんから聞いたの。同じ高校に同じドラゴンとして入学してくるから仲良くしなさいねっていわれて。ほかのドラゴンとは幼馴じみだからわかるけど初めて見たあなたからドラゴンの気配を感じたからもしかしてそうかなって思って声をかけたの」
「そ、そうなんだ」
柳原のお母さんが。ということは親父の仕業か。全く本当によろしく伝えてあるとは。
ん?てことは柳原とはこれが初対面・・・て、「だ~れだ」なんて聞かれてもわかるわけねえじゃねえか。
「て、お前なあ・・・」
そう言おうとすると今度は柳原の向こうのほうから知らない男が声をかけてきた。
「よ~おはよう玲。高校でもまたよろしくな」
「あら健、おはよう。こちらこそよろしくね」
「ん?そいつはだれだ?」
男は物珍しそうにこちらをみつめる。
「あ、紹介するね。こちらは一之瀬 蓮君。あなたも聞いてるでしょ、彼もドラゴンよ」
「おう、お前が一之瀬 蓮か。俺は相川 健人、健って呼んでくれ。これからよろしくな蓮」
「お、おうこちらこそよろしく・・・」
相川 健人か。しかしえらく馴れ馴れしいやつだな。初対面だってのにもうはや俺のことを呼び捨てにしている。柳原が親しく健と呼んでいるところをみるとこいつはさっきいっていた幼馴染みのようだ。
「あら、健ったら一之瀬君を呼び捨てにしちゃって。まあでもそのほうが呼びやすいかもね。一之瀬君、私もあなたのこと蓮君ってよんでもいい?わたしのことも玲でいいから」
「え、あ、うんそれは別にいいんだけど」
なんだかあっというまに呼び方まで決まってしまった。まあ蓮って呼ばれるのは別にいいんだけど会ってすぐの女の子を呼び捨てにするのはなんだか気が引けるな。
「二人は中学校も同じなのか?」
俺をおいてまたしゃべりだしている二人に聞いてみる。
「中学校どころかもっと小さいときから知り合ってるわ。彼の親と私の親は知り合いでよく一緒に遊んだわ」
「まあくされ縁ってやつだな」
「へえ~だからそんなに仲がいいのか」
小さいときっていうとドラゴンは幼少期が長いからもう何百年の付き合いになるのか。そりゃあさぞかし仲がいいのだろうな。
「まあ長い付き合いだから玲のことは知りつくしてるぜ。そこで蓮に忠告しておこう」
「なんだ」
突然、健は玲にきこえないように小声で俺にささやく。
「玲を女と考えるな。むしろ男だとおもっとけ。あいつはものすごく人使いが荒い、まともにうけおってると人生を破壊されるぞ」
人生を破壊って・・・。どんないわれようなんだ。そんな風にはみえないけどな。
そう思っていると玲が健に気付く。
「ってなにはなしてんのよ!!」
「なにも~。まあちょっと注意事項をな」
「なんの注意事項よ!!」
「そりゃもちろんお前の・・・てうわ!」
玲はその瞬間、全くみえないほどのスピードで、健に殴りかかった。
と、その瞬間また後ろから声が聞こえる。
「やあ、お二人とも相変わらず仲がいいですね~」
「どこみてそれいって・・・て、工藤くん」
「どうもこんばんわ。また高校でもよろしくお願いします」
「蓮君、こちらは工藤 真一君。私たちとは中学校が同じでね、彼もドラゴンよ」
またドラゴンか。なんかやけに多くないか?俺を含めてもう4人目だぞ。こんなにも多いものなのか?
「一之瀬 蓮だ。よろしく」
「ええ、存じ上げてますよ。こちらからもよろしくお願いします」
なんかえらく律儀なやつだ。顔もいつも笑顔だし、なにを考えているのかわからない。て、こいつも俺のことを知ってやがる。親父はどんだけ俺のことを知らせてるんだ。
「てか、どんだけドラゴンいるんだよ」
おれは最大の疑問を投げかける。
「ドラゴンはここにいる以外では後一人よ。え~と、あ、いた、有希~」
玲は一人の少女に声をかける。銀髪のロングヘアの髪に、白い髪飾りをしている女の子。
「有希、紹介するね、彼は・・・」
「ごめんなさい急いでるの」
そういうと少女はスタスタと歩いて行った。
「ごめんね蓮君。彼女は伊集院有希。昔からあんなんだけど実力はピカイチね。彼女が最後のドラゴンよ」
俺をふくめてドラゴンは5人か。なんか個性的なやつばっかりだな。まあ俺がいえたことじゃないけど。
「おっともうこんな時間だぞ。はやくいこうぜ」
健が声をあげる。あれ、なんで、さっきまで静かだったんだ?
そう思ったが、健の姿をみてその答えはすぐにでた。
(あ、気絶してたのか)
まあそれならしかたないな。むしろそれでしゃべったら怖いわ。
そして、みんなが歩き出そうとした時、一人の少女がこちらに向けてはしってきた。黒髪のロングヘアーの少女。
「おはよう~玲、みんな~」
「おはよう~優菜ちゃん」
「おっす、今日もギリギリか?」
「おはようございます篠宮さん」
みんなそれぞれあいさつをしている。え~と・・・
「あ、紹介するね、こちら篠宮優菜ちゃん。優菜ちゃん、こちらは一之瀬・・・」
篠宮優菜!? 篠宮優菜・・・優菜・・・ゆうな・・・
おれはその名前になぜか反応した。
優菜、もちろんその名前に聞き覚えはない。そのはずだ。それにこの人とは初対面だし。でも・・・
(気になる・・・なぜだ?)
どうしても心にひっかっかる。わからない、いくら考えてもわからない。ただ優菜という名前が俺の心の中でぐるぐるまわっている。
(まあ、考えすぎか・・・)
俺はそう思うことにした。きっと気のせいだ。それになにかあったとしてもこれから過ごすうちにきっとわかるはずだ。
「って蓮君聞いてる??」
「え?」
突然玲に声をかけられおもわず体がビクッとなる。
「はじめまして一之瀬君、篠宮優菜です。よろしくね」
「あ、ああよろしく」
「どうした蓮。篠宮にほれたか??」
健がおれに話しかける。
「なにバカなこといってんだよ。初対面でそんなことあるわけないだろ」
「それもそうか。でも一目惚れということも・・・」
「おまえまだいうか・・・」
そういいかけたところで
「ほら、急ぎましょ!初日から遅刻なんてシャレになんないわよ?」
玲がそういうと俺もみんなも一緒に校舎に向けて走りだした。
青空のもと、少年は新たな出会いをした。
新しい仲間、新しい友達、新しい生活。それは喜び、希望、そしてかけがえのないもの。
でも・・・
この出会いが
少年の人生を大きく、そして複雑に変化させていくことを
少年はまだ知らなかった・・・