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第三十九話 迫る中間テスト~Mr.GBの登場と勝負~

 五月中旬。夏並みの暑さになることもあるが、夏よりはなんとな~く気分的に我慢できるような季節。な~んてことを言ってるが、実はというと俺はその「夏」というのを体験したことがないんだけどな。今朝のニュースで可愛いお姉さんが今日は夏並みの暑さになります、とかなんとか言ってたから、まあその受け売りだ。



 この季節になると、普通の高校生にとっては慌ただしい時期だ。この時期になにがあるのかと聞かれれば



そう、中間テストだ。



 まあ適当な高校の生徒だったら中間テストなんてノー勉でもそれなりの点数は獲れるかもしれないが、なにを隠そうこの御崎山学園、相当な進学校だ。この地域一帯では一番、ここにいるだけでエリート、といっても過言ではないぐらいだ。



そのため、学校内での競争がこの地域一帯でのトップ争いになるわけで、周りのやつらも相当頭がいい。ほかの高校なら間違いなくトップ争い、という奴らがうじゃうじゃいる。



 競争は一年の時から始まってるんだ~とか先生方は言ってるけど、実際、一般生徒はそれに影響されているのかは知らないけど、みんな必死に勉強している。教室の雰囲気もなんかピリピリしている。



どんなに仲が良くても、この時期になると自分以外は競争においてのライバル、てことになるのかな。まあそうやって互いにライバル心を持って向上していく、ということはいいことだとは思うけどな。




「ふあ~~~~ねむ・・・」




 そんなピリピリした教室の中で、一人呑気にあくびをしているのはなにを隠そう




「ちょっと健、もう少し遠慮してあくびしなさいよ」




そうもちろん健だ。




 この勉強一色のムードから一人ポツンと離れている存在、周りから見れば相当浮いているように見えるだろう。




「だってよう、今自習時間なんだろ?なんもすることないし暇でよう」




(勉強しろよ)




こいつは自習時間というものをなにか勘違いしてるな。自習時間てのはなにをしててもいいというわけじゃないんだぞ。お前は完璧に自習時間と自由時間を勘違いしてるぞ。



「お前クラスでダントツの最下位なんだから少しは勉強しろよ」



後ろにふんぞりかえっている健に一応忠告してみる。まあこれっぽっちもそれで健が勉強を始めるなんてことは期待してないけどな。一応お約束、てことで。



健はこんな感じだから、まあ想像できるとは思うが、クラス成績ではぶっちぎりの最下位だ。いやむしろよくそれでこの学校に入れたな、という疑問というか謎の方が大きいところだ。聞くところによると、その健の入学については、御崎山学園七不思議の一つになっているとかいないとか。



「んあ~?だって俺たち別にその上を目指すわけじゃないんだから勉強する必要ないじゃん」




「バカっ、そんなこと思ってても口に出すんじゃないわよ!」



玲が慌てて健を注意する。確かに今のは相当エマージェンシー的発言だ。このピリピリしたムードの中で、そういう発言しちゃうといかにも俺達が怪しい集団に見えちまう。




 まあ実際のところ、健の言うとおり俺達が勉強においてがんばる必要は確かにない。俺達はこの学校の人間達を魔族から守る、という使命で来ているわけで、別にその上を目指そうとかそういうものは全くない。第一この学校自体、俺はな~んの試験も受けずに入学できているわけだし。健、入学の謎、の真相は簡単なことだ。まあそれを言っちゃだめなんだけど。



しかし、いくら勉強しなくてもいいとはいっても、さすがにこう必死に勉強している中で、一部だけが真面目じゃないという周りから浮くような行動は慎まなければならない。俺達が竜族である、という真実を人間たちに知られるわけにはいかないからな。だからこうしてなるべく一般生徒となんら相違がないように、勉強しているわけだが



そこんとこ、健はわかってんのかな~



こうやって健を見ていると、なんか勉強してるのがバカらしくなってくるな。



 そして俺は、開いていた歴史の教科書とノートをぱたりと閉じ、ふうとため息をついてイスにもたれる。



「てか、蓮はもともと秀才なんだし勉強しなくても充分点は獲れるだろ?」



また健はなにを言い出すんだ?と、言いたいところではあったが、自分でも謎なのだが、なぜか俺は勉強ができる。それは日頃勉強しているからとかそういうわけじゃなくて、授業を聞いているだけで大体のことは理解できてしまう。自分でもよくわからないところではあるんだけど・・・




実際、各教科の小テスト的なものの点数も、必死に勉強している奴もいる中で俺はなぜかよく、というよりいつもトップが獲れてしまう。だからいつもなんか申し訳ない感じになってしまうんだけど・・・



「あほか。いつから俺がそんな天才少年になってるんだよ」



俺は後ろに振り返って健に返す。だが健は机に肘をついてニヤニヤしながら



「またまたご謙遜を。蓮なら楽勝でしょ~」




「お前、まだいうか・・・」



そう俺が言った瞬間



「こらっそこ!喋ってないで黙ってテスト勉強しろ!!特に相川。お前はそんな余裕はないはずだろ」



先生の激が飛んだ。まあみんな自分の手元にある教科書やノートに目を傾けてるんだから、こうして喋っている俺達は物凄く目立っていただろう。怒られて当然だ。



「あ、すんませ~ん。以後気をつけま~す」



全く反省してなさそうな(まあ実際してないだろうけど)感じの声で健は先生に返すと、今度はちゃんとノートを広げて勉強しているふりを始めた。教科書は出していないからあくまでふりだけだ。おそらくいつものようにノートに絵かなにかを書いているんだろう。




キーンコーンカーンコーン




 やっと授業が終わった。自習というのは自分のペースで勉強はできるけど、なんにせよ結構疲れる。しかしこうして真面目に勉強してると、本当に俺もガリ勉みたいになっちまうな。まあテストの時期ぐらいそれでもいいのかもしれないけど、俺はこうやって必死に勉強してなるべく良い順位を獲りたい、な~んてことはこれっぽっちも思っていない(笑)



 そもそも人間はなんでこんな日常生活で使いそうもないことを勉強して、その順位を競っているんだ??



たとえば数学。普通の計算とかの基礎的な知識ならともかく、二次関数やら三次関数やらなんか知らないが、そんなもんどこで使うってんだ??それを使う状況が来るってんならぜひとも教えてくれ。その時は俺は喜んでその場から立ち去ってやる(笑)



人間ってのは、自分を誰かと比較していかなきゃ生きていけないのだろうか。自分より上や下がいないと暮らしていけないのだろうか。



実質、少し頭が悪いだけで落ちこぼれ、だなんて言われたりするけど、勉強できたらなんか偉いのか?勉強できる奴とできない奴とでは身分でも違うってのか??



勉強なんてできたってなんにも偉くない。ようはそれをどう生かすかが重要なのだ。勉強なんて自分がやりたいことのための一つのステップなのであって、勉強ができることを目標に取り組んでいたら、必ずそいつはどこかで壁にぶつかるだろう。どうして自分は勉強するのか、それを見つけ出すのが重要だ。間違っても、勉強のために生きていてはいけない。



おっと、なんか堅苦しいことを考えちまったな。俺は教育評論家でもなんでもないんだし、そんなこと言える立場でもなんでもないな。だけど、俺は正直勉強なんてどうだっていい。俺にはそれよりもやることがある。そのために勉強することが少なからず必要だからしているだけだ。




「さてと・・・」



 俺は次の授業の準備をするために立ち上がった。すると、意外な人物が俺に話しかけてきた。



「やあ、君が一之瀬君だよね。どうして君のような秀才がこんな落ちこぼれと一緒にいるんだい?」



話しかけてきたのは身長こそ俺とそんなに変わらないが、ガリガリとまでは言わないが、少し痩せ気味の細い体格、そして顔には黒ぶちの度が強そうなメガネ、そして手には数本の参考書。ふむ、いわゆるガリ勉ってかんじだな。健とは正反対の人間のようだ。



さて、誰だか知らないがいきなりきつい一言だな。秀才、俺が?それで後落ちこぼれ?



あいつは落ちこぼれと言った時、ちらりと健の方を向いた。どうやら健のことのようだ。



「ってMr.GBの及川じゃねえか。なんだ?蓮にいちゃもんでもつけにきたのか??」



健が身を乗り出すようにこちらに話しかけてくる。



「なんだ?そのMr.GBって?知り合いか??」



俺は目の前にいる及川とかいう奴に聞こえないようにひそひそ声で健に尋ねる。



「お前しらないのか??学年一のガリ勉でその体格と黒ぶちのメガネからMr.ガリ勉ブラック、通称Mr.GBって呼ばれてるんだぜ。それにガリ勉というだけあって、中学校のころはこの地域一帯での模試で、毎回トップ3に食い込んでたって話だぜ。この学校の入学試験でも二位だったみたいだし」



「へえ~」



Mr.GB、ガリ勉ブラックでGB・・・ん?もしかしてこれは・・・



「まさかとは思うが、もしかしてそのあだ名お前がつけたんじゃねえだろうな??」



俺は健に尋ねてみる。そのあだ名のセンスは俺の考えが正しければおそらく・・・



「ん?そうだけど??」



「はあ~~~~」



俺は大きくため息をついた。やっぱりな・・・こんだけ予想するのが簡単だと全然面白くないな。だから健、頼むからアルファベットつけるなら日本語の頭じゃなくて英語の頭を使ってくれ・・・



ん?待てよ。ガリ勉ブラックでGB・・・ガリ勉のGはともかくブラックのBはblackのB・・・



おおお!!とうとうやったな健!!おそらく無意識だろうが遂にちゃんとしたアルファベットの使い方ができたな。友人としてこんなに嬉しいことはないぞ!!ちくしょう、目がうるんできやがる・・・」



そして一人感傷に浸っていると



「なにやってんだ蓮。なに一人感傷に浸ってるんだよ」



「え?」



む、しまったーーーー!!!まさか健にまともなツッコミを食らってしまうとは。おもわず一人マイワールドに突入してしまった。不覚!!



 そんなこんなで健と話していると、そのMr.GBの存在のことを忘れていた。そしてMr.GBこと及川はそんな俺達にしびれを切らしたのか、少し怒り気味に話しだした。



「もういいかな一之瀬君」



「え、ああ悪い悪い。で、俺になんの用?」



俺は慌てて及川に返す。そういえばなんの話をしていたんだっけ。今俺は友人の進歩に対する喜びに浸るのに忙しいんだけど。



「だから!どうして君のような人間がこの落ちこぼれなんかと一緒にいるのかっていう話さ!!」



及川が顔を真っ赤にして突然大きな声を上げる。そして教室中の視線がこっちに集まる。



しかし、今はそんなことはどうでもいい。それよりも問題なのはこいつの発言だ。こいつは今何て言った?落ちこぼれ?健がか??



そして俺は、及川の方向に体を向けると、鋭い眼光を及川に飛ばして言った。



「落ちこぼれって・・・もしかして健のことを言ってる??」



及川は俺の気迫におもわず負けそうになったが、ぐっとこらえてまた話し出す。



「ああそうさ。授業中はよく喋るし寝るし、授業の邪魔はするしそのくせ成績は最悪。どうやってこの学校に入れたのか聞きたくなるほど頭が悪い。まさしく落ちこぼれさ」



俺はその一言に少しばかりカチンときてしまった。



「授業中よく喋っているのは俺もだけど。俺は落ちこぼれじゃないの??」



「君はそこにいる落ちこぼれとは違って成績がいいじゃないか。君とそこにいる落ちこぼれを一緒にしちゃ悪いだろ??」



「・・・・・・」



あ~だめだこりゃ。もう我慢の限界だ。さすがの俺も堪忍袋の緒が切れたって感じだ。



「さっきから落ちこぼれ落ちこぼれって言ってるけどさ。なに?勉強できなかったら落ちこぼれなわけ?」


次の一言で俺のこいつに対する態度が完璧に決まるぞ。さあどうする及川君?



「そうさ落ちこぼれさ。この学校では成績が命。どれだけ勉強ができるかが、この学校での存在価値になるのさ。つまり勉強できないやつはみんな落ちこぼれ。居る価値のない人間なのさ・・・。だから君もそんな・・・」



「ふざけんじゃねえ!!!」



俺はその言葉を聞いた瞬間ぶちキレた。



「なにが成績が命だ、なにが落ちこぼれだ!勉強できない奴は存在価値がないだと?誰がそんなことを言った!?そもそもなんでお前が人の価値を決めてんだよ。なんだ?お前は神様か??違うだろ。お前も同じ人間だろうが。そんなお前が他人の価値を勝手に決めてんじゃねえよ!!!」



俺はキレた。ただ勉強ができるできないだけで人を判断するこの愚かなやつに。



「確かにここにいる相川 健は成績においては最低だ。だけどな、勉強のできるお前なんかよりこっちの健の方が立派な人間だよ!!人間としてはこいつの方がお前よりもずっと上だよ!!!」



教室中に俺の声が響いた。教室がシーンと静まる。



「て、おい。俺が頭が悪いってのは否定してくれないのか蓮??」



「無理だ。否定しようがない。お前のバカっぷりは天下一品だ。それは友人である俺が一番知ってる。そのことを否定するなんて恐ろしいことは俺にはできない。お前はバカだ。それは間違いない!!!」



俺の言葉を聞いて、ずっと顔をうつぶせていた及川が、顔を真っ赤にして俺に話す。



「まさか、君までその落ちこぼれと同じように落ちこぼれだったとはね。いいだろう、そこまで言うのなら僕とテストで勝負しろ!!!それでもし君が勝ったら、君の言うことを認めてあげるよ。でももし僕が勝ったら、君たちは落ちこぼれ決定だ!!!」



その瞬間、この場の空気が凍りついた。



「・・・あれ?テストで勝負って今までの話に関係なくないか??」



「しー、そこはスルーしろ。そんなことみんなわかってる」



もしかして、こいつも相当バカなんじゃねえか??



「と、とにかく勝負だ!逃げるなよ!!!」



「いいだろう。俺は逃げも隠れもしないよ」



「じゃあ、テストが終わったらまた会おう。じゃあな!!!」



そう言って及川は自分の席に戻って行った。




 こうして、なんでかは知らないけど、今回の中間テストで及川と勝負することになった。全く、どうしてこうもめんどくさいことが続くんだ。しかし、やるからには勝たないとな。あいつにひと泡ふかせたいし、こちらも本気で取り組むとしよう。



そして俺は、次に必要なものを取りにいき、次の授業が始まるのを待つために自分の席に着いた。





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