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第三十八話 My history~組み合わせた先にあるもの~

「俺の、過去・・・あれが・・・??」




 毎度のことながら、さっきの一言だけでも俺にとっては相当衝撃的なものだったんだけど、それよりもさらに上が、俺の前に待ち構えていた。




あの空間が俺の過去の世界?工藤はいつも通りの笑顔でそう言った。わからない、俺が話した事柄をどう組み合わせていけばそうなるんだ??



 当の本人でさえわからないことを、こいつは一人理解している。一人勝手に散らばったパズルを元の形に再構成し、完成させている。だがその完成形も、俺には理解できない。理解しようがない。あいつの言っていることはいつでも飛躍しすぎている。凡人な俺には到底理解しがたい。一度、あいつの頭のなかをみてみたいものだ。



「どうして、そうなるんだ??」



俺は表情を変えずに机に手を付いている工藤に尋ねる。




「まあ仮定ですけどね。しかし、あなたが話してくれたいくつかの情報を頼りに組み合わせていくと、そういう結論に至った、ということだけです。ですからまだ仮定の域です。ですが、私の考えではその可能性が非常に高いと思われます。そうですね・・・」




そう言って工藤は額に手を当ててなにやら考え込む。そしてなにか思い立ったのか、額に当てていた手の人差し指をこちらに向けて俺に話す。



「あなたの見たその村は、木々で作られた家が立ち並んでいたんじゃないですか??」




「!?」




突然の工藤の一言。俺はその一言に鳥肌が立った。




 今思い出した。たしかに、あの村は木々で作られた家が立ち並んでいた。その光景が頭に浮かぶ。でもなぜ、俺さえ忘れかけていたことを工藤が・・・




「なぜ、わかったんだ・・・?」




「いえ、自分の立てた仮定に沿っているだけですよ。しかしやはりあったんですね。ではもう一つ、その村には大きな風車がありませんでしたか?」




「!!!」




俺は言葉を失った。そう、あいつの言った通り、あの村には確かに大きな風車があった。その光景が俺の頭の中でフラッシュバックする。しかし、ここまでくると俺はこいつが怖くなってきた。目の前にいるこいつは、直にその空間にいたわけではないのに、それでもスパスパとこうも正確に言い当てられると、例えどんな奴だったとしても、それに恐怖を覚えるのは普通なことだろう。てかそうであってくれ。




「その様子を見ると、どうやら当たっているようですね」




工藤はそう言ってフフと、不気味な笑いを浮かべると、俺から視線を離し、前を向いて遠くをみつめだした。




「あなたのいた空間にあった村、その村の名前はヴェルサス。たしかそんな名前でした」




「ヴェルサス・・・」




ヴェルサス・・・全く聞いたこともない名前だ。少なくともそのワードを今の俺の記憶の中で検索してもなにもヒットしてこない。だけど・・・




「なぜ・・・そこまでわかるんだ??」




俺はたまらず工藤に聞いた。工藤一人先に話が進みすぎて俺は付いていけなかった。だけど、そこまで具体的に村の名前まで出すということは、あいつはなにか確信できていることがあるということだ。仮定とか言ってるがおそらくもう確信の域に到達しているだろう。あいつの顔を見れば、それぐらいのことはわかる。しかしなぜだろう。なぜか一瞬、工藤が悲しい表情をしているように見えた。見たこともない工藤の顔。今のは、俺の気のせいだったのだろうか。



「聞きたいですか?」



今度は鋭い目つきに変わって俺に尋ねる。



「もちろんだ。俺は知りたい、あの空間なんだったのか・・・」




すると、工藤は一度目をつむった後、こちらに体ごと向けて話し出した。




「まず、あなたの手に宿っている紋章。それはただ竜王からの血を引き継いでいるだけでは持つことはできません。もちろん強い魔力の持ち主、というのも一つの条件です。しかしそれだけではありません。自分という存在、己の力全てを理解すること、これも紋章を持つための条件の一つです。そのためにはもちろん、自分の「過去」というものが必要です。たとえそれが残酷な記憶であっても、その全てを受け入れ、向き合える者、つまり心技共に超越した者にしか、その紋章は持つことができないのです」




「あなたはあの空間から戻った時、今までなかった紋章が突然手に刻まれていた。つまりそれはあなたの「過去」だった、と考えるとつじつまが合います」




そして工藤は足を組みかえると、また手を顔の前で組み合わせて、その手の向こうからこちらを覗くように、また話し始めた。




「二つ目に、あなたはその空間にあった村を知っているような感じがしたんですよね」




「そ、そうだけど・・・」




しかしそうはいっても、本当になんとなくといった感じだったんだけど、しかし確かになにか違和感を感じたのは確かだ。




「記憶というものは、確かに不完全なものです。全ての事柄を覚えていることは不可能です。しかし、自分が覚えていないだけで、実は頭にはしっかりと刻みこまれているのですよ。自分の意識の中では全く覚えていなくても、確かにそこに存在している。そしてその時の光景をもう一度見た時、あなたは気がつかなくても頭はしっかり反応しているのですよ。それを表面化するのかしないのかが問題であって、確かにあったから、見たことがあるからあなたは感じたんですよ。この村を知っていると」




「それで思い出したのですが、あなたの父、竜王は数百年前、この人間界に住んでいたらしいのですよ」




「親父が!?」




親父が人間界に住んでいた?そんなの初耳だぞ。って今思えば、俺は父親の名前すら知らなかったんだ。そんな俺なんかより工藤たちの方が俺の父、シリウスのことを知っているはずだ。フ、なんか皮肉なもんだな。息子である俺よりも他人のほうが自分の父親のことを知っているなんて・・・




「その住んでいたところというのが、ヴェルサス、という一つの村だったらしいです。そこで息子であるあなたももしかしたらその村に住んでいたことがあるのではないかな、と思いまして」




 親父の話では、俺はなんでかは知らないけど三百年ぐらいずっと寝ていたらしいし、その前にそういう村に住んでいてもなんらおかしくはない。しかしヴェルサス、聞いたことのない名だ。しかし工藤のいったとおり、やはり俺の頭にはその村のことが刻み込まれているのだろうか。




「その村は、今も存在しているのか??」




そう俺が聞くと、工藤は一度うっすらと目を開くと、すぐにいつもの笑顔に戻って俺に言った。



「いえ、今はありません。さすがに何百年も経てばどんな村や町であっても、残っているのはごく一部です。それに、その時と今では状況も全く違いますしね」




「そうか・・・」




残念だ。もしかしたらその村に行ったらなにか思い出せるような気がしたのに。まあたしかに、何百年と経っても残っているのは相当大きな町や都市だろう。俺が見たあの村は、小さくはないけどそこまで大きくはなかったしな。無くなっていてもなにもおかしくはない。



 そして工藤は、俺がずっと持っているつながった一つの「ソラノカケラ」をちらっと見て、また話し始める。



「そして三つ目。これは私もよく知らないことですが、あなたはそのカケラを集めれば過去を知ることができるとあなたの父親にいわれたんですよね?あなたはそのカケラをつないだ途端、違う空間に飛ばされた、つまりそれが過去の世界である、といっても差し支えなくないですか?」



俺は自分の手の中にあるソラノカケラを見つめた。相変わらず不気味な光を放ちながら輝いている。



「とまあそういう感じで、これらのことを組み合わせると、あなたのいた空間はあなたの過去の世界だった、という答えが出てくるわけですよ」




「なるほど・・・」




 珍しく、工藤の意見に同意することができた。普段いつも無茶苦茶なことを言うから理解できないんだけど、今回は一つ一つの理論がしっかりしているから俺でもわかる。工藤のいうとおり、あの世界は俺の過去だったのかもしれない。



「て、ことはつまり、この二つで一つのカケラ、「ソラノカケラ」を集めるたびに俺は自分の過去を知ることができる、というわけか。そしてそのたびに紋章も完成していく・・・」




「そのとおりです。さすがですね。たぶんですが、そのカケラにはあなたの過去がなんらかの魔法によって封印されているようですね。そして二つ合わせることで、その封印が解ける・・・」



そう言って工藤は立ち上がる。俺もそれにつられて立ち上がる。しかし俺は、その時あることを思い出す。



「ちょっと待て、あの世界が俺の過去だったとしたら、あの時聞こえた声ってのも俺の過去なのか?」



 あの世界が闇に包まれてから聞こえてきた声。あれは過去とかそういうものじゃないような気がした。しかしそうなると、あれは一体・・・



「さあ・・・それは私にもわかりません。ですが、あれはあなたの過去、というわけではなさそうです。そうですねえ、あなたに宿っているその紋章かなにかの声なのか、それとも・・・」



そう言って工藤は言葉を閉ざす。



「どうしたんだ??」




「いえ、なんでもありません。とりあえずわかったのはそのカケラを集めてつなげることであなたはそのたびに少しずつ過去を知ることができる、今はそれでいいんじゃないですか?」




そして工藤は机に置いてある自分の鞄を手に持つと、振り向きざまに俺に向かって言った。



「あと残すターゲットは六体。つまり後三つ、カケラは出来上がるわけですね。あなたが過去を知るためにも、これからもがんばっていきましょう」



そしてみんなも立ち上がる。




「では、今日はこれで解散ということにしましょう」




<解散後の廊下>




「どうして本当のことを言わなかったの?」




廊下の片隅で、工藤と伊集院さんは話していた。




「いえ、あの村に関しても含めて、彼の過去は彼自身が知らなければならないというように言われていますので。私はあくまで助言などのアシストをするまでですよ」




「・・・それはあの人の命令?」




「さあ、どうでしょうか。そこはご想像におまかせしますよ。おっと、もうこんな時間ですか。そろそろ戻らないと叱られてしまいますね。それではこのへんで・・・」



そして工藤が伊集院さんの横を通り過ぎようとした時



「もし、私が自分の目的を遂行したら、あなたはどうするの?」




伊集院さんが声を上げた。




「さあて、どうなるのでしょうね。私はあくまで監視するのが役目ですから。あなたがどうしようと、私は口を挟むつもりはありませんよ。ですが・・・」



工藤は前に向けていた視線を、今度は伊集院さんの方向に鋭い眼光を向けながら



「あなたが私の任務の邪魔をするというなら、私もそれ相応の対応をさせてもらいますよ」




そう言って工藤は、立ちつくしている伊集院さんの横を通り過ぎ、伊集院さんに背中を向けて歩いていった。






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