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第三十四話 草原の彼方に~そして血と闇に染まる~

「・・・っは!?」




 俺は目を覚ました。妙に重いまぶたを恐る恐る開けると、そこに広がっていたのは




「どこだ、ここ・・・?」




純粋で、それでいて懐かしい感じの澄み切った青色の空、俺の上をゆっくりと、のんびりと通り過ぎていく白い雲。



俺の寝そべっているこの地には、色とりどりの草や花。その上をひらひらと舞う白や黄の蝶。



そして俺を、優しく包み込むような眩しい光で照らす太陽。



俺は一人、草原の上で寝ころんでいた。




「あれ、なんで・・・」




なぜかその景色に、胸が詰まるような感覚を覚えた。そしてなぜか俺の目から涙がポタリと落ちた。あれ?どうして涙が出てくるのだろう?



俺は手で自分の顔を触る。たしかにこれは涙だ。なにも感じていないはずなのに、なぜか俺の目からは涙がこぼれおちる。



「くそっなんだってんだ!」



俺は腕で自分の涙を拭き去り、背中を起こした。



「!?あ、あれは・・・」



俺の目に映ったもの、それは・・・




「あれは・・・村・・・」




俺の目に映るもの、それは大きな風車がまわり、木々でつくられたたくさんの家々が立ち並ぶ、大きな一つの村。俺の視線の先には、その村の門が、大きく俺を見下ろすかのようにそびえ立っている。




でもなんでだろう・・・




 俺はこの村を知っている気がする。自分が今どこにいるのかもわからないのに、その村の姿を俺は、知っているような気がする。でもなぜだろう。俺はあの村が怖い。胸の奥から湧き立つ恐怖感。その恐怖感が俺の心を真っ黒に染めていく。ただ俺の前になんの変哲もない村があるだけなのに、その村がとてつもなく怖く感じる。なぜなんだ・・・だめだ、わからない・・・



そして俺が立ち上がろうとした瞬間



「・・・うっ!?」



突然俺を激痛が走る。俺は手で胸を抑えた。苦しい。とてつもなく苦しい。なにかが俺の胸を締め付ける。なにかが俺の心を支配していく。途端に心臓の鼓動も異常なスピードで波打つ。な、なんなんだこれは・・・



俺はおもわず草原に寝ころぶ。そして胸を押さえてうずくまる。苦しい、胸が張り裂けそうだ。必死に胸を抑えるが、胸の苦しみはいっこうにとれない。それどころかどんどん強くなっていく。



「息が・・・誰・・・か・・・」



俺はだれもいない草原に叫んだ。だがその声は無情にも、草原を駆け抜ける風の音でかき消された。目の前に村はあるのに、誰かがいる気配は全くしない。ただ一人、この草原の上でのたうちまわっていた。息ができない。少しずつ周りの景色がぼやけてくる。だめだ・・・意識が・・・



その時




「アハハハ、ウフフフ」




「っは!?」




突然女の子の笑い声がした。可愛らしく、それでいて心安らぐ笑い声。だけどまだまだ幼さが残る笑い声。そんな笑い声が、突然俺の背中の向こうで聞こえた。



その笑い声を聞くと同時に、なぜか胸の苦しみが少しずつ和らいでくる。




「んん!う~ん、はあ~」




俺は胸の中にたまる空気を大きく吐き出した。俺の胸の中を支配していたなにかが、その空気とともに風船が縮むように小さくなっていった。




「ふう~。た、助かった・・・」




俺は安堵した。今のは本気で危なかった。あの村を見た瞬間、俺をなにかが襲った。今まで味わったことのない胸の苦しみだった。胸が張り裂けそうで、それでいて突き刺すような。一体なにが起きたっていうんだ?




 俺は自分の呼吸が落ち着くのをじっと待った。だけど不思議なことに、あんなに苦しかったのに呼吸がもとに戻るのは自分でも信じられないほど早かった。新しい空気を吸い込むたびに、新鮮な空気が俺の胸の中を満たしていく。心臓の鼓動も、いつものスピードに戻りまたいつものように一定のリズムで音を刻んでいく。




「あ、そういえば」




 落ち着いたところで俺は思い出す。先ほど聞こえた笑い声。そういえばあの時俺は苦しみのあまり、周りの音なんて一切耳に入ってこなかったのに、なぜかあの笑い声だけは鮮明に俺の頭の中に直接届いたような気がした。




俺は起き上がろうとした。しかしなぜか起き上がれない。体の上に、まるで見えない壁があるかのように、俺の体が起き上がることを拒絶される。仕方なく俺は、ごろりと先ほど背中の後ろで聞こえた方向に体を転がす。




「あれは・・・」




ぼんやりとだけど、遠くの方に少女らしき姿が見える。髪につけた、可愛い花飾りを揺らしながら、楽しそうに、美しい緑に染まった草原を走り回っている。




「フェ・・・ル、こっちよー」




少女が誰かを手招きする。誰かの名を呼んだような気がするが、ここからではうまく聞き取れない。




「待ってく・・・よユ・・・」




少女が手招きして現れたのは一人の少年。




「おそ・・・わよ、・・・リル!はやく・・・く」




少女は眩しすぎるほどの笑顔でその少年に叫ぶ。




「そん・・・に・・・くても大・・夫だよー」




そして少年は少女の元に辿りつく。




「なんだろう・・・この胸を締め付けるような気持ちは・・・」




 先ほどの胸の締め付けとは違い、キュッと優しく、それでいてもどかしいこの気持ち。なにか、その光景に懐かしさを覚えるような、そんな気持ちを感じた。




「じゃあ・・・はい」




少女は優しく少年に手を差し出す。



「う、うん・・・も・・かしいよ」




少年はなぜか、もじもじと手を体の前に合わせて、顔を赤くしてうつむきながら立ちつくしている。そんな少年の姿を見て、少女は少年にもう一歩近づき。



「ほら」



少女は少年の手を取り、満面の笑みを浮かべながら



「いこう!」



少女は少年を引っ張るように、草原の彼方に歩き出した。




俺はただ、そんな二人の光景を、ただただ見つめていた。眩しくも、うらやましく思えた少女と少年のやりとり。俺は少しずつ俺から遠ざかっていく、手をつなぎながら歩く二人の背中を見つめていた。




その時




ピシ





突然手をつなぐ二人の手を切り裂くように漆黒の亀裂が走る。




「!?」




亀裂は少しずつ大きくなっていき、そして・・・




パリーン




突然目の前の光景がガラスのように音を立てて真っ二つに割れる。そして




「わあ!?」




突然先ほどの眩しい景色の草原が打って変わって暗闇に包まれる。そして俺の足がその漆黒の闇に沈んでいく。




「これは・・・あっ!?」




俺は先ほどの二人の方に視線を戻す。




先程の二人の光景がまるで血のような赤い液体に染まっていく。




そしてどこからともなく声が聞こえてくる。




「お前のいるところには必ず血が流れる、死が訪れる・・・」




その重く、そして不気味な声が俺の胸に深く響き渡る。俺の心が一気に恐怖に染められていく。



「やめろ・・・やめてくれ!!!」




「お前は呪われた存在。世界を闇に葬り、闇に包み込む存在。そしてあらゆるものにとって憎き存在」




「さあ、今こそその呪われた力を解放してこの世界を闇に染めろ!!」



「い、いやだ・・・」



「それがお前の運命なのだ。運命に逆らうことは許されぬ」




そして突然目の前の赤い液体が俺を襲う。




「いやだーーーーーーー!!!!」




そして




「れ・・君・・・」




「蓮君・・・」




「蓮君!」




「蓮君!!しっかりして!!!」




「・・・っは!?」




俺は突然その声で目覚めた。





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