第三十二話 意外な関係~昼休み、廊下、争い~
激闘の戦いの末(まあ俺は覚えてないんだけど)少しは一段落したかと思えば、今度はその傷跡の処理に見舞われるとは。
俺の目の前にいるのは荒木先生ファンクラブの会長、そして次期生徒会長候補とかいう名前はえ~と、あ、そうだ、千堂 由佳里とかいう人だ。
荒木先生失踪後、その原因を突き止めようとファンクラブが過剰な活動を繰り返し、荒木先生にむこう一週間に接したあらゆる人にそのことについて問いただしている。そんな中、俺は飲み物を買いに購買へ行く途中、その問いただしている場面に出くわしてしまう。しかもその問いただされていたのはなんと篠宮さんだった。こうなってしまったのにも俺にも大いに原因はある。だから俺は、ファンクラブのこの過剰な活動を食い止めるためにも、この場面に飛び込んだのは良いんだが・・・
どうにもこうにも、面倒な状況になってしまった。
この千堂 由佳里。次期生徒会長候補だか知らないが、人は見下すわ、自分のやってることになんの疑問ももたないといった感じで、さすがの俺も、堪忍袋の緒が切れた、といった感じだ。
「こうやって、一人に対して多人数で無理やり問いただして。あなた方は自分のやってることがどれだけ恥ずかしいことかわからないんですか??」
俺は千堂に向かって叫ぶ。どう考えても多勢に無勢だが、こうなった以上、こちらも引き下がるわけにはいかない。こちらも真っ向勝負するしかない。それと一応先輩だから敬語を使っておこう。
「なによ、私たちがなにをしようが勝手じゃない。あなたには関係ない事でしょ!!」
千堂は相変わらずの対応だ。しかしそれより腹が立つのは
「そうよ、そうよ!」 「大体一年のくせに生意気よ!!」
その後ろの集団の罵声。自分ではなにもできないくせにこうして誰かの後に続くことだけはやる。やれやれ、本当に典型的なやつらだな。しかしそうは言っても邪魔だな。仕方ないか・・・
そう言って俺は一度ふうと息を吐き出した後、その集団向けて鋭い眼光を放って言った。
「すいません、外野は黙ってていただけますか?僕は今、この千堂さんと話してるんで」
すると
「・・・・・・」
あっという間に静かになった。ふむ、一応話は通じるんだな。
この時の俺は、この集団が俺の言葉で静かになったんじゃなくって俺の威圧で静かになったことに気付いてなかった。
「さて、落ち着いたところで。あなたには関係ないでしたっけ。残念ですけど関係は大いにあるんですよ」
そう言って俺は千堂に視線を戻し、ちらっと篠宮さんの顔を見た後、また話しだす。
「まずあなた方が問いただしているのは僕のクラスメイトであり大切な友人です。友人が困っていれば、助けるのが普通でしょ。ましてや集団で先輩方に問い詰められていたらなおさらです」
千堂は俺の話を黙って聞いている。後ろの集団はというと、ひそひそと、俺の顔を見てなにかを話をしているが、そこは今はスルーしておこう。
「そもそも、そうやって集団で一人を問い詰めてること自体が間違ってるんですよ。そんな状況で話を聞いているだけと言われてどうやって信じろっていうんですか」
そして俺は一度間をおいてから、また一度深呼吸してから言い放つ。
「あなた方がやってるのはただの恐喝です。最低な奴らがやることですよ」
その瞬間、この廊下が時が止まったかのように静まりかえる。声を出す者はだれもいない。その場にいる人々は、ただそこにいる二人を眺めているだけだ。なにも起きないまま、時だけが過ぎていく。
そしてその静けさが続いた後、千堂の後ろにいる集団が騒ぎ出す。
「あなた、自分がだれに物を言ってるのかわかってるの!?」
この静けさを破ったのは俺でも千堂でもなく後ろのとりまきの連中だった。やれやれ、外野は今度はなにを言ってくるのやら。
「誰って、そこにいる千堂にだけど?」
「一年のくせに千堂様を呼び捨てにするんじゃないわよ!!」
「様?」
俺がそう言った後、先ほど叫んだ集団の中の一人が前に出てくる。
「この方は、かの大企業、千堂グループのご令嬢。いずれはそのグループの後継ぎとなるお方よ。そんな方に、一般生徒で、そして一年生のあなたが気易く話すんじゃないわよ!!」
その声が廊下中に響き渡る。まあだれも喋ってなかったから当たり前といえば当たり前なんだけど。しかし困ったことになったな。
そう言って俺は手で頭をかく。そして俺は言い放つ。
「千堂グループってなんですか?」
その瞬間
この場の空気が凍りついた。
(あ、あれ?)
俺はその状況に慌てふためく。なにかまずいことでも言ったのか俺?
「あなた・・・そんなことも知らないの??」
先ほどの女子生徒が驚いたような顔をして俺に叫ぶ。実際俺はその千堂グループとやらを全く知らない。というよりこの学校外のことに対して凄まじく無頓着というか知らないので、思わずそう言ってしまったが、どうやら相当場違いな発言だったらしい。そんなに有名なものなんだろうかそれは。
そして俺の発言でざわめく廊下の雰囲気を切り裂くように、先ほどの女子生徒が話しだす。
「千堂グループというのはね・・・」
しかしその時
「やめて!その名を出す事は禁じたはずよ!!」
突然千堂がその話を止める。
「今そのことは関係ないはずよ」
「しかし千堂様・・・」
「黙りなさい!!!」
千堂の声が廊下に響き渡る。廊下中がシーンと静まり返る。
(あ、あれ・・・?)
なんか俺忘れ去られてない?なんか今度は向こうの連中内で争いが起きているみたいだ。よくわからないけど、とりあえずさっきのでわかったのは、千堂が「千堂グループ」という名を出されるのを嫌がったということぐらいか。
一人状況についていけない俺だったが、先ほどの会話を頭の中でリプレイのように巻き戻して振り返ってみる。
(しかし、なんだか知らないがご令嬢ということだけで「様」扱いか。やっぱり人間ってのは金が全てなのか?)
金があるから上なのか?金があるから偉いのか?
それは違うだろ。というよりこの世界が、そんな悲しい世の中であってほしくない。
俺がもんもんと一人考え込んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「すみません先輩方。通りま~す!」
「ちょっと健、もう少しマシな入り方なかったの??」
「仕方ねえだろ。てかもうここまで来ちゃったし・・・」
そこに現れたのはなんと玲と健だった。あれ?こんなこと、前にもあったような・・・
「玲、それに健まで。なんでここに!?」
俺は思わず叫んでしまう。さきほどまで教室にいたはずの二人がなぜここに・・・
「いや~なんか蓮が廊下で騒動起こしてるって教室で聞いてな。またあの時みたいに、だれかを吹き飛ばしてないか心配になってこうして急いで駆けつけたってわけだ」
そうか。あの入学したての時の三年の不良集団にからまれた時もこんな感じだったっけ。二度も同じように世話になるとは。本当に二人には頭が上がらないな。
「!?柳原?なんでここに・・・」
千堂が玲の姿を見て驚く。あれ?二人は知り合いなのか??
「なあ健、玲とあの千堂とかいう人って知り合いなの?」
俺は思わず健に尋ねる。
「まあな。あの人と小学校が同じでな。まあ幼馴染みってやつだ」
「へえ~」
意外、というわけでもなかったが、なんとなく玲とは違う雰囲気の人だったからなんかその組み合わせに違和感を覚える。しかし様子を見ると、結構面識があるみたいだし・・・
て、なにやってんだ俺は。人を見かけで判断するのはよくない。
「お久しぶりです千堂先輩」
「柳原・・・まさかあなたもこの学校の生徒・・・?」
ん?何言ってんだあの千堂とかいう人は。同じ制服でここにいたらそりゃあ同じ高校の生徒だろ。
千堂のその対応は、まるで玲がこの学校の生徒であることに恐怖感を抱いているような感じに見えた。
「はい。今年入学した新入生です」
玲はさわやかにその問いに答える。玲の方は別に千堂に対して特になにもないみたいだった。
「そ、そうなんだ。で、柳原はあの一之瀬と知り合いなの?」
「はい。クラスメイトです。それに部活も同じです」
「部活・・・彼が・・・」
千堂はなにかを考え込んだ後、こちらになにかを言おうとしたのか、俺の方を向いて口を動かそうとした瞬間
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。昼休み終了5分前のチャイムだ。
「お、そういえば次は移動だったな。蓮、教室にもどるぞ」
そう言って健は、千堂の後ろにいる集団の視線を無視して歩き出した。
「優菜も行こう。早くしないと間に合わないよ」
「え、あ、うん・・・」
玲は篠宮さんの手を引っ張り、この場を後にした。
「さて、俺も行かなきゃな」
そう言って俺も歩き出そうとすると
「待ちなさい」
千堂に呼び止められる。
「・・・なんですか?」
「あなた、柳原と同じ部活っていってたわよね。それってまさかあのDSK研究部とかいうわけのわからない部活?」
・・・突然なにを言い出すんだこの人は。てっきりさっきと同じ用件かと思えば、今度は部活のことか。それもDSK研究部についてだなんて。
一体なんの風の吹きまわしなんだ?
「そうですけど・・・それがなにか?」
「いや、別に特にこれといって用はないんだけど・・・」
そう言って千堂はうつむく。俺はちらっとここから見える教室の時計を覗く。
ふむ、そろそろ行かないとやばいな。
「じゃあすみませんけどこのへんで失礼します」
そう言って俺は歩き出す。そして千堂の横を通り過ぎようとした時
「まだ荒木先生の話が終わってないわよ・・・」
千堂がぼそっとそう呟いた。
「荒木先生のことに関しては、自分も残念に思います。ですが、だからといって無関係な人まで巻き込むのは良くないとおもいます。それに・・・」
俺はそう言った後、一度間を開けてから、今度は千堂の方を向いて言う。
「荒木先生の気持ちのことも、一度考えてみてください」
そう言って、俺はこの場を後にした。