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第三十一話 消えた先生~波紋が立った後は~

<御崎山学園第一体育館>



「では、これより臨時集会を始めます。一同起立」



 先生の指示のもと、俺達は立ち上がる。この御崎山学園は生徒数もかなり多い。その生徒全員が入れるこの大きな体育館にも驚くが、その生徒が一斉に立ち上がる光景にも、かなりの迫力がある。



きちっと整えられた列。窓から差し込む日の光。そして眺める先にあるステージに現れる校長の姿。



これぞまさしく、学校というべき姿だ。



 

 まあそんなことは置いておいて、列はきちっと並べられているが、生徒の間ではちらほらと会話が聞こえる。その話題はもちろんこの臨時集会についてだ。



一般生徒は知る由もない。あの荒木先生が魔族でした、なんてことは。というよりそのことを言っても誰も信じないだろう。突然常識から外れるようなことを言われても、それを素直に信じる者はかぎりなくゼロに近い。むしろなにいってんだこいつと、逆にバカにされるのがオチだ。常識という名の水面に波紋を立てることを、人は許してくれない。



とにかく、これから話される荒木先生についての一種の特ダネに、生徒は耳を傾けていた。




「では、校長のお話です」



そしてそのアナウンスの合図と共に、校長がマイクに体を近づける。



「え~みなさん、おはようございます」




「おはようございます」




生徒全員が口をそろえてその挨拶に答える。さすがにこの人数が一度に声を上げると、それだけで大音量の音となる。体育館にその声がズシリと重く響き渡る。




その響きが収まるのを見計らって、校長が話を続ける。



「え~今日は、とても残念なお話があります」



その一言に、体育館がざわめき、不穏な雰囲気が漂う。



「数学担当の荒木先生が、一身上の都合でこの学校を去ることになりました」



その瞬間



「え~!!!」



という歓声がこの体育館を揺らす。




そしてその歓声は、やがて悲鳴にかわる。突然の荒木先生の失踪。だれだっていきなりそんなことをいわれれば、心も乱すものだろう。特に女子の悲鳴が目立っていた。中には泣きだす人もいたぐらいだ。




それだけ、荒木先生という存在が、愛されていたという証拠・・・ということか。




その荒木先生を闇にほうむったのはなにを隠そう俺だ。この手でその誰からも愛された先生を殺したんだ。いっそのこと、ここにいる全ての人間の荒木先生の記憶を消し去ればいいような気がするが(実際工藤や伊集院さんならそういうこともできそうだしな)だけど俺は、死を背負うということを知ったんだ。



自分でしたことからから逃げだす行為は、最低な奴のすることだ。それに今の場合は、一つの命だけではなく、ここいる生徒全員の気持ちを、俺が闇にほうむったんだ。いかなる事情であっても、その事実から逃げだすことは許されない。俺は決めたんだ。



自分のしたことから逃げない、ということを。



 臨時集会自体、本題はそのことだけだったから校長の話しが終わるとすぐに解散となった。その解散と同時に、多くの生徒が一斉に先生方に詰め寄った。



なぜ荒木先生が突然いなくなったのかを聞くために。



実際、昨日までは普通に授業に出ていたし、翌日いきなりいなくなりました、というのはいささか無理があるような気がする。そもそもどうやってこんな風に取り計らったのかの方が気になる。まあ工藤達の仕業というのはわかってるんだけど、先生方も普通の人間だ。この事態を警察とかに通報してもおかしくないのに、こうして一身上の都合でいなくなったということになっている。一体あいつがなにをしたのか、それも聞かなきゃいけないと思った。




 結局、先生方もほとんど、いや全く事情を知らないわけで、生徒から問いただされても答えられない状況だった。ただわかってるのは一身上の都合で、ということ。それ以外、先生方が答えることはできなかった。




<1-A教室>



「いや~すごい反響だったな」



 後ろの席の健が興奮気味に俺に話しかける。ほかの一般生徒は突然の告白に戸惑っているというのに、一人だけこうして目を輝かせているのはいささか問題があるような気がする。



「なに喜んでるのよ。こうなったのも私たちの責任でしょ」



ごもっともです玲さん。だけどたしかに、この荒木先生の突然の失踪は予想以上の反響だった。まあ男子の方はというとそれほどでもなかったが、やはり女子の人気は高く、荒木先生のファンクラブがあったぐらいだ。特にそのファンクラブの一員は、荒木先生失踪の謎を突き止めようと、必死になって探しまわってる。いやしかし、ここまでの人気を博していたとは。



さすがの俺も驚きだ。



「しかし、なんだ。ここまでみんなが浮き立つとは思わなかったな」



「そうね、私も荒木先生がこんなに人気があっただなんて知らなかったわ。で、それに関してなんだけど、どうもファンクラブの連中が辺りを嗅ぎまわってるらしいの」



「嗅ぎまわる?」



玲の言葉に思わず聞き返す。確かにあちらこちらにファンクラブのメンバーがしきりに走り回ってるのは見たけど・・・



「そう。昨日荒木先生と会話した人はもちろん、むこう一週間会話した人にまで問いただしているのよ。なにか知っているんじゃないか、あなたのせいなんじゃないのかって。さすがにここまでいくとやりすぎね」



そう言って玲は溜息をつく。確かに少し、興奮しすぎているようだ。しかし一週間の間に会話した人にまで範囲はおよんでるのか。そうなると該当者がたくさん出そうなんだけど・・・



(あ・・・)



そういえば俺も職員室に呼ばれたんだっけ。まあ俺には関係ないか。そもそも消したのは本当に俺なんだし。



「女ってのは怖いね~。ここまで一つのことに執着できるんだから」



そう言って健は笑った。だが俺は笑おうにも笑えない。俺のせいで、全く関係ない人にまで影響が及んでいる。いや別に俺のせいとか関係なしに、この騒動をなんとか収めることはできないものか・・・



ファンクラブのやっていることは確実に行き過ぎだ。



キーンコーンカーンコーン



 四時間目の終了のチャイムが鳴った。ようやく昼休み。しかしまあ授業中もみんなそっちのけで荒木先生の話題で持ちきりだったけど。さすがにここまでくると落ち着かない。



「なんか飲み物買ってくるかな・・・」



そう言って俺は立ち上がる。すると



「お、じゃあついでに俺のも頼むわ~」



そう言ってジュース代を渡される。しまった、自分から行くことを示したらこうなることはわかっていたのに。まあここまで言ってやっぱりいいやなんてのも不自然だし、それにこの教室の雰囲気からも少し離れたいところだしまあいっか。



そう言って俺は教室を飛び出した。



<二年教室前の廊下にて>



 しっかし購買まで遠いなあ。一年の教室は購買のある場所からかなり遠いところにある。購買までの道のり、やはり聞こえてくる話題は荒木先生のこと。ふう、これじゃああまり教室と変わらないなあ。



なんだかいつもより購買が遠く感じた。



 そんなこんなで、購買に向けて歩いている途中、人だかりができているのを見つかる。



腕にアルファベットでARAKIと書かれた腕章みたいなのを付けている。やれやれ、どうやらまたファンクラブの連中が該当者を問い詰めているらしい。



腕章をつけたファンクラブの連中の中に、一人だけ付けてない人がいる。どうやらあの人を問いだたしているようだ。その人を半円になるように囲んでいる。全く、あれじゃあ恐喝してるみたいじゃないか。多人数で一人を問い詰める。典型的な例だな。



誰かがやってるから私もやる、やりたくないけどやらなきゃ今度は私が危ない。そんなこんなで流れに逆らえず、一緒になって一人を問い詰める。自分のために誰かを犠牲にする。いや、むしろその人をいけにえにして自分の立場を守るというところか。



それによく見ると、どうやら多人数のほうは二年生、問いただされているのは一年生のようだ。やれやれかわいそうに。あんなに先輩方に囲まれたらさぞ怖いだろう。それでなくてもあんなに多人数で質問攻めを食らったらそのパワーで圧倒されてしまう。



廊下を通り過ぎる人たちも、それがわかっているから助けないのだろう。今、手を出せば確実に袋叩きに遭ってしまう。そんなことは、誰でも雰囲気でわかるだろう。



しかし、こうなったのにも大いに俺も関係している。この状況を、見逃すわけにはいかないか・・・?



俺は質問攻めされている人の顔を見てはっとする。



「篠宮さん!!」



そこで問いただされていたのはなんと篠宮さんだった。俺は急いでその輪の中に飛び込む。



「おいお前ら、ここでなにしてんだ!」



俺の言葉にファンクラブの連中が振り向く。廊下に不穏な空気が一気に流れる。



「一之瀬君!」



篠宮さんが俺の存在に気がつく。今まで相当困っていたのか、なかなか普段見ることのできない程の笑みをこぼす。しかし



「だれよあんた」



その集団のリーダー的ななにかが俺に話しかけてくる。



「俺は一年の一之瀬 蓮。そこにいる篠宮さんのクラスメイトだ」



一之瀬 蓮、その名前にファンクラブの奴らがざわめきだす。



「一之瀬ってあの?」 「え~まじで。てかなんでここに」 「それよりもどうすんのこれ?」



ふむ、そういう意味で名乗ったわけじゃなかったんだけど。予想外に俺の名は、相手に影響を与えるらしい。まあそういえば、荒木先生もそんなこと言ってたっけ。


そんな中、先ほどのリーダー的な人が喋りかけてくる。



「私は二年の千堂 由佳里。このファンクラブの会長であり、この学校の次期生徒会長候補よ」



そう言って千堂とかいう人は腕組をして俺に視線を向ける。なんだろうなあこの見下したような視線は。だんだん俺もみればみるほど腹が立ってきた。そもそも最後の紹介いらないだろ。


「それで、あなたはここに何しに来たの?」



「それはこっちのセリフだよ」


俺は千堂を強く睨みかえす。その視線に千堂は思わず視線をそらす。しかし自分のおかれている状況に気付き、慌てて態勢を立て直してまた俺の方に視線を戻す。


「ご覧の通り情報を集めてるの。最近荒木先生と接触した人を対象にね。ファンクラブとして、突然一身上の都合でいなくなりました、で私たちが納得するわけにはいかないでしょう。だからこうやってみんなから話を聞いているの」



「話を聞いているねえ・・・」



よく言うぜ。どう考えてもそんな雰囲気にはみえない。ただ一方的に問いただしているだけだ。それも多人数で。それを堂々と話を聞いているだけと言えるのもある意味あっぱれなのかもしれない。



「なにか文句でもあるの?」



そう言って千堂はこちらを見下すような目で見つめてくる。あ~だめだ、半端なくムカついてきた。



人を見下すこともそうだが、自分のしていることになんの疑いももたないこいつがむしろ哀れに思えてきた。だがしかし、ここで引き下がるわけにもいかないか。もう争いを避けることもできそうにない。



こうなったらもう突っ走ろう。



「まあ文句があるからここにいるんですけどね」



 ようやく一段落つけると思ったら、神様はまだまだ俺に休息を与えてはくれなさそうだ。



 



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