表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/223

第二十七話 第二ラウンド~最悪の状況、そして・・・~

 健と玲が駆けつけてくれたおかげでなんとか俺は立て直す時間ができた。



俺が勝手にキレちまったせいで作戦自体は失敗に終わったが、こうなったら真っ向勝負でやるしかない。どっちにしたってこいつをやらなきゃいけないことには変わりないんだから。




「くっ!」




 俺は立っているのがやっとだった。今の俺はアビシオンの攻撃を受けた状態だ。俺達竜族でも今は人間とほぼ同じ構造の状態になっている。血の流出による失血死の割合は人間よりも幾分かはましかもしれないが、それでも一定量以上の出血があれば俺達竜族でも苦しい。



まあ普通は結界を張ってるからそこまで出血することはないんだけど、なにせ俺はその結界が張れてないからな。もろにアビシオンの攻撃を受けてしまった。




 この結界は、俺達竜族においては基本的かつ最も重要な能力だ。その結界は、あらゆるものから自分の身を守り、そしてなおかつ自由自在にコントロールできる。たとえば自分からほかの対象に結界を移すなんてことも可能だ。その場合、自分には結界が張れていないのでその時に攻撃を受ければ俺のようにもろに攻撃を受けることになる。まあそんなことは滅多にないのだけれど。




 そしてもう一つ大きな特徴なのが、感情に左右されるということ。




結界は、今の自分の感情によってその強さが変わる。特に悲しみ、苦しみ、迷いなどマイナスな感情を抱けば抱くほどにその強さは弱まっていく。大人のドラゴンになれば感情のコントロールなどたやすいことだろうが、俺達のようなまだ未成熟なドラゴンはそう簡単にはいかない。感情をコントロールする、それも大人のドラゴンになる上での一つのファクターなのだ。




 そういう意味では、今の玲の状態は非常に危険だ。今の玲はいつもの玲ではない。まるで魂が抜けているかのようにその場に立ちつくしている。まるで今の状況に集中できていない。ゆえに魔力、そして結界も非常に弱い状態だ。今の玲は俺の状態となんら変わらない。攻撃を受ければひとたまりもないだろう。




今無事なのは健ただ一人。こちらには俺を含めて三人いるがそのまんまの戦力で戦うことはできない。どちらにせよ、この戦闘は苦しいものになりそうだ。




「さあてどうするかな。一番なってほしくなかった状況になっちまったな・・・」



健が武器を構えながら俺に話す。相変わらずの二丁銃の眼光をアビシオンに向けたままで。この状況でも、顔はいつもと変わらないように見えた。いや、詳しくいえば苦笑いをしている。この状況が最悪だってことは健が一番よく知っているはずだ。自分以外は、負傷している奴と意気消沈している奴の二人だけ。無事な状態でもやれるかどうかわからないのにこんな状況では・・・




正直、今の俺達の勝機は薄い。いやゼロに等しい。




だけどそれでもやらなければならない時がある。それが今だ。




「よし、蓮。とりあえずこいつを中庭に持ってくぞ。ここじゃ身動きが取れないからな」




「わ、わかった」




俺はふらつく体を無理やり起こして健に答える。少しぐらいならなんとか動けそうではあるが、とても戦闘をする余裕はなかった。しかしそんなことは言ってられない。健だけに負担させるわけにはいかない。俺は一度深呼吸して、態勢を整えた。




「玲もいいな!?」




「え、あ、うん」




玲は相変わらずの状態だ。健の問いかけに答えはしたがただそれだけで動きには反映されていなかった。なにを玲にそうさせているのか。俺には全くわからなかった。あの時話ができていれば・・・




俺はまたあの時のことが恨めしくなった。あの時話せてたらもしかしたら幾分ましになっていたかもしれない。



(・・・はっ!?)



俺はこんなときになにを考えているんだ。なにをどうしようが過去はかわらない。今のこの状況から現実逃避しているだけだ。俺はこの現実を受け入れる以外方法はない。俺は誓ったんだ。この二人を守ると。俺は自分の血だらけになっている胸に手を当ててもう一度気持ちを入れ直した。




「よし、いくぞ!!」




健の合図とともに俺達はアビシオンに向けて走り出した。







「何匹こようが無駄だ!!」






 俺達はアビシオンに向けて総攻撃を仕掛けたがやはり通用しない。傷一つつかない。くそっこのままじゃ中庭に場所を移しても奴に攻撃の余裕を与えるだけだ。




俺達は攻撃を仕掛けながらアビシオンを中庭に誘導したが、これじゃあ余計にあいつが戦い安くなるだけだ。なにか・・・なにか方法はないのか・・・




こうして攻撃するのがやっとの状態では策など思いついてもそれを実行する余裕なんてあるわけがない。それに奴の魔力の強さは半端ではない。またあいつの攻撃を食らえば今度こそやられる。





「さあて、お遊びはここまでだ。まずはお前らを黙らせるか」




そしてアビシオンが詠唱する。




「ここにいる愚かなドラゴン共を黙らせろ、そしてひれ伏せ!!」




「シャウトウエイブ!!!」




アビシオンから強力な波動が放たれる。




「くっ!なんだこれは!?」




俺達は突然身動きが取れなくなった。手足が全く動かない。頭は働くがその命令が体に反応しない。なんなんだこれは!?ていうかこちらの動きを封じるなんて反則だろ!




「はあっはっはっは。良い光景だねえ。さあて、だれから殺してやろうか」




アビシオンがこちらに不敵な笑みを浮かべながら一歩ずつ近づいてくる。俺達はただそれを見ていることしかできない。くそっこのままでは・・・



俺は必死にその波動に抵抗した。しかし体は動かない。いくら動かそうとしてもびくともしない。そんな俺を見てアビシオンが笑いながら俺に話しかける。




「無駄だぜ?そいつはお前らの魔力じゃ到底解除することのできない代物だ」



そう言った後、一度玲と健の二人を見てから、また話し出す。




「しかし、なんでまたお前はこんな雑魚共と一緒にいるんだ??」




その言葉に、玲がピクリと反応した。




「こんなろくに戦えない役立たずのBランクのドラゴンをなぜお前が守ろうとするんだ。自己満足か?それとも力のないことへの同情か??」




玲がまたもその言葉に反応する。しかし俺達はその言葉をただ聞くことしかできない。




だけど・・・




俺はアビシオンを睨みつけた。突き刺すような鋭い眼光で。



なにが力の無いドラゴンだ、なにがBランクだ。そんなものが何だって言うんだ。ここにいる二人は仲間だ。そして友達だ。力の大きさなんて関係ない。



そんな二人を・・・二人を侮辱するようなことは俺が許さない!!




「ふん、いくら腹を立てたところでお前にはなにもできないんだよ。そうだな、まずはこの女から殺すか」




そう言ってアビシオンは俺の隣で固まっている玲に視線を向けた。




「やめろ!お前の目的は俺だけだろ!!ほかの奴に手を出すな!!!」




俺はアビシオンに叫んだ。この二人を、玲と健を俺なんかのせいで死なすわけにはいかないんだ。




「確かにそうだな。だが、せっかく来てくれたんだ。この二人にもお礼をしないとな。それにこんな奴らが死んでもなんら影響はないだろうが」




そう言ってアビシオンは俺に言った。




「お前はそこで見てな。友達がお前の目の前で無残に死んで行くのを」




「!?」




そしてアビシオンは詠唱を始めた。




「この愚かなドラゴンを血祭りに上げろ。鮮血の剣、ブロードソード!!」




そしてアビシオンから剣が放たれた。真っ直ぐ玲目掛けて。玲はそれを見て、その光景からそらすように目をつむった。だけどそれなのに俺は動けない。目の前に玲はいるのに。手を伸ばせば届くところにいるのに。手が・・・届かない・・・




「くそっやめろーーーーーーーー!!!」




その時




俺の体が突然それまでの硬直から解放された。




ピキーン




俺は自分の剣でアビシオンが放った剣を跳ね返した。




「お前・・・今なんて言った。俺の仲間に今なんて言ったんだ?」




そして、この波動を思いっきり叩き切った。




「な!?そんなばかな!!」




辺りにはびこっていた波動が一瞬にして消え去る。




「蓮・・・君・・・?」




「玲、俺に力を貸してほしい。奴を、アビシオンを倒すために」




俺は呆然と立ち尽くす玲に話しかけた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ