第二十六話 目の前の真実~俺はお前を許さない~
「そうさ、俺はターゲット、黒獅子アビシオンさ!」
その言葉がこの渡り廊下に響いた。俺はただ呆然と血だらけになりながらも話し続ける荒木先生の姿を見ていた。確かに見た目は荒木先生の姿だ。体も顔も確かに荒木先生だ。だけど先ほどとは全く違う雰囲気をかもしだしている。人間とは思えない邪悪な気配。やはり先生はターゲットだったのか。
「どうして・・・どうして先生がターゲットなんだ・・・」
俺はわからなかった。あれだけ生徒に慕われ、そして人望の厚い荒木先生がなぜターゲットなんだ。俺は全くわからなかった。だってそうだろ、善人が突然悪人でした、なんてことをそう簡単に信じられるわけないだろ。
「どうして?俺がターゲットであることに理由なんているのか??」
荒木先生、いやアビシオンは不敵な笑みを浮かべながらこちらに話す。これは夢なんかじゃないんだ。やっぱりこれが現実なんだ。俺は剣の柄を強く握りしめた。
「いや~人間てのはバカだなあ。ちょっと優しく接してあげるだけですぐに慕ってくるんだから。俺のことなんて全然知らないってのにそれでも慕ってくる。本当に愚かな種族だよ、人間ってのは」
俺はその一言で俺の中のなにかが切れた。頭に一気に血が昇っていくのが自分でもわかった。あいつの・・・あいつの言っていることに腹が立って仕方なかった。
「お前・・・ずっとそうやってバカにしてきたのか。お前を信頼して慕ってくる人間たちを、お前を信じて接してきた人間たちを!!」
俺は許せなかった。荒木先生という存在を信頼して信じて、接してきた人間はいっぱいいた。皆純粋に荒木先生が好きだったんだ。生徒のことを一番に考える荒木先生を。それなのにこいつは、その純粋な気持ちを腹の中で笑っていたんだ。生徒の心を踏みにじっていたんだ。荒木先生という存在を利用して。
俺の剣を持つ手の力が一層強くなる。そして鋭い眼光をアビシオンに向ける。
「俺は・・・俺はお前を許さない!!」
許せない・・・こいつだけは許せない!!
「ふん、やっとやる気になったか。さあ殺し合おうぜ、ブラックドラゴンさんよ!!」
そして俺はアビシオン目掛けて飛び込んだ。
「はぁぁぁぁぁああああああ!!!」
荒木先生の姿のままのアビシオンに俺は踏み込んだ。
「ふん、そんな当てずっぽな剣技で俺に傷を付けることができるとでも思っているのか?」
そう言ってアビシオンは俺が振りかざした剣を寸でのところでかわした。いや、むしろわざと
そうした。つまりあいつは俺の剣を避ける事なんて余裕だった。避ける際、あいつは笑みを浮かべていた。くそっどこまでも俺を馬鹿にしやがる!!
俺は足を踏ん張った。廊下に引っ掻いたような俺の踏ん張った跡がくっきりと残った。
「バカにすんじゃねぇ!!!」
そして俺はもう一度踏み込んだ。もう俺の目にはアビシオンの存在しか映っていない。
しかしその時アビシオンは俺に向かって叫んだ。
「やめてくれ、頼む殺さないでくれ一之瀬!!」
「!?」
俺の体はその言葉に反応して急ストップをかけた。廊下にキュキィと靴の擦れる音が響く。
「ふん、隙だらけだぜブラックドラゴンさん。この愚かなドラゴンを血祭りにあげろ、鮮血の剣、ブロードソード!!」
アビシオンから一本の剣が放たれる。だが俺は態勢が完全に崩れている。動こうにもそれを許す時間がない。
そして
「ぐはっ!?」
その剣は俺の体を突き刺した。俺はその衝撃で廊下の壁に叩きつけられる。衝撃と共に割れた窓のガラスの破片が俺に降り注ぐ。
そして俺は膝まづいた。壁に俺の血がべっとりとこびりつく。
「はっはっはっは。いやあ~愉快だなあ。お前は人間を殺せない。たとえ俺がターゲットだとわかっていてもな。こんな滑稽なことがほかにあるか?さすが楽しませてくれるねえ~ブラックドラゴンさんよ」
そう言ってアビシオンは高笑いする。その笑い声が学校内に響き渡った。
「全く、なぜお前はそうまでして人間を守るんだ?過去の償いか、それとも自己満足か??」
「過去の償いだと・・・?」
俺は息を絶え絶えにしながらアビシオンに向かって喋った。そして俺は力を振り絞り立ち上がった。体にはまだ剣が突き刺さったままで。体はもう血まみれだ。ポタリポタリと地面に血が滴り落ちる。だけど俺は立ち上がった。こんなところで俺は・・・俺は終わるわけにはいかないんだ・・・
俺はもう一度自分の剣を持った。そしてフラフラな状態になりながらも剣を構えた。
「ほう、なかなか根性あるねえ。だけど結果はかわらないぜ。どっちにしたってお前は俺に勝てない。お前はここで死ぬ、それがお前の天命なんだよ!!」
そしてまたアビシオンが詠唱を始めようとする。しかしその時
「そこまでだ!!」
突然声がした。この声は・・・
その瞬間、窓を突き破って健と玲が現れた。
「荒木先生、やはりあなたはターゲットだったんですね!」
そう言って健は武器を構える。いつものように銀色に輝く二丁銃。しかし玲はただ呆然とそこに立ちつくしているだけだった。まるで魂が抜けているかのように。
「おい、なにしてんだ玲!!」
「あ・・・」
健の一言に玲は我に返る。
そして武器を構える。しかしそれでもいつもの玲とは違っていた。まるで覇気が感じられない。ただそこに武器を持って立っているだけだ。
「たくっ。ターゲットとわかったんならさっさと合図しろよ!おかげで物凄く遅れちまったじゃねえかよ。作戦が台無しだぜ」
「わ、わるい・・・」
本来ならなにかあればすぐに草陰に隠れている二人に合図を送ってすぐに応戦する予定だったんだけど、俺は頭に血が昇っちまってそのことを忘れていた。さっきの俺とアビシオンの戦闘の音に気付いてここに駆けつけたのだろう。結局俺が作戦を無駄にしてしまった。
「まあいい。今はそのことをあーだこーだいってる暇はない。お前も苦しいだろうがやるぞ。とにかくこいつを俺達が倒す。それが今の俺達の使命だ!」
「ああ・・・わかってる」
そして俺は自分の剣を血で汚れた手で強く握り直した。