第二十五話 作戦開始~人殺し?それともターゲット殺し?
・・・最悪だ。
こんなもやもやした気持ちでこの決死の作戦に出ないといけないなんて。
全くあれもこれも全部あいつのせいだ。なんであんなタイミングで来るんだよ。絶対わざとだろあれは。
俺はようやく玲と話せたところで、工藤が帰ってきて結局なにもわからなかったことに腹が立っていた。あ~なんで俺、あんなことにむきになってたんだろ・・・
途端に自分が悲しくなる。
(と、今はそんなことを考えている暇はないな)
俺はそう言って一度深呼吸する。
これから始まる作戦、通称必殺電撃作戦R(まあこれも健が考えたんだけど、最後のRについてはご想像におまかせします・・・)
まあいってみれば俺がターゲットに先に仕掛ける、といういたってシンプルな作戦。
しかしそれはつまり、まだターゲットに変身していない人の姿の荒木先生に攻撃するわけで。仕掛けるといっても容易なものではなかった。
だってもし、荒木先生がターゲットじゃなかったら・・・
俺はただの人殺しだ。なんの罪もない人間の命を奪ったことになる。それが俺は恐ろしかった。まだ荒木先生がターゲットであるという確証はないのに、俺は刃を向けなければならない。つまりこの作戦における俺の責任は果てしなく重い。もしターゲットじゃなかったら俺は人殺し、ターゲットだったら俺はそいつを殺してみんなを守らなければならない。
どっちにしたって、俺は誰かの命を奪わなければならない。
全く、なぜこんなめんどくさいことになるんだろ。俺は誰の命も奪いたくない。どうしてそんな簡単な願いが通じないのだろう。俺が欲しいのは普通な生活。それ以上もそれ以下も望んでいない。これが神様が決めた俺の宿命というのなら、俺はその宿命とやらを呪ってやる。
いつか必ず、この宿命という名のシナリオをぶち壊してやる。
そのためにも、今はこの作戦に集中しなければならない。俺はこの作戦で命を落とすわけにはいかない。俺が倒れれば健や玲にも被害が出るかもしれない。
今回の作戦は俺がメインなのだが、サポートとして健と玲も一緒に戦う。アビシオンがどれほど強いのかは、前回の戦いで充分すぎるほどにわかった。健と玲、二人の全力を合しても、アビシオンに傷一つ付けることができなかった。つまり今アビシオンに対抗できるのは俺一人。いや、正確にいえばもう一人の俺か。
今の俺ではターゲットに全く歯が立たない。第一今の俺はこの二人にも全然敵わないんだから。俺がしくじれば俺だけではなく二人も命の危機にさらされる。それだけは回避したかった。
相変わらず玲の様子はおかしいし、もしかしたら普段の力がだせないかもしれない。こんな状態の玲を、俺と一緒に危険な場所に連れて行きたくなかったのだけれど、工藤がそれを許さなかった。
「だめですよ。そんな甘やかすようなことをしちゃ。彼女はこれから幾度も戦うことになるんですから。このぐらいで鬱になるようでは困ります」
くそっ。なにが甘やかすことだ。誰も進んで命を奪いたいやつなんているもんか。誰だってこんなことしたくないさ。だけど俺達がしなければ無力な人間が殺される。それはわかってる。だけどそうすると、俺達に休息が与えられることはないっていうのか。俺達には心を休める時間を与えてくれないのか。どうなんだよ答えろよ神様!
俺は心の中で叫んだ。こんな理不尽なことで、この二人の命を、人生を奪われてたまるか。
(俺はこの二人を、俺の命に代えてでも守る。それが今の俺の使命だ)
そう俺は心に誓った。そして時計の針が、作戦開始の時刻を示す。
<午後21時30分 作戦開始>
廊下から足音が聞こえてくる。今の時刻で廊下を歩いてくるのは見回りの先生、つまり荒木先生だ。
俺達は中庭の草陰に隠れている。戦闘をするならなるべく広いところ、そしてなおかつ荒木先生に先制攻撃ができるところ。つまりここ、中庭だ。
見回りの先生は文化部の集まる棟にも見回りにいく。そのためにはここの渡り廊下を通る以外方法はない。そこを通る時に、俺達は攻撃を仕掛ける。
しかし戦闘をするのはなんで俺達だけなんだろうか。俺達なんかより力のある工藤と伊集院さんは別にやることがあるとかなんとかでどこかにいってしまった。伊集院さんはともかく、相変わらず工藤は勝手な奴だ。
とにかく俺達だけでアビシオンを倒さなければならない。そう考えると、俺は少し身震いした。
そして、廊下に響く足音が近づいてくる。先生の持つ懐中電灯の光がうすらうすらと見えてくる。
「いいか、蓮が攻撃したらすぐに俺達も応戦する。とにかく相手に立て直す時間を与えないことが重要だ。とにかくスピード重視だ」
健が小さい声で俺達に話す。
「ってなんでお前がしきってんだよ」
「いいじゃねえか、この作戦の名前の考案者なんだし」
考案者って。そりゃ名前はそうかもしれないが作戦自体の考案者は工藤じゃねえか。まあいいや、今はそんなことを気にしている暇はない。今はとにかく先制攻撃のことだけに集中しなければ。
そして俺は一度大きく深呼吸した。足音が近づくたびに俺の胸の鼓動も大きくなってくる。いかん、かなり緊張してる。まあ今から死と隣り合わせの戦闘になるんだから無理もないか。だけど落ち着かないと。
俺はもう一度大きく深呼吸した。新鮮な空気が俺の肺に充満されていく。心臓の鼓動は相変わらずだが少し気分は落ち着いてきた。
「よし、そろそろだぞ。準備しろ蓮」
「わかった」
「リファイメント」
俺は自分の武器を精製した。前から使ってるけど、今日の剣はなにかいつもより重く感じた。これでまた、誰かの命を奪わなきゃいけないんだ。そう思うと少し、この剣が恐ろしくなった。
そして荒木先生の姿が見えた。
「今だ、蓮!いけっ!!」
俺は草陰から飛び出して荒木先生に向かって走った。
どんどん荒木先生が近づいてくる。まだこちらの様子には気付いていない。
(くそ!人間の姿の状態の先生を切りつけなきゃいけないなんて)
いくらターゲットだったとしても、それが人の姿であることには変わりない。それも生徒みんなから慕われている先生を。俺なんかのことも気にかけてくれる先生を。
俺の中で色々な感情がうずめく。だけど俺はやらなきゃいけないんだ。それが今の俺の使命なんだ!!
「くそったれがーーーーーー!!」
俺は渡り廊下の窓を突き破って荒木先生目掛けて飛び込んだ。
「・・・!!一之瀬!?」
荒木先生もそれに気付いたがその前に俺が先生に向かって剣を突き刺した。
「がは!?」
あたりに鮮やかな赤色の血が飛び散る。渡り廊下の窓や地面にもその血が飛び散った。
「一之瀬、なんで先生を・・・」
荒木先生が息を絶え絶えにしながら俺に話しかける。
「そんな・・・やっぱり先生はターゲットなんかじゃなくて普通の人間・・・」
「まさか、お前が・・・」
そして先生はガクッと、俺に体を預けてきた。先生の血が俺の制服を汚していく。
「そんな・・・俺はなんてことをしてしまったんだ・・・」
やっぱり荒木先生はターゲットなんかじゃなかったんだ。普通の人間だったんだ。それなのに俺は・・・俺は人を殺した・・・。自分の学校の教師を俺が殺した・・・俺は人殺しだ。ただの人殺しになっちまったんだ・・・
「俺は・・・俺は!!」
俺が剣から手を離そうとしたとき
「どうだ?人を殺す気分は」
突然俺が刺したはずの荒木先生が声を上げる。
「全く、なにもしなけりゃずっと普通に暮らしていけたのに。もったいないな~」
「荒木・・・先生・・・?」
俺はおもわず先生から剣を引き抜き後ろに下がった。そして急激にこの地一帯に魔力がうずめく。
この魔力は・・・あの時と同じ・・・
「やっぱりあなたは・・・あなたはアビシオンなのか!!」
俺は血だらけになりながらも俺に話し続ける荒木先生に向かって叫んだ。そして荒木先生はその体を起こして俺に向かって叫んだ。
「そうさ・・・俺はターゲットの一人。黒獅子アビシオンさ!!」