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第二十三話 また明日~日常、そして非日常~

 俺達はいつもの日常に戻った。



授業を受け、休み時間に適当にしゃべり、そして次の授業。そうしてただその日常に流されるということを繰り返していた。日常というのは楽だ。ただその身を日常という時の流れに乗せているだけで、勝手に時間は過ぎてくれる。本来の高校生とはこういうものなんだろうか。同じ教科、同じ時間割、同じ先生。一週間、一ヶ月、一年と同じことを繰り返す。時々入る学校行事に心弾ませて、そしてそれが終わった後の過ぎ去った楽しさに切なさを覚えて。そしてまた、日常に戻っていく。




それが普通なんだ。みんな知らず知らずの内に、日常という名のパラレルワールドに入り込んでいくんだ。




俺はそんな日常に憧れているのかもしれない。普通の高校生、普通の人間、普通の生活。そんなことに、俺は憧れを抱いているのかもしれない。




 

 だけどそんな俺を、運命は許してくれない。




俺は強引に、そして勝手に非日常へといざなわれていく。




普通の奴が憧れる非日常。こんな日常なんか抜け出したい、誰もがそれを望んでいる。




だけど俺はその非日常が手に入ってしまう。欲しいと思ったことは一度もないのに。勝手に俺の手の中にある。それが運命という奴なら、俺はそれに抗うことはできないのだろうか。




 非日常、それはそんなにいいものではない。みんなが望む非日常というのは、おそらく自分にプラスになるものだろう。なにか自分に刺激がほしい、なにか楽しい日々を送りたい。そんな欲望が非日常に対する憧れを抱くのだろう。




俺もそんな非日常ならぜひとも欲しいものだ。だけど現実はそうではない。俺のいる非日常はターゲットとの戦いという名の殺し合い。楽しいとか嬉しいとか、そんな感情が生まれることは決してない。ただただ時の流れに翻弄されているだけだ。





日常、それは俺には決して得ることのできないものだ。





「どうしたの、一之瀬君。ぼーとして」




 隣の席の篠宮さんが話しかけてくる。手には教科書、そして机にはかばん。どうやら帰り支度をしているところのようだ。




て、あれ?もう今日の授業は終わったのか。ずっとこれから始まるだろう、ターゲットとの戦いのことを考えていたら時が進んでいることに気付かなかった。俺の手元にあるのは、なにも書かれずにひっそりと置いてあるノートとペン。結局授業はなにも聞いていなかった。悲しげにたたずむ白いページが開かれたままのノートが、それを物語っていた。




「いや、別になんでもないんだけど・・・」



俺は笑顔を見せながら篠宮さんに答える。しかし自分でもわかるほどのひきつった笑顔になってしまった。篠宮さんもそれに気付いたのか、また俺に問いかけてくる。




「本当に大丈夫?今日は後ろの二人も静かだったし、もしかしてなにかあったの??」



そういって篠宮さんは後ろの席に視線を向ける。本来いるはずの玲と健の席。しかしもうそこには誰もいなかった。そういえば今日はあまりあの二人と喋っていない気がする。




 

 健はいいとして、玲のことが気にかかる。




あのアビシオンとの戦い以来、ほとんど玲と口を聞いていない。まあなんか最初っから玲からダークなオーラが放たれていたし、無理やり話すこともなかったしな。健の様子はいつもと変わらない感じがしたが玲の様子はいつもとは違っていた。やっぱり俺が寝ていた間になにかあったのだろうか?



「あ、そうだ。このプリント玲に届けてくれる?確か部活一緒だったよね?」




そう言って篠宮さんが俺に一枚のプリントを渡す。




「これは?」




篠宮さんに聞き返す。




「進学希望調査。さっき配られたんだけど玲、忘れて行っちゃったみたいで。提出は明日だから届けてあげてくれる?」




進学希望調査。気付けば俺の机にもそう書かれたプリントが置かれていた。この学校は進学校だからほとんどみんな大学へ進学する。入学してまだ一ヶ月くらいなのにもうこんな調査が来るのか。



ふと、俺はあることに気付く。



(そう言えば俺、この学校を卒業したらどうなるんだろ)



もともとターゲットから一般生徒を守るという使命からここにいるわけで。別にその後の進路のことを考えてここにきたわけじゃない。




遠い俺の未来、その時俺はなにをしているのだろうか。




俺は窓の外の景色を眺めた。相変わらず雨は降り続いている。空もどんよりと曇っている。まるで今の俺の心境を写し取っているかのように。




「一之瀬くん?」



篠宮さんの言葉に俺は我に返る。




「ああ、ゴメンゴメン。じゃあこのプリントは俺が届けておくから」




「うん、お願いね。それじゃまた明日」




「また明日・・・」




そして篠宮さんは教室を出て行った。




「明日、か・・・。明日が来ればいいけどな・・・」




俺は教室を出ていく篠宮さんの背中を見つめながら、ぼそっとそう呟いた。






ガチャリ




 俺は部室のドアを開ける。




「よう蓮、遅かったな」




健が真っ先に声をかけてくる。




「・・・・・・」




伊集院さんはともかく、相変わらず玲は無言だった。むしろ俺のドアを開ける音に反応していたような。




「おい、玲」




健が玲に声をかける。それで我に返ったのか、あわてて玲が俺に話しかける。




「あ、ああ、蓮君おはよう・・・」




「え、あ、おはよう・・・」




一瞬にしてこの部屋の空気が気まずくなった。そもそもなんでおはよう??もちろん今はそんな時間ではない。やっぱり今の玲はどう考えても普通じゃなかった。




「逃げないで来たんですね」




工藤が俺に話しかけてくる。しかも最初っから挑発してくるような感じで。



「なんで俺が逃げなきゃいけないんだ?」



そう言って俺は荷物を置いてイスに座る。その音が部屋に響き渡る。



「いえ、正直この作戦、一番危険なのはあなたですから。ゆえに一番死に近いのもあなた。ですので別に逃げたって私たちはどうも思いませんでしたけどね。その反応が普通ですから」



そう言って工藤もイスに座る。




「そりゃあできれば俺だってやりたくないけどな、こんな作戦。だけど逃げたってなにか変わるわけでもないしな」




俺はそう言って机に置いてあるやかんのお茶をコップに注ぐ。




「そうですか、それはよかったです。この作戦の主役が来なかったら作戦自体が成り立ちませんしね。嬉しいかぎりです」




「作戦、ねえ・・・」




俺はコップに注いだお茶を一気に飲み干す。作戦っていったって、俺一人がターゲットにアタックする玉砕、じゃなくて囮作戦じゃねえか。あいつらだってターゲットと戦う力は充分にあるだろうに。




そしてまた、あの時の言葉が俺の頭によぎる。




「私ももう一度、あなたの力が見たいんですよ」




な~にがもう一度見たいだ。そんな理由でなんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ。




そして飲み終えたコップを机に置く。



(その力が自分でわからないから怖いんじゃねえか)



ウィスパーを倒した時の力。もう一人の自分の力。それが一体どんなものであるか、俺にはわからない。だけどその力は、間違いなく誰かを恐怖に落としいれる力だろう。




だって俺の力は、死しか生み出せないんだから・・・




「それでは、またこの教室で待機していてください。自分はまた、少し用事がありますので、また後ほどこの教室で」





そう言って工藤は前の時と同じように、一人だけ教室から出て行った。




「全くまた言った本人がいなくなるのかよ」




健が愚痴をこぼす。



「夜になるのを待ちましょう・・・」




弱々しい玲の声。俺はその声を聞いて思った。




(今この時が、玲に事情を聞くチャンスかもしれない)






 またこの部室で夜を待つ時間がやってくる。しかし前とは違って今回は、この後自分がターゲットと戦うことがわかっているからか。前と同じようにこの時を、普通に過ごすことはできなかった。








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