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第二十二話 Operations~突然のご指名~

「荒木先生がアビシオンであることが判明しました」




その工藤の一言に、この部屋の空気が一気に張りつめた。辺りがシーンと静まる。窓の外で降り続いている雨の音が一層鮮明に聞こえてくる。



「どういうことだ?」



俺はその沈黙の中、工藤に尋ねる。大体話が急すぎてなにがなんだかわからない。今この状況からいきなりの急展開。しかもそれは荒木先生がアビシオンであるという真実。それは一体・・・




「前回、あなた方はアビシオンと戦いましたよね?」




工藤が俺に尋ねる。




「まあそうだけど・・・」




突然なにを言い出すんだ?確かに俺達はアビシオンと戦った。それは事実なのだが、突然そんな質問されてもなにがなんだがわからない。俺はとりあえずそう答えるしかなかった。




「その戦闘の前に、ちょっとした細工をさしてもらいましてね」




「細工?」




俺は工藤に聞き返す。




「あの日、残業をしていた先生方は全部で5人。その中に荒木先生もいました。そして荒木先生はあの日、学校内の見回りの当番だった。そこで彼が見回りに職員室に出た後、ほかの先生方に学校外に出てもらったんです。もちろん見張りも付けてね。そして、その後アビシオンが現れた」




「それってつまり・・・」



俺は唾をゴクリと飲み込む。心臓の鼓動が大きくなっていくのがわかる。そして工藤が話しだす。




「ええ、あの時、学校内にいたのは私たち以外でただ一人。もうわかりますよね?」




そういって工藤は机に置いてあるペンを手に持って回しだす。俺はその問いかけに一瞬身震いしたが、一度空気を大きく吸い、それを吐き出してからその問いに答える。




「あの時、俺達以外で学校内にいたのは荒木先生ただ一人・・・つまりアビシオンの正体は荒木先生ということ・・・」




「そのとうりです」



その瞬間、この部屋の時が止まったように静まり返る。




そんな・・・そんなことがありえるのか?大体どうやってほかの先生方を外に出したんだ。それにその後、その中の先生方の誰かがその見張り役の目をかいくぐって変身したのかもしれないし。俺はあの荒木先生がターゲットであることが信じられなかった。こんな風に、言い訳じみたことばかり考えた。



「でもそれだけじゃ荒木先生がアビシオンであるとは断定できないんじゃないか?それにその見張り役が見逃したってこともあるし」



俺はどうしても信じられなかった。だってあの荒木先生がターゲットだなんてそう簡単に信じられるものではない。はい、そうですかだなんて絶対に言えないだろ普通。




「見張り役をしたのは伊集院さんですよ?それでも疑うのですか??」




そう言って伊集院さんに視線を向ける。伊集院さんは相変わらず無表情のままだけど・・・




「そう・・・か・・・」




伊集院さんがなにかの動きを見逃すわけがない。たとえほんの僅かの不審な動きでも見逃さないだろう。それは今までずっと一緒に過ごしてきてわかっていることだ。疑う余地なんてどこにもない。それに伊集院さんを疑うことなんて絶対にできない。




「これでわかってもらえましたか?」




工藤はそう言って立ち上がる。そして俺に視線を向ける。




「ああ、わかった・・・」




俺は視線を下に落とす。荒木先生がアビシオンであることに対する反論はもうどこにもなかった。探したくても見つからない。俺にはその事実に向き合うこと以外、選択肢はなかった。




「では、ここで作戦会議といきます」




そう言って工藤はみんなに視線を向ける。




「作戦会議?」




俺はおもわず聞き返してしまう。大体今まで作戦会議なることはしたことがなかった。いつもはただターゲットを捜索するだけで、見つけたらみんなに知らせ、そして戦う。今まではそうしてターゲットに対して接してきた。




「ええ、相手は相当な力の持ち主です。こちらも作戦ぐらい立てないとやってられませんからね」





「それで、作戦はもう考えてあるんだろ?」



健が工藤に問いかける。それを聞いた工藤はにやりと微笑み、そしてその質問を待ってましたといわんばかりに話し始める。




「ええ、もう考えてありますよ。前回は、こちらがターゲットの出方を見ていましたが、今回はこちらから仕掛けます」




「仕掛ける?」




俺は工藤に聞き返す。




「はい。前回の戦闘で、色々とわかったことがありました。ターゲットがどのような奴であるかはもちろんですが、その中でも一番の情報が、アビシオンの目的についてです」




そう言って工藤はこちらに視線を向ける。俺は突然こちらに視線を向けられびくっとなるが、すぐに工藤にそのことについて尋ねる。



「目的って?」




「あいつの狙いはあなたである、ということですよ」




俺はその言葉を聞いた瞬間、目を丸くした。そして思わず自分の耳を疑った。今工藤はなんていった?ターゲットの目的が俺だっていわなかったか??またしてもの急展開に俺は付いていけない。




「なんで・・・そうなるんだ??」




俺は工藤に尋ねる。だっておかしいだろ。なんでターゲットが俺を狙うんだ?そもそもなんでそんなことがわかるんだ?




「前回のウィスパーとの戦いでのあなたの覚醒。その情報はどうやらあちらにも伝わっているようです。絶大な力を誇るブラックドラゴン。その闇の力でウィスパーを圧倒した、という情報がね。そしてアビシオンにもその情報が入った。彼にとっては好都合な状況でね」




「彼はおそらくあなたのその絶大な力をその身で体感したいんでしょう。その自らの欲望のために、こうしてこちらに仕掛けてきた。まあそう考えるほうが自然でしょう」




そう言って工藤はまたイスに座る。そして俺の顔色をうかがいながら話を続ける。



「そこで、今回はあなたにターゲットの処理をお任せしたいと思います」





「はあ!?」




俺は思わず叫んでしまった。一体どうやったらこの話の流れからそうなるんだ??俺がターゲットに狙われているとわかっているのにわざわざ俺がそいつに出向いてどうするんだ。それじゃあどうぞやってくださいと言っているようなものじゃないか。




「あのアビシオンとかいう奴はあなたと戦いたい、ならば戦わしてあげればいいじゃないですか。ですが今回はあなたが先に仕掛けてください。その後はあなたにお任せします」




俺が唖然としている中でも工藤は淡々と話す。俺はついついその流れに乗りそうになる。




「だけど、俺は・・・」



そう言いかけた時、工藤が突然目つきを変えて話し出す。




「私ももう一度見たいんですよ。あなたの力を」




その一言に、俺は何も言えなくなった。別にいくらでも反論することはできただろうが、なぜかその時はなにも反論できなかった。俺にも全くわからない。なにかその一言に、反論することを許さないなにかがあった。




「では、そういうことで。また夜にこの部室で会いましょう」



そう言って工藤は呆然と立ち尽くしている俺をよそ目にこの部屋を出る。そしてそれに続いてみんなも外に出ていく。



「まあそんなに落ち込むな。俺達も全力でバックアップするからよ」



健は俺の肩をぽんと叩いて外に出て行った。




俺は突然の展開にただただ一人立ちつくしていた。





<その後廊下にて・・・>




「で、なにが目的なんだ」




「突然どうしたのですか、相川さん」



健は工藤に尋ねる。いつもは見せない真剣な眼差しで。




「突然どうした?じゃないだろ。なにを企んでいる」




「なにも企んでいませんよ。ただ彼の力が見たいだけです」



そう言った後、工藤は眉を少し歪ませてから言葉を付け加える。




「まあ、前回の戦いではなぜ覚醒しなかったのか、ということにも興味はありますがね」




「もし蓮が次の戦闘でも覚醒できなかったらどうするんだ?」




「その時は我々が対処すればいいだけですよ」




そう言って工藤はスタスタと歩いて行った。




「この作戦になにが隠されている。そしてなんのからくりがあるんだ。俺はそれを捜しだす必要があるようだな」




そう言って健も廊下を歩きだした。




シトシトと降りしきる雨の中、色々な思惑が複雑に交錯する夜が、また訪れようとしている。







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