第十九話 虚空の果てに~天使との出会い~
俺は一体どこにいるんだろう。
そこは暗く、そして冷たい場所。俺は一人ぼっちでその空間の中にいた。
「俺、やっぱ死んだのかな」
あの時俺はターゲットの攻撃をもろに食らった。俺はその時結界を張れていなかった。つまり普通の人間と変わらない状態だった。その状態であんな攻撃を食らえば、そりゃあ誰でも死ぬだろうな。
そうするとここは死後の世界なんだろうか。
この空間には何も無い。まさに虚無の世界といったところだ。ただ真っ暗で、そして悲しくて。でもどことなく落ち着くこの空間。一体ここはどこなんだろうか。
「玲達、大丈夫だったかな・・・」
俺は自分のことよりも玲や健たちの心配をしていた。あの時、俺が倒れた後なにかの光が走ったような気がしたんだけど。
どちらにせよ、死ぬのは俺一人で充分だ。あいつらには俺と違ってやるべきことがある。それは竜族としてだけではない。希望、喜び、歓喜・・・あいつらは、俺とは違って陽の下に生きる者だ。
そして俺はどうだ。
俺があの世界に生きていたのはただ自分の過去が知りたかった、ただ自分の心に欠けているなにかを埋めたかっただけ。つまりは自己満足だ。
俺に付きまとうのは絶望、恐怖、そして死・・・俺がいても誰も幸せにならない。だったらこのまま、死んでしまった方がいいんじゃないだろうか?そもそも俺が存在していることに意味はあるのだろうか。
俺の力では、何も幸せを生み出せない。ただ誰かに絶望と死を与えるだけ。それ以上もそれ以下もない。
このまま暗闇の底に沈んでも・・・いいのかな・・・
そう思った瞬間
「あなたは本当に、自分の過去だけが知りたかったの?」
突然声がした。今まで聞いたことのない声。それは優しく、そして俺を包み込むような声だった。
「誰・・・だ?」
俺は誰もいないはずのこの空間で叫んだ。そしてその声は、この暗い空間に溶け込み消えていった。やっぱり勘違いだったのだろうか。
「ハハッ、ここにきてまだ俺はなにか未練があるのかな・・・」
そう自分に問いかけるように呟いて微笑する。未練たってただ自分の過去がわからぬまま死んでしまうってことぐらいか。でもそれだって、もうどうでもいいような気がした。今さらそんな過去を知ったところでなんになるっていうんだろう。ただ、自分の中の自己満足に浸るだけだ。
そう思っていた時
「あなたは本当にこのまま誰もいない一人ぼっちの暗闇の底へ落ちて行くの?」
また声が聞こえた。さっきと同じ声。そして優しい声。
「また・・・やっぱり誰かいるのか?」
俺は辺りを見渡す。だけどそこにはただ暗い空間がただ広がっているだけ。誰かいるどころか俺という存在以外なにもない。だけど、たしかに今声がした。さっきと同じ声が・・・
「誰かいるのなら・・・俺に姿を見せてくれ!!」
俺は力一杯叫んだ。しかしさきほどと同じようにただ俺の声がこだまするだけだった。
「やっぱり俺の幻聴なのか・・・」
俺がそう思った瞬間
「私はここにいるよ」
「え?」
俺がその声がした方を振り返ると
「こんにちわ。一之瀬 連君」
そこには大きな大きな白い羽が生えた少女がいた。その姿はまるで
「天使・・・」
この漆黒の空間に一人輝くその姿に、俺はおもわずそう呟いてしまう。いやでも・・・
その少女の姿はとても眩しくて、そして優しくて・・・そして美しかった。それはまさに天使のようだった。
「うふっ。そうね、今は天使といったところかしらね」
そういって少女は微笑む。俺はその光景にただ呆然としていた。
そして少女はそんな俺を見て、くすっと笑ってから話しだす。
「どうしてあなたはこんなところで一人ぼっちで立っているの?」
少女が俺に問いかける。
「どうしてっていわれても・・・」
俺はそう答えるしかなかった。ただでさえこの空間がなんなのかわからないのにどうしてって聞かれても全く答えが浮かばない。
「じゃあ、どうしてあなたは生きていたの?」
少女がまた俺に尋ねる。
「それは・・・俺の、自分の過去が知りたかったから・・・」
「本当にそれだけ?」
俺が答えてすぐに少女は聞き返す。
「それだけっていわれても・・・」
俺は今まで生きてきたのは自分の過去が知りたかったから。それだけのために生きていると思っていた。実際そのために人間界に来たんだから。それ以外で自分が存在している意味なんて無いと思っていた。
だけど・・・
今少女に聞き返された時、俺の中のなにかが反応したような気がした。まるで水面に水滴が落ちて、波紋が広がっていくように。
「あなたはこんな所にいてはいけない。あなたはまだ生きなければならない。そして見つけなければならない」
「・・・見つけるってなにを?」
「あなたの・・・本当のあなた自身を」
「本当の・・・俺自身・・・」
少女の言葉が俺の中に響き渡る。本当の俺自身、その言葉が俺の心に重くのしかかる。
「本当の俺自身って・・・?」
俺は少女に問いかける。
「それはこれから続く道を歩きながら考えなさい。それがあなたの使命でありあなたが生きる目的なのだから・・・」
「生きる・・・目的・・・」
今まで俺はなにも考えずに生きてきた。ただ襲ってくるターゲットに対して戦ってきただけ。それがなんになるのかは全くわからなかった。だからあの時ウィスパーになぜ戦うのかを聞かれた時、俺は答えることができなかったのだろう。俺は今まで戦うことに意味なんてないと思っていたから・・・
だけど・・・俺が存在していると、みんなを傷つけるんじゃないだろうか。そしてみんなを不幸にするんじゃないんだろうか。俺はみんなを傷つけたくない。だから・・・だから・・・!
「俺は・・・存在してはいけないものなんじゃないですか?」
俺は彼女に聞いてみた。このまま生きていたってみんなを不幸にするなら死んだ方がいいんじゃないだろうか。
「死んでもいい、そんな存在なんて、一つもこの世には存在しないのよ・・・」
「え・・・」
彼女の言葉がこの空間に響き渡った。まるでこの空間を打ちのめすかのような透き通った言葉。どこまでも伸びていくような言葉。俺の中でその言葉が何度も繰り返される。そして心の中に染みわたっていく。
「さあ、もう時間よ。あなたを待っている仲間の元へ戻りなさい」
そういって少女は天高く手を突き上げる。
「この者に再び命を与え、そして魂を陽の光の元へと導いて・・・」
「Angel return・・・」
彼女がそう言ったその瞬間
シュビューン
天空に一筋の光が伸びた。
そしてその光はこの暗闇を切り裂き、青空がこの空間に広がった。
やがてこの空間に光が差し込んだ。そしてその光は俺の元へと伸びてきた。
「さあ、行きなさい。あなたがいた、希望にあふれる陽の下のもとへと・・・」
そして俺の体が光に包まれる。そして天に伸びるその光と共に俺は導かれる。
「待ってくれ、あなたの・・・あなたの名前を教えてくれ!!」
俺は光となって天に昇っていく中で彼女に叫んだ。天使の・・・彼女の名前が知りたかった。
「大丈夫。あなたと私はきっとまた会えるから・・・」
「私の名前はその時に・・・だからそれまで・・・お・あ・ず・け!」
「おあずけってそんな・・・」
そう言った瞬間、俺は完全に光となってその青空の先へと伸びる光と共に消えていった・・・
「私は待ってるから・・・あなたが本当の自分を見つけて、そしてまた私に会う日が来ることを・・・」
「だからその時が来るまで・・・私はいつまでもあなたを見守っているから・・・」
「さようなら・・・フェンリル・・・」