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第十八話 黒獅子アビシオン~焦り、そして犠牲~

 今俺の目の前にいるのは大きな大きな漆黒の体、そして蒼い瞳の獅子がいる。しかも強大な魔力も感じる。これはまさか・・・



「やあ、初めまして。俺の名は黒獅子アビシオン。お前らの言うターゲットの一人だ」



黒獅子アビシオン、目の前にいる獅子はそう名乗った。



「しっかしあのブラックドラゴンが生きているとはなあ。しかも今は人間を守っているなんて」



アビシオンは俺に挑発するように話しだす。俺がブラックドラゴンだということをこいつは知っている。しかも俺が知らないことをあいつは知っているようだ。おそらくそれは俺が失った過去、そして時間。それがどんなものなのかは俺には全くわからない。



「その様子だとやっぱりなにも教えられてないようだな。全くどんだけお坊ちゃまなんだ」



そういって、アビシオンは微笑する。俺はこいつがなにをいってるのかがわからない。だがこいつは俺の過去を知っている。確かに俺はそれが知りたい。そのためにこの人間界に来た。だけど今はそれどころじゃない。今俺の目の前にいるのは前回戦ったウィスパーとは比べ物にならないくらいに魔力が強い。今は目の前の敵に集中しなければ。でなければこちらがやられる。



「ふむ、噂どうり覚醒する前は本当に普通の人間と変わらないほどに力がないな。今ここでこいつを殺してもなにもおもしろくない。そうすると・・・お、丁度いいところにおあつらえ向けのやつらが」



アビシオンはぶつぶつと独り言を言っているが、その後一度は~と息を吐きだすと



「ウオオォォォーーーーーーン!!」



突然天高く声を上げた。なんだ、なにをしようってんだ。



「なんだ!?この鳴き声は??」




「今のはあっちの方から・・・蓮君!!」



 一緒に前庭を捜していた玲と健がその声に気付きこちらに走ってくる。こいつ、一体何を。わざわざ敵を増やすなんてあきらかにおかしい。絶対なにか企んでいる。だけどこいつの狙いは一体なんなんだ。俺は必死に考えたが答えがでてこない。だがなにか危険な予感がする。俺は胸の中に少しずつ嫌な予感が忍び寄ってくるのを感じていた。




「大丈夫か蓮」




「ターゲットを見つけたのなら早く呼びなさいよ」




二人は駆けつけてすぐにターゲットであるアビシオンを確認すると



「リファイメント!!」



すぐさま武器を精製する。



「フッこんなに早くチャンスがくるとはな」




「健、わかってるわね?」




「当たり前だ。まかしとけ!」



二人ともすぐさま武器を構える。




 おかしい、いつもと違う。いつもならもっと冷静に状況を把握してから作戦を練るのに今日はもう既に交戦する気になっている。



俺の中の不安が一気に湧き上がってくる。



「おい、工藤達に連絡は?」



俺はそんな二人に声をかける。ターゲットを見つけたらすぐに連絡するということになっていた。




「そんなの今はどうだっていいだろ!!」




「え・・・」



健が俺に怒りの声で叫んだ。



「あいつらもバカじゃねえんだ。この魔力に気付いて勝手にくるだろうよ」



健はそう言い放つと視線をターゲットに向けた。相当苛立っているようだ。



「ごめん蓮君、でも今は・・・今はそれどころじゃないのよ!」




「玲まで・・・二人とも一体どうしたんだよ」



あきらかにいつもと違っていた。健はともかく玲まで興奮状態になっている。いつもなら健が突っ走るのを玲が止めているのに。今は玲までもが目の前のターゲットに夢中になっている。



「お前にはわからないだろうな。俺達の悔しさ、お前たちと違って力の無いドラゴンの虚しさが!」




「力の無いドラゴンの虚しさ・・・」




その言葉が俺の胸に突き刺さった。



「あの時、ウィスパーの時の屈辱は忘れない。Bランクである俺達はターゲットとの戦闘に参加できないという現実を突きつけられた時のあの屈辱を!!」




「お前は強い。怖いぐらいに強い。Sランクどころの強さじゃない。お前は俺達とは違う世界に生きる奴だ。だけど、俺達だって、Bランクのドラゴンである俺達だって戦えるんだ。それがたとえターゲットだったとしてもな!」



「健・・・」



 俺は知らなかった。俺の知らない間に、二人は傷ついていたんだ。あの時突きつけられた現実、Aランク以上じゃないとターゲットとの戦闘に参加できないという現実。残酷にも突きつけられたその現実に二人は傷ついていたんだ。



「だから今、それを証明してやる。俺達にだってできるってことをな!行くぞ玲!!」



そう言って健は走り出した。



「ごめん蓮君。でもこれは・・・これは私たちの問題なの」



そう言って玲も走り出す。でもそんな・・・そんなのって・・・



「ふん、Bランクごときのドラゴンが私に勝てるとでも思っているのか??」




「ふん、好きに言ってろ。今俺達の力を見せてやる!!」



健はそう言って空高く跳びあがった。



「全てを焼き尽くす烈火の魔弾よ、我に敵すものを貫き焼き尽くせ!!」



「フレイムラビット!!」




炎に包まれた弾がアビシオン目掛けて放たれる。



「ふん、こんなもので我を倒せるとでも・・・」




「ちょっと、私を忘れてない??」




そう言ってすぐさま玲も飛び上がる。



「出でよ、氷の刃をもつ大蛇よ、我に敵すものを切り裂き食らい尽くせ!!」




「アイスネークデモンズ!!」



そして、くさり鎌が氷に包まれ大蛇となってアビシオンを襲う。



「ふん、この程度の技がどれだけ来ようと我には・・・」




玲・健「かかった!!」




そして今度は二人同時に詠唱する。



「火・水、二つの相反する気高きドラゴンよ!我に敵す者を包み込み天高く昇れ!!」




「アイフレッドラグーン!!」




すると二人が放った武器がそれぞれ竜に変形しアビシオンを襲う。そしてアビシオンを包み込み天高く昇っていく。



「なっまさかBランクのドラゴンがこれほどの魔力を使いこなすとは・・・ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




そして火・水それぞれの竜が竜巻となってアビシオンを襲い、アビシオンはそれに飲み込まれていった。




「見たか!!Bランクのドラゴンの俺達でもこうして戦えるんだ!!」




「私たちの力、思い知った??」




二人はその場でハイタッチをかわした。そして勝利の喜びを味わっていた。それまで耐えてきた、魔力の壁、それを乗り越えた達成感に浸っていた。




だけど・・・




「気配が消えてない・・・」




そう思った瞬間




「わっ!?」




鋭い閃光が走った。




そして




「フフフフハハハハアーハッハッハッハッハ!!!」




その先にはアビシオンが甲高い笑い声で笑いながら立っていた。体には傷一つ付いていない。




「いやいや、なかなかおもしろい余興だったよ。だが、あんな子供騙しでは我に傷一つ付けられないんだよ!!」




「そんな、あれを受けて傷一つ付かないなんて・・・」




二人はその光景に絶句している。おそらくさっきのは二人の全力だったのだろう。もうこれ以上ないってくらいに魔力を使った。だけど結果は相手に傷一つ付けることができなかった。その現実に二人は打ちのめされていた。



「さ~て、おもしろいものを見せてもらったお礼に、こちらもお返ししないとな~」




アビシオンが詠唱を始める。まずい、二人は態勢がとれていない。このままでは・・・




俺はそんな二人目掛けて走りだした。




「ここにいる愚かな二人のドラゴンを貫き、闇に葬れ!!」




「ナイト・・・トゥソード・・・」




アビシオンから漆黒の剣が二人目掛けて放たれる。そして





ブシャッ!!




「ぐはっ!?」




「蓮君!?」




俺は二人の盾となった。そして二つの漆黒の剣は俺に突き刺さった。あたりに血が飛び散る。




そして俺はその場に倒れこんだ。血がその場を汚していく。




「なんで・・・なんでお前が俺達なんかのために犠牲になるんだよ!!」




健が俺を抱きかかえて叫んだ。声が震えている。そして一滴二滴と水滴が俺の頬に落ちる。




「なんかだなんて・・・言うなよ・・・」




「え?」




「俺とお前達が違う世界にいるだなんて、そんな悲しいこと・・・いうなよ・・・」





「蓮君!!」




玲も血だらけになっている俺の体を支えながら叫んだ。




「全く、なんでお前はそんなに人の犠牲になるのが好きなんだ。俺にはわからんな、そんな気持ち。まあどっちにしろそこにいる二人もここで死ぬんだけどな」



そういってまたアビシオンが詠唱を始める。




「玲、健・・・逃げろ・・・お前たちまでやられたら元もこうもないだろ・・・」




俺は必死に声を絞り出して二人に声をかけた。




「なにいってんだよ!!お前を置いて逃げれるわけないだろ!!」




健がもう血で真っ赤に染まっている俺の手を強く握る。




「バカだなお前・・・俺はドラゴンだぞ・・・よっぽどのことがないかぎり死なないことぐらい知ってるだろ・・・」




「おい蓮!!!」




意識が遠のいていく。そういえば俺、結界張れてなかったんだっけ。死ぬのかな、俺・・・



そしてアビシオンが詠唱を終えようとする。




しかしその時




「レイディアントアロー」




突如、眩い光と共になにかがアビシオンに突き刺さった。



「ぬあ!!これは・・・ちっ面倒なやつが来たか。覚醒した姿を見れなかったのは残念だが・・・まあ仕方ない、ここは退かせてもらう」



そしてアビシオンはこの場から消え去った。




「蓮君!!蓮君!!!しっかりして!!!」



玲が叫ぶ。その目からは大粒の涙がポタリポタリと落ちて、その涙が俺の頬で跳ねる。



「大丈夫だって・・・少し休めばこのくらい・・・」




「おい蓮しっかりしろ!!!」




「だから大丈夫だって・・・いって・る・・だ・・・ろ・・・」






そして俺は意識を失った。そしてそれと同時に雨が降り出した。冷たく、そして悲しい雨が・・・











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