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第二百五話 血染めのバレンタインⅠ~暗転の前編~

今回の話は少し長くなりました。スイマセンm(_ _)m


<2月14日>


「はい、健と蓮君。ハッピーバレンタイン~」


 凍えるような寒さから逃げるようにしてなだれこんだ教室。外との温度差がありすぎて心なしか体がぽわぽわする中、席に辿り着いた矢先に玲がにっこりと微笑みながら俺達に手を伸ばしてきた。


その寒さで少し指先が赤みがかった手に持たれていたのは、青い包装紙に緑のリボンで着飾られた四角い箱。


「おう、サンキュー玲」


「ん?ああ、ありがとう」


ガヤガヤといつものように談笑で埋め尽くされる教室。俺は玲からその箱を受け取りながら、それとなくその声を気にしていた。なんというか恥ずかしかった。

健はというと飄々と箱を受け取り、玲と適当に会話を交わしている。


「義理でもなんでも嬉しいぜ。毎度毎度ありがとさん」


「・・・あんたって、本当に渡しがいがないよね」


「ん?なにか言ったか?」


「い~や~、別に~?」


不貞腐れたようにため息を吐きながら、玲が俺へと話題を振る。


「それで。蓮君は何個もらったの?チョコレート」


「チョコレート?」


俺は首を傾げて今日ここまでの記憶をのんびり遡る。

チョコレートは、とりあえずもらっていない。が、もしもこの予想が正しければ話はまた別になってくるのかもしれない。


「ああ、もしかしてこれチョコレートなのか?」


玲からもらった箱を片手で軽くゆさゆさと揺らしてみると、中でなにやらゴトゴトと転がるような音が手元に響いてきた。


「ちょ、ちょっとちょっと!そんなまだ開けてないのに中身崩さないでよ」


「おっと悪い!つい確認したくてさ。ということはやっぱりこれは、チョコレートなのか」


予想以上に玲が動揺していて焦った。申し訳ない。

だけどなんだろう。気のせいか辺りの声と混じって、なにやらじとっとした強くはないが後引く視線がどこからともなく伝わってくる。


「そうか、蓮はもしかして知らねえのか。まあとりあえずそうチョコレートってワードを連呼しないほうがいいぜ?特に蓮の場合はな」


そう言って健は意味深げにケタケタと笑い出す。どう考えても最後の一文に含みを感じるが、これ以上このままでいると傷口を広げかねないので、すがるような思いで玲へと向き直る。


玲はツッコまなかったが、実はこの行為も間違ってたんだよな。


「2月14日はね、バレンタインデーと言って女の子が思い思いの男の子にチョコレートをあげるの。その種類も色々あって最近は・・・」


ここで急遽玲からのバレンタイン講座が始まった。どうやらまた一つ知っていて当たり前の知識が抜けていたらしい。

健いわくテレビでも取沙汰されていたらしいが、あいにく最近電源さえいれていないため完全にスルーしていた。


バレンタイン当日に、チョコレートをくれた女子にバレンタインについて聞いているこの絵は、他の人達から見たら滑稽を通り越してやらせにしか見えないのかもしれない。でも真面目です俺。


「ということはさっきのもか。一応今のところ二つもらってるんだけど・・・」


「二つ?有希ともう一人は誰の??」


なぜか身を乗り出してまで玲は問い詰めてくる。後からわかることだがこれもあまりよくない質問だったらしいのだが、そんなこと俺が知る由もない。


「ん、四天王寺さんだけど?」


「ああ、明日香ちゃんか~」


玲は納得したといわんばかりに何度も頷く。というかなぜ有希がくれたことを知っている。

今朝、玄関から出るといつも通り有希が居て、その時に同じような綺麗に包装された箱を渡された。まあ有希は、はいとしか言わなかったのだが。


その後校門まで辿り着き、くぐろうとしたところで声をかけてきたのが四天王寺さんだった。


「へえ~。よく殺されずにすんだな。四天王寺先輩に」


頬をつきながら真顔で感心する健。そこは笑えよ、ここでこそ笑えよ。

正直いって無事になにごともなく受け取ったといえば嘘になる。あの時背後に感じた、怒りを通り越して殺意のみで埋め尽くされた視線を俺は当分忘れないだろう。


おそらく彼女もその視線を感じていたはずだが、全く動じていなかった。やはりどこか普通の人とは違うなにかを持っていそうだ。


「明日香ちゃんもやるな~。やっぱ気合が違うわね」


「そうだよな。あんなおっかないお兄さん居るのに平然としてるんだし」


「うん気合いの入れるところ間違ってるけど、まあいいや。そういえば、優奈ちゃんってまだ学校に来てないの?」


玲の一言に俺達の視線は隣の席に集まる。そこには篠宮さんの姿はない。もちろんカバン等が置いてあるわけでもなく、あるのは主のことを黙ってじっと待ち続ける閑散とした椅子と机だけだ。


無意識に携帯の時刻表示を見ると、規定登校時間まで後3分前を指していた。


「いつも遅めだが、今日は特に遅いな。もう朝礼始まっちまうぞ?」


「あんまり、というか篠宮さんの遅刻なんてみたことないしな。今日はお休みか?」


「うーん・・・」


「ん?どうした玲?」


俺の言葉を聞いていたのかどうかは定かではないが、玲はおもむろに携帯を取出し神妙な面持ちで画面と睨めっこし始めた。

まばらに散らばっていた生徒たちが徐々にあるべき場所へと戻っていく。けれど玲は、先生が教室のドアを開けるギリギリまで携帯を下ろさなかった。


深いため息と同時に号令をかけられ一斉に立ち上がる。

俺は背後で、その時確かに途方に暮れるような玲の声を聞いた。


「優奈ちゃん、今日風邪でお休みだ・・・」


<放課後>


「ねえねえ蓮君、ちょっといい?というかまだ帰らないで!」


「え、ああ別にそんな慌てなくても待つけど・・・」


 終礼の終わりと被せるようにして玲が俺の席の前に回り込んできた。言うまでもなく鞄をまだ持ってさえいない状態だが、なぜか必死なそのお願いに圧倒され、俺はもう一度椅子に座り直してしまった。


「優奈ちゃんにこのプリントとノートを届けないといけないんだけど、私ちょっと今から別方向に用事があって・・・。できたら蓮君に届けてほしいんだけど」


「篠宮さんの家に?いや場所知らないしそれに確か俺の家と逆方向だったろ?」


確か俺の記憶では、詳しいところは知らないがたまに玲達と一緒に登校しているのをみると、全くの正反対のはずだ。


「それなら健の方が・・・って、なんであいつもう居ないんだよ」


玲の隣の席は既にもぬけの殻。そういえば昼休みの時に漫画の新刊がどうとか言ってたなあと、もう手遅れながらふと思い出した。


「お願い!場所も地図書いて教えてあげるから」


「・・・わかったよ。そこまで言うなら引き受けよう」


俺がそう言うと、ぱあっと晴れ渡ったように玲は笑顔を見せた。

正直なところ、言いたいことは山ほどあった。俺にわざわざ頼まなくてもそっち方向に住んでいる奴はクラスに何人も居る。その時点で本末転倒であり、しかも女子の家なら女子が行った方が自然な流れなのだ。


「じゃあはい。これが優奈ちゃんの家までの地図だから」


「おう、サンキュー。じゃあぼちぼち行ってきますか」


だけど俺はなにも言わなかった。

言えなかった、という方が正しいのか。朝からため息の連続で、憂鬱な表情ばかり浮かべていた玲からのお願いを無碍にはしたくなかった。


もしかしたら、これも一つの過程だったのかもしれない。


「おっと、今にもなんか降ってきそうだな」


外に出るとどんよりと、今にも落ちてきそうな重たい雲が広がっていた。朝はあんなに晴れていたのに、見事に騙された。傘を持ってきていない。


別段万が一雨やら雪が降ってきても俺はいいが、この預かった物を濡らすわけにはいかない。

よーくわかったよ。ああ、わかったとも。


――――今日から、テレビの電源は点けることにしよう。


「ふむふむ、ここのお宅で・・・いいのかな?」


 なんとなく気合が感じられる玲の地図を頼りに数十分、比較的新しめの家が立ち並ぶ住宅地の片隅に、「篠宮」の表札が飾られた一軒家に辿り着く。


豪邸とまではいわないが、結構大きな家だった。クリーム色の壁に真っ白なドアが組み合わさり、柔らかな雰囲気が感じられる洋風な家。

玄関門とそのドアの間の周りにはたくさんの植木が置かれていて、開けたところには芝生が敷かれた庭みたいな所も見えた。


「えーっと、これ押せばいいんだよな」


キョロキョロと落ち着きなく辺りを見渡してから、恐る恐るインターホンを押した。いかん、なにかものすごく緊張している。

たかがプリントとノートを渡すだけで俺はなにをビビってんだ。


「・・・はい、どなたでしょうか」


しばらくすると、インターホンのスピーカーから今にも消えてしまいそうなくぐもった声が聞こえてきた。聞き取りにくいが、どうやら篠宮さん本人のようだ。


「あー一之瀬 蓮だけど。玲からプリントとノートを預かって来たんだ」


「一之瀬君?あっ、ありがとう!ちょっと待って、今開けにいくから」


なぜか慌ただしくそう告げてすぐに、ガチャリという音と共にゆっくりドアが開いていく。本当にゆっくりだった。俺が襟を正し咳払いをする時間があるぐらいに。


「ケホケホッ。ありがとね、わざわざここまで来てくれて」


「おう、それはいいんだけど。相当きつそうだな、風邪」


そこに現れたのはピンク色に白の水玉模様のなんとも可愛らしいパジャマ姿の篠宮さん。しかしその足取りはフラフラのヨロヨロで、ちょっと強い風が吹くだけで倒れてしまうんじゃないかと思うほどだった。


「うーん、これでも少し良くなったんだけど。まだちょっとね」


マスク越しに無理に笑顔を作りながら門のカギに手をかける篠宮さん。頬はまだ赤いし、声も普段よりずっとしゃがれている。どう考えてもちょっととは思えない。


「いやいいってこれ渡しに来ただけだし。喋ってるの辛いだろ?風邪治ったらいくらでも話せるんだし、今日はこのへんでさ」


「え・・・」


突然、篠宮さんはそれこそ人生に絶望したといわんばかりに落ち込んだ表情を浮かべた。鼓動が大きく跳ね上がる。というより思わず俺の方があたふたしてしまった。


「でも、もうカギ開けちゃった・・・」


「・・・・・・」


いかん、いかんいかんいかん!反則だこんなの。

俺の思考回路は今完全にストップした。周りの音がなにも聞こえない。なんとか働いてくれている視力も、映るのはさっきよりも頬を赤くした上目遣いの篠宮さんだけ。


「じゃ、じゃあ、ちょっとだけお邪魔しようかな」


思考がストップしているはずなのに、俺の口からはそんな言葉が勝手に滑り出していた。


「う、うん。どうぞ~」


か細い声で手招きしながら、彼女は門を開けてくれる。ここで一旦復旧の時間が欲しかったが、俺というバカはノンストップでその敷居を跨ぎやがった。

もはやお互いにロボットみたいにカクカクしながら玄関へと向かう。


後ろから見ても、篠宮さんの顔はきっと真っ赤だ。そして俺も、きっと真っ赤だ。


「靴は適当に置いていいから。中も適当にくつろいでていいから」


お客さんへの固定文みたいなセリフを置いて、彼女は逃げるようにとてとてと奥隅へと向かっていった。お互いここが限界だと知っていたんだと思う。


「お、お邪魔しまーす」


入って右手にすぐリビング、そして真正面には二階へと上がる階段。構造が自分の家と似ているなあなどと、適当に見回しながら足を踏み入れる。


外見通り中はかなり広かった。広々としたフローリングの部屋の奥には篠宮さんが向かったキッチンがあり、手前のリビングには大きめの革のソファーが向かい合わせに2つ、そして挟まれるようにしてガラス張りの机が1つ。その横には大型テレビがどーんと構えていた。


もしかして篠宮さんのお家はわりと裕福なお宅なのだろうか。

詮索はよくないと思いつつも、いたるところに飾られている高そうな壺や絵画に目がいってしまう。


「どうしたの?好きなところに座って座って」


ポツーンと部屋のど真ん中に突っ立っている俺に、カップを乗せたトレイを持った篠宮さんが促してくれる。

とりあえず、一番近くにあった大きい白いソファーに座ることにした。


「なんにもないけど・・・」


俺の目の前に、湯気がたちこめる紅茶が入ったカップが置かれた。

寒い外から来たから温かい飲み物は素直に嬉しい。けど速すぎないか?


そもそも風邪でしんどいはずの篠宮さんにもてなされてどうするんだ。


「ああこれ、インスタントだから全然手間かかってないよ。これぐらい大丈夫」


心の声が聞かれたのか、彼女は諭すようにニッコリと笑う。

なにかそれでも間違ってるような気がするが、どうやら今は好意に甘えた方がよさそうだ。


「隣、私も座ってもいいかな?」


「ど、どうぞ・・・」


一瞬体に緊張が走ったが、そんなことはお構いなしにとすんと音を立てながら篠宮さんは腰を下ろす。

近い。なんでそんなに近いんですか。


左手を動かすだけで、彼女の腕にぶつかりそうだ。どんどん高鳴ってくる心臓の音を必死になだめながら、俺はカップへと右手を伸ばした。


「し、静かだな。親御さんは?」


「うーんうち両親共働きだから。多分遅くまで帰ってこないと思うよ」


なにーーー!?真面目に今紅茶を噴き出しそうになった。

当の本人はさほど気にしていないらしく、呑気に足をフラフラばたつかせている。


落ち着け俺。どう考えても気にし過ぎだ。相手は篠宮さんだぞ。

だがここは彼女の家でありそして超至近距離にパジャマ姿の彼女自身が居る。ここで緊張しなかったら、それはそれで問題だろ。


・・・どうやら場に呑まれ過ぎて訳が分からなくなっている。

とりあえずこの無言の間は危険だ。なにか言おうと篠宮さんの方へ向き直るが、それよりも先に彼女の言葉がそれを遮った。


「あ、なんか寒いなあと思ってたら。空気の入れ替えしたままだった」


篠宮さんは身体を押し出すようにして立ち上がり、微かに揺れる水色のカーテンの元へと歩み寄る。そんな彼女の後ろで、俺は呆然とその光景をみつめていた。


「へえ~。そこから庭に出れるのか」


カーテンを開くと大きな窓が現われ、縁側を挟んだその先にここに入るまでに見た芝生が広がっていた。


「うん。今はないけど昔はここにブランコとかもあったんだよ?私が壊しちゃったんだけどね」


そう話す篠宮さんは、どことなく遠くを見つめている気がした。

思い出に浸っているのだろうか。ひんやりとした風が、彼女の黒髪を寂しげに揺らした。


「さて、これでよしっと。それでね、突然なんだけど私、蓮君に渡したいものがあるんだ」


手を後ろで組みながらこちらを振り返った彼女は、頬を染めながら恥ずかしげに笑みを浮かべていて俺は少しドキリとした。


「渡したい・・・もの?」


首を傾げる俺をよそに、篠宮さんは一つ頷いてキッチンへと向かう。

少し間が空いたおかげか、俺はなんとか最低限の平然を取り戻していた。


「今ぐらいはこれ下してもいいよね」


「はい、ハッピーバレンタイン」


マスクを顎下へずり下げた彼女が持っていたのは、赤い包装紙に白い星、それに青のリボンがつけられた一つの箱だった。


「これ・・・チョコレート?俺にくれるのか?」


「うん。一之瀬君にあげるために、私が作ったの。受け取って・・・もらえる?」


もじもじと体を揺らしながら首を傾げる篠宮さん。

なぜだろう。俺はこの時どう声をかければいいかわからなかった。今日ここまでで、三人から同じようにプレゼントされたはずなのに。


「あ、ありがとう。嬉しいよ」


その一言を言う前に、俺の手にはもうその箱があった。


「これ、もしかして風邪でしんどい時に作ったのか?」


「うーんちょっとだけ。でもせっかく作ったのに渡せなかったら、本当に悔しいと思ったの」


「女の子にとってバレンタインはね。男の子以上に特別なんだよ?」


ドクン・・・


「そっか。そんな大事な日を俺は・・・」


「一之瀬君?」


「いや、なんでもないんだ。ありがとう篠宮さん。ありがとう」


これでありがとうを言うのは何回目だっけ。でも心の中では、もうさっきからずっとありがとうを言い続けているんだ。


「よかった、喜んでもらえて。また隣に座っていい?」


「ああ、どうぞ」


眩しすぎる笑顔をみせた篠宮さんが、とことことソファーへと近づいてくる。

本当はまずかった。この火照った顔のまま彼女が隣に来られたら、俺はいよいよ普段の思考には戻れないような気がした。


だけど俺は拒まない。表面をいくら着飾っても、俺という個体はそれを望んでいたから。篠宮さんに、近くに居てほしい、と。


これが本能なのか場の空気のせいなのか、考えるだけバカバカしかった。


「あっ」


 その時だった。篠宮さんがソファーに座ろうと向き直したところで、気の抜けた声と共にいきなり脱力し崩れるように倒れてきた。


「篠宮さん!?」


俺は慌てて後ろから彼女の肩を抱きとめた。幸いにも彼女の体は驚くほど軽く、支えるのはそう難しいことではなかった。


「ご、ごめんね。ちょっとふらっとしちゃって・・・」


「いや、さっきから結構動いてたからな。風邪でたたでさえ衰弱してるんだ。今は横になった方がいい」


「ううん大丈夫。軽い立ちくらみだから」


そう言って彼女は俺の手を振りほどこうとした。俺はこの時、篠宮さんが案外頑固なことを知った。なぜにそこまで意固地になっているのかは知らないが、パジャマ越しに触れた篠宮さんの体はかなり熱く感じた。もしかして全然熱引いてないんじゃないのか?


「ありがとね、支えてくれて。もう大丈夫だから」


「いや、それはいいけど。それよりこれ全然大丈夫じゃ・・・」


そこでふと、プツンと俺の言葉は途切れた。どくんどくんと心臓が波打つ音が脳内に響き渡る。だけどこれは、さっきまでの華やかなドキドキじゃない。


それはどんどん近づいてきた。強烈な嫌な悪寒が襲い、全身の毛孔が開いて鳥肌がたった。


どうして突然こうなったのか。それを知るのは後約30分後。

今の俺が言えることは、これだけだった。


「危ない!」


ガシャーンッ!!


俺の叫びに覆いかぶさるように、対面のソファーの後ろにあった大きな窓が激しく割れる。いや、割れたんじゃない。あきらかに割られた。


なにがあったのか確認するよりも先に俺は篠宮さんを抱きしめ、ソファーへと押しやって全力で自分の身体を盾にした。飛んできたガラスの破片が容赦なく背中に叩きつけられる。その中の小さな破片が首元をかすめて思わず片目を瞑った。


それから数秒、自分の下に居る篠宮さんの無事を確認したところで(突然のことで放心状態にはなっていたが)、背後から今度は複数のガラスを踏むジャリッジャリッという足音が聞こえてくる。


「悠久の命に従い、その首、もらい受けにきた」


「呪われし竜。ブラックドラゴンよ」


そこに居たのは、全身黒ずくめで目以外の部分も黒い布で覆った人間達だった――――








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