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第百九十九話 一之瀬 蓮の疑問~これは仮定にすぎない~


<1月12日>


コトッ


「ふう~・・・」


 日曜日。久しぶりになにもない休日。今日はたっぷりと朝寝坊をして、その後ゆっくりと朝食を作って食べる。なんともゆるやかな時間が流れる幸せなひと時。

こんな平和な朝を迎えたのはいつ以来だろう。


それほどまでに、最近は色々なことがありすぎていた。


「さて、どうするかな・・・」


食器等の片づけを済ませてからコーヒーで一服。

香ばしい匂いでさらに雰囲気を和ませながら、俺はあてもなく机に肘をついた。


ずっと願っていたことではあるけれど、正直突然ポンッといきなり自由なひと時が訪れてもやることが思いつかない。

ゲームでもするか?いやいやもうどこまでやってたのかもわからないし。


けれどまさか騒動がないとやりたいことがないなんて、意地でも認めたくなかった。


「・・・ん?」


ふと、なにげなく見つめていた小物類が置かれた棚の上で、ひときわ目立つ紫色の妖しい光をともなう宝玉と目があう。


あれは・・・あのターゲットの一人だった「エフィー」を倒した際に残っていたものだ。


「本当に、本当に羨ましいよ。あなた達のいるその世界が。決して一人じゃない、あなた達の存在が!!」


「・・・・・・」


今まで倒してきたターゲットの中でも、あのエフィーは力も、そして性格もどこか違っているような気がした。


同じようなことを以前健も口にしたが、その時は工藤にものすごい勢いで否定されていたっけ。


「・・・ふむ」


俺は衝動に駆られたように学校のカバンからノートと筆記用具を取出し、机に並べる。


思えば、これまでターゲットとの戦いでは自分・・・自分たちのことで精一杯で、ターゲットについて深く考える機会がなかった。

だけど今日は時間に有り余るほどの暇。これほど絶好の機会はない。


「よし、やってみるか」


 シャープペンシルを片手に、俺はまず記憶を遡りながら今まで倒してきたターゲットを書き出してみる。


第一のターゲット 「魔槍使い ウィスパー」


第二のターゲット 「黒獅子 アビシオン」


第三のターゲット 「工藤と伊集院さんが倒した名無しのターゲット」


第四のターゲット 「白銀の殺戮者 エフィー」


第五のターゲット 「無刀の幻惑士 黒田 大吾」


第六のターゲット 「姿なき影 名無しのターゲット2」


第七のターゲット 「闇に巣食う者 ディバイバルト」


「・・・もうかなりの数を倒したんだな」


今までがむしゃらに頑張ってきたせいか、いつのまにかターゲット8体の全ての殲滅まであと一つまで来ていたことに今更気が付く。


「ターゲット、ねえ」


呟きと一緒にその五文字を書き記した後、俺はその下の行に今自分が知っていることをありのまま書き出してみた。


ターゲット。

魔族の大将格でありその数は8体。そのままの姿で現れることもあれば人間に乗り移ったり変化して人間として現れることもある。


そしてターゲットはそれぞれ「ソラノカケラ」を有していて、倒すことでこれが手に入る。このソラノカケラが2つ集まる度に俺はまた新しい過去を知ることができ、それと同時に右手に宿る紋章が一つ完成に近づいていく・・・


「・・・・・・」


「これだけ、か?」


想像以上に少なすぎて、思わず自分に疑問を投げかけてしまった。

なんだこれ。こんなショボイ情報、取扱説明書を読めばわかるレベルの情報だぞ?この世界に9ヵ月以上居て、これだけしか知らないのか、俺。


しかもこの情報、ほとんど親父からの受け売りだし・・・


「うーん、ダメだな。これは」


これではお話にならない。ノートに書き出すのもバカバカしい。

そう考えたとたんに俺の手からはペンがこぼれ、ノートも風の悪戯のように閉じてしまった。


せっかくできた時間だから・・・と思ったが、これは大失敗だった。

こんなことなら素直にゲームをすれば良かったと、思えば思うほどに悲しくなって体から力が抜けていく。


ソラノカケラを手にすれば本当の俺自身が知れる。それでいいんだよ、もう。


ソラノ、カケラ・・・


「ん?待て。今思えば、どうしてターゲットからソラノカケラが手に入る?」


 俺は慌てて閉じたノートをめくりまくった。

そうだ。こんな少なすぎる情報だけでも、冷静に分析すれば疑問に思えることは充分にある。


ターゲットは魔族。そして俺達竜族と人間の敵。

ならどうしてその敵が「ソラノカケラ」なんてものを持っている。それは竜族であり、竜王の息子である俺の記憶を紐解くカギだろ?


竜王の息子なんて、あいつらからしたら敵以外の何物でもないはず。

それなのにあいつらが持っている意味がわからない。


「・・・考えろ。落ち着いて考えるんだ」


突如現れた黒い影に俺は呑み込まれそうになる。

仮定しろ。仮定してこの状況を作り出すためにどんな可能性があるのか調べ上げるんだ。


例えばこんなのはどうだろう。

なんらかの理由で親父が俺から記憶を奪い取り、一つの結晶・・・ソラノカケラの元の姿という物体に変えた。


けれどそれを魔族が盗み出し、破壊してしまった。


ブラックドラゴンは竜族の中でも屈指の力の持ち主。これを抑えられるのだとしたらこれほど戦略として貴重なものはないだろう。


そして破壊して破片となったもの、ソラノカケラを再び完成されないように魔族の中でも大将格であるターゲットが所有して守っている・・・と。


「・・・ダメだ」


俺はガックリとうなだれて机に突っ伏した。

確かにこれなら持っていてもおかしくはない。だけど所詮辻褄を適当に繋げただけ。おかげで致命的な欠陥が残ってしまっていた。


ブラックドラゴンの力を抑えられるという貴重なものを、なぜわざわざこの人間界、竜族の居る世界に持ってくる必要がある。


確か誰かが言っていた。ずっとずっと昔に、魔族から人間を守るために竜王である親父が一つの世界を異空間化して分けるというとんでもない方法を使い、魔族を今のこの人間界から完全に消滅させたと。


しかし、実はこの二つの世界は完全に切り離れているわけではなく、どこかで繋がっていてそれを封印することにより魔族の侵入を防いでいた。


そしてこの封印がなぜか弱まり魔族がこの世界に現れるようになってしまったのが、今の状態だ。


「・・・ここだな。おかしいのは」


さすがに俺ではこの非常識にも程がある話を追及することはできない。


だけどこれだけは言える。その全く違う世界から来ているターゲットがソラノカケラを持っていて、しかも「それを必要としている俺」にわざわざコンタクトをとってきているのはあきらかにおかしい。


どうしてせっかくブラックドラゴンを封じ込めているのに、みすみす俺に渡してしまうかもしれないというリスクを冒す。そりゃあ俺なんかに負けないという自信があるのかもしれないが、自分たちの世界に置いておいたほうがよっぽど安全だ。


やはりどう考えても、これでは当初の目的に矛盾している。俺にはこの世界にあるという意味でソラノカケラを手にしやすいというメリットがあるが、あちらには全くメリットがない。むしろデメリットしかない。


「待てよ。渡してしまう、じゃなくて。渡そうとしてる・・・と考えたら?」


逆転の発想。それは時に有り得ない結論への活路へと繋がることがあるけれど。俺はこの時、それをしたことをとても後悔した。


「俺が・・・過去を知り、ブラックドラゴンとしての力を取り戻すために・・・」


「この世界で生きる者としての土台を作るために・・・」


頭の中で物凄いスピードで情報が駆け巡っていく。

そして情報の一つ一つの線が、ある一点に向かっていることを感じ始めたとき。何度も止めようとしたけれど止められなかった。


「魔族の大将格というターゲットとして」


辿り着きたくなかった答えが、俺の前にそびえ立つ。


「親父が、「用意」した・・・?」


――――今思えばそうだった。


ターゲットと戦うたびに俺はなにかを学んでいた。自分の中のもう一人の自分。仲間との絆。竜族という種族について。自分がどんな存在でどんな力を持っているか。そして仲間が抱えている過去から現在への光と闇・・・


ターゲットが残した謎の問いかけも、そう考えれば意味が通る。


「ふ~全くお前はバカか!?人間と竜族は決して共存できないのにどうしてそこまで守ろうとするのだ?」


「人間を守って、そんな雑魚共を守って。お前のやってることは過去の償いのつもりか!?所詮自己満足なんだよ。この人殺しドラゴンが!!!」


「てっめえ・・・竜族のくせしてなめやがって!お前らはいつでもそうだ。甘いんだよなにもかもが。何度も何度も裏切られた存在に、なぜお前らは従うんだ!!」


どれだけ残忍で凶悪な力を持っていたとしても、あいつらは・・・



「私は・・・自由を。本当の自由をこの手に掴んで、そして・・・」



「・・・ふざけるなあーーー!!」


ガシャーン!!


右手にジャストミートしたコーヒーカップが吹っ飛び、床に落ちて無残に割れる。開いていたノートもその上に乗っていた筆記用具も道連れにして。

 

「はあ、はあ、はあ・・・」


行き場を失った拳は、まだ足りないとばかりに力が籠っていた。自分でもどうしていいのかわからない。もはやちょっとした錯乱状態に陥っていた。


「こんな、こんなことのために・・・」


もう取り返しはつかない。

そう思えば思うほどに、自分が悲しくなって。襲ってくる胸の締め付けから逃れるために俺は机においた腕の中にうずくまる。


「俺は・・・バカだ」


全てはあの目覚めた時から始まっていた。

それなのに今までなにも考えずに、ただ戦ってきた。それが敵で、それを倒さなければ大切な人の命が奪われると思ったから。


だけどこれはなんの冗談だよ。もしもこれが真実なら、全ては俺のために用意されたシナリオだったなんて。


それのせいで一体どれだけみんなが傷つき、迷惑をかけたか・・・


「本当に、それは迷惑だったのか?」


「え?」


突然、心の中にここに居る俺ではない俺の声がこだまする。

辺りを見渡してももちろん誰も居ない。シンと静まり返った部屋は、余計に今の声を深く助長していた。


これも、逆転の発想・・・なのだろうか。

もしも、この俺のために敷かれたシナリオに巻き込まれて、みんなが迷惑してなかったとしたら・・・?


「・・・今思ったら、今更か」


そう考えると不思議と笑いが込み上げてきた。

俺のシナリオとか、そんなのなくても俺は多分みんなに迷惑をかけまくっていたはずだ。例え俺が、ブラックドラゴンではなかったとしても。


それにこのシナリオそのものを完全否定するのなら、それは今までみんなと過ごし戦ってきた時間そのものを否定することになる。

もしかしたら、このシナリオがなければ俺達はここまでの絆を築くことはできなかったかもしれない。


「私はあなたを信じ、あなたと共に歩いていきたい。だから私は、今ここに居るの」


「思い出すだけでも恥ずかしいことを赤裸々に言っておいて、選択肢もくそもないだろ」


「私は・・・今でもあなたが大好きですっ!」


俺達は間違いなく、一緒に前へ進んでいる。絶対に一人ではここまでは来れなかった。もしも本当に全てがシナリオだったとしても、この事実が覆ることはないし、無駄になることもない。


ここまで来たんだ。それならもう最後までいっちゃえばいい。取り返しのつかないものなら無理に返さなくてもいい。


これが終われば、また前へ進めるはずだ。みんなと一緒に。


俺は結局、このシナリオに生かされている。


「こう考えられるだけでも、少しは成長したのかな」


もう一度、俺は棚の上に置いてある紫の宝玉を見る。

気のせいか先ほどよりもその輝きは優しくなったような気がした。


やっぱり、ここに来るまでに無駄なことなんて一つもなかった。それは倒したターゲット達にも言えること。命を奪ったのなら、それを背負わなければならない。そして責任を持ってゴールに辿り着かなければいけない。


これはあくまで仮定だ。だけどもしもこれが真実なのだとしたら、俺は親父にもう一度会って確かめなければならない。


ターゲットを全て殲滅するという、使命を果たして。


それが、俺の戦いだ――――


ブーブー、ブーブー


「おっと、メールか?」


 机に置いていた携帯のバイブレーションが鳴り響く。

液晶画面には新着メールの表示。そういえば、健が朝メールすると言っていたことを今思い出す。


「差出人はやっぱり・・・って。あれ?」




 



この回からおそらく最終章になる第五章の始まりです。


完結に向け、どのぐらいの更新頻度になるかはわかりませんが、頑張って描いていきたいと思います。

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