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第百九十七話 黒の正義~妹に捧げる、黒竜の翼~


ザッ


「お?なんとまあこれは・・・驚いたね。まさか君に、まだ立ち上がれるだけの力が残っていたとは」


「・・・・・・」


 俺はただ、再び立ち上がる。なにも語らず、なにも感じることもなく。

ディバイバルトはそんな俺を見て驚いているようだったが、今はそんなこと本当にどうでもよかった。


「誰が・・・」


「うん??」


殲滅する、今の俺の全てをもって。ただそれだけ。

そしてまた、また伊集院さんと一緒に時を刻んでいくんだ。


「誰が立ち上がるだけって言ったよっ!!」


ようやく、俺達二人の時は始まったんだから!


ブワアアッ!!


体全身に全力を込めると同時に漆黒の羽根が舞い、俺の背に生える巨大な漆黒の翼。

そしてこの屋上を濡らし続ける雨を一気に吹き飛ばすが如く、全身から突き抜けるように漆黒の闇が噴き出した。


いつだっただろう。こんな姿を俺は何度も見てきていた気がした。


「黒の天使に、漆黒の刃を・・・」


ズズウゥ・・・


左手を前へ差し出すと、真っ黒な闇がうごめき渦を巻きながら収束しあるものをなにもない空間に形作っていく。

堕天使には堕天使の武器が必要だ。それには今までの漆黒の剣は似合わない。


シュウウ・・・ジャキッ


もっと悪っぽくて、残忍で。なにもかもを恐怖で染める刃。

俺が手にしたものは、細く長い柄にギラリと黒光りする鋭き大きな大きな三日月形の刃を宿した巨大な漆黒の鎌。


どうだろう、これなら見えるだろうか。

堕天使に・・・悪魔の姿に。


ずしりとのしかかる重さをゆっくりと感じながら、俺は柄にそっと右手を添えた。


「なっ・・・・姿が変わった?いや、それだけじゃない」


「なんだ、あいつからあふれ出るこの圧倒的な魔力は!」


感じる。みなぎってくる。今まで感じることのなかった激しい手応え。

一見冷たそうで温かく。それでいて怖そうだけど優しくて頼もしくて。なにもかもをその黒色で染めていける力。


これが、俺の闇の力なのか。

あの親父・・・竜王と、自らの命で命を繋いでくれた母親がくれた力。そしてもう一人、まだ遠く及ばないだろうけど、もう一人の俺。フェンリルの力でもあるか。


嬉しいような怖いような、よくわからない感情に少し口元が緩む。

本当ならじっくり浸りたいところだけど、今はそんな暇ないか。


「なぜだ。お前にそんな力など残っていないはず。いやそもそも存在さえしていなかったはず。けれどこのはびこる圧倒的な魔力、闇。これは紛れもなく奴の力。ということはつまり、覚醒したっていうことなのか?」


「・・・いいや違う。奴の眼は存在を恐怖に染める醜き紅のはず。だが今のこいつの眼は、紫だ!」


「お前は・・・お前は一体誰だっ!?」


激しく動揺するディバイバルト。さきほどまでの余裕はどこへやら。

だけどそれも無理もない。どこに瀕死の状態から復活したと思いきや、逆に圧倒的な魔力をもって目の前に立ちふさがっているのを見て驚かない奴がいるのか。


俺はそんなディバイバルトを一片たりとも逃がすものかと睨み付ける。

そして決意と思いを込めながら、胸を張って言い放った。


「俺の名前は一之瀬 蓮。竜王の息子でありフェンリルと共に生きる存在。そして・・・」


「伊集院 有希の、兄だ!」


雨の音など無視して力強く屋上へと響き渡るその言葉。

やっと、言えた。ここまで来るのに一体どれだけの時間をかけたのか。


伊集院さんにとってみればもう今更なのかもしれない。だからこれは俺の我が侭。

どうしようもないほどの苦しみから逃れようとすることを自己中だと言い放つ君への、俺からのお返しだ。


今だけでもいい。俺・・・一之瀬 蓮をお前の兄でいさせてくれ。


「ぷっ、ククク・・・ハハハ」


「アーハッハッハッハ!!」


そんな俺を見て突然、ディバイバルトは天を仰ぎながら高らかに笑い出した。


「・・・なにがおかしい」


「クククッ・・・いやあ~本当に君は僕を愉快にさせてくれるね。伊集院 有希の兄か、そうかそうか」


(ふう、危ない危ない。危うく奴の闇に呑まれるところだった)


(しかしなんて馬鹿げた魔力なんだ。こんなの聞いてないぞ。いや、それともあいつも知らない新たな力なのか。どちらにせよ、この娘をターゲットにして正解だった。この娘の力があれば、たとえ奴がどれだけの力を秘めようと屈することはないはずだからな)


(それに・・・、も、もう勝負はついているはずだ)


(そうだ。そうなんだ。だから僕は、こいつに・・・!?)


「・・・・・・」


俺には見えていた。いつもなら見ることのできなかった景色が。

もしかしてこれも紋章の力なのか。じっとあいつを見据える俺の眼は、確かにそれを捉えていた。


揺らぐ存在の闇、震える存在の心。


「お前、俺が怖いのか?」


「!?・・・なにを馬鹿なことを突然。この僕が君を恐れている?そんなこと有り得るはずがないだろう」


「君も知っているはずだ、この娘の闇の強大さを。その力を手に入れた僕が、君に」


「それは確かに伊集院さんの闇かもしれないな。だけど、お前のじゃない。お前は所詮、人の闇にしがみついているだけだ」


「今のお前じゃ、俺には勝てない」


そうか、そうだったのだ。

俺の力、俺の闇。それは存在に恐怖を植え付けるもの。どうあっても誰かを明るくしたり笑顔にするものじゃない。


今になって最初の親父の言葉がのしかかってくる。俺に秘められた力は絶大だけど、そこから新たな命は生まれない。命の灯を消し去るのが俺の力。


「お前は死を司る竜、「ブラックドラゴン」だ」


・・・今こうして一時的とはいえもってみてわかった。強い力を持つならば、それに見合う強き心と覚悟がなければならないのだと。

なにせその使い道は俺次第。その力で誰かを守ることも殺すことも、悲しみや憎しみを生むのもすべて自分次第なのだから。


少しだけ、あの時親父が言っていたことがわかった気がする。

あの日から、ちょっとは俺も成長できたのだろうか。


ふと、鎌の先の刃を見ると水滴をしたたらせながらまるで応えるかのように、一つ不気味に光り輝いた。


俺はやっぱり、死を司る竜・・・ブラックドラゴンなのだ。


「・・・どうやら僕を、怒らせたな。いいだろう。そこまでこの娘に殺されたいというのなら、お望み通り殺してあげるよ」


「守護なる光、あの狂った悪しき魂を貫き正義の名のもとに罰を与えよ!」


詠唱を唱えると同時に前へ突き出したディバイバルトの右手が輝きだす。

その手のひらに急速に集まりだす光の粒。輝きをどんどん増していきながら収縮しとうとう眩いまでの閃光を放つ一つの玉となると、一気にそれは炸裂した。


ピキュウウンン!!


途端に生まれる無数の光の槍。

一度は広がる素振りを見せるも、標的を見つけるや否やしなり俺一点を目指して襲い掛かってきた。


「・・・吠えろ、そして呑み込め。闇に生きる狼は闇を颯爽と駆ける」


けれど俺はこれっぽっちも慌てない。

今度はちゃんと自分の意志で詠唱を始めると、漆黒の鎌は真っ黒な霧をまとい始め怪しく光ると共に形を変えていく。


「Dark dimension wolf《闇駆ける牙狼》!!!」


そして思いっきり鎌を振りぬくと同時に、そいつはこの屋上に解き放たれた。


ウォオオンン・・・!バリーンッ!!!


鎌から飛び出す黒い霧をまとった一匹の大きな漆黒の狼。

鋭い牙をむき出しにしながら猛然と光の槍に突っ込むと、一切ひるむことなくいとも簡単に突き破りそのままディバイバルトのすぐ真横を駆け抜け・・・


そしてけたたましい遠吠えを残し、霧の中へと消えていった。


「な、なんだ、今のは・・・?」


まさに一閃。あまりにもあっさりしすぎて言葉を失うほど。

通り過ぎた風圧で銀色の髪は舞い上がり、紅き瞳はまんまるに開かれこれでもかと動揺を表していた。


また、更に大きくなるディバイバルトの闇の揺れ。俺はそれを見逃さない。


「馬鹿な。今の僕の攻撃は手を抜いたわけでもないのに。なら一体なぜ・・・?」


「・・・・・・」


「ふっ、くく。そうかい。この程度じゃなんの意味もなさないということか」


「・・・・・・」


「いいよ。そこまでいうのなら、この娘の本気を君に見せてあげるよ!」


驚きから硬直、そして笑み。最初のただ見下し余裕をぶっこいていたあの頃に比べればずっと感情が表に出ているディバイバルト。

存在がなんらかの形で心揺れるとき、否応なく感情の統制が崩れ表に出てきてしまう。それは当たり前のことであり生きているという証明にも繋がることだ。


そんな状態の奴が、右手をアスファルトの上に勢いよく押し付ける。

どこかで聞いた詠唱、どこかで見た光景。その瞬間全身から激しい閃光がほとばしり巨大な純白の羽根が大きく広がった。


そして右手からアスファルトの上に現れる巨大な魔方陣。そこから急激に眩い聖なる光がこの屋上を完全に包み込みなにもかもを光の中へと閉じ込めていく。


「空間・・・魔法か」


天使が司る絶対領域。闇を喰らい制圧し自らの光でのみ構成する完全守護の空間。

俺の体にまとっていた闇は自然と萎縮し、手に持った漆黒の鎌は苦しそうにカタカタと小刻みに震えだしていた。


「・・・くだらねえ」


また更に、鎌の柄を持つ手に力が籠る。

確かに強大で凄まじい力だ。本来なら微塵も残らず吹っ飛ばされるところ。だけどこれが伊集院さんと同じ力?笑わせるな。


俺の頭に浮かぶのはいつかの伊集院さんと共に詠唱して見えたあの時の光景。

伊集院さんの光はもっと暖かかくて、優しくて。そして心安らぐ心地よさ。間違ってもこんな単調で、存在を戒めるものなんかじゃない。


「やっぱり、これは伊集院さんのものじゃないんだ」


そうとなればやることは一つ。

俺は漆黒の鎌を地面に対し垂直に持ち直すと、先が欠けてしまうほどの力で柄の先をアスファルトに叩きつけた。


ガンッ、ピキュウウンン!!


「なっ・・・」


突然大量に舞い上がる漆黒の羽根が、まるで時を止めたかのように俺達の前を優雅に空間の中で佇む。

そして羽根の中に現れるのは、光でも闇でもないただの雨が降り注ぐ学校の屋上。


「ば、バカな・・・。なぜ?」


「なぜ?やっぱりお前はなんにもわかってないんだな」


多分無意識だろう。驚きのあまり体を石のように硬直させながらも、片足だけが後ろへ退きさがったディバイバルトに俺は額に手を当てながら告げる。


「闇の特性の一つ。それは存在に恐怖という感情を植え付けること。恐怖を植え付けられた存在は心を乱す。心乱した存在は思考の回転を著しく低下させる。そして思考の回転が低下した存在は複雑な回路を組めず、行動が単調になる」


「つまりお前がこの状況を打開するために空間制御魔法を放つことは、もうとっくの昔にわかってたってことだ。だから俺は悠々と解除魔法を組まさせてもらったよ」


ジャキッ


漆黒の鎌を再び持ち直し、刃をディバイバルトに向けると顔が微かに歪んだ。

そろそろ潮時か。そう思い額に当てていた手を下ろそうとしたその時だった。


「!?」


突然狂ったように俺に訪れる激しい眩暈。そして頭痛。

もちろん準備もなにもなかった俺は思わずよろけてしまう。が、咄嗟に鎌を杖代わりにしてなんとか状態をキープした。


頭の中が混乱、けれど痛くて思考がうまく回らない。

そして何かを探し求めるように目が泳ぐ。だけどそれはこの頭痛と眩暈に対してではなく


(なんだ・・・これ?)


ふと再び額に当てようとした手を見ると、まるでホールド中のランプのように透明になっては戻り、そしてまた透明になりかけて。うっすらと透明になった時には下のアスファルトの地面さえ透けて見えていた。


「・・・よくわからんが、急いだ方がよさそうかな」


これがこの力の代償・・・なのか。

おそらく今回のこの第三の力の効果は俺の、俺の中の闇の力を一時的とはいえ爆発的に高める効果だ。だけどご覧のとおり、どうにも燃費がすこぶる悪いらしい。


ちゃんと使えたらかなりの戦力になるんだろうけどな~。もしかしたら本来は長時間使用も問題ないのかもしれないけど。こればっかりはどうしようもないか。


今の俺という存在にぴったりだ。まさしく「未完」の力


でも、未完もそう悪くないなと、なんとなく思った。


「悪いがこっからは俺のターンだ。存分に行かさせてもらうぞディバイバルド」


「俺達兄妹に、手を出したことを後悔させてやる!」


ジャキ、バシャッ!


 今度はこれまで以上に柄を強く握りなおすと、そのまま俺は地面を力強く蹴り上げしぶきを上げながら走り出した。

羽根があるというのに、わざわざ敢えて自分の足を使う俺。


こういうの、非効率っていうんだろうな。

だけどこの羽根は俺の翼。ここぞという時にしか使いたくなかった。


ついでに言えば、まだ人として居たかったってのもあるのかもしれないけど。


「くっ、我光に願う。我が前において絶対守護の象徴をその身で刻み、ここに聖なる加護を導きたまえ!」


シュピーン、ズズズッ!


ディバイバルトの詠唱により俺の目の前に煌めく巨大な光の盾が現れる。

光、すなわち救済の象徴。それは希望であると同時にその存在を加護する力を持つ。故にこの盾は光の加護となり悪を打ち払い、絶対守護をもたらさん、と。


だが根底を間違えし光に絶対はない!


「ちっ、わからねえ奴だな」


俺はその光の盾を前に大きく飛び上がり一回転。宙を舞いながら鎌を大きく振りかぶり、全身の気を集中させて溢れる闇を刃に乗せた。


「邪魔をするな。俺のターンだと言っただろうが!!」


ブンッ、グワシャーン!!


そして渾身の力で振り抜いた漆黒の刃は、光の盾をまるでガラスでもぶち破るかのように粉々に粉砕して切り裂いた。

飛び散る黄金色の破片。美しくも弱々しく消えていくその姿を横目に、俺は再び走るのを再開する。


光よ、守るべきモノを、加護するモノを見失うな。

お前はお前の望むモノを守れ。もしもそれが過ちだったのなら、間違ってしまった光は俺の闇が破壊する。


「今宵訪れるは闇の舞踏会。影が影をつくり影が真なるものを映し出し今宵の舞台の歯車となる」


「Nightmare party《闇夜の幻想歌劇》」


ピキーンッ、シュウウン・・・


詠唱と同時に俺の体から横一線に吹き出る黒い霧。

その暗闇から現れたのは俺。ざっと数十人の俺自身が一瞬で現れる。そしてそれぞれが漆黒の鎌を持ち、紫色の眼を輝かせながら一斉にディバイバルトに向けて飛びかかった。


「これは・・・分身?いや、闇から命あるものは生まれない。ならば幻影、替玉か。ちっ、忌々しい存在め!」


即座に複数の俺の間を縫うようにして回転するディバイバルト。それと一緒に両手に持つ

煌めく剣を剣舞のようにして俺を切り裂いていく。

その身を切り裂かれた俺は瞬く間に黒い霧になって消えていった。だがしかし


ガキーンッ!!


「くっ!?」


いくら力を持っていようとこの数。どこかで処理が追いつかなくなり一人の俺の攻撃を受け止めなくてはならなくなる。そう、受け止めなくては。


「こいつら・・・武器は幻影じゃない!?」


「だからお前も言っただろう?確かに俺は命あるものは生み出せない。だけど、命なきものなら生み出せるんだよ!」


「くそっ、くそくそくそ!!」


ディバイバルトはつばぜり合いになっていた一人の俺を弾き飛ばすと、片方の剣で鎌の刃を受け流し、もう片方ですかさず急所を突き次から次へとやってくる俺の攻撃をたった一人で凌いでいった。


「こうしてみると、さすが伊集院さんの力って感じだな」


次々と倒されていく俺を見つめながら、俺はその姿を悠長に感心していた。

やはり伊集院さんの力は凄い。いくら俺の影だろうと、あの数を一人でこなすってどんだけの戦闘力だよ。


だけど、今あいつがやっているのは直接攻撃。やろうと思えば魔法を使えるのに直接攻撃。一撃で俺の影なんか葬る力を持っているというのに。


やはり恐怖というものは恐ろしい。

さっきまでの俺の力が残像となってあいつの魔法を間接的に封じ込めていた。


「なら、そろそろフィナーレといきますか!」


バサッ


その時、屋上に一つ二つ黒い羽根が舞い降りた。

刃が、そして俺自身が風を切りヒューヒューという音を奏でながら疾風怒濤、鷹のごときスピードで急降下していく。


「この気配は・・・まさか」


ディバイバルトがその存在に気付き、もう一人の俺を切り裂きながら頭上を見上げる。だがその時すでに、俺は鎌を振りかぶり渾身の力を柄にこめていた。


「これで終わりだ!!」


「くっ、させるものかああ!!!」


ガキーンッ!!


空間を駆け巡る甲高い金属音。

振り抜いた刃はアスファルトに思いっきり直撃し、その身にはヒビまで入っていた。しかしその刃が切り裂いたのはディバイバルトではなく、無情にも純白の羽根だった。


「危ない危ない。この娘じゃなかったら危うく殺されていたところだったね」


嘘・・・だろ?あのスピード、あの距離で1秒もない時間の間に回避行動を取ったっていうのか。こんなの凄いとかのレベルじゃない。もはやチートだ!


「残念だったね一之瀬君。これで・・・チェックメイトだ!!」


完全に態勢を崩した俺目掛けてディバイバルトは光の剣を突き出す。

今のこの態勢から立てなおせる確率・・・0%。今この瞬間に魔法を放ち防ぎきる確率・・・0%。


迫りくる剣を前に、俺はただ眺めていることしかできなかった。

まさに万事休す。ダメだ。もうなにもかもが間に合わない!?


ズズウウ・・・


「なっ!?」


な~んてね。


 光の剣は宙を切った。代わりに怪しくまとわりつくのは黒い霧。


「幻影・・・?はっ!?」


「残念、はずれ!」


剣を突き出したままのディバイバルトをよそ目に、俺は完全に背後をとる。

言っただろう。羽根はここぞという時にしか使わないって。


こんな戦いで、俺が使うはずがないじゃないか。


「今度はこっちがチェックメイトだ!!」


「くっ!?」


漆黒の鎌を振りかぶる俺に対し、ディバイバルトは無理やり体を反転させて一か八かの防御態勢を取る。

いやだからこの完全に死角をついた状態で、なぜそんな行動がとれるのかと。


でもまあ、もう勝負はついたし関係ないか。


「これは・・・まさか!」


おそらくなんとかその漆黒の刃を食い止めようと出した剣なのだろう。

剣を交差させ、必死の防御を固めるけれど。そこにあったのは衝撃でも痛みでもない。ただの真っ黒な霧。


「武器は、幻影・・・?」


「そう。影を出して以降、俺は最初から武器なんて持っていなかった。全部影たちに分け与えていたんだよ」


下手に光をまとうから気付かない。

お前はとっくの昔に俺の闇に圧倒されていた。ただ、それを光でうやむやにして自分で隠していただけだったんだ。


「そして、本当の狙いはこれさ!」


ガッ


もはや唖然として立ち尽くしてしまったディバイバルトの顔を、俺は右手で鷲掴みにする。そのまま全身全霊をかけて右手に気を集中させると、黒い霧をまといながらキラキラと黒光りし始めた。


「とっておきいくぜ。これを見れたことを冥土のみやげにでもするんだな」


「この気配は、まさか!」


「死を司るブラックドラゴンの名において命ずる。ここに冥界へと誘う黒き道を記したまえ!!」


そして闇が俺を、ディバイバルトを、全てを覆い尽くす。

これが俺の闇の結晶。今までの過去と現在が紡ぐこれぞ秘奥義。今回はこれを・・・、あー、そう。妹の伊集院さんに捧げる!


「いっぺん死んで出直してこいっ!」


「Good bye heavens《冥府への誘い》!!!」


「これは・・・神と称されし神獣のみがつかうことを許される、最上級魔法。天空魔・・・」


キュイイインン・・・シュバアアアッ!!!


俺の右手から一筋の巨大な黒い柱が天空へと昇った。いや、柱に見えるだけで実際は黒き光の結晶か。

俺の手にあったディバイバルトは消えた。その銀の髪の一本も、純白の羽根一つも残さずに天へとその存在は消えた。


あれは伊集院さん・・・俺の妹の偽りの身体。この世界には必要のないものだ。だから俺が天へと葬ってやったんだ。


「は、はは。初めてブラックドラゴンらしい戦いができ、た・・・」


ドサッ


俺は立っていられなくなって思わず膝をついた。

やべ、さすがに燃料切れだ。アスファルトについた手はまさに風前の灯。もういまにも消えてしまいそうなほど弱々しく点滅していた。


「さすがにあれほどの魔法。君ほどの力の持ち主でも限界かい?」


「なっ・・・お前」


 どこからともなく聞こえる倒したはずのディバイバルトの声。慌てて見上げてみるがそこには誰もいない。ただ、小さな光の粒が一つ二つ、ぷかぷかと浮かんでいた。


「心配するな。僕はもうさっきの攻撃で完全消滅してる。これはあらかじめここに残しておいた僕の痕跡。使うことはないと思ってたけど、倒されたときに最低限のことを伝えるために残しておいた保険さ」


「伝える・・・?」


「そう。確かに君は僕に勝利した。いや~完敗だよ。まさかこんなところであんな魔法が見られるなんて。あいつにとっては、いい誤算だったのかもしれないね」


「あいつ?あいつって誰だ」


「さあて。それは君が見つけないと。それよりもいいのかい?そんなところで座っていて」


「は?どうゆうことだ??」


「妹さん。君と戦う前から激しい魔力の消費をしていた。そして極めつけに僕は彼女の闇を具現したとはいえ、その際に大きく魔力をかっさらっているんだ」


「だからなにが言いたい?」


「君も自分の身で知っているんだろう。魔力を著しく消費すればどうなるかってこと」


「魔力の消費・・・。ま、まさか!!」


 俺は凄まじいけだるさに包まれた体を無理やり起こし、慌てて伊集院さんへと振り返った。






伊集院編は次回で終わりです。本当は今回で終えたかったんですがこんなに長文になっても終わりませんでしたwスイマセン・・・

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