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第十七話 夜の捜索~同じ感覚と募る違和感~

 俺達は暗く、そして月の光に照らされて幻想的な廊下を歩く。



出現するかもしれないターゲットを捜して。



時刻はもう9時をまわっている。生徒はもちろん先生方も、職員室で作業、というか仕事をしているのか、今のところ誰かいるという気配がしない。



俺達はただ、暗闇の先を目指して歩くだけだ。




 俺の前を歩いている玲は、暗いところが苦手らしく、強気を見せているが、少し体が震えている。やっぱり怖いんだろう。



それでも、玲は一歩一歩、確かに歩いている、前を向いている。なにか強い覚悟があるかのように。それがなんなのか、それは俺にはわからないことなんだろうけど。やっぱり玲は強い。おれなんかよりずっとずっと強い。俺は心からそう思った。



「しっかしだ~れもいないな」



健が声を上げる。確かに今のところなんら異常はない。雰囲気は変わっても、いつもと変わらない廊下。まあターゲットもそんな簡単に姿を現すとは思わないけど




なにか不自然すぎるほどに静かで、なにもない。




なにもないことに恐怖を感じる。一歩ずつ歩くごとに、心の中で恐怖が湧き上がってくる。一体なぜなんだろうか。





 そして俺達は、棟と棟をつなぐ渡り廊下にさしかかる。本来俺達が授業を受けている棟と文化部の棟は、少し離れているところにあり、その間をこの渡り廊下一本でつながれている。つまりこの渡り廊下を通らないと向こう側には行けない。




渡り廊下は中庭を挟んであるので、窓からは中庭にある噴水が見える。お昼時にはここで昼食をとる生徒も多いらしい。だけど夜の中庭もまた、幻想的な空間になっている。月の光が噴水の水を照らすその光景は、なんだか怪しい雰囲気をかもしだしている。



「ふう、本当になにもないな・・・」



俺がそう思いながら、渡り廊下の中ごろに差し掛かった時




「うっ!?」





突然胸に突き刺さるような感覚が俺を襲う。そしてその場にしゃがみこんだ。こんなこと、確か前にもあったような・・・そうだ、あのウィスパーを発見した時と同じ感覚だ。



「どうしたの蓮君!?」



玲がそんな俺に気付き駆け寄ってくる。




「どうした、なにがあった!?」



ほかのみんなも俺のところに集まってくる。



「いや、今なにかを感じた・・・胸に突き刺さるようななにかを・・・」



「ふむ。その感覚、前にもありませんでしたか??」



工藤が俺に問いかける。



「ああ、たしかあの時と、ウィスパーの時に感じたのと同じだ。ということは・・・」



「近くにターゲットがいる・・・ってことですね」



まだ確実ということはないのだが、前に同じことがあった時は、その気配を辿った先にターゲットがいた。確証はできないが、近くにターゲットがいる可能性が高い。



「おかしいですね。近くにいるというのに我々がまだその魔力を感知できないとは。それともあなたはそれとは違ったなにかを感知している・・・まあいいでしょう。それでは二手に分かれてターゲットを捜索しましょう。メンバーは昼の時と同じで。発見したらすぐにもう一方に知らせてください」



「OK、まかせろ!」



「私もそれでいいと思う」



「・・・問題ない」



工藤の言葉に、みんなが賛同する。



「蓮君はどうする?ここで休んでる??」



玲が心配そうに俺に尋ねてくる。



「いや、大丈夫だ。それに今は俺しかターゲットの気配を感知していないんだし、俺がいかないと・・・」



そして俺は立ち上がった。少しだけまだふらふらする。



「まあ、苦しいとは思いますが、よろしくお願いします。なにせ、そっちは一之瀬さん以外にターゲットと太刀打ちできる人がいませんので」



「なっ!?」



「それでは、よろしくお願いします」



そう言って工藤と伊集院さんは先に捜索を始めた。今この場にいるのは玲と健と俺だけ。



「くそっふざけやがって」



健が怒りをあらわす。たしかに今のはちょっと言いすぎだ。しかしなぜ工藤はあんなに健たちを挑発するようなことをするのだろうか。あいつは嫌がらせとかはしない奴ということはわかるんだが・・・考えてもわからない。



「落ち着きなさい健。忘れたの?あの時決めたこと」



「わかってるよ、くそっ」



「あの時って?」



俺は「あの時」という言葉が引っかかって二人に尋ねてみる。



「なんでもないのよ。さあ行きましょ」



そう行って二人は歩き出す。その時、俺はなにか疎外感を感じた。俺の知らないところで二人は俺とは違う覚悟を決めている。なぜだか、あの二人と俺の間に距離ができているような感じがした。




 

 

 それから、俺が感じる気配を頼りに俺達はターゲットを捜した。



いつもの校舎、いつもの教室、そしていつもの廊下。色々さがしてはみたがここだっというところは見つからなかった。



「くそっみつからねえな」



健が愚痴をこぼす。いや、なにか見つからないことに苛立っているような気がする。なぜだろう、今日のこの二人はいつもと違う。見た目はなにも変わってないのに、なにかが違う。そのなにかが俺にはわからない。だけど今日の二人は・・・なにかを焦っている?



「まあそんな簡単に見つからないわよね」



ウィスパーの時は、気配を辿れば見つけることができたのだが、今回はいろんなところにその気配が分散していて、確実なところを発見できない。やはり工藤のいうとおり相当手慣れているターゲットのようだ。




 そして、俺達は廊下を抜け、玄関にさしかかった時



「くっ!まただこの感覚・・・」



またなにかを感じた。さきほどよりもずっと強い。



「なにっ。ということはこの近く・・・」



「そうなると怪しいのは前庭ね」



この玄関の先には前庭しかない。その先はもう門が閉じられていて、外にでることはできない。むやみにこじ開けようとすれば警報がなる仕組みになっている。そのため、残っている先生方は裏口から外に出ることになっている。



つまり一番怪しいのは前庭



「よし、行くぞ!」



そして俺達は前庭を目指した。




 


 

 前庭には色々な木々や草花が植えられている。特に、中央にそびえる相当な樹齢だと思われる巨大な木は、一つの学校の名物になっている。最初にそれを見たときはあまりの雄大さに見とれていたが、今はそれを見ている暇はない。今はターゲットを捜さないと。



俺達はそれぞれ前庭を捜した。やはりここは気配が濃い。確かにここになにかがいる。




そして俺が前庭にあるその一本の巨大な木の下を通りかかった時



「まだやってるのか?そんなヒーローごっこ」



「え?」



突然聞いたことのない声がした。今のは・・・



「こっちだよ、ブラックドラゴンさん」



また聞こえた。これは気のせいじゃない。声は上から聞こえる。そして俺が上に視線を向けるとそこには




「なぜお前はなにも知らないままそんなことをやってるんだ?」




俺に挑発するような目で視線を送りながら話す蒼い瞳の大きな獅子がいた。







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