プロローグⅡ~フェンリルの落日~
俺の名前はフェンリル。竜族の王を父に持つブラックドラゴンだ。年は大体人間でいうと中学生ぐらいだ。ぐらいというのは竜族は基本的にほぼ不死であるからだ。長い年月を生きるので幼年期時代は人間よりも非常に遅く成長する。大人のドラゴンになると、成長はせずその体系を永久に保つ。大人のドラゴンはもちろん強いが幼年期のドラゴンはまだ魔力が不安定で精神ももろい。
後、[ほぼ]不死というのは俺達竜族は基本的には死なないのだが一つだけそれにあてはまらないものがある。それは、バーサーク状態、つまり暴走状態になった時だ。
俺たち、竜族は膨大な魔力を駆使し、体系を維持する。また、自分の周りにみえない結界をはっているので敵からの攻撃も受け付けない。だが、バーサーク状態になると自分の持つ魔力を全て解き放つため、結界をはれず、その時に攻撃を受けると俺達竜族でも死んでしまう。
もっとも、バーサーク状態になると結界をはれないうんぬんよりも圧倒的な魔力で暴走し、破壊のかぎりをつくすのでどちらかというと暴走したドラゴンよりもそこにいるほかのやつらが死ぬんだけど・・・
バーサーク状態には滅多にならない。いや、ないに等しい。けれどなにかふとしたきっかけで起きてしまうことがある。いってみれば事故のようなものだ。きっかけというのは、怒り、悲しみ、そして憎しみ。そういったことが合わさると暴走することがある。俺達ドラゴンは、身体的能力は優れているが、心は人間達とかわらない。強く、そしてもろいものだ。
人間界の王メリルと竜族の王シリウスが契約し竜族が人間たちに、仕えるようになって数百年がすぎた。魔族もそれ以来この世界にあらわれていない。俺達竜族は、人間の体に変身し、人間たちとともに共存するようになった。人間達もそれを受け入れ、平和な日々を送っていた。この平和がいつまでも続くものだと誰もが思っていた。
竜族の王を父に持つ俺も、ほかのやつらと同じように人間に変身し、共に暮らしていた。人間たちと暮らす生活、それは別に嫌ではなかった。
そんな中、俺は一人の少女に恋心を抱いていた。少女の名前はユウナ。気さくで誰に対しても優しく接しほかのやつらからも慕われている子だった。
彼女はドラゴンである俺に対しても優しく接してくれた。基本的に竜族は人と比にならないほど身体能力に優れているので結構敬遠されがちだったが彼女は違った。
一緒に遊んでいるうちに俺は彼女の魅力に魅かれていった。ユウナと遊んでいるととても楽しかった。ずっとこんな日々が続いてほしかった。だけど事件は唐突に起きた。
人間たちは、最初は竜族を受け入れていたが繁栄するにつれ、竜族を邪魔な存在に思っていくようになった。魔族との争いの時と同じだ。人間は歴史からなにも学習しない。歴史は繰り返されるのだ。
次第に竜族を滅ぼそうとするやつらがでてきた。
だがそのためには竜族の王であるシリウスを倒さなければならない。シリウスに人間が敵うわけがない。だが倒さなければその野望は実現しない。
そう思い人間たちはドラゴンを研究し始めた。まだ幼い竜族の子供を生け捕りにし、研究材料に使った。
そして、バーサーク状態のことを人間たちは知ってしまった。シリウスをバーサーク状態にすれば攻撃が効く。だがわかったのはそれだけでそれが暴走だということを人間たちは知らなかった。
バーサーク状態にするには怒り、悲しみ、憎しみ、そういった感情をあたえればいい。その感情をどうやってシリウスにあたえるか。人間たちは考えた。そして結論をだした。
「シリウスの子供であるフェンリルを殺す」
そのためにはフェンリルをバーサーク状態にする必要がある。そのためやつらは俺を監視しだした。
そして、ユウナの存在を突き止める。あの少女を殺せばフェンリルはバーサーク状態になる。
そういう結論をだした。そして、事件は起こった。
まだ寒さが残る三月。その日はとても気持ちの良い晴れの天気だった。その日も俺はユウナと遊ぼうと思いユウナの家にむかった。自分の家を出るとき、普段ほとんど家にいない父さんが帰ってきた。
「あれ父さん?」
「おう、フェンリルか。いまからお出かけか?」
「うんちょっと友達と遊びに行ってくる」
そういうと父さんがまた声をだした。
「そうか。気をつけていってこい。だけどいいか、なにかあったらすぐに父さんを呼べ、いいな、約束だぞ」
いつもとはちがう口調で俺に話しかけた。
「え、あ、うんわかったよ」
突然どうしたんだろう。その時はわからなかったけど、後から思えばそれはとても重大な言葉だった。
ユウナの家に着くとそこには泣き崩れたユウナの母の姿があった。
「どうしたんですか?」
俺はその状況に少しためらいがあったが、勇気をだしてきいてみた。ただごとではないことはわかっていた。
「ユウナが昨日遊びに出かけてからもどってないの。それでお父さんが仲間とともに探しにいったんだけどお父さんたちも消えてしまったの」
そういってまた泣き崩れた。そこまでいうのが限界だったのだろう。
「昨日・・・」
昨日も俺はユウナと夕方まで遊んでいた。たしか村からちょっと離れたところにある湖に行っていた。いつもとかわらずまた明日、といって別れた。それからユウナの身になにかあったということだ。
「俺、さがしてきます。必ずみつけて一緒に帰ってきます。」
そう言ってユウナの家を後にした。嫌な予感がした。その気持ちを必死に抑えながら全力で湖まではしった。
湖に着いた。そこには誰もいなかった。
「くそっ」
俺は必死にユウナを探した。必死にさがしていたから背後からだれかが近づいていることに気づかなかった。
「君がフェンリル君だね」
突然背後から声をかけられた。
知らないおじさんだった。
「そうですけど・・・」
そう答えると突然目の前にまた知らない人が数人あらわれた。
「すまないね。少し付き合ってもらえるかな」
背後にいるおじさんはにこにこしながら声をかけてきた。どう考えても怪しい。
「すみません。僕いまそれどころじゃ・・・うわ!!」
突然意識を失った。
気がつくとそこは暗いほこらの中だった。
「ここは・・・?」
起き上がり見渡すと
「わあ!!」
そこには無造作に死体が積まれていた。その中にユウナのお父さんの姿もあった。
「おとなしくしないと、君もそうなってしまうよ」
「!」
振り返るとさっきのおじさんがいた。気付くと、俺は縛られていた。
「お前たちのしわざなのか!!」
俺は叫んだ。体は恐怖にふるえていた。
「私の名前はブラット。しかたなかったのさ、計画を邪魔してきたのだから。君もおかしなことをすれば死ぬよ」
ブラットは不敵な笑みを浮かべていた。
「っユウナはどこだ!!」
俺は今にも泣きだしそうになったが必死にブラットに叫んだ。
「君の目の前にいるよ」
「!」
おじさんの後ろをみるとユウナがとらえられていた。まだ生きていた。だが意識はほとんどないようだった。
「ユウナ!!」
俺は全力で叫んだ。
それが聞こえたからか、それとも俺の姿を見たからかはよくわからないけど、ユウナは俺の存在に気付いた。
「フェ・・ン・リル?」
「そうだ、俺だ、フェンリルだ!!今助ける!!」
そう叫ぶとおじさんは高らかに笑った。
「残念だなあ。その望みはかなえられないよ」
ブラットはそういうとユウナに近づいて行った。
「ユウナに何をする気だ!!」
俺は怒りの声でさけんだ。
「なにって、殺すのさ。この娘をいけにえにささげて竜族を滅ぼす一歩にするのさ」
「やめろ!!ユウナを殺さないでくれ。お願いだ」
「その願いはかなえられないよ」
そういうとユウナに刀を向けた。
「最後にいうことはないかな。ユウナ君」
ブラットはユウナに刀をもちながら語りかけた。
「フェ・ン・・リ・ル・・・逃・げ・・て」
「ユウナ、なにいってんだ、俺が助ける。そこで待ってろ!!」
必死にもがくが縛られている鎖がはずれない。
「もういいかなユウナ君。それでは我らが計画のためにいけにえとなってくれ!!」
「やめろーーーーーー!!」
「さ・・よう・・・な・・・・ら」
そういって俺に笑顔をむけた直後、ブラットが刀を振りぬいた。
「ユウナーーーーー!!」
ユウナは死んだ。
俺の目の前で
なにもユウナに罪はないのに・・・ユウナ・・・ユウナ・・・
あいつのせいで・・・あいつのせいでユウナは殺された!!
突如とてつもない怒りが湧いてきた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
もう俺は自分を見失っていた。
「やっとバーサーク状態になったか。全く世話を掛けさせる。さあ、野郎ども、狩りのはじまりだ!!」
ブラットは仲間に叫んだが、仲間は動かない。
「なにをやってるんだ。このチャンスを逃すな!!」
「いや・・・でも隊長、あれは・・・」
「ん?」
振り返るとそこには怒り狂った巨大な漆黒の竜がいた。黒い翼、赤い瞳。
さきほどまでの少年の姿はない。
「こ・・・れ・・は・・・」
「よくも・・・よくもユウナを殺したな!!人間共がよくも!!死ねえええええええ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
漆黒の巨竜は一瞬にして魔法でブラットの仲間たちを消し去った。
「許さん!!許さんぞーーーー!!」
漆黒の巨竜はブラットに視線をむけた。
「やめろ・・・やめてくれ、わるかった、俺がわるかった。なんでもする、頼む殺さないでくれーーーーー!!」
ブラットは必死に巨竜に叫ぶが
「許す?このわたしがか??笑わせるな。人間共など全て消えてしまえ!!」
そういうと一瞬でブラットを消し去った。だが、暴走は止まらない。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
漆黒の巨竜は、村まで飛んだ。
「死ねぇぇぇぇ!!人間共など全て消えろ!!」
その後、漆黒の巨竜は、破壊のかぎりをつくした。女も子供も、そこにいる全ての人間を消し去った。
やがて、その暴走はシリウスとそのほかのドラゴンによって沈められた。しかし、被害は甚大なものだった。近辺の村や町などはすべて破壊された。人々はこのできごとをフェンリルの落日と呼んだ。
少年は眠った。深い深い眠りについた。その村ですごした記憶、ユウナとの思い出、そしてバーサーク状態になったことも全てシリウスが一つの箱に封印した。
「いずれの日かあける時がくるだろう。その時までこの箱は厳重に保管しろ」
「わかりました」
フェンリルは眠った、長い長い年月を。
そして目覚める。
目をあけるとそこには、優しい眼差しで見つめる父の姿があった。
ここからようやく本編につながっていきます。予想以上に長いプロローグになってしまいました。スイマセン(> <)