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第百九十六話 俺が今やるべきこと~真実が伝える道筋~

お待たせしました。だいぶ空いてしまいましたが久しぶりの更新です。これからまた間隔が空くことがあるかもしれませんが、ここまで空くことは少ないと思いますのでまたよろしくお願いしますm(_ _)m


「そう、か・・・」


 小さくつぶやいた言葉が、無情にも降りしきる雨に溶けていく。

わかっていた。わざわざ手紙という形で俺を呼び出し、更にはイチゴオーレを使って誘導までして。


なにか重要なことを、大切なことを伊集院さんは俺へ伝えようとしている。それがわかるぐらいの頭脳は俺もかろうじて持っていたさ。


「そう、だったんだな・・・」


だけど・・・。なんでなんだよ。

待っていたものが、伝えようとしていたことが「兄妹」ということなんて。桜吹雪舞う4月の出会いでもなく、夏の海での墓参りでもなく、秋の体育祭でもなく、そして冬のクリスマスイヴでのデートでもなく。どうして今ここで・・・。


やばい。体全身の震えが止まらない。

自らの感情を表すような、自分の皮膚に指が食い込んで血が滲み出すほど強く握られた拳。


それは悲しみじゃない。驚きじゃない動揺じゃない。

ただひたすらに、自分に怒りを覚えていた。自分に腹が立ってしょうがなかった。


伊集院さんはずっと見続けていたのに。俺、は・・・


「・・・そんなに自分を責めなくていいの。今だから言えるけど、私はずっとあなたを殺そうとしていた」


「え?」


「いいえ、殺してしまいたかったの。そうすればもう迷わなくていい。苦しまなくていい。今考えれば、それは私の強さではなく弱さだった」


「早く結末を迎えて、早く終わりたい。・・・そんな私の自己中」


自己中。紅き眼光を放ち続ける少女はそう言った。

自己中??どこがだよ。ずっと重たすぎるモノを背負い続けて、殺したいほど苦しみ続けて。はやくそれから解放されたいと思うことのどこが自己中なんだ?。


失礼かもしれないけど普段の伊集院さんからしたら、なんて人間味のある言葉。

それを自己中なんて言う奴がいたら今すぐ俺の前に出てこい。


即効・・・影も残さずぶっとばしてやるから。


「でも伊集院さん・・・。それならなんで」


「試したかったの」


「試す?」


「そう。あなたが、私が心から愛していた母の死に値する存在であるかを、私は見極めたかった」


「っ・・・」


その言葉を聞いた瞬間、鼓動が一つ大きく跳ね上がった。

ずっと、あの出会いからずっと俺は試されていた。ただのうのうとくつろいでいた時も、健達と駄弁っている時も、そして戦闘の時でも。


・・・ああそうか。この手も、足も、顔も、頭も。なにもかもが伊集院さんのお母さん、そして俺の母親の命によって紡がれていたってことだったんだ。


ダメだ。壮絶すぎて言葉にできない。


「でも、もういいの」


「え?」


「もう、いいの。あなたは、やっぱり・・・私」


バシャッ


「伊集院さん!?」


突然、音も立てず白き存在は崩れ落ちる。

飛び散る水しぶき。乱れる銀の髪。俺はその瞬間なにも考えず、ただ雨で濡れたアスファルトに横たわる伊集院さんの元へと全力で走り出していた。


「伊集院さん!おい、伊集院さん!!」


「・・・・・・」


体を大きくゆすってみるが反応がまるでない。そしてなにより息をしていないっ!完全に力が抜けきった体は氷のように冷たくて、雨のせいで服はぐしょぐしょにくたびれきっていた。


嘘・・・だろ?これじゃあまるで、まるで・・・!


「死んだように、見えるかい?」


「なっ!?」


・・・今俺が見たものを、そのまま説明しようか。

いきなり聞こえた声に振り向くと、そこには・・・そこにはなぜか銀髪の髪をたなびかせる少女。もう一人の「伊集院さん」の姿があった。


いや、伊集院さんは確かにここに横たわっているはず。

なんだこれ。なにがどうなってやがる!


「いや~ようやく解放されたよ。彼女、もう随分と弱ってたから楽勝かな~と思ったら、ガードの固いこと固いこと。おかげでこんなに時間がかかっちゃったよ」


なんだ、こいつ。姿は確かに伊集院さんだ。紅い目もそのままだ。

けれどその口調はまるで違う。それに雰囲気も。これが、伊集院さんとは別のなにかだと気付くのにこんなに容易いことはなかった。


しかも襲い来るこの異様な寒気。ずっと冷たい雨に濡れっぱなしだったってのもあるけれど、これはそれとは違う。

待て、この感覚は・・・まさか。


「ターゲット・・・」


「ご名答。よくわかったね。さすがは竜王の息子、といったところなのかな」


不気味に吊り上る口元。そして俺を見下ろすその眼には、負けることなどありえないといった余裕と、この状況をまるで楽しんでいるかのような含みがあった。


「僕の名前はディバイバルト。そして僕の能力は存在の悪・・・憎しみや怒りなどだけを抜き取り新たに存在を構築する力」


「憎しみや、怒り・・・」


「そう。この姿はそこに居る彼女さんの悪が具現した姿さ。どうだい、醜いだろう?この剣は、この体は、もう誰かを殺したいという欲求だけに満たされている」


「そして特に君を、この体は殺したいと願っているようだ!」


ブワアア!


目の前に純白の羽根が舞う。そして同時にディバイバルトの背に伊集院さんと同じ、大きな大きな純白の羽根が二本応えるように生えていた。


伊集院さんと同じも何も、それが伊集院さんそのものなんだから当たり前か。

にしてもなんて自信なんだ。別に俺が聞いたわけでもないのに、わざわざ自分から自らの能力を明かすなんて。


敗北なんてまるで考えてない。実際普通なら敵いっこない。

でも、今の俺には悪だろうとなんとかついていけるだけの力が・・・


「って・・・あっ!?」


手のひらを一度グーにしてようやくその事実に気付く。

剣が、ない。慌てて後ろを振り向くと、そこにはアスファルトの上に無造作に転がりながら雨に打ち付けられる漆黒の剣の姿が。


しまった。倒れた伊集院さんの元へ駆けつけた際に置いてきてしまったんだ。なんつう失態を、しかもこのタイミングで。


「くそっ!」


俺は素早くしゃがみこんだまま足に力を集中させていわばクラウチングスタートを取ると、一気に力を爆発させて剣の元へと駈け出した。


「おっと、それはちょっと虫が良すぎるんじゃないのかい?」


「!!」


けれどそんなみえみえの行動が通用するはずもなく。

俺が第一歩を踏み出した瞬間にディバイバルトは待ってましたとばかりに足払いをかけ、見事に出鼻をくじかれた俺は無残にも水たまりができた地面に倒れこんでしまう。


「ぐっ。く、くそっ・・・がっ!?」


グシャッ!


倒れながら必死に伸ばそうとした俺の手を、ディバイバルトは上から思いっきり靴で踏んずけてそのままぐりぐりと強く固い地面に押し込む。


全身に激しく伝わる鈍痛。

踏まれているはずの手の方は、もう痛すぎて限界を超えたせいかだんだん痛みがなくなってきていた。


それでも、少しずつ手から流れ出してくる血が雨水と重なり水たまりを徐々に赤く濁らせていく。


「甘いんだよ。けど、その無様な姿は実に滑稽だな」


「ぐっ・・・くはっ!」


「苦しめ。もっと苦しめ。お前はこの娘の闇に殺されるんだ。闇が闇に殺される。こんなにも清々しい光景は・・・存在しないだろっ!」


ガッ!!


「ぐぼっ!?」


ディバイバルトは足を手から離すと、今度は腹を横から思いっきり蹴り込んだ。

途端にまるでゴムまりのように跳ね上がる体。宙を綺麗な放物線を描きながら飛んでいくと、今度は激しく地面に叩きつけられ何度も何度も雨で濡れたアスファルトを無造作に転がっていった。


「くっ・・・くは!」


バシャッ


むせかえるような嘔吐感と息苦しさに耐えながら、俺はなんの意味もなく精一杯の力を振り絞って仰向けになって寝ころぶ。

・・・はあ、とうとう痛みも冷たさもなにも感じなくなっちまった。


このどす黒い雲から、絶えず雨は顔を打ち付けているはずなのに。目の前が徐々にぼやけて揺らいでいく。全身に力が微塵も入らない。


もはや今の俺は、生き物というより「モノ」に近い存在だった。


「うっ・・・っ、ぁ・・・」


無意識なのか、口が勝手に上下するもなんの言葉にもなってくれない。

眠たい。どうしようもないぐらいに眠たい。自分でもわかるぐらいに徐々に下がろうとする瞼を、俺はどうすることもできない。


ああ・・・もしかして俺、死ぬのかな。それとも前半に飛ばしすぎて単に疲労がたまりまくってるだけなのか。


少しだけ、少しだけ休もうか。ふと俺の中の俺の一人がささやく。

ちょっとだけなら、いいか。そんなささやきに、俺はそっと身を委ねて・・・


「守るべきものを、見失わないでフェンリル」


「ハッ!?」


突然鳴り響いた声に、俺の脳内回路は凄まじいスピードで繋がる。

今の声、どこかで。記憶を必死に辿っていくうちに、いつのまにか体の神経の一つ一つが活動を再開していっていた。


「なに、やってんだ俺・・・」


空虚に消える一つの呟き。

お前は少女の苦しみを背負ったことがあるか。殺したいほどの憎しみを背負ったことがあるか。


そして少女の、小さな小さな、でもこれ以上ない希望と期待に。応えたことがあるか?


・・・いや違う。応えるもなにも気付きさえしなかった。でも今は、遅くなったけどそれに気づけている。だからこそ、俺は


その光に、応えてみせる。


この命は、俺だけのものじゃないんだっ!


「闇よ、俺の漆黒の闇よ。今こそ俺に、力を貸してくれ」


俺はそっと目を閉じる。そして頭の中に描くのは一冊の魔法書。

まただ。またここに新たな文字が刻まれていること、そしてそれがこの先の道を歩くための力となることを俺はもう知っている。


連なる白紙のページ。そして通り過ぎる第一の力である全てを無に帰する魔法。第二の力である存在を解析分析する魔法。


そして次のページ。そこには眩く光輝きながら新たに文字が刻まれていた。

・・・これが、第三の力。過去へ飛び、失っていた大切なモノを再び手にし、その末に刻まれた新たな力。


俺はその力を、守るためにつかう。


そして今は、伊集院さんを守るためにつかう!


「堕天使化・・・発動」


ピキーンッ!!


 そして今ここから始まる俺の本当の戦い。


「俺の本気を・・・みせてやる」


それが俺達の未来へと繋がることを、心から願いながら俺は拳を強く握りなおした。






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