第百九十四話 戦う白と黒~世界を彩る二つの色~
※今回の話はだいぶ長くなってしまいました&更新がめちゃめちゃ遅れました。スミマセン><
蓮Side
ピキーンッ!
激しい雨が打ち付ける中で、響き渡るは刃と刃がぶつかる音。
ピキピキピキーンッ!!
一度ぶつかる度に幾つもの火花が飛び散り、降り注ぐ雨を切り裂く度に水しぶきをあげ、そしてそれが超高速で何度も繰り返される戦い。
(速い・・・っ!)
なんなんだこれは?速すぎとかそういう問題じゃない。
伊集院さんのその両手に持った光の刃から放たれる攻撃ははっきりいって目にさえ映すことが難しいほど。
圧倒的な勢いで叩き潰す正確無比な剣筋。今になってわかる、こんなもん太刀打ちできるもんじゃないってことが。一撃一撃がまた怖いぐらいに重たくて常に全力じゃないと俺の剣は今にも吹き飛ばされそうで・・・
まさに反則級。チート級。どう考えても人知を超えた力。
(・・・くそっ)
だけど、それが逆の意味で今は問題。
(なんで・・・なんで俺ついていけてるんだ?)
そんな有り得ないスピードとパワーの攻撃に、反応できてる俺。
自分の体なのに自分がわからない。こんなの初めてだ。確かにいつぞやの戦闘で、神経を研ぎ澄まし外から伊集院さんの攻撃を見ることはできていたけれど。
(・・・見えるっ!)
今はそんなの飛び越して、あの伊集院さんと互角に戦えている。いや、それ以上かもしれないほどの力が体全体から溢れ出している気がした。
・・・なんで?
「・・・っ」
(モーションが大きい!)
どれだけ畳み込んでもひるまない俺に苛立ってか、伊集院さんの片方の振りかぶりが珍しく若干大降りになる。
本当に一瞬で僅か。だけど今の俺の眼にはそれが鮮明に映って見逃さない。
「うおりゃああっ!」
「っ!!」
ガキーンッ!
俺は強く踏み込むと渾身の力を込めた一撃をその大降りになった剣目掛けて切り上げる。
手元に響く重い鈍痛と手応え。けれど片手に対し両手に腰まで入れた俺の一撃は伊集院さんの片方の剣を大きく吹き飛ばした。
あの伊集院さんの剣を一本弾き飛ばすなんて・・・
本当に、俺は一体どうしたっていうんだろう。
「・・・ふっ!」
しかしそれでひるむ伊集院さんではない。
弾かれた反動を利用して素早く一回転すると、伊集院さんはすかさず俺へ向けてもう一本の剣を突き刺す。
「でやああっ!」
だけどそれすらも俺は予測していて。
振り切った剣を戻さずにそのまま同じように一回転。そして回転の遠心力を利用してそのまま伊集院さんへと漆黒の刃を突き刺した。
傍から見たらほとんど変わらない動き。もはや剣舞のような太刀筋。
ピシュッ
そして交差した光と漆黒の剣。
俺の剣は伊集院さんの肩を、伊集院さんの剣は俺の頬をかすめ互いにそこから赤い液体を雨降る屋上に散らしていく。
なぜだろう。俺の眼には伊集院さんの肩を自分の剣がかすめる瞬間が凄くスローモーションのように映って。
同時に赤い液体は粒となり雨と一緒に地面へと落ちていった。
ズザーッ
「はあ、はあ、はあ・・・」
「・・・・・・」
踏み込んだ勢いのまま、俺達は一度大きく距離をおいた。
俺は少し荒目の息を、伊集院さんは相変わらずの無表情だったけどよく見ればわずかに肩を上下に動かして呼吸していた。
これまでの戦いがどれだけ激しかったか、嫌でもわかってしまうな。
「・・・くそっ、どういうことだよこれは!」
そしてそんなことよりも今問題なのはこちら。
誰かわかるやつが居たら真面目に俺に教えてくれ。
いつのまにか剣に描かれた赤い竜の紋様は眩しく不気味な光を放っているし、そしてどこから現れたのか黒い霧のようなものが自分の体中から溢れてきやがるし。
俺はなにも魔法を唱えてないし唱えられもしない。なのになんなんだこれは??
よく見れば、目の前に居る伊集院さんからは対照的に神々しい光が全身から放たれているけど・・・
このみなぎる力の正体は、一体なんだ?
玲Side
「相乗効果・・・とでもいいましょうか」
相対する二人の姿を眺めながら、いつもとなにも変わらないいたって冷静な工藤君が私達に向けて語りだす。
「光属性と闇属性。この二つの属性は非常に特殊であり、その特性もほかとは違うものがあります。その中でも最も代表的なものを、知っていますか?」
「・・・光は闇を照らし、闇は光を呑み込む」
「そうです。そして双方は一方が強い力であればあるほど、それを凌ごうとする性質も持ち合わせています」
「闇が深ければ深いほどに、光は強く照らし出そうとする。光が眩しければ眩しいほどに、闇はそれを強く呑み込もうとする・・・ってね」
雨降る屋上に互いに剣を持ちながら立つ二人。
伊集院さんから強い魔力を感じるのはいつも、というより当然のことだけど。蓮君からも感じる強大な力は今まで感じたことがほとんどない感触だった。
以前、いや今まで感じたことがあったのはあのフェンリルという人物からだけど・・・
「蓮君・・・」
だけど目の前に居るのは間違いなく私たちのよく知る蓮君。
工藤君の言っていた通り。今、蓮君は伊集院さんの魔力により秘められた力の一端を引き出されている状態。
以前の私がこの光景を目の当たりにしたら、もしかしたら今のあなたの姿に恐怖を抱いていたかもしれないね。
「・・・・・・」
「心配か?あいつらが」
「そんなわけ・・・なんて言えないわね。今戦っている二人はどっちも私、私たちにとって大切な仲間。そんな仲間同士が戦っている姿なんて、みたくない」
「・・・そうだな」
前を見つめながら静かに手を伸ばす健。
その先にあるのは屋上のドアを開いてすぐの入り口。なにもない空間のはずなのに、その手が触れると空間が波打って押し返されてくる。
多分伊集院さんが張った結界によるものなんだろう。現状、目の前の景色を見ることができても私たちが中へ踏み入ることはできない状態だった。
・・・それが、余計に辛い。
たとえ中へ入れたとしても、あの戦いの渦に入れるわけないんだけど。
「でもさ、こればっかりはあの二人がどうにかしないといけないことだからな。なにせ、「俺達の終わりであり始まり」なんだから」
「あの二人が「あの日」を乗り越えたとき、きっと俺達はまた前へ進める。だろ?玲」
「・・・そうね」
健の問いかけに、私は一つ頷いて答える。
気のせいか、健の眼はすごく澄んでいて綺麗だった。ううん、やっぱり気のせいじゃない。その眼には恐れも不安も何もなくて。
いつからこんな眼をするようになったんだろう。それともずっと前からだったのかな。
あの二人を信頼している。だからこそそうやってただ信じて見守ることができているんだよね。
やっぱり、あの二人のおかげなのかな。こうやってここに立っていられるのも。
「蓮君、有希・・・頑張って」
「まあもうあの事実を知らないのは彼だけでしょうからね」
「やっと・・・来たるべき時がきましたか」
蓮Side
「剣を・・・構えなさい」
「え・・・?」
動揺する俺を現実へと呼び覚ますように響いたのは低くこもった伊集院さんの声。
「なにを動揺しているの?それが本来のあなたの力」
「これが俺の・・・力?」
「そう。比類なき闇の力を操る漆黒の巨竜、ブラックドラゴンの力。さあ構えなさい。そして戦いなさい」
「私は本気でいく。私は、こうしてあなたと戦えることをずっと願っていたのだから」
「え、それって・・・」
俺が言いかけた瞬間、伊集院さんはスッと剣を上へ掲げ間髪入れずに詠唱を始めていた。
「我願う。ここに正義の剣を具現し、魂に宿りし罪深き悪を切り裂き正しき道を切り開く刃を与えん・・・」
「Holy pioneer juge sword・・・」
ピキーンッ、キュウオオオ!!
詠唱を終えると同時に、掲げた剣から激しい閃光が走って一気に高く刃が伸びていく。
初っ端からなんてパワー。うなりをあげながら周りのモノ、空気さえも根こそぎもっていってどんどんその威力を増大させていっている。
「・・・くる」
俺はその光景を前に、息をのみながらとりあえず剣を構えて足を踏み込む。
が、正直あんなもの飛ばされたら抑えられるはずもない。てか死ぬ。いくら力があってもあんな強力な魔法がきたら防ごうにも防げないだろ。
「・・・いくぞ」
「くっ」
伊集院さんの紅く光る眼がギロッと向けられる。
本気の眼だ。あれはよくある戦いを楽しんでるとかそういうのじゃない。
真面目に、本気で俺を殺そうとしている眼。くそっ、どうすりゃいい!?
「我願う。正義は偽善に、魂に宿りし偽りの希望を打ち砕く闇に生きる漆黒の刃を
与えん・・・」
(えっ、ちょっと待てなんだ??)
その時、一瞬頭の中が真っ白になる。
そりゃそうだ。今俺、詠唱してる。それも俺自身はなにも考えず、聞いたこともない魔法を勝手にこの口が喋っているんだから。
しかもなんだ。両手が剣を勝手に上へ持ち上げていく??
「Dark resignation of sword・・・」
(なんで俺、こんな魔法唱えられてるんだ!?)
もう訳が分からない。頭ははっきりしているのに体のコントロールが全く利かない。
「・・・ふんっ!」 「せやあああっ!!」
シュバアアッ!!
そしてそのまま同時に放たれる巨大な光の刃と漆黒の刃。
生成された二つの刃はこの場を空気さえも切り裂くように三日月形となって一直線に飛んでいって・・・
バシュッ、キインンン・・・!!
二つの刃が合わさった瞬間炸裂し、それと同時に激しい風が辺りに吹き荒れて草木を押し倒していった。
しかも爆発が起きたり火花が散るんじゃない。今、強い耳鳴りと共に起きたのは見たこともない「空間の揺らぎ」。
(な、なんて破壊力なんだ・・・)
うった本人が一番驚いているこの状況。それほどまでの破壊力。
けれど、意外にももう一人驚いている人物が居て
「・・・ふせいだ?」
肩をわずかに上下させながら伊集院さんが呟く。
多分無意識なんだろう。その顔には珍しく驚きの色が見えていた。
(見えたといえば・・・さっきの)
そういえば、さっきの空間の揺らぎの際。なにかが見え隠れしたような・・・?
「聖なる光は駆ける、貫くは漆黒に染まりし邪悪なる影。今ここに解き放たん閃光の魔槍・・・」
「邪悪なる闇は広がる、呑み込むは輝かしき聖なる光。今ここに解き放たん漆黒なる魔槍・・・」
そして、俺の意識なんてものは置いてけぼりにして再び詠唱が始まる。
もはやなにもかもが未知数。今度は互いに片方の手のひらを空へ掲げると、それに集まっていくようにして黒い霧、そして神々しい光が渦を巻いて収縮してしていく。
「Holy unconquerable lance・・・」 「Dark conquest lance・・・」
やがて出来上がる、ひらひらと尾をなびかせる巨大な二つの槍をその手につかみ、そのまま互いに振りかぶって思いっきり投げ込んだ。
「ふんっ」 「どりゃああっ!!」
バシュッ、キインンン・・・!!
(またこの展開かよ・・・!)
二つの槍が重なりあった瞬間、炸裂しさっきと同じように空間の歪みと共に強い耳鳴りと激しい風が屋上に吹き荒れた。
続けざまにこの威力。正直よく平然と立っていられると自分に自分が一番驚いてるよ。
(・・・やっぱりなにか映ってる?)
そしてもう一つの疑問。
最初の時にも思ったけど。攻撃と攻撃がぶつかった瞬間、空間の歪みの中になにかが見え隠れしてるような気がするんだけど・・・。こう、こことは違う景色のような。
「聖なる加護は我にあり。ここに・・・」 「邪悪なる支配は我にあり。ここに・・・」
(またかよ!)
しかし俺に考える暇も与えずに再び勝手に始まる詠唱。
バシュッ、キインンン・・・!!
そしてまた引き起こる空間の歪みと耳鳴り。
「ここに具現せよ。正義なる一撃は闇を・・・」 「ここに具現せよ。邪悪なる一撃は光を・・・」
バシュッ、キインンン・・・!!
「光よ・・・!」 「闇よ・・・!」
バシュッ、キインンン・・・!! バシュッ、キインンン・・・!! キインンン・・・!!キインンン・・・!!
それから何回互いに魔法をうっただろうか。最初こそ数えられてたけど打ち続ける破壊力ありすぎの魔法のせいで数字がどこかへ吹き飛んでしまった。
それなのに尽きることを知らない自分の魔力。そして伊集院さんの魔力。
・・・なんだろうこの違和感。この魔法の一撃一撃は決して無駄じゃない。むしろすべてに意味が通っているような感覚。
(間違いない。あそこになにかが映ってる!)
そしてそれがその答えなのか。
魔法同士がぶつかる度にできる空間の歪みに確かになにかの映像が映っている。それも誰か人が映っている映像が少しずつはっきりと見えてくる。
くそっ、声は出せないのか。なら考えろ俺。頭の中しか制御できないのなら、全力で考えて今伊集院さんが向かおうとしている先を知るんだ。
そこに・・・答えはあるはずなんだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・こんな時が来ることなんてわかってたはずなのに。どうしてこんなにも悲しい響きになるの?」
「いえ、どうしてこんなにも時間がかかったのかが、問題」
「でも、もうそれもこれで最後・・・」
「なにもかもが、最後」
徐々に肩の上下を大きくしながらも無表情を貫いていた伊集院さんが目をつむる。
今まで不気味に赤く光っていた眼を閉じたその姿は、なぜか淡く優しい安らぎに満ちていた。
(なにかが・・・来る!)
一気に辺りの雰囲気が変わっていくってのに、いまだ意識だけの俺。
これじゃあまるでただの見物人。目の前の光景を観賞してるだけじゃないか。
・・・待て。見てる、だけ?
「天使化・・・発動」
ピキーンッ!!
伊集院さんの言葉に反応して激しい閃光と共に、その背から大きな大きな純白の羽根が二つ生えてくる。
天使。その姿を現すならその二文字以外に考えられない。
ならその天使とこうして互角に刃を交合わせている俺はなんだ?悪魔か?
「我ここに願う。我の光は絶対無二の光。ここにおける光は今から未来へと続く我の光のみで構成。その他すべての過去と幻想の光に、消失と共に白き羽根へと還らん・・・」
「我ここに願う。我の闇は絶対無二の闇。ここにおける闇は今から過去へと遡る我の闇のみで構成。その他すべての未来と幻想の闇に、消失と共に黒き羽根へと還らん・・・」
どちらにしろ非常識な二人。そんな二人は互いになにか打ち合わせをするでもなく、ただ同時に剣を掲げ、これまで以上の精一杯の力を込めて、そしてその剣を同時に振り落した。
これが最後になる。そう願いながら。
カツーンッ!キイイインン・・・
(この魔法は・・・!)
剣先が触れた大地が黒色に染まる。そして急激に広がっていく。
伊集院さんはその反対。光に包まれた大地が広がり、やがて俺の黒色の大地と正面からぶつかり合う。
ピキキイイーンッ!!
また、起きる空間の歪み。
「これ、は・・・」
だけど、今度のは今までとは違くて。
ぶつかった瞬間に舞い上がった漆黒と純白の羽根の中に鮮明に映る映像。
あれ、いつのまに声が出るようになったんだろう。そんな当たり前のことにさえ、その映像の前では頭が回らない。
そこには、一人の銀髪の女性と、一人の銀髪の少女が映っていた。
「いかないでっ!!」