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第百八十五話 年明け通話~間抜けな最後に最初~


<12月31日 23時50分>


「ふわあ・・・」


ドサッ


 もうすぐ日にちが変わる時間。細々とやることを繋いでいたがとうとうネタ切れ。なにもすることがなくなった俺は眠るわけでもなくただベッドの上へと寝そべっていた。


静かだ。静かすぎて思わず寂しくなるぐらいに静かだ。なにせこの家に住んでいるのは俺一人。俺が音を立てなければ周りで音が鳴ることはほぼない。


「・・・暇だな」


楽しかった学園祭が終わると同時に学校は冬休みへと突入。

受験が控える三年生、今のうちから頑張って評価を上げようと思う二年生達にとってはこの時期が一番勉強が大変な時期なんだろうな。


が、所詮俺は一年生。


まあかなりの進学校である御崎山学園生徒としては本来ならやるべきなんだろうけど。

将来が漠然としている俺にとってはやる意味が全く感じられずなんのやる気も起きなかった。


・・・俺って落ちぶれてるのかな?


・・・そうでないことを願いたい。


(二年生・・・か)


 後もう少ししたら一年生から二年生へと。

・・・実感わかねえ~。この世界に来て8ヵ月、いや約9ヵ月。全力に、がむしゃらに過ごしてきたせいで色んなことがありまくったけど、なんだかあっという間だった気がする。



――300年の眠りから覚めて、いきなり人間達の世界へ放り込まれて。玲や健、伊集院さんや工藤などたくさんの人達と出会えて。


初めてのターゲット、初めて感じた玲達との距離。自分の存在、自分の力。覚醒、暴走、もう一人の俺との出会い、玲や健の過去、そして一高校生としての様々な出来事――



色んなことがありすぎた。

今こうしてボーッと天井を眺めているだけでも、勝手に絶え間なくいつかの日の光景がフラッシュバックしてくる。


まだ一年生だというのに。一体どれだけ中身の濃い日々を過ごしてきてんだろ。


けれど多分、これからもずっと・・・


・・・・・・



あれ?


この一年生が終わったら、終わったら俺はどうなるんだ?


いや、そもそもこの世界に居る最大の理由、自分の過去を全て知ったらその後は一体何があるんだ・・・?


ブーッ、ブーッ!


「おっと」


 床に放り捨てていた携帯のバイブレーションがせわしなく鳴り響く。

慌ててベッドから手を伸ばして手に取ると、気持ちを切り替えるべくそのままスクッと起き上がった。


相手は・・・って健?


「もしもし・・・」


「よ~う蓮!元気してるか~!?」


うん、どうやら今日も健は元気なようだ。

真夜中だというのに実にハツラツとした伸びのある声。もう寝ようとしてる人にとってはこれほど面倒なものはないだろうけど、なんか今は落ち着く。平和だなあ~。


「ああ。まあなんとか元気してるよ。で~どうした。なにか用なのか??」


「フッ。俺が用があって電話してくると思うのか?」


「切るぞ」


「あ~待って待って!冗談だよ冗談。ちゃ~んと用件ならありますから」


切ろうとする俺を慌てて引き止める健。

とかなんとか言って、実は本当に健からの電話って用件なしがほとんどなんだよな。割合でいくと7~8割ぐらい。もちろん用件なしの方が。


「いや~もうすぐ年明けだろ?一人さびしくってのもなんだし、誰かと通話でもしながら迎えたいと思ってさ」


「年明け?なんだそれ」


「え゛っ」


耳元に届く健の声が濁る。


「お前・・・それは冗談?それとも真面目?」


「・・・いや真面目だけど」


なんだろうこの間は。さっきまでガンガン聞こえてた声がどこかに消えちまった。

そのかわりガンガンに伝わる呆れというか残念がられてる雰囲気。あれ、見えないはずなのに健が盛大にため息をついているような気がするんですが。


「いや、まあそうか。うん、蓮にとっちゃ初めてのことだもんな」


「・・・ゴメン」


よくわからないけど謝ってる俺。


「なんで謝ってんだよ。まああれだ。年明けってのはようするに・・・」


カチッ。ジャンジャーン!


男性の声「新年あけましておめでとうーっ!」


「あっ・・・」


健がなにかを言いかけた裏で、なにやらテンションの高いDJのような男の声が音楽と共に聞こえてきた。


「あ~健?今新年がどうとかって聞こえたんだが・・・」


「・・・えっとうん。年明けってのは一年の最後である12月31日から、新たな一年の始まりである1月1日へと日にちが変わることを言うんだけど」


そして特に慌てることもなく落ち着いて携帯の時計を見つめる。

現在時刻・・・0時00分


「明け・・・ちゃったな」


「ああ、明けたな」


なんと間抜けな一年の終わり。そして始まり。

さっきまでのなにか重要そうな回想はなんだったんだ。突然の展開に思わず電話越しに男二人呆然とし合ってしまう。


「まあ、いいじゃないか。あけましておめでとう蓮。今年もよろしくな!」


「あけまして・・・なに?」


「あけましておめでとう。年が明けたらみんなそう言いあうんだよ。無事に一年を終えて、そして新しい一年を迎えられたことへのお祝い・・・みたいな?」


・・・いい加減自分の無知さに腹が立つ。けれどそれでも健は丁寧にその言葉の意味を教えてくれた。きっとこんなこと教えることになるなんて思いもしなかったんだろうな。当たり前過ぎて、説明するのも難しそうだ。


「そうか。ならあけましておめでとうだな健。今年もよろしく。あ、じゃあよろしくついでに一つ聞いていいか?」


「ん、なんだ?」


「お前さっき年明けを一人さびしく~とか言ってたけど。なんで俺に電話したんだ?それなら別に玲に電話したって良かっただろ。ついでに思い出にもなるわけだし」


「ブフォッ!」


 わかりやすいぐらいに電話の先の健が吹きだす。

なんとまああからさまな反応。そんなの工藤なんかに見せたらどれだけ悲惨なほどにいじられるか。今の俺でさえいじりたくなったからな。


「い、いやあそれはあれだよ。実際こういうのって結構恥ずかしいだろ?蓮なら男同士で気兼ねなく話せるし、な、なにより気を使わなくていい。だから・・・なあ?」


健らしからぬおたおたとした言葉。最終的には俺に聞いてきちゃったよ。

一体どんだけ動揺してんだ。そもそもお前と玲はもう何百年もの付きあいだろうに。今さらなにを気を使うというか。・・・いかん、このままだと余計に攻めたくなってきてしまう(笑)


「だ~もうっ、今は玲は関係ねえんだよ!年明けを一人は寂しいってのもあるが、一番の目的はお前に初詣のことを伝えたかったんだよ!」


「初詣?」


またしても知らない言葉。


「そう。あ~簡単に言えば神社とかにお参りに行って、今年一年の目標やらなんやらを祈ってからおみくじ引いたり絵馬書いたりするんだ」


「まあ年初めの恒例行事ってところだな」


「・・・・・・」


恒例行事。それを聞いて俺は健に聞こえないように携帯を離してため息をついた。


いくら初めてといえど、きっとテレビとかを見てればそれなりに情報はつかめてたはず。もしつかめてたらこんなグダグダではなく、ちゃんと歯切れよく一年を終えて一年を始められたはずだ。


はあ・・・なんか自分が悲しくなる。


まあこれが俺達らしいなと感じている自分も居るんだけど。


「おっともう電池がやべえ。とにかく明日は朝の9時に学園前のバス停に集合な。年初めだからって、夜更かしし過ぎて寝坊するなよ?」


「了解。遅刻なんてしねえよ。そうなったら一人怖いお姉さんが居るからな」


「はは、言えてる。んじゃあまた明日な」


「おう、また明日」


ピッ


「ふう~・・・」


 通話を終了して大きく息を吐く。

電話が途切れるとまたやってくる静寂の一時。今の今まで健との電話のおかげで随分と部屋が華やいでいたけど、終わってしまうと今度は更なる静けさ+微かな喪失感までもが部屋を支配していた。


まあ明日に予定が入っただけ少しはマシだけど。


「・・・一年の始まり、か」


実感わかないな。まあ終わりがあっけなさすぎたってのもあるけど。

今日の0時00分より前の出来事が、全部去年の出来事になっただなんて。今の俺には到底信じられない。


全部ついこないだのようだと思うのは、誰しもが体験することなのかな。


ドサッ


携帯を握りしめたままベッドへと寝っ転がる。

また暇になってしまった。夜更かし・・・なんてする元気なんてない。むしろ早く寝てしまって、早く明日の朝を迎えたいという気持ちの方が先走ってるようだ。


・・・俺は遠足前の小学生か。


「寝よ・・・」


 一年の始まり。去年あれだけ色んなことがあったんだ。これから先、また色々なことがあるに決まってる。まずは初詣から。それからまた学校が始まってみんなと過ごして、そしていつかターゲットとも戦って。また自分の過去も手に入れなきゃいけない。


・・・やること多すぎ。


けど、それはとりあえず今やんなくてもいいことだよな。


今はただ初詣のために早く寝ていればいい。遠足前の小学生で結構。楽しいことが待ってるって分かってる時ほど、それを待つ時間ってのは楽しいもんだ。


また、みんなと会える。それだけで俺は充分です。


「・・・おやすみ」


 おぼろげながらにみんなの姿を思い浮かべて、俺はゆっくりと目をつむった。






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