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第百八十一話 前日Fever!~驚きと笑いと感嘆と気絶!?~


<12月23日>


 寒さが日に日に増してもうピークで良いんじゃないかと嘆きたくなるほどの寒いこの頃。

月日というのは実に曖昧なもので、学園祭に向けて無我夢中で走りまわっているうちに瞬く間に時は流れていった。


「諸君、今日が仕上げだ。心してかかれよっ!」


みんな「オーーッ!!」


健の激にみんなが拳を突き上げて全力で応える。妙に息が合っているのがなんか不気味だ。

だがそれもそのはず。今日は12月23日、つまり学園祭本番である24日クリスマスイヴの前日なのである。


「おーい、ここの壁紙どうした~?」


「誰かそこにあるやつ取ってー!」


「ここ、最終チェック頼める??」


学校側も配慮してか普通授業は午前中で切り上げ。

授業が終わると同時に明日の本番へと向けてどのクラスも準備の追い込み態勢。今俺達のクラスもメイド喫茶完成に向けててんやわんやの大忙し、ある意味爽快だ。


「蓮、一応作ってみたが味見してくれないか?」


健が出来たてホカホカ、うまそうな匂いがたちこめるミートソーススパゲティを乗せた皿を持ってやってくる。

今俺と健を含む一部の男子は喫茶店に出す料理の特訓中。


「うん、うまい。バッチリだな」


「うっし。まあ俺にかかればこんなのちょちょいのちょいよ!」


やるんなら徹底的にやり倒せ(主に勉強以外)がモットーの健の呼びかけにより、喫茶店のメニューも特定の1品にドリンクだけっていう適当なものでなく、パスタだけでも数種類といったように普通の喫茶店に近いメニューを実現することになっていた。


まあそれでも誰でも簡単に作れるものばかりなのだが。でもさすが御崎山学園。これだけやっても経費はまだまだ余裕。


「うん、これで大体みんな作れるようになったな」


なぜか料理担当のリーダーを任されている俺。

まあ料理は結構好きだし、衣服類が篠宮さん、店内の飾りつけが玲、財務関係が及川といった具合になると消去法で俺が担当することになったのだ。


健はって?それはあれだ。健がなにか特定のもので先頭に立つと摩訶不思議超伝導の超新星、異次元な方向へとみんなを持っていくから。

今はみんなのモチベーション底上げ兼料理担当の補佐を担っているわけです。


「にしても覚えるの早かったな。さすがといえばさすがか」


手元に持っている健が作ったミートソーススパゲティを見て頷く。

最初こそとんでもない調理法を披露してたけどちょっと教えるだけで飲み込みが早いのなんの。その速度通常比で約3.5倍(当社比)


やっぱ健は凄いな。その適応能力をもっと別な形で生かせばとんでもないことに。

そう考えてるといつのまにか驚きの頷きから残念なため息へと変わっていた。


「あっ一之瀬君。ちょっと今いい?」


「え、ああ篠宮さんか。別にいいけどなんで?」


 調理器具を片してると横からひょこっと篠宮さんが顔を出してきた。


「ちょっと頼みたいことがあるの。来てくれる?」


「そりゃあもちろん行くけど・・・」


現在衣服担当リーダーの篠宮さん。よっぽど作るのが楽しいのか、その表情は明るく眼もらんらんとしていて、いつもは内気でおとなしい人だが今じゃ強引にでも俺を連れ出していきそうだ。

しかし・・・。なんか妙に胸に引っかかりを覚えるのはどうしてだ?


「じゃあ・・・はい!これ持ってあっちで着替えて来てくれる?」


「え、あ、うん・・・。って、えええ!?」


両手にいきなりボスっと置かれたのは一着のタキシード。一瞬クエスチョンマークが浮かんだがそれが学園祭当日に着る執事用の衣装であることを一応悟る。

・・・で、これでなにを?


「じゃあよろしくね!」


「え、ちょっと・・・」


そしてそう一言言い残すと、執事服を両手に抱えて立ち尽くす俺を置いてとてとてと篠宮さんはどこかへと行ってしまった。


「・・・着替えなきゃいけないみたいだな」


あんな満面の笑みで、ハツラツとした表情でお願いされて断れるわけがない。

しかしいつから篠宮さんにあんな小悪魔的オプションを取りつけられたのか。一人だけそれに関わってそうな人物を見つけたが今はスルーしておこう。


・・・さて行くか。


「おっ、蓮も渡された口か」


「ああ、ってやっぱりお前らもか」


 とりあえず指定された場所に行くと健、そして及川が同じように執事服を抱えていた。

はっは~ん、なるほど。とりあえず実行委員である俺達に試着させて出来栄えを見るってわけね。彼女達の思考を読むのにそう時間はかからなかった。


「俺なんかさっきいきなり玲にこれ押しつけられて、「はい、あっちで着替えてきて」の一言だぜ?反論する余地も与えられないっていう始末・・・」


(ああ・・・さすが玲だな)


その時の光景が容易に頭に浮かぶ。

さすが玲。健がジタバタするのを抑える以前に「させない」。扱いに慣れ過ぎているというかなんというか、ある意味絆といってもいいものだろうか?


「そういえば及川はどうやって・・・」


「さあてこうなったらパパッと着替えて終わらそうぜ!ほら、及川も蓮も急げよ」


「え、お、おう」


「了解した」


服を抱えたままの俺を差し置いて他の二人が黙々と執事服に着替えていく。

なんなんだこの展開。どう考えても普通な流れでないことは目に見えている。不思議に思って健へと視線を向けると、いかにも察してくれといわんばかりに苦笑いを向けてきた。


(・・・よし、着替えよう)


どうやらブラックとまでもいかなくてもグレーゾーンだったらしい。

一体彼の身になにがあったというのか。そう思うと、渡される相手が篠宮さんだったのは物凄く幸運だったのかもなんて思いながら、制服の上着を脱いだ。




「よしっと。こんなもんかな」


「俺も準備出来たぜ!」


 数分後、なんとか執事服へとフォームチェンジ完了。

制服と似ている割には意外と構造が複雑で、特に普段あまり付けることのないネクタイの着用に戸惑ってしまい結構時間がかかってしまった。


「へえ~、意外と健そういうのも似合うんだな」


「そういう蓮こそかっこいいぞ。まさに執事、って感じだな」


確かに、着てみるだけでグッと雰囲気がガラリと変わり一転してスマートというか、執事さん的なカッコよさが現れていた。


健の場合普段のやんちゃで明るい印象が黒い執事服のおかげでぎゅっと凝縮され、男らしさ+一緒に居て元気になるような明るさが伴って他にはないカッコよさがそこにはあった。

これは女性には堪らないかもしれないな。いわゆるオチる(・・・)ってやつか?


「僕も準備できたよ」


「おっ、さて及川はどんな感じに・・・」


 健と話していると背後から及川の声が聞こえてきた。どうやら着替えが終わった模様、ちょっとばかしの期待と共に心を弾ませながら振り返ってみる。


「うん、なんか少し恥ずかしいね。こういうの着るのは」


蓮・健(うわあ、普通~(笑))


THE及川マジック。

凛々しく、スマートでカッコいい執事服が及川が着ればなんということでしょう。どこか都会に居るビシッと決めたヤリ手のサラリーマンに様変わり(笑) これはこれでなんかカッコいいけど、ダメだ、笑いが堪えられん(笑)


「むむ、執事に眼鏡要素はかなりアリなはずなんだがなぜこうなった。やはり眼鏡の質と角度によって見える誠実さと目線が・・・」


「なに言ってるんだ?健」


隣でぶつぶつ言ってる健はさておき、俺はずっと心の中で思っていたことがあった。

そう、Mr.GBこと及川 直人。彼には眼鏡を取るとどんな女子でも仕留める鷹のごとき眼と顔があるのだ。

僕らはそれを、「トランス」と呼ぶ。


まあ冗談はさておき実際眼鏡を取った姿は今まで一度しかないが、脳裏にはしっかりと焼き付いている。うん、どう考えてもそっちのほうが良い。執事というイメージに最もベストかもしれない。


「なあ及・・・」


俺が及川を呼ぶと同時にその度の強い眼鏡へと手を伸ばした瞬間


「お~いそっちで着替えてる男子。準備できたんなら戻ってきて~!」


おそらく俺達に向けられているだろう女子の声が響いてきた。


「お、どうやら呼ばれてるみたいだぞ。さあいこうぜ蓮、及川」


「うん、ちょっと恥ずかしいけどね」


「え、お、おう」


ほぼデジャヴに近い状況でまたしても健に遮られてしまう。

もちろん及川は眼鏡をつけたまま。ついでにサラリーマン状態のまま。色々と不満は残るが流れには逆らえず、俺達は教室へと戻ることになった。


くそっ、おしいな。


ガララッ


「ういっす、お待たせ~って・・・おわあ!?」


 ドアを開け教室に半身だけ入った健の動きが固まる。

反応を見るに中になにかあったようだが健が入り口をふさいでいるせいで全く見えない。

・・・あれ?妙に健の顔が赤くなっているように見えるのは気のせいか?


「なにをしてるんだい相川君。さっさと入って・・・」


たまりかねた及川が入り口に近づくが、健と同じように固まってしまう。

なにを二人してコントみたいなことやってんだ?


「おい、なにやってんだよ二人とも。早く入れ・・・」


今度は俺がたまりかねてドアへと歩み寄る。そして開かれたドアの先にある光景を見て、二人が固まった理由が十二分に分かった。


「メイ、ド・・・」


目の前に居たのはメイド姿をした玲、そして篠宮さん。


「どう、かな・・・」


蓮・健「はあー・・・・」


完全に目を奪われた。言葉がでない。出そうと思っても空振って溜息しか出ない。

篠宮さんが恥ずかしげにでもちょっぴり嬉しそうにスカートを摘んでひらひらさせると、それだけで目の前の景色がぐらつきそうになった。


「抱きついたら・・・ダメかな」


「・・・やめとけ、多分殺される。気持ちはすごくわかるけど」


黒地の服に純白のフリフリエプロン、それにカチューシャ。それだけで玲の金髪ツインテールが映えまくる。

カッコいいとは真逆のメイド服なんて、可愛いの塊みたいな服を着ることで玲本来のカッコよさからのギャップと元々のあどけない可愛さが合わさり、とんでもない破壊力を生み出す。これだけいつものイメージとかけはなれた服でも一瞬でフィットさせるとは・・・。さすがです玲さん。


それに普通のメイド服よりも短めのスカート。それは玲のモデル級にスラッとした脚を存分に押しだし、黒のニーハイが玲自体のカッコよさをしっかりと引き立たせていた。


「私はあんまりこういうのは普段着ないんだけど・・・。どう、かな?」


玲がこちらを伺うように不安そうな表情でゆっくりと一回転。フリフリのスカートが優雅に舞いあがり、後ろのエプロンの大きな結び目が目に入る。


蓮・健「はい、可愛すぎます」


「って即答!?で、でもそう。可愛い、のね・・・」


「うん、柳原さんとっても可愛いと思う。だからそんなに謙遜しなくても・・・」


対称的に恥ずかしがり屋のはずの篠宮さんはどこか落ち着いていて、むしろ楽しんでいるようにも見えた。どう考えても玲と立場が逆だ。


普段から清楚で無垢な雰囲気の篠宮さん。

そこにメイド服なんて加われば可愛くないはずがない。てか可愛すぎ。

玲のとは違い全体的にふわっと余裕を持ったスカートは優雅さと清楚さが漂っていて、上品な空気と同時に安らぎさえ覚える。玲と同様の純白のカチューシャも合わさりもはやお人形さんのような可愛らしさ。こんな娘にご奉仕してもらったらどれだけ幸せなことだろう。


「そ、そっちの執事服もいいじゃない。誠実さというか生真面目さというか、なんかカッコいい。・・・ちょっとハマっちゃいそうかも。でも健には少し窮屈かしら?」


「う、うるせえ!俺だって&%$#○!▵?*@」


玲のちゃかしにいつものように反論しようとする健だが、声は震えて終いには何言ってんのかわかんなくなっちゃってる。

いつも我が道を行く健だが、今ばっかりは玲のあまりの可愛さにノックアウト。顔はわかりやすいぐらいに真っ赤に染まっていて照れてるのがすぐにわかった。


「これは凄いことになりそうだな及川。って、及川?」


「・・・・・・」


いやに静かな及川に目を向けると、口を半開きにしながらびくともしないで突っ立っていた。俺が話しかけても完全なるノーシグナル。

まさかまさかの立ちながら気絶!?衝撃がでかかったのはわかるけどどんだけだよっ!


「は、はは・・・。これはいよいよ凄い事になってきたな」



 1年A組学園祭出し物「メイド喫茶」。どうやら物凄い事になりそうです。







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