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第百七十六話 第一段階~五人衆が、会議を始めたようです~

※また投稿日を変えるのを忘れてましたw 後今回も話が長くなっちゃいました。スミマセン><



<11月27日 月曜日>



「さて、じゃあまずは各自考えてきた学園祭の出しものについてのアイディアの発表といこうか」



 昼休み。教室では一日の授業の一区切りに羽根を思いっきり伸ばしながらざわつきごった返すいつもの風景があちらこちらで入り乱れる。

そんな中俺達・・・学園祭実行委員の面々はそれぞれの昼飯を持ち寄って集まり(といっても及川だけが移動すればいいだけの話なのだが)半ば会議というものを繰り広げようとしていた。



議題はもちろんこのクラスにおける学園祭での出し物について。

ちょうど実行委員を決めた日は金曜日で土日を挟むからその間に各自考えて発表~という、まあオーソドックスな展開で今に至っている。



「そういうお○&%□*×?#$・・・」



「まあまずはそれを飲み込んでから話せ健。ほとんど言葉化してないから今の」



まあクラス委員ということもあるせいか、流れ的に及川が会議を仕切る司会役みたいになっている。そんな及川の問いかけに大口で口の中に放り込んだ白飯をおもむろにもごもごと噛みしめながら答えようとする健だったが、まあもちろんほとんど言葉になってない。余裕で聞き取り不可。



促されて慌てて飲み込もうと顔をゆがませる健。そうまでしてなんとか発言したいだなんて、どうやらよっぽどやる気満々のようだ。



「ゴクッ・・・はあ~、よし。それでだな、そういう及川から発表してみろよ。やっぱりここは仕切り役からいかねえと良い流れが来ないだろ??」



と思ったら前言撤回。予想に反して健は及川へと割と真面目な顔で話を振っていた。

そこまでしてまで言わなくちゃいけなかったのだろうか?まあ学園祭の出し物についてのこの会議にヤル気を見せているのは間違いなさそうだけど。



「ふむ、一理あるね。指揮官が動かなければ兵士も動かないと言うし。じゃあまずは僕が考えた案から聞いてもらおうか」



そんな健の振りに対して眼鏡をくいっと上げて納得する及川。そんなんで納得できるのもどうかと思うが、なんの疑いも持たずに及川は胸元から黒いメモ帳を取り出しパラパラとめくり始める。



「とりあえず僕が考えてきたのは、この御崎山学園における歴史を調べてレポートを作成し、この学園がいかに地域に貢献してきたか、どんな役割を担ってきたかなどを分析して・・・」



俺・健(なんだその堅さは・・・)



おそらく同じ思いを抱きながら半ば哀れむような視線を向ける俺と健。

しかし当の本人はむしろ満足気で、冷静な及川にしては珍しく楽しげに弾むような口調で普段ガッチガチの優等生のせいか、なにか輝いて見えた。まあちゃんとこいつなりに考えてるんだろうけど・・・



「う~んちょっとした感じで入れるならともかく、それ主体ってのはさすがに抵抗あるわね・・・」



さすがに玲も同じことを思っていたようで。少し困った表情を浮かばせながらやんわりとダメであることを告げていた。どうやら会議自体は及川が仕切り役でも、具体的な意見交換においては玲や篠宮さんの女性陣二人が判断基準になっているらしい。



まあその方が絶対良いよな。正直俺達男性陣だけが考えたらあまり華やいだものにはなりそうにないし、それこそめちゃくちゃになりそうだ。特に約1名、とんでもないことを言いそうな奴が潜んでいるからな。



「なあ及川、これは学園祭だぜ?お祭りだぜ?やっぱりもっとはっちゃけたやつじゃないと誰も楽しめないって」



珍しく真面目に意見している健がそこには居た。いつも及川に注意されっぱなしの健だが今はその立場も見事に逆転。あの及川が健の指摘にしょぼんと肩を落としてがっかりしてる。こんな絵滅多に見られないかもな。



「しかしそう考えるとやっぱ難しいよな。これだけ大掛かりなんだ。そんじゃそこらのアイディアじゃ絶対に浮いちまうぞこりゃ・・・」



机に置かれた学園祭における説明書みたいな紙切れに目を落として深くため息をつく。そこに書かれたこの学校の学園祭での出し物についてのはしり書きは、俺達の頭を大いに悩ませるものだった。



■学園祭の出し物について



1.二日間通して行われる本校の学園祭では、各クラスの教室、または体育館などを利用しそれぞれのアイディアを元になんらかの店を一つ出店する。



2.本校の学園祭は地域との密着を図るため、周囲の街などと連携し、大体的に開催される祭りである。そのため当日は各父兄はもちろん、一般の方々の来場が大勢来ることが予想されるので、出し物はそれにそぐわないものとする。



3.なお本学園祭における出し物に関してはその売上金額で全学年クラスごとの争いとなる。最も売上金額の多かったクラスにはその栄誉をたたえ、学校長より賞品が授与される。



・・・一つ目の項目だけ見ればな~んにも戸惑う事はない。いたって普通、ノーマル。それぞれが考えた出店なんてそれこそ学園祭ってもんだ。

少し疑問は残るが三つ目も良しとしよう。どうせならそういうご褒美的なもの(学園長からってのが凄まじく謎)があったほうがみんなのやる気も出るだろう。なにもおかしいことはない。



(大体的にって、程度がおかしいだろ程度が・・・)



そう、問題なのは二つ目の項目。「本校の学園祭は地域との密着を図るため、周囲の街などと連携し、大体的に開催される祭りである」・・・ってところだ。

え?なにが問題なのかって?確かにこの文章だけなら恐ろしくまともに見えるわな。ところがどっこい忘れてやしないか?ここが、私立御崎山学園だってことを。



「そうね、話には聞いていたけどまさかここまで凄い宣伝をしているとはね・・・」



机に肘をついてため息をつく玲。そのため息は疲れとかそういうものからくるものではなく、ただただ目の前にある大きすぎる壁を見て呆然と立ち尽くしている状況からくるものだった。



まあ無理もない。おそらく俺達も含め、新一年生の全員が同じことを感じ、そして動揺しているだろう。誰だって委縮の一つぐらいするさ。なにせその宣伝方法があまりにも凄すぎるからな。



まずはこの学区の周りにはもちろん、あの多くの若者たちが行き交う御崎シティプラザなどに至るまでめっちゃ広範囲にわたって電柱や店などにポスターが貼りめぐらされ、ラジオなんかでもバンバンに紹介されちゃってるし、都市部のでっかい電光掲示板にも載り、あまつさえテレビ番組、CMまで流しちゃってるこの状況。



まあこれには理由があって、御崎シティプラザで学園祭終了と同時に開催される御崎祭・冬の陣、つまり夏にあった祭りと双璧となす祭りと連携というか連動しているので、それなりに宣伝の価値はあるのかもしれない。だがしかし



めっちゃ客が来るってことに変わりはないっ!!



「それで?そういう健はどうなのよ。な~んか、さっきから言いたくてうずうずしているように見えるけど?」



 そんなこんなで、それほどまでに一般客が来る中で及川のお堅~い案は華麗に却下されて(まあそれでどうやって売り上げを出すつもりだったのか謎すぎる)流れ的に健へと、その矛先は向いた。



しかしまあ初っ端から玲の視線はもうあきらめ感が抜群です(笑)社交辞令かのように「一応」聞いておくみたいな、そんな面倒なものを片付ける感じの雰囲気が醸し出されていた。

しかし当の本人はというと、そんなこと全く気付かずに待ってましたとばかりに目を輝かせて、ずいっと身を乗り出していた。



「やっぱ盛り上がるにはゲームでしょゲーム!ここはいっちょ教室をゲーセンにしてさあ・・・」



「却下っ!」



・・・またしても玲の刃が健を切り裂いた。それも一撃で一刀両断。なんという切れ味・・・



にしてもゲーセンって。絶対後々のこと考えずに提案してるだろこいつ。細かい話を言えば機械の設置費や電力問題やら一杯出てくるけど、まあ玲がもうバッサリいっちゃったし、その辺はスルーで良いか。

しかしまあそこで引き下がらないのが相川 健人という男でして・・・



「古本屋!」 「駄目」 「CDショップ!」 「無理」 「野球大会!」 「どこが店なのよ」 「相撲大会!」 「意味不明」 「ドキッ!女の子だらけの大水泳大会!」 「さらに意味不明!」 「マンガ喫茶!」 「回転が悪すぎでしょ!」・・・



・・・どう考えても漫才にしか見えない二人の会話。健の提案の応酬をことごとく切り捨てていく玲の太刀筋。その姿はまさしく乱世に生きる孤高の侍・・・ってそんなことはどうでもいい。

ボケ担当の健とツッコミ担当の玲が争ってたら健が折れるまで勝負は永遠につかねえ。まさに無限ループ。



玲・健「はあ・・・はあ・・・」



どうやら終わったようだな。しかし残ったのは疲労というとてつもなく無駄な戦場の傷跡だけ。ダメだな、あの二人は当分使えそうにない。てかどんだけ本気でやり合ってんだ!



「篠宮さんはどう?なにか考えてきた?」



そんな二人の姿に圧倒されて、うっすらと苦笑いを浮かべながら全体的にまた小さくなろうとしている篠宮さんを食い止める意味でも話を振ってみた。言われてみれば今篠宮さんがこのメンツの中で一番まともなんじゃないのか?もう一人の希望である玲は当分の安静が必要だしな。



「えっ、私!?ええ~と・・・私は・・・」



・・・あれ?なんか更に小さくなってる気がするんですけど?

顔を赤らめながら縮こまるその姿を見ると、なにか可哀相なことをしたという罪悪感が心に染みてきた。おかしいな、どうしてこうなった。一人記憶を辿りながら考えこもうとすると・・・



ガサゴソ・・・



なにやらいつぞやの及川如く、篠宮さんはポケットから一つのメモ帳を取りだしていた。

だが同じ行為でも及川とは雲泥の差だ。その小さな手で持っているのは淡いピンクと白のしましま模様に真ん中にくまさんが描かれているなんとも可愛いメモ帳。ああ、なんかめちゃめちゃ篠宮さんにピッタリな感じだなあ。これが玲だったらちょっと笑っちゃうけど。



「ん?蓮君・・・今結構失礼なこと考えてなかった??」



「え?いや別に??」



な~んてことを考えてたらちゃっかり心を読まれてしまった。あれだけさっきまで息を荒くしていたというのに、既にほとんど息を整えて姿勢を戻す玲の姿がそこにはあった。なんという回復力!



そんな玲からの冷たい視線を受けつつ、視線を戻す。すると篠宮さんはパラパラとページをめくりながらしきりに目を動かしていた。なにやらなにか探しているよう。

そしてどうやら見つけたのか、あるページを開いて動きが止まり、パアッと表情が明るくなって・・・ではなく、なぜか更に顔を赤くして、余計に小さくなろうとしていた。



一体なんでそうなるんだ・・・?が、しかしその可愛さはある意味反則級の破壊力。



「えっと・・・私は&%$#○!▵?*@・・・」



その小さな口から発せられた言葉は、音量MAX!イヤホンの感度MAX!みたいな環境でも、聞こえるかどうかの超ミニミニ発言だった。てか聞こえませんっ!



「し、篠宮さん?もう一回、今度はもう少し大きな声で言ってほしいんだけど・・・」



俺がそう言うとポンッと音がしたかのように篠宮さんの顔は真っ赤っかになって、思わず手に持っているさほど大きくもないメモ帳の中に必死にうずくまるように、顔を隠してしまった。



か、可愛い・・・。チートだろこの威力は!?



「って蓮君。優菜ちゃんをいじめてどうすんのよ!」



すかさず庇うように玲が俺と篠宮さんの間に入り込む。えっ、俺が悪いの?俺が悪かったのか今のは!?また違う意味で動揺し出す今の俺には、なにがなんだか全くわからなかった。てかなんだこの展開!!



「ま、そういうもんさ女なんて。女の結束は固い、その結束の前じゃあ男なんてもう紙切れ同然の存在感の無さだよ・・・」



同じく復調した健が哀れむように俺の肩を叩く。その手には恐ろしいぐらいに力が入ってなくて、叩くと言うより触れるだけ。むしろその力こそが紙切れ同然だった。



「な、なんなんだその経験豊富な言いようは・・・って。ああそうか」



その時の健からそれ以上聞く必要はなかった。そんなことしなくても、もう可愛そうなぐらい充分すぎるほどに伝わってきたからな。



お前は、もうこんなの何回も経験してきたんだな・・・。特に玲とか玲とか玲とかから・・・



「それで、優菜ちゃんはなにを考えてきたの?代わりに私が言ってあげるから見せて見せて~♪」



 妙に沈んだ空気をかもしだす俺達をよそに、玲は言葉を弾ませながら篠宮さんの横へとスルリと移動する。その足取りもルンルンに弾んでいて、こんなに楽しそうにしている玲もなかなか見られないような気もするな。



そんなこんなで俺は机に置いてあったまだ封の開けられてないパックの今月の新作「なにが入っているのかな?ホワイトオーレ!!」に手をつける。



「え~となになに~。メ・・・」



「ん?」



ストローを指して口にくわえながら二人の様子を眺める。はしゃぎながら覗き込む玲と恥ずかしながらメモ帳を見せる篠宮さんの二人の姿は、友達っていうよりももはや姉妹のように微笑ましく感じた。

しかしどうしたのだろか。玲がそのメモ帳を見た瞬間、それまでの弾んだ口調が詰まり目が点になりかけている。



「ん?どうした玲。なにが書いてあるんだ?」



さすがに不思議に思ったのだろう。健がここぞとばかりにずいっと篠宮さんのメモ帳を覗き込もうとするが



「って、今から私が言うからあんたはおとなしく聞いて・・なさい・・・」



それを玲はいつもの如く遮る。しかし普段ならもっと強い口調で言うところなのに、今のは妙に柔らかい言い方だったような気がするよ?それに声も震えていたような気がしたし・・・。

ただならぬ雰囲気を感じながら、俺は顔だけ向けてホワイトオーレを吸い込んだ。



今思えば、どうしてこの時俺は気になっていたのにもかかわらず、ホワイトオーレを飲み続けていたのだろう。もしも、飲むのをやめて健と同じように身を乗り出していたら、こんな悲惨な出来事は起こらなくて済んだはずなのに・・・



「・・・メイド喫茶」



「ブフォッ!?」



その瞬間、急激にこみ上げた喉元からの圧力により通りかけていたホワイトオーレが見事に逆流し、鮮やかに、そして豪快に、白い液体が宙を舞った。



「きゃっ!?」



先に言っておく。これは偶然だ。偶然以外のなにものでもない。もちろん吹きたくて吹きだしたんじゃない。誰が好き好んでジュースなんて吹きだすか!それもどう考えてもまずいであろう人物に向かってな!



「・・・・・・」



「わ、悪い・・・」



さて、ここで問題だ。玲の方に向いていた時に飲み物を吹きだした時、その被害は誰が一番被るでしょうか。



1.玲 2.玲 3.玲 



わかってますよ、それぐらい。ずっと目をつむっていたかったけど、目の前には確かにその金髪のツインテールや顔に白い液体がついた・・・ってあれ?この状況はもしかして



「おおっ、これはまさか俗に言うぶっ・・・」



バチーンッ!!



あははー、やっぱりここではお見せできない状況でした(笑)



「本当にゴメン玲。え~とハンカチハンカチ・・・!」



健を無条件で張り倒した後、謝りの言葉を連呼しながら半ばパニック状態に陥りながらポケットを必死にまさぐった。

たしかに今日、洗濯したばかりのハンカチをポケットに入れたはずだ。だけど探しても探しても姿を現さないMyハンカチーフ。一度探したところを何度も何度も手を入れて、必死に見つけ出そうと努力するが



「・・・クスッ」



「へっ?」



そんな必死さと空回り感がおもしろく映ったのか、まだ髪や顔を濡らしながら玲は笑みを浮かべていた。普通ならありえない。誰かが吹き出したジュースがふりかかったら、普通なら激怒してあわよくば殴られているところだ。



だけど玲は笑っていた。まるで子供のように、怒りなんか簡単に通り越して逆に楽しんでいるかのように、玲は無邪気な笑みを浮かべていた。そしてそのありえない笑みに、パニックになって訳が分からなくなっていた俺自身も落ち着きを取り戻すという意味で・・・救われた。



「もういいよ、蓮君。こっちは自分で拭くから。その想いだけ受け取っとく。にしても派手にやらかしてくれたわねえ。まさかいきなりジュースが吹き飛んでくるとは思わなかったわよ。まあ確かに、私自身もこれ見た時は驚いちゃったけどね」



そう言って素早くポケットティッシュを取り出し、せっせと顔、そして髪の毛についた水分を拭き取っていく。俺はそれを申し訳ない気持ち一杯で見守っていたのだが・・・



「でも実際さ、メイド喫茶。良いんじゃね?」



突然の賛同者が、すぐ目の前で現れたのだった。



「ふむ、メイドが必要かどうかはわからないが、喫茶店というのは良いアイディアだと思うね。経費も飾り付けと食費だけで済むし、なによりうまくすれば売り上げも伸ばせるかもしれないしね」



しかもあの及川までもがメイドの部分はともかくちゃっかり意見に賛同している。まああいつがさっき言ってたのにくらべりゃあ確かにましだろうが。正直、なんか意外だった。



「た、確かに今までの中じゃ一番かもな。しかし意外だなあ、篠宮さんがその意見を出すなんて」



メイド喫茶。どちらかと言えば健とかが考えつきそうな案だが。まあ実際健が言った案の中にマンガ喫茶があったのだが。あれ?じゃあなんであの時は誰も賛同がなかったんだ?同じ喫茶店という意味じゃ・・・まあいいや。

しかしメイドか・・・。あくまで自然的に、目の前に居る二人の女性陣にその姿をあてがった姿を想像してしまう。



・・・やばい。これは破壊力どころの問題じゃないぞ。



「私・・・メイドさんとかに憧れてて。あんな可愛い服、一度でいいから来てみたいなあ・・・って思ってて」



メモ帳の中にうずめていた顔が徐々に上がっていく。林檎色に染まった顔はまだ変わらないが、それでも少しずつ表情に笑みがこぼれはじめていた。

しかしまあ、なんだ。なんて可愛らしい理由何だろうか(笑) 思わずこっちまで微笑んでしまいそうになるような、そんな温かさがそこにはあった。



「いやあ~絶対に似合うよ篠宮さんに。まずそれは間違いない。さて、と・・・。これで5人のうち4人の賛成が集まったわけだが。玲さんはどうするんだい?」



妙にヤル気を出し始めた健。不自然にこの場を仕切り始めたが一体どうしようってんだ?あいつは。

ほぼティッシュで拭きとる作業を終えた玲に、健は少し挑戦的な感じに話を振った。



「えっ、私!?私は・・・」



それに対し困った表情を浮かべる玲。まあそれが普通の反応だろうな。ファミレスとかのウェトレスならやりたいと言う人も結構いるだろうが、「メイド」と言われてすぐにハイとは言えないのが普通だ。

そもそもあんまし、玲とメイドってのはイメージ的に合ってない気もする。まあ似合う似合わないで言えば、間違いなく似合うと思うんですが・・・



チラリ・・・



目のやり場に困った玲は助けを求めるように篠宮さんの方へと視線を向ける。しかし、それが全ての運の尽き。忘れてないか玲。篠宮さんはこの案の発案者なんだぜ?



「だ、駄目、かな・・・?」



メモ帳からひょこっと顔を出して、覗きこむように視線を向ける篠宮さん。

な、なんと可愛らしい・・・。その潤んだ瞳はあまりにも純粋すぎて、恥ずかしそうにうっすらと浮かべる笑み、押し絞るように必死に声に出す言葉。



ダメだ・・・眩しすぎてまともに見ていられない。あんな風におねだりされたら、もうなんだってあげちゃうかもしれない。いや、真剣に(笑) 今でこそ口になにも含んでいないけど、同じ状況だったら間違いなくまた吹きだしてるところだ。



「・・・ああもう、そんな目を向けられて断れるわけないじゃない!わかった、私も賛成!」



健・蓮「おおおっ!」



なんでかはわからないが沸き起こる拍手。しかしこれで事実上、全員一致でめでたく俺達の出し物が決定したわけだ。

さすがの玲でもあの視線には負けたようだな。肩をガックリ落として、呆れ顔でふか~いため息を一つついた。しかし案外、篠宮さんてある意味凄い人なのかもしれないなと、俺はこの時初めて知ったのだった。



「しかしまあ篠宮さんはともかく、玲がメイド姿とはねえ~(笑)」



笑いを必死に堪えているかのように、いやもう既に笑っている状態で健が言う。それにすぐさま気付いた玲はキッと鋭い視線を健へと向けて、不気味に口元を吊り上げて言い放った。



「ああ~、言うの忘れてたけど。今決まった私達の出し物はメイド・「執事」喫茶だからね!」



健・蓮「えっ?」 及川「なにっ!?」




 そこは簡単には終わらない、玲さんなのでありました・・・




 



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