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第百七十五話 来たれ、五人衆!~ここから始まる1ヶ月~



「はいはい静まれ~。知っての通り、この学園の学園祭は体育祭と並んで年間を通してのビックイベントだ。さらに御崎街全体と連携して動いていくから・・・」



 先生が場を鎮めようと注意を必死に促すがもちろん誰も聞いちゃいない。

身震いする寒さも凍える手の冷たさもなにもかも忘れて、みんな「学園祭」というこれ以上無い話のタネに存分に会話という華を咲かせていた。そんな中じゃ、先生の話なんてまさに空気・・・



「学園祭・・・」



そんな中俺は雲をも掴むような一つのワードに対する戸惑いと、落ち着きを取り戻そうとしていた日々が一瞬にしてぶち壊された瞬間のショックが重なって、もはや一人ヒマラヤ登山でもしているかのようなみんなとの温度差を形成していた。



机に入れかけの教科書の束が、少しでも力を抜けば崩れ落ちる絶妙のバランス位置で静止。周りから存分に聞こえる楽しげな声から、一つの答えを探しだそうと俺は今まさにフリーズ状態。



「ってなにボーっとしてんだよ蓮。学園祭だぞ学園祭。これを楽しみにせずになにを楽しみにするんだよっ!!」



ガッ



そんなフリーズ状態を直そうとも待とうともせずに、完全強行手段の強行突破。確かに、昔のテレビとかは45度よりやや高めの角度からチョップすると、一時的に画像が回復して直るとは言うが・・・って、あれ?



ドッパーンッ!



「ブフォアッ!?」



訳がわからないまま、俺は思いっきり顔面を叩きつけて机に突っ伏した。途端に机がガタンと大きく揺れて激しい打ち付け音が教室中に響き渡る。



「い、痛い・・・」



し、信じらんねえ・・・。氷のように冷え切った机のヒンヤリ感が容赦なく顔面を浸食する。

てか有り得ないだろ後ろからいきなり人を机にめり込ませるなんて。真面目に今意識がぶっ飛んで違う意味で空の彼方へ飛んでいくとこだったぞまじで・・・。



まあなんとかお空へ羽ばたかなくて済んだけど、恐る恐る小刻みに震える目蓋を開ければ無数のお星様達が盛大に歓迎してくれた。



「ってなにやってんのよ健!今どう考えても冗談じゃない音がしたわよ!?」



どこか後ろの方で玲の動揺と焦りが滲んだ声が聞こえる。だけどその声もどんどん遠ざかっていって・・・。ああ、もしかしてこれは死亡フラグか?こんな死に方って、正直まぬけにもほどがあるが、最後に玲の声を聞けただけでも良かったな・・・。って、なにやってんだ俺は?



自分に自分でツッコミを入れて目を一度瞬き、すると思いのほか簡単に視界が通常通りに戻りくらくらしていた意識も繋がりを取り戻し始める。そして机の素っ気ない茶色が支配する視界にも飽きてきて、よいしょとばかりにそろそろ起き上がろうと両腕に力を入れようとしたその瞬間



「あ、いっけねえ。思わずマジで押し込んじまった。すまん、大丈夫か蓮」



ガッ



またしても、今度は首元を誰かの手で必要以上にがっしりと掴まれて



(えっ、嘘だろ??)



両方の手のひらを机に押し付けたまま、俺は目を大きく見開き瞬きを繰り返しながら固まった。

ないない、絶対に有り得ないから。そんなことを自分に言い聞かせながら目の前の机の面をじっと眺める。



ググッ



だけどなんでだろうなあ~、な~んでこんなに冷や汗が止まらないんだろう(笑)。ただ、その声の主があの「健」であるということだけで。きっと今俺の顔は情けないほどに引きつった顔をしているだろう。

首元に伝わる少しずつ強まっていく力の気配に焦りを比例して大きくさせながら、両腕に力を込めようとする・・・が。



(有り得ない有り得ない有り得ない・・・うわあああっ!?)



グイーンッ



ガッツリ現実逃避の言葉がむなしく舞い散って、俺は無情にも机という唯一の救いの手からおさらばするのだった。



ガコーンッ!!



「・・・かはっ!?」



気付いた時にはイスの背もたれに思いっきり背中を打ち付けていた。いわゆる車に乗っている状態で前から追突された時のあの衝撃と同じ。ぶつけた衝撃の反動で俺の首はへし折れるかと思える勢いで後ろにひん曲がり、思わずそのまま後ろへひっくり返ってしまいそうになった。



ああ、これ死んだな・・・。目の前に広がる教室の天井という景色が真っ白に染まりかけて、ついでに体中の力が吸い取られて一人無重力体験でもしているような感覚が俺を支配する。

もしかして、これが天に召されるってことなのか?そういわれてみれば、真っ白な世界の向こうから天使が見えてきたような・・・



「蓮君っ!!」



「はっ!?」



ガッターンッ!!



いつのまにか頂点に達していたイスの傾き。保ちかけたバランスが崩れた時には勢いよく地面目指して降下して、思いっきり地面にその足を叩きつけていた。またしても響き渡る激しい打ち付け音、グラッと揺れる俺の上半身。



「だ、大丈夫か蓮・・・?」



さすがにやりすぎたと自覚したのか健が心配そうに身を乗り出して俺に尋ねる。

だがしかしもう遅い。俺の中で沸々と湧き上がるこの感情はもう抑え込むには遅すぎるものだった。



「ア、アホかお前はあーーーーっ!!」



俺は勢いよく立ちあがり完全に無意識に、なにもかも究めて純粋に爆発させていた。途端に教室中に延々と音の波が俺から隅まで響きわたっていく。

まあ無理もない。いきなり机に顔面を叩きつけられたばかりか、ようやく意識を取り戻した時には今度は無理やり起こされてイスに思いっきり打ちつけられたんだからな・・・。正直、良く生きてたと思う。まあ昇天はしかけたけど。



しかしまあ自分でもびっくりするぐらいの大きな声が出た。ターゲットとの戦闘中ならいざ知らず、日常生活でこれだけでっかい声を出すこともそう多くはない。まるで走り終わったランニングマンのように、荒くなった息がその激しさを物語っている。



「あっ・・・」



シーン・・・



だがしかし、俺はようやく自分の置かれている状況に気が付いた。

さっきまであれだけざわついていた教室。だけど今はテレビの消音ボタンでも押したかのように教室中から音が消えた。変わりに生まれたとしたら、俺へと向けられた教室に居るみんなからの視線だけで・・・



やって・・・しまった?思わず目が点になって、今度は後悔と戸惑いで冷や汗が再び顔から流れ出していた。右を見渡せばみんなの視線、左を見渡せばみんなの視線、前を、後ろを・・・。

こんな状況のおかげで、さっきとは違い現実を受け入れるまでそう多くの時間はかからなかった。



「蓮お前・・・。ナーイスツッコミ!!」



そんな俺をフォローしたのか良いネタに使ったのか全く不明だけど、目の前で親指を立てながらgood!ポーズを俺に向けて、健は満足そうな笑顔でそう言った。そしてそれに触発されるように静粛の糸が



ドッ!



鮮やかに解かれていくのだった・・・




「ほら、みんな静かに。じゃあこっから先はクラス委員に任せるからよく話し合うように。及川、頼んだぞ」



「はい」



 まだ笑いが冷めやらぬ中、机にモロにぶつけた鼻とイスにぶつかった反動でひん曲がった首元をそれぞれの手でさすっている俺の横を、及川がいつものように冷静かつ澄ました顔で教壇目指して歩いていった。



まあ、健のツッコミの後にあいつが咳払いしながら表情を緩ませていたのはもう確認済みだけどな。



「いや~悪かったな蓮。つい「学園祭」って言葉に興奮しちまってよ」



後ろを振り返れば健が片手で頭をさすりながら謝っていた。しかしその上ずっている声といい、緩みきった表情といい、反省の色はまるで見えない。むしろ逆に楽しんでいるようにも見える。

それほどまでに「学園祭」という響きの魔法は、人を興奮させるものなんだな・・・痛い。



「たくっ、いくら興奮したからってそれを蓮君に向けてどうすんのよ。まあ相手が蓮君でまだ良かったけど・・・」



その横では玲が哀れむような視線を健に向けて一つため息をつく。

まあ玲は俺が机に突っ伏した時点で心配してくれていたからな・・・ん?けど「蓮君でまだ良かった」ってそれはどう意味なんですか玲さん・・・。



「じゃあまずは学園祭における実行委員から決めていきたいと思います」



「よっ、良いぞMr.GB!!」



及川が教壇に辿りつきみんなの方向を向いてからの第一声、それに約束事であるかのように健がヤジを入れてまたしても教室に笑いをもたらす。及川は眼鏡をくいっと上げ直して冷静を装っているが、赤く染まっていく顔を見れば動揺は一目瞭然だ。



(って、やっぱこいつ全く反省してねえ・・・)



鼻血が出てないか何度も鼻をさすって確認しながら健を見てため息をつく。さっきの出来事なんて完全に忘れ去ったように健はまた目をキラキラと子供のように輝かせながら前を見つめてる。

ま、健になにか期待してることなんてもちろん最初っからないけどな。ホッと肩をなで下ろして俺も同じく前へとゆっくりと向き直した。



「コホン!とにかく、学園祭は体育祭の時よりも出し物だったり金銭的な面だったり、やることがたくさんあるので。クラスから5人、実行委員を選出したいと思います。誰かやりたいという人は居ませんか?」



及川の言葉を皮切りにまた教室中がにわかに騒ぎ出す。まあ学園祭の実行委員っていやあ、聞いただけでも大変そうな役柄だからなあ。そう簡単には手を挙げたがる奴もいないだろう。

どうするどうするという声が溢れかえる中、俺は一人余裕たっぷりといわんばかりに机に肘をついてくつろいでいた。



なんてったって、俺は体育祭の時にもう実行委員をやっているからな。その大変さはもう骨身に染みるぐらい体験したが、こういう場合常識的に考えて一回やった奴以外から選んでいくもんだ。つまり俺が実行委員に選ばれる可能性は0。だからこうしてゆっくりと、今は傍観者として見物させてもらおうじゃないか。



ざわつく雰囲気をようやくゆっくりと楽しみながら俺は淡く目をつむった。聞こえてくるのは学園祭実行委員に対する戸惑いとちょっぴりのわくわく感が混じった声。こうして雰囲気を味わっているだけでも、それがどんなものであるか知らなくても楽しい気分になってくる。

そんな空気に酔いしれながらたっぷりくつろいでいると・・・



「はいっ!一之瀬君が良いと思いま~す!!」



「・・・は?」



突然、背後から俺の名前が聞こえた。



「異議なし」 「異議な~し」 「賛成~」 「まあ鉄板でしょっ!」



「え、は、ちょ・・・。なにこの展開!?」



呆気にとられている俺をよそに教室に居るみんなから次々と賛同の声が挙がっていく。俺はその光景にただただたじろぐばかり。その迫力と勢いに完全に押し負けて、言葉さえも繋ぐことのできない哀れっぷりを大いに見せびらかしていた。



「待て待て待て!俺は体育祭でもう実行委員をやってるんだぞ?普通こういうのは被らないようにするものなんじゃあ・・・」



誰かがその事実に気付いてくれる。そう祈りながら一番目の前に居る中で常識的そうな玲へとヘルプの視線を向けてみた。しかし



「ううん。基本的に一度やった人がやったらダメっていう規則はどこにもないけど?」



真顔で玲はキッパリと俺の悪あがきを切り捨てた。キョトンと不思議そうに見つめる玲、そんな姿に俺は反対の一言も口ずさむことができなかった。



「えっと・・・そうなの?」



反射的に投げかけるように辺りを見渡して尋ねてみる。するとなんとも素晴らしいシンクロ率でみんな一斉に一つ頷いて見せた。つまりはYES。どうやら本当に一度やった奴でもやってもいい状況らしい。俺だけが勝手に思いこんでいただけってことか・・・。



「まあいいじゃないの蓮。大変かもしんねえけどおもしろそうだし。俺と玲も一緒に助立ちすっからよっ!」



トンッ



そう言って健は俺の左肩に手を置いた。今度は机にめり込ませた時とは違い優しいながらもしっかりと、その手で俺の肩を握っていた。

視線を上げればくったくのない笑顔。思わず必然的に温かな気持ちと安心感に包まれていく。・・・ふう、ある意味反則だよな、これ。



また一つため息をついてから肩の力を抜くと、そっと逆の手で肩に置かれている健の手を振りほどいた。



「わかったよ、やる。そんかわりお前にもきっちり働いてもらうからな」



「合点承知!」



オーッ、パチパチパチパチ・・・!



今度は拍手と歓声が教室中から沸き起こった。完全に押し切られた感じだが、不思議と悔しさとか後悔とか、そういう嫌な気持ちは微塵も生まれなかった。

もしかしたら、案外もう一度やりたかったという気持ちもあったんじゃないかと自分に聞いてみたくはなったが、そこは未回答のままでしまっておくことにした。てか恥ずかしいわ(笑)



「たくもう、いつのまにか私もやることになってるじゃない。まあいいわ、蓮君はともかく健を野放しにしたらどうなるかわかったもんじゃないし。私もやる」



スッと立ち上がり手を軽く上げて玲が詰め寄る。やれやれといった感じに肩を竦ませながら浮かべるその表情には、柔らかい優しさと嬉しさが混じり合ったような笑みが浮かんでいた。



「ふむ、ならば僕も立候補することにしよう。一応これでもクラス委員なわけだし、兼任した方が話がまとまりやすそうだ。それに計算も得意だから金銭関係においてもね」



後ろを振り返ればここぞとばかりに手を挙げる及川の姿があった。相変わらず度の強そうな眼鏡を光らしているが、くいっと中指で眼鏡を上げるいつもの動作の時に微妙に指が震えていたように見えたのは気のせいか?



「とかなんとか言っちゃって~。本当は仲間に入れてもらいたかったんだろ?Mr.GB!」



そんな及川に対してまたしても健のヤジが飛んでいく。普通ならそんなヤジ、軽く受け流せばいいものを・・・。及川はこれまたわかりやすいまでに顔を引きつらせながら体全体を使って図星であることを表現していた。全く、こういう時だけ妙に鋭いところは健の良いところというべきなのか?



「ほらほら、いちいちちゃかさない。実際及川君みたいなしっかりと冷静に物事を考えられる人は必要なんだから。これで及川君を入れて4人、あと一人ね・・・」



実行委員の枠は全部で5人。今集まったのは俺、玲、健、及川の計4名。

まあ必ず5人居なきゃいけないってわけでもないだろうが、できれば後1人、それもここまで男3人女1人だからもう一人が女子生徒だとベストなんだが・・・。



辺りをぐるりと見渡す。ここまでトントン拍子に候補が決まっていったが、ここにきてストップがかかってしまったようだ。さすがにメンバーが濃すぎるというのもあるか。なるべく俺の視線に止まらないようにみんな思い思いに目を泳がせていた。



そんな中、俺がふと真横を向いた時



「あっ・・・」



ある人物と、目がたまたま合った。



「そうだ。優菜ちゃんも一緒にやろうよ!」



そんな姿に気が付いたのか玲がすかさず声をかけた。よっぽど予想外だったのだろう、たまたま目が合った隣の席に居る、篠宮さんは玲の声に大袈裟ともいえるぐらいに体がびくつかせていた。



元々かなり小さめの体の篠宮さんだが、焦りと困惑で縮こまってアルマジロみたいに体を丸めているその姿はより一層、もうボールみたいに抱きかかえて持てるんじゃないかと思えるほどになっていた。



「い、いや、私なんか無理だよそんなの・・・」



(むむ・・・)



顔を赤らめながら頑張って絞り出して声を出している篠宮さんは、ある意味でとても可愛らしく、思わずドキッときてしまう。これは・・・ある意味で破壊力抜群だ。



「大丈夫大丈夫。面倒なことは男三人衆がやってくれるから。それに女子が私一人じゃ心細いけど、優菜ちゃんが入ってくれればもう万事解決よ!ねえみんな?」



玲がクラスメイトのみんなに、いや、女子達に向かって投げかける。それに対して前もって仕込まれていたかのように



「そうそう」 「篠宮さんと玲が居たらもう安心よね」 「篠宮さん、男共から私達の学園祭を守って~」



次々と多数の女子達が玲の言葉に乗っかっていくのだった。ほんと、こういう時の女子の団結力って恐ろしいよな・・・。



「なんか、凄い言われ方だな」



「ああ。よっぽど信用がないんだな、俺達。まあ無理もないか(笑)」



しかし多くの声援が浴びせられているが、むしろそれが余計にプレッシャーになっているようで。篠宮さんは更にも増して縮こまってもう子リスみたいに丸まっていた。

・・・さすがにここまで来ると見ていられないな。俺は篠宮さんにそっと近寄ろうと動き出した時、それよりも早く動き出した奴がすぐ近くに居た。



「悪い、篠宮さん。こんな重荷背負わせようとして勝手してるよな。でも・・・どうか受けてもらえないかな。この話。みんなのためにも、俺達のためにも。そして、玲のためにも」



「健・・・」



あれだけ学園祭って響きにはしゃいでいた男が、今目の前で篠宮さんの心の支えになろうとしている。

健の言葉が硬直の魔法を解くカギであるかのように、篠宮さんの体から少しずつ力が抜けていくのをここからでも感じる。



「あいつ喜ぶと思うんだ、篠宮さんが入ってくれたら。そして篠宮さんにとっても、本当に良い思い出になると思うよ。いや、俺達がそうしてみせる。だから一つ賭けてみないか?篠宮さん。俺達と一緒に、最高の学園祭を作り上げてやろうぜ!」



いつしか篠宮さんの体は元の大きさへと戻っていた。本当に不思議だ。健にかかれば、どんなに俯いた人でも前を、いや、上を向いて歩いていける。

・・・やっぱり反則だな、お前は。いつのまにか俺も安心して二人の姿を見守っていた。やっぱり・・・ズルイな。



「・・・うん。こんなにみんなから応援してもらって、やらないなんて勿体ないよね。・・・うん、私も、私もやる!みんなと一緒にお祭りを盛り上げてみたい!」



篠宮さんは普段見せないような大きな声で、しっかりとそう言った。その表情にはいつものように可愛らしい笑顔を浮かばせて、まだちょっぴり残る恥ずかしさを表に出して。

本当に、強くて可愛くて・・・、奇麗だった。



「お~い玲、篠宮さんが実行委員やってくれるってさ。これで5人全員揃ったぜ!」



「本当!?わ~ありがとう優菜ちゃん!」



健からの報告を受けた玲はすぐさま篠宮さんに向かって飛びつき、喜びを全身で表現していた。よっぽど嬉しかったんだろう。もう子供みたいに篠宮さんに抱きついてはしゃいでいた。



「さすがだな、健。けど一つ聞きたいんだが・・・」



 せっかくなにもかもがまとまって一件落着というところで、俺はなぜか一ついじわるな質問を健へと投げかけていた。



「あの時篠宮さんを説得したのはみんなのためか?それとも篠宮さん自身のためか?それとも・・・玲のためか?」



全く意味のない質問。全く無駄な疑問。そんなこと自分が一番わかっていたけれど。俺はその質問を聞かずにはいられなかった。

もしかしたら、健になにかを求めていたのかもしれない。



「う~ん?なんだそりゃ。そんなの決まってるじゃねえか」



そしてそんな俺の願いに、健は見事応えて俺の中の淡い期待を奇麗に「裏切って」くれた。



「全部に・・・決まってるだろ!」



健に対してこの質問はもちろん、あきらかな愚問だった。






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