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第百六十八話 前へと進む勇気~いつかきっと必ず光はある~



「はあ~・・・」



 深い深いため息をつく。一体今日の今までだけで何回ため息をついただろう。もう一週間分ぐらいは充分にしたような気がする。



いつもどおり通る道。なだらかな坂を上っていけば、見慣れた光景が次々と姿を現す。変わらない景色、だけど形そのものは変わらなくとも、確実に、次の季節へと景色はお引っ越しをしようとしていた。



思わずぶるっと震えてしまう向かい風。かすかに黄や赤の色を残しながらも、少しずつ散っていく草木。それこそ今の俺の状態を表しているようなもので、ため息をつくたびに葉は散ってどこかへ飛んでいってしまっているような気がする。



はあ・・・こんなこと考えてる時点でもう鬱な状態だよな。ってまたため息をついてしまった。駄目だこりゃ、これはもうなにもかも妥協してあきらめて、ただ前へ進むしかないな。考えれば考えるほどに惨めになっていく。



駄目だな・・・こんなんじゃ。



「よっ、蓮」



「ん、おお健か」



 ゆるやかな曲線を描きながら長く長く続く坂を登りきった先に、これこそ高校生の朝ともいうべきすがすがしい爽やかさ漂う健の姿があった。反対に頭の中であれこれ一人黙々と考え込んでいた俺の下を向いていた目線が自然と上へと向く。



「なに考え事してんだ?人生の悩みか、それとも学業の悩みか。それとももしや恋の悩みか!?いいねえ若い奴は。悩み多き青年よ、悩みに悩み抜いて自らが決めた道を前へ進んでいくんだぞ!」



「・・・なんのキャラだそれは」



腕組をしながらうんうんとひとりでに頷く健。一応笑うところなのだろうが、言ってることはおっそろしくまともでしかも何気に良い言葉なので・・・笑えねえ、笑えねえよ健。なぜこのタイミングでその言葉なのかと逆に問い詰めたいほどだ。



それほどに今の俺は少しセンチが入っていた。実際こんな何気ない言葉にも救われるんだよなあ・・・凄く。このままだったら、この何度も何度も歩いてきた景色と光景の中に、溶け込んで消えてしまいそうだったからな。



「若き日を思い出してああ自分もこんな時があったなあと感慨深くなるどっかのおっさんのイメージだったんだが・・・。まあそれはさておき、なんでそんなに深刻そうな顔をしてるんだ?ターゲットの殲滅には成功したし、当分は落ち着くだろうと工藤も言ってたじゃないか。なにかほかに、不安要素なんてあったっけ・・・」



空を見上げながらぶつぶつと考え込む健。そんな無駄に真剣に考える健の姿が妙におもしろく見えて思わず吹き出しそうになるが、今はぐっとこらえた。健は健なりに、心配してくれていることは充分に伝わってくる。



「・・・・・・」



でも健、おそらくお前にはその答えは出ないと思うぜ。もし出たとしても、お前がそこまで悩むことはないだろう。これは完全に、俺自身に関わる問題なんだから。



「・・・そのターゲット、今回で何体目だと思う?」



「へ?」



自分でもびっくりするほどの低くドスの利いた声が俺の口から絞り出される。今こんなにも近くに居る健との温度差は水なら沸騰してしまうぐらいに差があった。健が目を丸くして驚くのも無理もない。学生生活の華とも言うべき高校生がとる行動にしては、あきらかにダークな部分が表に出過ぎていた。すがすがしい朝に、無駄に真っ向から刃向かっているようだ。



「何体目ってえ~と・・・、1、2、3・・・今回のを合わせて6体目、だな。それがどうかしたのかって・・・あ」



「ソラノ・・・カケラか」



ご名答。まさにその通り。見事正解した相川 健人君に10点・・・まあ無意味だけど。とにかく今俺が悩んでいることの大半、というより全てはそのことから繋がっているんだ。



6体目のターゲットの殲滅、6枚目のソラノカケラ。二つのカケラを合わせると完成する本当のソラノカケラの姿。そしてその一つのカケラの完成の暁に、俺は自らの「過去」を知り得ることができる。過去を知る、闇に消え欠けたままの時の穴を埋める。それが俺のこの世界に居る本来の目的、使命。だけど今の俺にはこの世界に居続ける「理由」がほかに幾つもできていた。しかしそれでもそれが究めて重要な意味を持っていることに変わりはない。



だけど・・・今その使命とやらが、これ以上無いって言うぐらいの影として俺を蝕んでいた。玲が過去の闇から解放され、前へ向いて歩いていけたこと。健が自分は自分として自らの足で歩き始めて、そしてようやく健と真の意味で絆を築けたこと。そんな大きな大きな歩みによってできたこのソラノカケラは、本来ならもっと喜びに満ちているはずだ。はずなんだ・・・



だけど



「怖い・・・のか?」



「!?」



その時、突然悟ったように健が俺に語りかけた。いつもより低い声で、それでいて俺のようにただ暗いのではなく密かに安心感漂う声。なぜ言葉一つでこんなにも違ってくるんだろう。この何度も何度も歩き通った道のりに、何度も何度も見たこの光景に、なにもかもに包み込むような安心感を感じた。



「ああ・・・正直に言うとめちゃくちゃ怖い。ちょっと間違ったら震えだしてしまうぐらいに。・・・情けないよな、知りたくて仕方なかった自分の過去を目前に控えて、今になってこんなにびびってるなんて」



自分でもよくわからない。どうして俺はこんなにも脅えているのだろう。姿も形もないからわからない。このどこまでも広がる澄み切った青空を見上げても、なんの手がかりも助言も浮かばない。結局、なにかに頼っても仕方ないってことか。



玲や健は過去と真っ正面から向き合えていたのに、俺はなんだ。これからようやく過去と向き合うというのに、それすらも怖くて仕方ないなんて。



俺の脳裏にはあの光景が浮かんでいた。俺の過去・・・というよりももう一人の俺、フェンリルの過ごした世界で見た光景。



今でもはっきりと覚えている。一人の少女がフェンリルと別れ、その後一人秘めたる想いを風に乗せて自分に語りかけるように言葉を繋ぐ。それがなんだと聞かれれば、それこそ「恋」というものなんだろう。フェンリルとあの少女の間には、友達以上の絆があったような気がした。



だけど過去が見せる景色はそれで終わらなかった。フェンリルが去った後、その一人の少女に話しかける人物が居た。全身黒ずくめで、一見紳士のようにも見えるが黒い帽子の下から見えるその視線は、思い出すだけで背筋が凍るような冷たい目をしていた。



その後どうなったかはわからない。そこで俺は過去から現在へと戻ったから。だからもしかすると、今回のソラノカケラが見せる光景は、その続きかもしれない。いや間違いなくそうだ。そうでなければまだ見ぬ過去にこれほどの恐怖を感じるわけがない。あの少女とフェンリルの結末、俺はそれをたまらなく見たくなかった。もちろん結果は知らない。ハッピーエンドかバッドエンドか。なにが待っているか知ったこっちゃない。



だけど怖い、たまらなく怖い。前へ踏み出す一歩が全力で拒絶されているようで、黒き影が俺の行く先の邪魔をする。それに俺を包む恐怖は、その先にある結果だけじゃない。むしろこれが一番な気がする。



その光景、その時間、その瞬間を見ることで、俺は今までなかったなにかが得られるような気がする。それがなにかなのかも、なぜそう思うのかも全くぽかんとしているが、これだけはわかる。



それは多分、俺自身が望んでいるもの・・・。そしてそれを知れば、俺の中のなにかが変わる気がする。・・・なのになんでだろう。どうしてだろう。望んでいるもので、それを知れば変われるような予感がしているのに



スッ・・・



怖い、それを知るのが怖い。変わってしまうのがたまらなく怖い。神様よう・・・俺はおかしくなっちまったのか?それとも神様の方がおかしくなったのか。どっちでもいい。だけど、この空に・・・心から願うよ。



1ミリでもいいから、俺に、勇気をくれ・・・



ポンッ



 その時、俺の肩に手が置かれた。暖かい手、ずっしりとした手。見上げた空が、衝撃で揺れた。



「なんでも最初は怖いものさ。だけどきっといつかそれが本物になる。それがお前自身になる。だから大丈夫だ。全然頼りないかも知んねえけど、俺も玲も、みんなみんなお前の近くに居るからさ」



「みんな・・・」



見えなかったソラの青色が、今鮮明に輝きを放って目に映った。きっとこれが、本当のソラの色。そして今、それを見て俺はわかった。



人は、1秒だけでも変われる。1秒があれば変われる。どんなに、微かな変化であろうとも。どんなに、どうでもいいものであっても。



そっか。俺、一人じゃない。みんな・・・みんな近くに居るんだ。



「いつかきっと必ず光はある。だから恐れるな・・・ってまあこれは蓮の受け売りだけどな、実際その通りだと思うよ。おかげでどれだけ勇気をもらえたかわかったもんじゃねえからな」



そう言って照れくさそうに笑う健。その笑顔は確かに目の前にありそして俺へと向けられていた。



そうだ・・・この言葉は健に言ったつもりで、実は自分にも言い聞かせていたんだ。忘れてたよこんな大事なことを。どんな闇にもその先に光はある、どんなに闇の中をさまよっていても、いつか必ず光はある。だから人は歩いていける、光を、その手で掴むために前へと進むことができる。



それは一人じゃ難しくても、誰かと一緒なら、みんなと一緒なら掴み取ることができる。そして、今の俺にはそんな仲間が居る。一緒に歩いていけて、近くに居てくれる人がここにこうして存在している。今ならきっと届く、どんなに高い場所にあっても。どんなに困難な場所にあっても。



あのソラにだって、今なら手が届きそうだ。



「そうだな・・・立ち止まっててもなにも変わらないよな。・・・よし、行くか。やっとここまで来たんだ、今回を数えて後二つ。全ての過去を、俺は手にして見せる!」



「そうだ、その意気だ。何事もやってみなくちゃわからない。どうにでもなるさ」



勇気を出すのは難しい。前へ踏みだすことは、なにも先の見えない闇の底に飛び降りるようなものだから。先が見えない、だから不安になる。恐れを抱く。だから苦しみを覚える。だけど本当はもっと簡単なこと。ただ自分で難しいように考えてるだけ。蓋を開けてみたら、きっとなんでもない光が待っていることだろう。



ただそれに気付かないだけ。そして友達は仲間は親友は、それに気付かせてくれる。当たり前で、なんでもないことを教えてくれる。



・・・俺、なんか、恵まれ過ぎていないか?



「おいおい校門で男二人なに語り合ってるんだ?それともあれか、これなのか?」



「ん?」



 突然の声に振り返ると、そこには右手をそのまま反対側の頬に当てている、あの体育祭最終種目のリレーで競い合った朝風 隼が立っていた。



「んん?なんだあ朝風。お前喧嘩でも売ってんのかあ~??」



そしてその朝風にいきなり喧嘩腰で詰め寄る健。顔を合わせながら立つ二人に争いの気配でも感じたのか、周りではちらほらと注目の視線が注がれている。しかし大方の期待を裏切って、睨みあっている割には険悪なムードは漂っていなかった。



むしろほのぼの?



「いやいやそんな面倒なことはしないさ~。ただ朝の校門で二人があんまり青春、って感じのムードを漂わしてたから少し邪魔したくなっただけだ」



ジャリッ・・・



そして更に詰め寄る二人。見つめ合う二人の間には確かに火花という火花が散っていた。でもこれは喧嘩、争いの火花じゃない。なんかこう言うなればこれはこれで自然な接し方のような(?)感じだ。



「ほう・・・やる気か。良い度胸だ。俺も、いつかお前とは決着を付けなければならないと思っていた」



「ふん、奇遇だな。俺もだよ相川。体育祭の時ではカッコ悪い負け方しちまったがあれは一之瀬に負けたわけであってお前との決着は付いていない。・・・校舎までダッシュ一本勝負。いくぜ」



「は?校舎までダッシュ??」



なにを言い出すのかと思えばびっくりするぐらい庶民的なことを口にした。この二人以外は間違いなく目が点になる状況だ。あれ?もしかして朝風って健と同じように「バカ」なのか??そう言われれば確かにどことなく雰囲気は似ているような・・・



あ~なるほど。そういうことか。



「OK。じゃあいくぜ。3、2、1・・・」



「お、おい待てよお前らなに突然に・・・」



と、言う間もなく



「GO!!」



ダッ!



二人は走りだし超全力ダッシュで(完全にマジ走りだ)物凄いスピードで校舎目指して駆け抜けていった。辺りには砂ぼこりさえ立ってしまいそうだ。



「まあ、いいか」



少しずつ姿が点になっていく二人の背中を見つめながら息を吐く。



いわゆる「同類」ってやつだな。そしてあれはあれで、良いコンビなんだな。



「後は俺だけか・・・」



上を見上げてぼそりと呟く。空は青い。今ははっきりとそれがわかる。最初の朝の調子で前へ進んでたら、どうかなってたかもしれないな。少なくとも自分でいられなくなってた気がする。



「行くか」



だけど今なら大丈夫。きっと乗り越えていける。この青き空の下、俺はその一歩を踏み出した。



過去への、一歩を・・・




<放課後 DSK研究部部室>



「・・・・・・」



 放課後の部室、いつもならなにかと色んな話題が飛び交うが今日は考える必要はない。もう部室に入るずっとずっと前から、それこそ何日も前からわかっていたことだから。



「準備はできましたか?一之瀬さん。今なら引き返すこともできますよ?」



自らの過去を知る。三度目の、失われた過去を取り戻す瞬間。



「大丈夫、問題ない。ここまできたらもうどうにでもなれだ」



左手にはあの黒田を倒した時のカケラ。右手にはあの闇属性のターゲットを倒した時のカケラ。この二つのカケラを合した時、真のソラノカケラがその姿を現し過去の世界を映し出す。



「サクッと終わらして来い、蓮」



「頑張ってね蓮君」



もう迷わない。玲が、そして健が自分の過去と向き合えたように、俺も自らの過去を知り向き合い、そしてまた前へと進む。



「ああ、ちょっくら行ってくるぜ」



一緒に、みんなと一緒にこれからを歩いていくために。



スッ・・・



だから俺は



カチッ



カコヘトハバタク



シュウォン・・・!



「三度目の過去・・・ですか。とうとうここまで来たんですねえ。まあなんにせよ、無事に帰って来てくれればいいんですがねえ」



パタリ



少年は旅立った。自らの過去の世界へと。そこでなにを見て、なにを想うのかは少年にしかわからない。



だけどそれが大いなる一歩の一つであることに違いはない。いつかわかるだろう。この一歩が、どれだけの重さを背負い、どれだけの意味を担い、そして未来へと続く架け橋であったことを。




 少年は知る。今まで存在しなかった、望み続けていたことを・・・






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