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第百六十七話 Best friend~真なる想いに、やっとの想いを~

※今回もめっちゃ長くなりました。スイマセン><



ズズウン・・・



「おいおい・・・こいつは・・・」



 薄い霧、それをかき回すように吹き荒れる風。風は霧を引っ提げて廊下の彼方へと消え、変わりに姿無き強烈な威圧がのしかかってくる。もう恐怖とか驚嘆とか、そんなレベルじゃない。完全に、頭が真っ白になるほどに呆気にとられていた。



「ふむ・・・驚き、としか言いようがありませんね」



おいおい工藤さん、言葉と表情がリンクしてないって。お前のその表情のどこに驚きの文字があるんだよ・・・。めちゃくちゃ冷静に廊下の先を見てるじゃねえか。



ってそんなことはどうでもいい。今は目の前で起きたことを整理するのが先だ。しかし・・・今俺はとんでもないものを見た気がするんだが・・・。



いや、今もか。



「け、健・・・お前・・・」



たった一つだけだ。俺を、いや俺達を混乱させているのは。だけどそれなのになんだこの言い表せない感じは。しかも、当の本人はそれが当たり前であったかようにその場に佇み・・・



「・・・初めてにしては上出来か」



その時俺は思い出した。この戦いのずっと前に、健の家に俺が出向いて健と直に話していた時の中の俺のワンフレーズを。



「お前、自分には力がないとか言ってたけど、俺の予想ではお前は俺達にまだなにか隠し事してるように思うんだが。特にお前自身の力か何かに関係することを・・・」



一応は感付いていた。健が俺達には見せなかっただけでなにかほかに健自身だけが知っている隠された力のようなものを持っていることを。それに対する理由もへったくれもないが、確かになにか健の裏に潜むただならぬ力の片鱗を感じていた。だがしかし、しかしだな・・・



これは、異常すぎる(笑)



「おい健今のは・・・いやそれよりも今お前が持ってるのはなんなんだ??」



徐々に落ち着きを取り戻していく廊下を見つめる健。その手に持たれているものはいつものあの銀の二丁銃ではない。黒光りするフォルム、複雑に入り組んだ持ち手に加えて上部には細長いスコープ。そしてその先には長く延びた銃身にそれを支える支柱のようなもの。そして最後にその先にある重圧な銃口。なんだこれ、さっきの一部始終を見たところあの銀の二丁銃が変化したもののようだが、そのなごりは微塵も残っていない。全くの別物だ。



「ああ、これか?そうだな・・・この世界で言えば「対戦車ライフル」かな。一撃にその全てを凝縮し、相手におみまいして破壊する、いわば一撃必殺的な代物だ」



「対戦車ライフル・・・」



ゴクリ・・・



その響きに体が身震いした。思わず片唾を飲んでしまう。目の前にあるそれは、そこに存在しているだけであらゆるものに恐怖という威圧を与えていた。形だけならどうということはない。確かにそのフォルムは攻撃的だがそこまでの衝撃はない。だけど俺は、俺達は見てしまったのだ。



そのライフルから放たれた一撃が、あの黒き存在、闇属性のターゲットを一瞬にして消し去り、その場に跡形も残らずただ消失の空間を作り上げたあの瞬間、あの光景を。



黒き銃身、重圧な銃口を見るとあの光景が脳裏をちらつく。一度与えられた恐怖を消し去ることは容易なことではない。その衝撃が大きければ大きいほどに不可能という域に近づいていく。そして今、その域に余裕で達するほどの衝撃を俺は受けたというわけだ。



「・・・はあ、やれやれ。自分のことを自分が一番理解できないというわけですか。しかしよくもまあ今まで気付けなかったものですね・・・」



「ん?」



その時工藤が深い深いため息に乗せてなにかを呟いた。思わずなにかと聞いてみたくなったのだが



「相川さん。あなたの竜の刻印を見せてくれますか」



そんな俺をよそに工藤は健に問いかけた。いつもの笑顔ではなく、鋭き視線を向けながら。



「ん?別に良いけど刻印がどうかしたのか?」



ファサ・・・



そして健は?マークを浮かべながら工藤に促されてズボンをまくり上げる。ズボンを膝から上にかけてまくっていく度に赤き紋様が姿を現す。それはあの、本当に最初の頃竜の刻印でさえ知らなかった俺が一般生徒をぶっとばしてしまった時、周囲が騒然となる中駆けつけた健と玲の二人。その後俺に刻印について教える時に、見せてくれたあの赤き竜の紋様。それが今、再び目の前に現れた。



「あれ?」



だけど今目の前に見えている紋様はその時とはある部分が違う。紋様自体はなにも変わっていない。あの時の光景をそっくりそのまま写し取ったようだ。



だけど今、その紋様は輝いていた。紅く鮮やかに、そして「強く」輝いていた。なぜだかはわからない、だけどその輝きを見た瞬間に脳裏で浮かんだ言葉は「強い」だった。



ただ光っているだけなのに、その光には強き意志と想いとが複雑に絡み合い結びつき、比類なき強さへとその姿を変えている。強いにも色んな強いがある。身体的に強かったり精神的に強かったり、喧嘩が強かったり気持ちが強かったり・・・数え出したらキリがない。だけどその光はそのどれとも一致しない。いや、そもそもこうやって考えること自体が間違ってる。



その光は、ただ強いんだ。その強さに、理由など要らない。



「紅き竜に聖なる焔・・・ですか。やはり、間違いありませんね」



そして工藤は一人呟いて視線をぐっと上げて健へと向ける。



「相川さん、あなたはこんな言葉をどこかで聞いたことがありませんか?おそらくずっとずっと昔のことだと思いますが・・・」



「言葉?」



妙に穏やかな空気がこの場に流れる。ついさっき闇のターゲットを倒した後とは思えない穏やかさだ。この穏やかさは誰が作っているんだろう。工藤か、健か?はたまた玲か伊集院さんか。違う、誰がとかじゃなくて、これはあくまで自然的に流れたもの。



なぜだかはわからない。だけどわからなくていい。きっと、これがこれからの未来に用意された舞台のようなものなんだろうから。



そしてその始まりは、いつもどおり工藤の言葉から・・・



「我は唄う、紅き竜に聖なる焔は宿る。我が呼びかけに応えよ、紅蓮の炎は今ここに光となり、大地を駆け聖なる羽根へと舞い上がらん・・・」



「っ!?」



その瞬間健はあからさまに反応を見せた。なにかある、そう思うにはわかりやすすぎる反応だった。なんか、どっかの演技の下手な三流役者的な反応だな。



「やはり、聞いたことがありますね。それも、あなたの父君から聞いた言葉じゃないですか?」



「なっ・・・なんでそんなことまでわかるんだよ。確かに、親父から聞いた言葉だ。それもずっとずっと昔、まだ誰とも出会ってなかった頃に突然言われた言葉だ。俺自身も、そのことは忘れかけていたが・・・。だけどもちろんこのことは誰にも言ってないし誰も知らないはず。なのになんでお前が・・・。お前はエスパーか??それとも・・・」



「・・・さて、なんででしょうね。まあ今はエスパーってことにしときましょうか。大事なのはそこから導き出される答えですから。近すぎて遠い、それに気付くだけでどれだけの環境の変化が現れるか。望み続けていたものは実は既に手の内にあったという現実・・・。運命のイタズラ、そんなもので片付けていいんですかねえ・・・」



ザッ



そして、工藤は一歩、その場所から前に出て告げた。



「相川 健人さん。あなたは竜族における最も権威ある一族の一つ。レッドドラゴンにおける正後継者です」




<放課後 中庭>



ザーッ、ヒュルヒュルヒュル、スザーッ



 夕暮れ、赤く染まった空、黒みかかった怪しい大きな雲。その下に俺と健、二人はこの涼しげな風が入り込む中庭に腰を下ろしていた。



ターゲット殲滅任務完了。俺達の今やるべきことは終わった。本来ならすぐにでも今回の件のふりかえりなど、やらなければいけないことはどれだけでもあるだろうけど。今日は身体的にも精神的にもダメージがあっただろうということで部活、DSK研究部としての活動は休みになった。



だけど俺達はなぜかこの場所に居た。せっかく休みになったんだから家でゆっくりすればいいのに。だけどなんとなく今はまだ帰りたくなかった。この学園に居続けたかった。あの昼休みの出来事がまだ体に染みついているのかもしれない。しかし残ってももちろん特にやることはなく、ふらふら~とたまたま落ち着いたのがこの中庭、それだけだ。



「世界って、こんなに奇麗だったっけ・・・」



夕日の光が反射してうっすらと赤く染まる校舎、中庭にある噴水にもその光は反射して、噴き出す水が宙を舞うたびにきらきらと輝きを放つ。遠くの方で僅かに部活動に打ち込む人の声がちらほら聞こえるだけで、この場所はほぼ俺達二人だけの世界となっていた。



「世界はなにも変わっちゃいないさ。変わったのはお前、ようやく普通に世界を見れるようになったおかげなんじゃないか?そう思えるのは」



世界は美しい。なんかキザな感じだが実際そうなんだと思う。ただいつも進むことだけ考えて前へ進んでるから気付かないだけで、本当はこの世界というものには無数の数えきれないほどの魅力というか輝きがあるんだと思う。



そして今健は、その世界の輝きに触れた。だけど健の場合気付かなかったんじゃない。世界を見ることができなかったんだ。本来羽ばたくはずの翼は折られ抑えられ、多くの悲しみと苦しみで覆いかくして世界は醜い姿へと、そして健はその姿しか見ることができなかった。



健が今なにを思っているかなんてわからない。こうしている間にも、同じ景色でも健と俺では見えているものも違うだろう。だけど俺は思う。健がそれを聞いてどう思うかはわからないが今俺の心に浮かんだことは、怒りにも似た感情を含んでいた。この美しき世界の元に描いた答え。



俺は、健をこの世界から消し去ろうとした連中を、決して許さない。なにがあろうとも、どんな理由があろうとも。もしもまた似たようなことでもしてみろ、その時は最後だ。



この手で消し去ってやる。心の傷がどれほど痛いものであるか、そしてその傷にどれだけの苦しみを味わうか。その身でわからしてやる。いつぞやの脅迫文、それはいつしか本物になっちゃったかな、そんな想いを抱きながら俺はこの場に座り赤き空を見つめていた。



「笑っちまうよな・・・ホント。玲がブルードラゴンにおける正後継者、だから俺はその監視を命じられてここまできたのに。この俺までもがレッドドラゴンの正後継者って・・・。こんな笑えるオチもなかなかないよな」



「・・・・・・」



 健はそう言って笑っておどけてみせた。その笑み、その表情が夕暮れの寂しげな空気によって吸い込まれ、余計に悲しく見えた。皮肉の笑み、俺はそれを今まで何度も見てきた。時に笑顔は人を悲しませる、少年少女にとってはまだそんなことを知るには幼すぎるが、もう既に俺達はずっと前から知っていたような気がする。



悲しき笑顔ほど、悲しいものはない。それをわかっていてもその笑顔を作り出してしまう。そうなるように仕向けられている。こんなこと、許されることじゃない。あってはいけないことだ。だけど世界はそうなるようにできている。望もうと望まなくてもそれが運命という言葉で勝手に片付けている。俺はそんな世界の一面が、この上なく嫌いだ。許せない。



もしも、もしも俺にこの世界の仕組みとやらを変えられる力があったとしたら、俺は・・・



「全然笑えないよ。笑おうにも笑えない。その事実に一体どれだけ傷ついて苦しんできたと思っているんだ。玲も、お前も。バカすぎて言葉も出ないよ、とんだ茶番だ。なにもかもがくだらない」



「ハハハッ、とんだ茶番・・・か。なんだ蓮、喧嘩でも売っているのか?」



その一言は間違っていたのかもしれない。いや確実に間違っていたと思う。だけどそれでも俺はその言葉を口にした。まだ、平穏な日々へと戻るには全てが終わってないから。やらなければならないことが残っているから。



俺と健、二人のけじめはまだついていない。



「そうだな、喧嘩を売っているのかもしれないな」



ヒュウウウ・・・



冷たい風が頬をかすめる。赤かった空は徐々に紺色に変っていき、夕日はぐっと下へ、校舎の影に隠れ静かに地平線の彼方へと消えようとしている。急に、肌寒くなった。いや、この場の雰囲気が変わったという方が正しいか?



「なんだ?そのかもしれないってのは・・・。でもまあ、それもまたいいか」



今この場の全ては受け皿となった。俺と健、二人のこれからを受けとめる舞台。もう、戻ることはできない。これからは全て片道切符だ。



「・・・ヤルか」



ザッ



 二人は立ちあがる。全く同じタイミングで立ちあがり、自然と真っ先に視線を相手へと合わす。思っていることは多分同じだ。そしてこうなることもうすうすわかっていた。なにも動揺しないし慌てもしない。だって、そうなるように俺達がしたんだから。



俺・健「リファイメント」



シュバッ



俺の手には漆黒の剣を、健の手には銀の二丁銃を。それぞれがそれぞれの刃を手にする。



「フッ、やっぱこれは違うよな。ターゲットとの戦闘じゃあるまいし。俺達の戦いに、こんなものは不要だよな」



「・・・同感だ」



シュオン・・・



手にした刃はまたしても同タイミングでこの場から消え去る。だけどこの場の空気は変わらない。刃がなくとも、やるべきことは変わらないのだから。



「・・・のやろうがあっ!!!」



ビシイイイッ!!



 中庭に鈍い音が響いた。俺の拳は健の右頬を捉え、そのままただひたすらに思いっきり振り抜く。



「ぐはあっ!?」



ズザアア!



その衝撃で健は後ろへと退いた。今にも倒れそうなところを足で踏ん張り、そのまま立ち続ける。少し伏せた顔の頬は徐々に赤みを帯びてきて、拳の当たった箇所はかすかにへこんでいた。衝撃で切れたのか少し血も滲んでいた。



「お前は本当にバカだよ。お前がレッドドラゴンの正後継者だってことは確かにとてつもなく意味のあることだ。それに気付かなかったお前は本当にアホだ。だけどなあ・・・そんな肩書きうんぬん以前に、お前は気付いていたんだろうが。玲を、柳原 玲を守ってやりたい。一緒に居たいっていう想いに。なのに組織だが命令だか知らないがそんなものに惑わされやがって。お前はバカだ。とんだ大バカ野郎だよ!!」



健がこれまでどれだけ苦しんで悩んできたかなんて俺にわかるはずもない。これっぽっちもわからないさ。だけど玲への想いを、そんなくだらないことで阻まれてきたなんて。いや、阻まれたこと自体がバカバカしい。そんなものに悩まされること自体が間違ってる。



健の玲に対する想いは、間違いなく本物だったのだろうから。



「ああバカさ・・・。自分が一番よくわかってる。どれだけでもやり方はあっただろうに、俺はそんなことにも気付けなかった。今までずっとな。だけど・・・だけどどれだけ傷つこうが苦しもうが、それでも俺は」



「玲がただ普通に生きてくれればそれでよかった。玲にはもう闇に触れてほしくなかった。ただ普通に光の元に幸せに生きてくれればそれで良い。ただ・・・ただそれだけで俺は良かったんだよっ!!」



ビシイイッ!!



「くあっ!?」



今度は健の拳が俺の頬にぶち当たる。その瞬間に頬から激痛が走った。めちゃくちゃ痛い。痛すぎて頭がくらっくらっする。ちょっと間違えば意識が一瞬で飛んでいきそうだ。健の拳は堅く、そして強かった。どんなパンチよりも強かった。景色が揺らいで見える。だけど倒れはしない。倒れるわけにはいかない。



ザザーッ!



まだ全ての想いには、全然届いていないだろうから。



「本当にそれが幸せか。大切な人がどんなに傷ついていても、その傷に触れられずなにもできずにただ見ているだけは、本当に幸せなのか!?違うだろ。そんなの幸せでもなんでもない。ただ、苦しめているだけだっ!!」



バキイイ!!



「それでも、それでも玲には知らないでほしかった。もうあいつは充分すぎるぐらいに苦しんだ。もう苦しむ必要はない。そして、あいつが苦しむ姿も俺はもうみたくない。俺の闇に、玲が苦しむ姿なんて見たくないんだよっ!!」



ビキイイッ!!



互いに互いの想いを乗せてぶつけ合う。全てを自らの拳に込めて、相手へとぶつける。



ビシッ、バシッ、ドコッ、バキイイ!!



こうしてぶつけ合ってると、本当に俺達ってバカだなあって心から思う。普通の人なら、世の中のほとんどの人ならもっと良い方法を考えつけるのに。俺達はなんにも考えられなかった。気付けなかった。苦しまなくていいこともわざわざ自分から苦しんでいた。



うすうす気がついてはいたけど。ただ単に不器用なんだよな、俺達は。曲がればぶつからなくていいのに直進して真っ向からぶち当たったり、曲がろうとしても曲がり方がわからなかったり。バカだなあほんと。



でも、それが故に全てが純粋で真っ直ぐなことだということも、知ってる。そしてそれが時に誰かを救うことにも繋がることも、知っている。だから俺達は前へ進む。大切な人を、ただ守りたいがために。



「玲のために・・・そこまで自分を犠牲にできるとはな。これが誰か違う奴だったらそうはいかないだろ・・・。そんな風に思えるお前が、俺は羨ましいよ」



バシイイ!!



「なにが・・・なにが言いたいんだお前は」



ビシイイ!!



「簡単なことさ・・・。お前は、お前は・・・」



「玲のことが、好きなんだろ?」



バシイイッ!!



全てはそこに行きついていたんだ。なにもかもがそれで話がつく。



 「好き」、俺にはその感情がわからない。まだ感じたこともそれがどんなものであるかさえ知らないから。だけど健は違う、健はその感情を知っているはずだ。だってそうだろ?普通言ってしまえば他人にあそこまでのことができるものか。普通なら自分が一番だ。だけど・・・その人が好き、心から好きだからそれはできるんだ。



好きな人だから自分を犠牲にできる。好きな人だからなにがなんでも守りたいと思う。健は自分で言っていた。玲と出会って本当に救われたのは、玲ではなく自分であったと。その言葉が、健の想いの全てを物語っていたんだ。



一番大切な人、一番守りたい人、一番傍に居てほしい人、一番・・・言い出したらキリがない。だけどその全てが、健の柳原 玲という存在に対する想いなんだ。



「ああ・・・好きさ。どうしようもなく好きさ。あの日出会ってから、今のこの時までずっと好きだったさ。あいつと居られればそれでいい。あいつが居てくれればそれでいい。それが・・・俺の本当の気持ちさ」



「だから、俺は今この場で聞く。蓮、お前はどうなんだ?玲のことを、どう思っているんだ?」



バキイイッ!!



「俺は・・・」



わからない。情けないがそれが今の本当の気持ちだった。



恋というものを知らないなんて言い訳にしかならない。それは自分がよくわかってる。だけど健が抱く想いと同じなのかと言われると、なんの迷いもなくハイと答えることができない。



俺にとって柳原 玲という存在は、大切な存在であることは間違いない。だけどその大切さがどんなものかと聞かれれば、言葉にすることができない。本当に・・・情けないと思うよ。だからこそ健のその想いが羨ましいんだ。そして、俺は知りたい。人を好きになるということが、どういうことであるかを。



「わからない・・・。だけどこれだけは言える。お前と同じく、なにがなんでも守りたい。大切な、大切な存在だよ。俺にとっての玲は」



ビシイイ!!



「そうか・・・。だけどそれがお前の本当の気持ちなんだろうな。だからなにも言わない。だけどこれだけは一緒だ。あいつを、玲を守りたいという想いだけは」



「ああ・・・そうだな。それだけは確実に一緒だ」



ビュッ、ビュッ



バキイイイ・・・!!!



そして、俺達は同時に相手の頬へと拳を当てた。どちらもその場から動くことなく、ただ頬に相手の拳を乗せていた。まるで、時がその瞬間で停止したみたいだ。



フワァ・・・ドサッ!



そのままの体勢で、俺達は奇麗にゆっくりと中庭の芝生へと転がった。衝撃で拳は頬を離れ、互いに仰向けになって空を見上げる。



空はもう暗くなっていた。先程までの夕暮れはどこにいったのだろう。いつのまにかそんな時にまでなっていた。心地よい冷たい風が柔らかく俺達を包む。頬の感覚がない。だけど今鏡で自分の顔を見たら、きっと大爆笑してしまうだろうな・・・。



「なあ蓮。そういえば言ってなかったけどさ」



「ん、なんだ?」



奇麗に並んで寝ころびながら視線をそのままに、俺達は会話を交わす。もうその言葉に、刃の片鱗は残っていない。



「お前俺に勝負しようとか言ってたけどさ。あれって完全に勝負として破たんしてるよな、間違いなく」



「お、気付かれちまったか」



勝負、というのは健と俺の間に交わしたどちらがターゲットを倒すかというもの。確かに、あれは勝負でもなんでもなく、ごまかすための口実だった。



俺が勝てば健には無条件で俺達の元に居続けてもらうし、健が勝てば健はターゲットを倒すほどの力を持っていることが証明され、この世界から消える必要はなくなる。簡単に言えば、勝負に勝とうが負けようが健は結局俺達の元に居続けることになるってことだ。



そして健は今回のターゲットを倒した。これで健はその力を証明された。まあなんか八百長みたいな感じだが、多分だけど健自身もこのことには気付いていただろう。というより気付いてないと困るんだが(笑)



「そりゃ気付くだろうよ。全く、とんだ勝負だぜ・・・」



「で、どうするんだ健。それでもお前はこの世界から消えるか?それともまたこれからも俺達と一緒に居るか?」



「思い出すだけでも恥ずかしいことを赤裸々に言っておいて、選択肢もくそもないだろ」



ザッ



 俺は勢いよく立ちあがった。多少起き上がった直後にふらつきはあったが今はそんなこともお構いなし。冷たい風がただ気持ちいい。今感じるのはそれだけだ。



「ほらよ」



スッ・・・



そして俺は健に手を差し出した。



「・・・たくっ、少しは俺にもカッコつけさせろっての」



ギュッ、ググッ!



健はしっかりと俺の手を掴み、俺は健の手を確かに握り力強く引っ張った。それに合わせて健の体が起き上がり俺の正面に立つ。



「おかえり。そしてこれからもよろしくな、親友」



「ただいま。こちらこそよろしく、親友」



ギュッ



そして俺達は、堅く強い握手を交わした。頬の傷の痛みは感じないが、健の手の感触と温かさは確かに感じられる。今ようやく、本当の意味で親友となった瞬間だった。



「な~に男同士見つめ合って握手してんのよ、お二人さん」



俺・健「へっ?」



突如聞こえたその声に思わずマッハのスピードで振り向くと、そこには見慣れた、赤い髪飾りに金髪のツインテールをした一人の少女が立っていた。



「ふむ、どうやらバレてたみたいだな」



「まあ、そんなことだろうと思ったけどな(笑)」



ダッ!



 そして俺達は駆けだした。金髪のツインテールの少女の元へ、柳原 玲の元へと。



「さ、帰りましょ。もう下校時間はとっくに過ぎてんだから」



「なあ蓮。俺達こんな顔だけどなんの反応もないのはなぜだろうか」



「さあな。それこそが玲なんじゃないのか。・・・なんてな」




11月2日 18時13分 この日、健の正式な虎族脱退が決まった。





「いいんですか?行かなくても。今こそ青春というべき場面ですが」



「・・・私には関係ない」



「しかしまあ、これこそ運命というものですかね。これで二人目、彼、一之瀬 蓮は確実にその瞬間に近づいていますね。さてさて、あなたにこれを止められますか?伊集院 有希さん」



「止められるかではなく止める。それが私の宿命・・・」




「私は彼を、許しはしない」







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