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第百六十五話 in the dark~響け、届け。いつか光へと~



「なにをためらう。お前に残された選択肢はそれ以外にない。わかっているんだろう、お前も」



「お前が前へ進むには、誰かの犠牲が必要だ。成すべきことをなせ。目の前から目を背けるな。お前が過ちを犯したと誰が言った。誰がそれを過ちだと決めた。さあ刃を持て。そして犠牲を糧に過ちを正しき道へと正せ」



「一之瀬 蓮を殺し、新たなる道を切り開くのだ!」



ズズズ、ズーズーッ



 目の前に無数に映し出されたかつての記憶。楽しかったこと、苦しかったこと、希望に満ちたこと、絶望に満ちたこと。それら全ての映像に耳障りなノイズ音を立てながらジャミングが入り乱れていく。



ぼやけ霞み歪んでいく俺の記憶。音を立てて崩れ去っていく俺の記憶。これまで積み上げてきたものがこの暗闇の中に今にも消え去ってしまいそうに揺れて霞んで乱れていく。



だけど・・・



「で、できない・・・。できるわけないだろそんなこと!なんで、なんで俺自身が招いたこの瞬間に蓮の死が必要になるんだ。あいつに罪なんてない。あるはずがない。あってはならないんだよそんなこと。あいつを俺が殺してどうなる。その先の世界に変わらぬ俺の場所があるはずがない。嫌なんだよこれ以上誰かを巻き込むのは!それぐらいなら、それぐらいなら・・・」



「それぐらいなら自分が消えると?バカバカしい、愚かすぎる。お前は、偽善者だ!」



「!!」



暗闇に響き渡る声に反応するように映像のジャミングが更にひどくなる。もう、見るのも耐えられないぐらいに歪んでいく。目ではわからなくても、確実に目の前に広がる闇は濃く、強大に空間をむしばんでいた。



「仲間、友達、友情、絆、信頼・・・実にくだらない。そんなものがなんだと言うんだ。それにお前は自分でわかっているんだろう?全ては偽りが始まったものであると。ならなぜそんなものに今さらしがみつく。お前自身ももう気付いているんだろう?」



「最初から、お前にそんなもの存在していなかったんだよ」



プツン、ザーザーザー・・・



消えた。目の前からなにもかもが消えた。俺の最も大切なもの。俺の最も大切にしたかったもの。それが今、一つの音と共に砂嵐の中へと消えていった。



ドサッ



「そんな・・・俺は、ただ・・・。俺は・・・」



涙さえ、流れてくれない。その雫にほんの少しでも苦しみが染み込み流れ出してくれればそれだけで救われるというのに。それすらも俺には許されなかった。絶望?そんなものじゃない。全てが無にかえった今、なにを思えばいいというのだろう・・・。逆に、それを教えてほしい。



闇は告げた。最初からなにもかもが存在していなかったのだと。だとすると俺はその事実から必死に逃げていただけだったのか?今までの全てのものは、全部偽物だったのか・・・?



こんなことって、こんなことって・・・!!



「だから我に全てを任せろ。お前がやらないというのなら我がやってやる。お前の憎しみ、闇は我にとってなんと良きものであるか。手放したりなどするものか」



シュウウウ・・・



「ま、待て・・・なにをする気だ」



「案ずるな。我がお前の変わりに持つべき刃を振り抜くだけだ。もうお前は、なにも考える必要はない」



闇がうごめきうねりだす。真っ黒でなにも見えないはずなのに目の前の漆黒は確かに動いている。無数に広がる砂嵐に満ちた映像がゆらゆらとその波に乗って揺れ出す。それはもう、恐怖以外のなにものでもなかった。耐えられない、これ以上の闇を受けとめることはできない。そして今俺に語りかける声は、その限界を超えようとしている。



シュルシュルシュル・・・



「駄目だやめてくれ!そんなことしたら・・・俺はそんなの望んでない!嫌だ、やめろ・・・!!こんなの・・・こんなの嫌だ!!」



「もうお前に止めることはできない。せいぜい夢の中で足掻くがいい・・・お前の闇で、お前は自らの存在を正すのだ。ありがたく思え・・・お前は救われるのだ!」



ピキッ



「やめろーーーーーーーっ!!!!」



ピシッ、グワシャアアアンンン!!!



その瞬間、闇は全てをぶち壊した。幾多にも重なっていた砂嵐の画面もろとも粉々に砕き潰し、破片さえもその黒き闇で飲み込んだ。



その時、俺はやっと自覚した。今まで必死に自らの闇に耐え、隠し、抑えてきたつもりだったのに。それは完全な思い込みだった。もう少しつついただけで崩れ去ってしまうほどにギリギリの一線を保ち続けていたんだ。俺は・・・そんなことにすら気付けなかった。



闇に・・・呑まれた。




「うおあああああっ!!!」



ギュッ



「健、お前・・・!」



 かすかな黒き霧に全身が包まれたままその場に立ち止まっていた健の体が急変する。おぼろげだった黒き闇は激しくうごめき出し、止まっていた足はその悲痛な叫び声と共に動き始めた。それが何を意味しているかはわかっていた。だけど考える時間など微塵も与えられなかった。



シュバアア!!



「くっ!!」



健から放たれる黒き霧は刃のように変形し、健はその刃を突き出したまま突っ込んできた。霧が突然激しくなってからそれまで全て一瞬の出来事。はっきり言って反応などできるはずもない。なのにどうしてだろう。俺は全てを悟っていたかのように素早く体をひねりその健の攻撃をかわした。



ピシュッ



かすかに黒き刃が頬をかすめる。刃の先に添うように赤い液体が筋となって飛び散る。健はその液体と並ぶようにして俺の目の前を通り過ぎていく。



キュキイ・・・!



「はあ・・・はあ・・・。くそっ、結局こうなるのかよ・・・!」



「リファイメント!!」



シュバッ!



黒き剣をその手に、相川 健人という存在にその刃先を向ける。



健は今、自らの闇に呑まれている。根拠も証拠もなにもないが、今の一閃で確かに感じ取った。深い深い闇、冷たい風。それぞれが表すのは苦しみと孤独。長い間一緒に過ごしていても、気付くことができなかった健の秘めたる想い。それが今、黒き刃に乗せて俺に少しだけれど伝わってきた。



それが、本当のもう一つの健の姿だった。一体どれほど耐えて、苦しみながら隠し通してきたんだろう。それは一人が背負うにはあんまりなものだった。今までの姿を保てていられたことがむしろ奇跡。我慢していたんだあいつは。その想いが表に出ればきっと誰かが傷つくと思い、そして自分自身がそんな姿を見せることを拒んでいたんだ。



いっそのこと壊れればよかったんだ。無理やりに耐えるから存在は苦しむ。壊れれば闇は宙へと消えていく。もう大丈夫だと思えばまた繋ぎ合わせれば良いんだ。だけど健は壊れることを恐れていた。壊れてしまえば自分でいられなくなる気がしたから。大切なものを失う気がしたから。



・・・バカだなあ健。もしそうなったとしても誰もお前の前から消えるはずがないのに。皆がわかっていることを、本人だけが気付けていなかった。



でも、それは誰しもが同じだ。答えが近すぎるほどにそれに気付けない。自分でさえ気付けない秘められた想い。闇の共鳴、皮肉にもこうなって初めて露わになった健の闇が俺の持つ闇と反応しあい、響き合うことによってようやくその想いが形となった。



闇は光から姿を隠す。闇は更なる大きな闇に魅かれ互いに響き合う。もしかしたら、それこそが俺の闇の力の本当の使い道なのかもしれない。



「いいぜ、健・・・。お前が自分の闇に打ち勝つまで俺は何度でもお前の刃を受け止めて見せる。いつまでも待ってやるよ。お前がお前として俺達の元へ帰ってくるまでな!」



チャキッ



俺には誰かの闇を消し去ることはできない。それができるのは光、ただそれだけ。だけど消し去ることはできなくても、闇を受けとめることはできる。どれだけ大きかろうと、どれだけ深かろうと・・・



自らの闇は自らが乗り越えなければならない。そして健、お前は確かにそれができるはずだ。お前がお前であるかぎり、できないはずがない。だから俺は待っている。目の前に居る闇に包まれた存在の中で抗う、お前が全てを制するその時まで!



どんな深い闇の先にも必ず光はある。工藤からの言葉を、そのまま今のお前に贈りたい。



「本気で来い、健・・・。俺も、全力で戦う!」



 仲間であり親友である健と戦う。それは本来あってはならないことだった。だけど戦い、刃を交えてこそ辿りつける場所がある。一線がある。それはもしかしたら両方ともに願い望んでいたことかもしれない。



(お願いだ、俺の中の闇よ・・・。どうか健が健として生きていけるまで、力を貸してくれ。俺はあいつを・・・助けたい!)



ギュッ・・・、ダッ!



玲が見たらもしかしたら悲しむかもしれないな。だけどこれは、俺達が通らなければならない道なんだ。だから玲、俺達を見守っていてほしい。きっと、きっと俺達はお前の元へと戻るから。



「でやああああああ!!!」



届け、俺達の想いよ!!



「うぉおあああああ!!!」



ピキーン・・・!!



響き合う二人の少年がぶつかり合う時、羽根はソラを駆ける。





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