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第百六十二話 神も運命でさえも~遺言は、破棄します。~



<11月2日>



 今日もまた、この時間が訪れる。



ガラガラガラ



逃れられない時間、逃れたい時間、待ち望んでた時間、避けたい時間。必ずその時間は訪れながらも、来るまでは不安と恐怖で一杯で、来てみればなにもなくて落胆し、同時にホッと一息つく。そんな精神的にも身体的にも一杯一杯になる時間が毎日この時間に訪れていた。



「今日で、何日目だっけ・・・」



「もう一週間以上経ったんじゃねえかな」



この教室のドアを開けて廊下に踏み出す瞬間を、一体どれだけ味わってきただろう。現実的に回数で言えばそんなもんかも知れないが、俺の中ではもう何十何百と繰り返したような感じがする。



この、午前の授業の終了と同時に訪れる昼休みという時間を。



「今日はどこ回るんだっけ?」



「今日は・・・体育館側だな」



 あの昼休みの戦闘、そして部室での健の決心の日では伊集院さんと二人で回っていたが、それからの昼休みは健と俺、玲と工藤と伊集院さんという風に別れて見回りを続けていた。



正直なところかなりアンバランスに思えるのだが、なにかしらの意図があることは間違いない。俺と伊集院さんとで回っていた時にも意味があったわけだし、それ以上になにかがあるように思える。まあ、全ては工藤のさじ加減であることは間違いない。そして今この瞬間、俺はなにかに気付いていたのかもしれない。



前を歩く健の背中が、妙に遠くに感じたこの日、俺達はいつもと変わらぬ一歩をまた踏み出す。



今こうして一緒に居る二人の少年は、共にこれからの全てをわかっていた。




<1F 体育館側廊下>



スタ、スタ、スタ・・・



 廊下に一歩を踏み出すたびに靴が床に触れしっかりと食い込み、そしてまた力強く離れていき足音を残していく。本来なら足音なんてあまり気にしないしまじまじと聞いたこともないものだが、今は奇麗にくっきりと浮き上がるように耳を突く。



それほどまでに俺達は無言だった。全く会話を交わしていなかった。なにも話さずただ淡々と歩いていく。別に話すことがないわけじゃない。むしろ話す話題は事欠かないぐらいだ。



だけど話さなかった。理由はわからない。なにか俺と健の間に見えない壁があるのかもしれないし、ただタイミングを逃し続けているのかもしれない。だけど俺はそれをどうこうしようとは思わなかった。会話が生まれたら俺も言葉を繋ぐし、これからずっとずっと、永遠に会話が生まれなかったら永遠に会話は生まれないだろう。



言ってしまえば、今の俺達に言葉は必要なかった。ただこうして並んで歩いているだけで良かった。なんかこう言うとまるで恋人のようにも感じるがもちろんそうではない。今は言葉を語らなくても、既にもう通じあえている。現在を、未来を共有できている。理由も理屈もまるでないが、なんとなくそう感じていたのだった。



「そうだ、せっかくの機会だし今のうちに蓮に言っておくか」



「ん?」



歩くリズムを微塵も変えないまま、健は唐突に話を切り出した。



「ありがとな、蓮。今までのことも今のこともなにもかもひっくるめて、蓮には助けられまくりだった。お返しになにかしようにももうどうにもできないぐらいに世話になった。だからせめて、礼ぐらいは言っておかないと思ってな」



「サンキュー蓮。俺はお前と知り合えて本当に良かったと思う」



「・・・・・・」



ピタッ



その瞬間、俺の足は急停止した。無意識でありながら、意識でも止まった。急に俺がストップしたことにより健はその勢いのまま、数歩進んだところで止まり振り返った。



「お前、もしかしてそれ「遺言」のつもりか?」



「・・・え?」



健は意表を突かれたように動揺をあらわにした。それが思っていたことをそのまま言われたことによるものなのか、それとも素で思いもよらなかった言葉だったからなのかはわからない。だけどまあ、そんなことはどうでもいい。



もし考えていたことでもそうでなくても、俺が言うべき言葉は変わらないのだから。



「俺は必ず助けるよ?もしお前が闇に呑まれても、俺が光・・・俺達の元へと救い出してやる。もしお前の心が折れたら、俺が無理やりにでも折れたのを叩き直してやる。もしお前が地獄に落ちても、俺が元の世界へと引っ張ってきてやる。もしお前が切り刻まれて木っ端みじんになっても、そうだなあ・・・瞬間接着剤で奇麗に元に戻してやる。まあそこは伊集院さんがなんとかしてくれると信じよう(笑)。そして・・・」



「もしもお前が死んだとしても、俺は必ずお前を生き返らせてやる。どんな手を使ってでも、俺の中に宿る力を全て使ってお前を生き返らせてみせる。もしも運命が、そして神様がそれを許さないと言うのなら、俺はこの手で運命も神様もぶっ壊してやる!!」



・・・我ながら結構恥ずかしい事を堂々としかも廊下のど真ん中で叫んじまったなあ俺。でも、気持ちのいい恥は恥じゃない。それに・・・俺は、本気だ。全て、なにもかも。



俺、いや俺の仲間がこの世界に生きるのを邪魔する奴は、例え神様であろうと斬る。この手で、闇に葬り去ってやる!



「プッ、なんだよそれ。てか途中から無茶苦茶になってるし。・・・でも、もしそんなことができたら、俺は二度と死ぬこともないしどこかに消えることもないんだな・・・」



「お、察しが良いな。その通りだ健。俺・・・俺達は仲間であるお前を決して見放したりはしない。例えお前にどんな過去があろうとも、例えお前がどんな道を選ぼうとも、例えお前が俺達を裏切るような行為をしても」



「お前が俺達のことを嫌い俺達とは居たくもない、一緒に過ごしたくない消えてくれっ、と言うまで、俺達はお前を助ける、共に歩いていく。異論は・・・認めない」



存在が存在として生きることになんの罪がある。誰がそれに罰を与えることが出来る。いや、なぜ罰が必要になる。



お前がなにを考えなにを思っているのかなんて俺にはわからない。今まで長い間一緒に居たように思っていても、それは人生という長い長い時のほんの一部にすぎない。俺なんかよりもはるかに長い時間を一緒に過ごしている玲でも、その全てを理解することはできないだろう。



それは仕方のないことだ。だけど忘れないでほしい。例え存在の全てを理解できなくても、こうしてここに俺が居てお前が居る。そしてみんなが居る。それは紛れもない事実だ。だからこれだけは忘れるな、健



お前は、一人じゃない



「・・・それじゃあもう決まったようなものだな。だけどそれは素直に嬉しいよ」



「ありがとう、蓮」



 これでいい、これでいいんだ。後のことは知らない。俺がどうこうできるものでもない。



全ては健次第。健が選び、健自身が決めた道が、これからの未来になるんだ。どんな道を選ぼうとそれは健の勝手だ。俺達は口出しできない。だけど俺は、俺達は待っている。



必ず、お前がお前として帰ってくることを。



「じゃあ、そろそろ片付けるか。みんなのためにも、俺自身のためにも」



キュッ



「やっぱり、気付いてたか」



スッ・・・



体育館へと続く廊下で立ち止まる二人。静かに足を動かし、ゆっくりと後ろを振り返る。



昼休みに体育館を利用する生徒は多い。しかし体育館の面積は限られているので、毎日昼休みは熾烈な場所取り争いが起きる。昼飯を食い終わってすぐさま行く奴もいれば、食べずに行く奴さえいる。



だからこんな中途半端な時間には、もう場所は空いてないってことぐらいみんな知っているわけで。この時間帯にはほとんどこの廊下には人が通らない。次にここに人が通るのは、昼休みが終わり教室へと戻る運動した後の顔を真っ赤にしてだらだらと汗を垂らす生徒達だ。



この廊下にポツンと俺と健の二人が居る。今俺達は全く確証もないのに、だけど確信を共に抱いていた。



全てを決するのは、この日この時間であることを・・・



パリーンッ!



そしてこの長い廊下の先で、ガラスの割れる音と共に窓が割れ破片が宙を舞い床に散らばった。だけど俺達は一切動じない。こうなることを、昼休み開始のチャイムが鳴り教室のドアをくぐったあの時から、わかっていた気がしたから。



「今から工藤達に連絡を取る。だけどあいつらは反対側を捜索してるからここに来るまでに時間がかかると思う。健、それまでがお前の勝負の時だ」



「ああ、わかってる」



スルリッ



また、その姿が目の前に現れた。部室の窓を皮切りに、これまで数多くの窓を割りながら少しずつここまで距離を近付け、そしてとうとうこの一般生徒であふれる棟に侵入してきたターゲット。闇属性であり俺にしか姿が見えず、そのままの状態では伊集院さんの攻撃でさえ効かないターゲット。



黒き闇に包まれ、その身に二つの黄色の目を刻んだターゲットが今、一週間もの間俺達を待たせて現れる。



「ターゲットが現れた。前方約50m。準備はいいのか、健」



「もちろん。一週間前からずっと準備してきたよ。むしろ待ちくたびれたぐらいだ。・・・だけど今日この時まで延びてくれて良かった。おかげで、色んなことがふっ切れた」



「もうなにがどうなろうと思い残すことはない。ただ全力で奴に立ち向かうのみ。結果がどうなろうと知らない。だけど俺は試す。自分を、自分自身を。さあ来い、ターゲット!!」



・・・ギュロッ



廊下にこだました健の声にターゲットが気付く。その点のような目で俺達を確かに捉えじっくりと見極める。



そして、その瞬間はいともあっさりと訪れる。



・・・シャァアアアッ!!!



「来るぞ!」



パリーン、パリーン、パリパリパリーン!!



ターゲットが廊下の中央で構える健を目指して襲いかかる。以前の戦いのせいなのか、その時よりもずっと凄まじい勢いで俺達の元へ近づいてくる。廊下にある全ての窓を、その身でなぎ倒していきながら。



シャアアアアアッ!!!



「健っ!」



「さあ来いよターゲット・・・。俺はこの時を待っていたんだ。これで俺は全てにけじめをつけることができる。なにもかもをふっ切れる。さあ我が未来をここにかけるぜ・・・そして俺は切り開いてみせる。俺は」



「自分の闇に打ち勝って見せる!!」



シュウン・・・バアアアアアンンン!!!



 そしてその瞬間俺の目の前で、相川 健人はターゲットに襲われた。





※活動報告にも書きましたがこれから自動車免許取得のため、約1ヶ月半もの間更新が不定期になる可能性があります。数日更新ができない時もでてくるかもしれませんが、ご了承くださいm(_ _)m

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