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第百四十九話 かつての歩み~辿りつきし地に光を見上げ~



キキイ・・・プシュー



ガシャン



「・・・・・・」



 降り立った地は今までなんども踏んできたはずの御崎シティプラザバス停の地。



空を見上げるとまるで悲壮感でも漂ってくるような真っ赤な夕暮れに染まった空が俺を見下ろしていた。この時間になっても外はまだうっすらと蒸し暑い。しかしその中でも行き交う人々は変わらず速足で列を崩さず歩いていた。



だがもう夕方、遠方から来た人は大きな荷物の数々と満足気な笑顔を引っ提げて帰りのバスへと乗り込む。ここに辿りついた、俺をここに残して。



ブウォンン・・・



さて・・・



「よう、蓮」



ようやくご対面ってことか。



「健・・・」



バスを降りたすぐ目の前に、その人物は立っていた。今までずっとどんな戦いでも一緒に戦ってきた戦友、そして助け合ってきたかけがえのない親友。しかし、一体誰がこんなことを予想しただろう。



そんな大切な大切な存在を、要注意人物なんていうレッテルを貼って会うことになるなんて。少なくとも俺は思ってもみなかった。思う必要がなかったはずだった。今までも、そしてこれからもずっと・・・



それが健であることに間違いはないはずなのに、どうしてこんな形になるのだろうか。わからない・・・わかりたくもない。



「悪いな、突然呼び出して。でもどうしても今蓮に会いたくなってさ」



「いや、それは別にいいんだが・・・」



俺やみんなの心配の全てを裏切るように、そこに居る健は恐ろしいぐらいに普通だった。表情もそうだし、口調もそうだ。俺が知っている健そのものだ。もしかしたら今までのことは全て幻想だったんじゃないか、そう思うほどに今の健は平凡かつ「平和」だった。



「さて、早く用件を済ませたいところだろうけど、今しばらく俺に付き合ってくれるか?な~にそう遅くならない程度だ。少なくとも深夜になんてならないから安心してくれ」



「じゃ、行こうか」



ザッ



そして健は歩き出した。俺の返事を一切待たずに。まるで、俺が付いてくることを最初から完全にわかっているかのように。それが今まで一緒にやってきたことの成果ともいうべきものか。それが、確かに共に時を刻んできた証だった。・・・皮肉にもな。



スタスタスタ・・・



 行き交う人々の波に逆らって、俺達は街の奥へ奥へと進む。途中に広がるきらびやかな金や銀のアクセサリーショップや漫画から歴史書まで様々なものを扱う本屋、そして格ゲー、RPGからギャルゲーまで多種多彩なジャンルのゲームソフトが揃うゲームショップ。その全てを立ち寄る気配を微塵にも漂わせぬまま俺達は黙々と歩いた。



歩いている最中でも、二人の間に会話という会話は流れなかった。俺はただひたすらに健の背中を追いかけるのみ。この状況下においては不自然なほどに究めて簡単な動作しかしていなかった。ほかにもやろうと思えばやることはいくらでもあるのに。しかし見えない異質な空気がその想いをかき消した。



本当なら俺は健に聞かねばならない。親友として、仲間として、そしてDSK研究部として。全てにおいて等しく俺には責任というものがあった。逃れることは許されない、大切な大切な責任が。



でも・・・俺にはできなかった。その相手が相川 健人ということだから・・・なのだろうか。確かにもしかたらなにもないんじゃないかという淡い希望があるからかもしれない。だけどそれ以上に、これまで確かに一緒に歩いてきたであろう道を、裏切られることが一番恐怖だった。怖くて怖くて仕方なかった。



俺は甘い。甘々だ。実体化しないものに感情を揺さぶられる。それは俺が生きる世界では許されざることかもしれない。だけど・・・それこそが生きゆくものの、「存在らしさ」ではないのだろうか。



仲間を、親友を信じたい。それは決して悪いことではない。だけど、その先にある結果がどうあろうと全ては自己責任だ。光があるかもしれないし、そして、闇があるかもしれない。




 

スタスタスタ・・・



(あれ?この道は確か・・・)



歩き始めてもう結構な時間が経った。夕暮れ色に染まっていた空はもう紺色に染まりかかり、かすかに星の光も覗かしていた。今日は夜も快晴。闇に浮かび上がる満月も今日は実にくっきりと奇麗に見えるだろう。



そしてそんな中、時が経つにつれて健がどこへ向かおうとしているのかがわかってきた。いや、わからざるを得なかったという方が正しいか。



今歩いている道。この道を俺は以前歩いた・・・いや走ったことがある。あの御崎祭での騒動で、それが罠だと気付いて玲の元へと向かった時に通った道。そしてこの道の先には、その時に辿りついた地にしかつながらない道だ。



そう、あの黒田 大吾と戦ったあの神社だ。



なぜ健がそこに向かっているのかはわからない。だけど確かにその地へと近づいている。一歩、また一歩と。全く意図が掴めぬ今、それはある意味で不自然なことかもしれない。いや間違いなく不自然だ。そんなことはわかっている、わかっているんだ。



だけど、今の俺には付いていく以外に選択肢はないんだよ。今の俺には・・・




<山のふもとの神社>



 やはり予感は当たっていた。



俺と健はなにも言葉を放つこともないままこの階段へと辿りつき、そしてひたすら登っていた。辺りはもううっすらと暗くなってきた。街灯以外にほとんど明かりのないこの辺りは際立って暗闇に包まれる速度は速い。そもそも祭りの時以外人が出入りすることはほぼないに等しいから、街灯があるだけありがたいのかもしれない。



階段は以前に来た時となんら変わらない。しかしなんとなく石で出来たそれは冷たく固く感じた。景色が景色だからだろうか。



前に来た時は全力ダッシュで一気に駆け上がったが、こうして冷静に一段一段登っていくと以外に段数があったことがわかる。こんなにも長かっただろうか、そう思わせるほどに石段はどこまでも続いていた。前に健がいるせいでどこがゴールなのかわからない。今はただ登り続ける以外に方法はなかった。



タッ



 そしてようやく、石段を登り切る。急に開けた目の前の景色。その光景は記憶の彼方にあった光景と完全にリンクしていた。違っているのはそこに黒田ではなく健が居ること。それ以外に違いは見受けられない。



あの時の戦いの後は一切残っていなかった。自然に消え去ったのかそれとも誰かが消したのか、それはわからない。だけど確かにそこで戦いがあり、血が流れた。それだけは確かな事だ。



「ふう・・・ここに来るのもあの時以来か。あの時は確か、蓮に玲の元へ行ってもらったんだよな」



ピタリ・・・



健は神社の中央部分、丁度前にここに来た時俺が居た場所と重なる位置に辿りつき、足を止める。そして突然、思い起こすようにあの日のことを口にした。暗闇に沈みかけた空に輝く、一点の大きな満月を見上げながら。



「え、ああそういえばそうだったな。正直あの時は突然のことで動揺しちまったけどな」



そんな突然の健の振りに戸惑いながらも俺は答える。思えば、あれが健の異変とも言うべき事態の始まりだったような気がする。もしあの時になにも起きず、健も一緒に玲の元へと来てくれていたら、今のこの未来は変わったものになっていたかもしれない。



そんなことを考えるほどに、俺は完全に現実逃避をしていた。健が虎族に関わり動いていること、健が要注意人物となっていること、そしてなにより健が俺達とは別の行動をし、その先にある未来を認めたくなかった。考えたくもなかった。



なぜだ・・・なぜお前は俺達から遠ざかろうとする。俺達はお前に居てほしいのに、なぜお前は離れていくんだ!!



「なあ蓮。前に言ったよな、俺はそんなに良い奴じゃないって、お前達が思っているようなカッコいい奴じゃないってさ」



「え・・・?」



また突然、健は言った。俺に向けられたその眼差しは痛いほどに鋭かった。じっと見つめて離さない。俺はその視線にもその言葉にも動揺してしまい、思わず目をそむけてしまった。その健の放つ刃のごとき威圧に、俺は耐えられなかった。



「あれはさ、本当のことなんだよ。俺はそんな誰かを助けたり、誰かを闇から救い出したりとか、俺はそんな輝かしい存在じゃない。俺もそんな風になりたかったよ、憧れていたよ。だけどだめだ。俺にはできない。今まで犯してきた過ちはもう拭い去ることはできないし許されないことだから」



「俺は蓮のようにはなれない。だって・・・」



ザッ



「俺は救い出す以前に、かけがえのない仲間を傷つけようとしてるんだから」



「え?」



その瞬間だった。



パアーーーンン!!



暗き闇に飲み込まれようとしている神社の広場に、一発の銃声が甲高く響き渡った。





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