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第十二話 それぞれの時間~交差する想いと思惑~

 <主人公一之瀬 蓮の時間>



 みんなが保健室を出て行った後、俺は少しの間、ボーとしていた。一人の時間、それは今の俺にとってとても大切な時間。これから戦っていくなかで俺は、覚悟というものを決めなければならない。


それは自分が人間達を守るためにはだれかを殺さなければならない事実。そして


 


俺の中にいるもう一人の俺の存在についてだ。




 俺はまじまじと自分の手を眺めた。



「俺はこの手であいつを殺したのか・・・」



血で赤く染まっている手、俺はこの手で奴を殺した。それがたとえ魔族であっても生きるものを殺したことには変わりない。



だけど、俺はその時の記憶がない。




ターゲット、ウィスパーを殺した記憶が。




ウィスパーを殺したのは俺だ。だけど俺じゃない。確かに事実上殺したのは「俺」だが殺したのは俺自身じゃない俺の中に潜む違う「俺」だ。




俺は自分の胸にそっと手を当てた。自分の心臓の音がドクン、ドクンと規則正しく俺の手を波打つ。



「俺じゃない俺。それが確かにここにいるんだ・・・」



俺は怖かった。俺の中に違う俺がいることが。たまらなく怖かった。俺ではない俺は、俺とは違って絶大な力を持っている。俺ではターゲットに敵わない。だけどそいつなら、もう一人の俺ならターゲットに対抗できる。



だけど・・・



もう一人の俺は普通じゃない。



みんなが見たのは俺の強さではなく俺に対する恐怖だ。



その圧倒的な力でターゲットを殺す、その様子はもはや正気の沙汰ではなかっただろう。




俺が一番怖いのは




そのもう一人の俺がいつかみんなを傷つけることになるんじゃないかってこと。



俺ではそいつを制御できない。もう一人の俺がなにをしても俺にはなにもできない。ただその後の結果だけが俺に残るだけだ。



「くそっ・・・俺はどうすればいいんだ・・・」



俺はそう言って布団にくるまった。





<玲、健の時間>



二人は帰り道を歩いていた。なにか話すわけでもなくただ淡々と道を歩いているだけだった。



そんな異様な空気に耐えられなくなった健が玲に声をかける。



「いや~しっかしたまげたな。あいつがブラックドラゴンだったなんて」



「・・・・・・」



それでも玲は無言のままだった。



「どうしたどうした?そんなの玲らしくねえぞ??」



健はうつむいたまま無言に歩く玲をほっとけなかった。いや、そんな姿の玲を見ることが耐えられなかったからかもしれない。


いつもの玲にもどってほしい、それだけが願いだった。




そして玲は口を開いた。




「あなたはなにも感じなかったの?」




「えっ?」




突然の玲の一言に健は驚いた。



「感じなかったって?」





「蓮君がわたしたちとは違う世界の人だったてことによ!!」




玲が叫んだ。目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。そんな姿の玲をみるのは初めてだった。いや、一回だけこんなことがあったかもしれない。だけど今はそんなことはどうでもいい。なんとかしなければ。



「違う世界って?」



健は必死に言葉を捜して声をかけた。今俺が話をつなげないと玲は今にも泣きだしそうだった。



「彼は私たちとは違う。私たちとは違って力を持っている。ターゲットに対抗する力を。だけど私たちには・・・私たちにはその力がないのよ!」



「悔しいのよ自分が。ターゲットとの戦闘に参加できない自分の竜族としての力の未熟さが歯がゆいのよ!!」



そう言って玲は大粒の涙をこぼした。一滴、二滴と地面に落ちていく。そして




「悔しい、自分が蓮君達のいる世界に足を踏み入れられないことが・・・」




玲は一言そう言った。健はそれが玲の本心、一番の想いであることを感じ取った。




「わたしは・・・」



そこまでいって健は玲の話を止めた。



「もういいよ玲。お前のいいたいことはもう十分わかったからさ」




「え?」




「やってやろうぜ。俺達にも力があるってところをあいつらに見せつけてやろうぜ」



「なによそれ・・・」



その瞬間、玲が少しだけど笑った。



「俺達に不可能はない!!」



「うふふふ」



今度は確かに笑った。いつもと同じ玲の笑顔だ。



「そうね、こんなところでいじけてても仕方ないもんね。ありがとう健、なんか元気でたわ!」



「いいってことよ」




そして二人は再び帰り道を歩きだした。




<工藤の時間>



「失礼します」



大きくそして重いドアを開ける。重いというのはただそのドアの重さだけのことをいっているのではない。そのドアの先にいる人物、その人物の圧倒的な存在感が部屋の外まで流れ出しているからだ。



「工藤真一、報告にまいりました」




「入れ」



その人物とは・・・




「よう久しぶりだな工藤」



「ご無沙汰しておりますシリウス様」




竜王であり最強のドラゴンであるシリウス、一之瀬 蓮の父親である。




「どうだ調子は?」



「言わなくても大体わかってらっしゃると思いますが?」



「つれないねえ、そこは素直に受け答えする所だろ」



「すいません、何分面倒なことは嫌いでして」



二人の間に異様な雰囲気の会話が流れる。まあ竜王であるシリウスといつも笑顔でよくわからない工藤ではいつもこんな調子なんだろう。



「で、どうだった??」



シリウスが工藤に問いかける。



「ええ、噂どうり、いやそれをはるかに超える力でしたよ」



「まあそうだろうな」



「正直あれほどまでとは思いませんでした。シリウス様と同じくらいの存在感を感じたぐらいです」



「ほう・・・」



工藤が少し興奮気味に話す。いつもどんなことでも淡々と話す工藤にしては珍しいことだ。



そして二人の間にひとときの沈黙が流れる。



そしてしばらくの沈黙の後、シリウスが口を開く。




「第一段階はクリアということか」



「まあそういうことになりますね」



第一段階。それが何を意味しているのか、それはこの二人にしかわからない。



「あのホワイトドラゴンはどうしてる?」



シリウスは突然話を変える。



「伊集院さんですか。彼女はいつもどうりですよ。まあ見た目だけですけどね」



工藤は見た目だけという意味深な言葉でシリウスに返す。



「そうか。まあいいだろう。この調子で頼む」



「わかりました。では失礼します」



そういって工藤はシリウスのいるこの部屋を出て行った。



「我が子にこのような運命を背負わせるのは酷な気もするが。まあ仕方のないことか」



シリウスはぼそっとそうつぶやいて、机にあった煙草をまたふかしだした。







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