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第百三十七話 ご指名は突然に~近づくイベントに心躍らせ~



・・・人間と言うのは、楽しい行事の前ではさも楽しげに、いつにも増して意欲的に取り組むようだ。



 体育祭があると聞いた二学期初日のあの日から、瞬く間に体育祭というイベントに向けて周りは進んでいた。



生徒会の面々はひたすらあちこちを走り回ってるし、授業中でも本来なら有数の進学校であるこの学校なら授業に皆必死に集中しているのだが、今は所々体育祭の話をしている人も見受けられる。なんていうか、もう既にこの学園は体育祭ムードになりつつあった。



まあ学校における一大イベントだし、それに日頃学業でこん詰まってきている生徒にとっては貴重な貴重な安らぎの時間なのかもしれない。その時だけは、なにもかもを忘れてただひたすら体育祭に打ち込めるからな。生徒のみんなが心なしかいつもよりもずっと輝いてみえる。



「なあ蓮。リレーの出走順決まったか?体育祭でも最後のトリを務める大事な種目だからなあ。それにそれで勝負が決まることも多いし、慎重にいかないと組の命運に関わってくるかもしれねえぜ?」



と、いかにもうきうきな感じに話しかけてくるのは体育祭なんて言葉を聞いたらまず最初にテンションが上がるであろう、まあ言わなくてもわかるだろうが健だった。



「組ってそれじゃあヤクザのことみたいに聞こえるから。まあそれはいいとして、一応大体決まったが、な~んかイマイチなんだよなあ~。途中途中が結構適当だし」



「まあどんだけ負けてても最後のスパートとして俺と蓮がいるんだ。大丈夫だろ!」



いつにもましてテンションが高めの健。まあそれも無理はない。今回の体育祭はこの学園での初めての体育祭だからな。一体どんなものになるんだろうと考えるだけでも楽しくなってくる。



俺もできるなら素直に楽しみにしていたい。だけど残念なことに俺は大変面倒そうな仕事を任されていたのだ。なんでこうなったのか、まあ大体予想はつくけどつくづく過去の自分が恨めしくなった。



ああそうか、そういえば教えてなかったななにがあったか。じゃあ今は時間つぶしに少しばかり説明を・・・




<9月1日 1年A組HR つづき>



「え~では、まず体育祭におけるこのクラスでの実行委員を決めたいと思います。男女それぞれ1名ずつ、計二名にやっていただきます。誰かやりたいという人はいませんか?」



シーン・・・



さっきまでざわめいていた教室が静まり返る。いや、正確に言えばひそひそとみんな会話をしているようだが、それでも実行委員に立候補する者はいなかった。そりゃそうだよな、自らすすんでそんなメンどそうなのやりたがる奴なんて、そうそう居ないだろうし・・・



「居ませんか?実行委員と言っても競技の選手決めなどさほど大変な仕事ではありませんよ?まあ立候補が誰も居ないというなら推薦になりますが・・・」



先生がその「推薦」という言葉を口にした瞬間、それは起こった。



「ハイ!!」



クラスメイトの女子生徒の一人が、さも自信たっぷりに勢いよく手を挙げた。教室中の視線が一斉にその人に集まる。



「私は一之瀬君が良いと思います!!」



推薦ねえ・・・。大体こういうクラスでの役員の決めごとってなんやかんやで推薦で決まるよな。立候補するほどの人ならやる気もあるだろうが、推薦された人は大変だ。なにしろいきなりの展開だからな。それも教室の雰囲気的に断りづらくなるし。全く、その一之瀬って奴は大変だなあ。御苦労さまなこって・・・って



一之瀬!?



「へ、俺っ!?」



今完全に、他人事として処理してました。



「ハーイハーイ、私も賛成~!!」



「へ??」



一人、また一人と挙手するものが増えていき、終いにはクラスの大半が賛成という名の残念な意志表示を示していた。無論、俺が口を挟む間もなく・・・



「お、人気者だなあ蓮。よかったじゃねえか」



「いやいやいや、良くねえから!!そんな面倒な事を俺がやるわけ・・・な・・い」



その光景を見て、一体だれがそれでもNOと言えるだろう。



ジーッ・・・



教室中から鋭い視線の集中砲火。俺が発する一つ一つの言葉に皆が表情を曇らしていた。もしここで断ったりでもしたら、俺はこのクラスに居られなくなる気がする。気付けば俺は、相当ピンチな状況へと陥っていた。YESなら実行委員という面倒なことに、NOならみんなからの評価ががた下がりというもっと面倒な状況に。だとしたら、取るべき選択は一つしかないわけで・・・



「はい・・・喜んでやらしていただきます・・・」



オオーッ!!パチパチパチパチ・・・



そして盛大な歓声と拍手が教室中に響き渡った。完全に俺は負けた。はあ・・・なんでこんなことに。どんどんと遠ざかっていく、俺の普通で平凡な日常・・・。はあ~。



「さて、じゃあ男子の方は一之瀬として。女子の中では誰か居ませんか?」



先生がそう言うと教室がざわめきだした。男子の方はポケーッとしているが、女子の方はというとなにやら意味深なひそひそ話を展開している。正直その会話もこちらに耳に届くのだが、今は全て遮断しておこう。もう知らない、なにがどうなろうと知るものか。お前らは敵だ!



「ならお前がやれよ玲。体育祭ってイメージにもある意味合うしさ」



「え・・・?」



そんな中、健が肘をついてだらけながらそんなことを口にした。本人がどの程度の重要性でそれを口にしたのかはわからない。適当に思いつきで言ったのか、それとも・・・それとも?それともなんだ。



玲はというと完全に意表をつかれた感じで、キョトンとしていた。まあ確かに突然の名差しだったことに違いない。しかし状況を把握してない本人とは裏腹に、周りでは色んな事が進行していた。今みんなの視線を支配しているのは、間違いなく玲だった。



「え、え、ええ!?私が実行委員!?蓮君と!?」



なにか半端ない動揺を見せる玲。確かに困惑することだろうが、それにしても困惑し過ぎではないだろうか。なんだかびみょ~に傷つくのはなんでだろう。



「いやでも私なんか。それに蓮君にも悪いし・・・」



「な~にを謙遜してんだが。それじゃあまるで普通の女の子じゃねえか。玲らしくもない。それに蓮だって困るわけねえじゃねえ、か・・・」



・・・まさかこんなところで自ら地雷群に飛び込むとはな。健、ある意味あっぱれだぜ。



「わ、悪かったわね!女の子らしくなくてっ!!」



ガンッ!!



「ぐへっ!?」



そして案の定玲からの鉄槌を受ける健。しかし後の言葉はともかく玲がもう一人の実行委員になるというのはいささか悪くない話だ。というよりもぜひともそうしてくれたら有難い。ただでさえ体育祭というものを知らないというのに、実行委員になんかなったら不具合が生じるのは必須だ。誰かの助けも必要になるだろう。



そんな時、もしもそれが玲だったら、色んなことも気兼ねなく聞けるだろう。でもこれがあんまり知らない人でそれも女子だったら、色んな事に遠慮して結局は失敗への道を辿ることになるだろう。よく知っている人か知らない人か、それはかなり重要なファクターと言える。



「俺としても玲がなってくれたら助かるんだが・・・」



「え!?」



俺がそう言うと玲は驚きをあらわにし、教室はにわかにざわめきだした。というよりみんななにかおもしろがって俺達を見ているような・・・。



「あ、いやそんなに大したことじゃないんだけど。玲だと気を遣わなくてもいいし話しやすいし・・・」



あれ、俺何言ってんだろ?



「ああじゃなくてこういうのってよく知ってる人の方が・・・」



「・・・どうやら決定のようだな、玲」



辺りを見渡す、するとほかのみんながなにか微笑ましいものでもみているかのようにこちらを見ている。そして健のその言葉に促されるようにみんなして頷いている。



「うん、玲なら問題ないね」 「それに一之瀬君とも仲良いみたいだし」 「う~ん玲が一歩リードって感じかなぁ」



・・・なにやら意味深な言葉が飛び交っているが、いつのまにか結論が出たらしい。それも俺や玲の意志は関係なく。全てはクラスのみんなの雰囲気と流れとさじ加減で。全く、いい加減だなあ推薦って。



顔を真っ赤にして立ちつくす玲と、おどおどと動揺している俺を差し置いて、こうして俺達は体育祭の実行委員となってしまうのだった。




 そしてそれからというもの、なったものは仕方ないということで思いっきり開き直り、二、三日かけて片っぱしから競技参加者を募り、選定していき、メンバーを決めていった。正直なところ、御崎山学園の体育祭はどちらかといえば三年生などの高学年が主役で、一年生が出る競技と言ったら綱引きとか借りもの競争、女子生徒限定の二人三脚、男子生徒限定の棒倒し、そしてリレーなど、さほど数が多くない。というより随分と少ない。



三年生とかにはそれぞれのクラスの出しものがあったり、騎馬戦があったりと、ずいぶんとおもしろそうなのが多いのだが。まあそれはさておき出る競技自体が少ないので、選手を決める作業はかなり楽なものだった。



そして今この時、あらかたの競技の選手決めも終わり、最後に残された体育祭のトリ、学年別リレーの出走順を決めているところだ。



ちなみにこの学園のリレーは、各学年別にクラス対抗戦。A~Eの5クラスで競われる。全員参加のリレーであり、しかも得点がかなり高く、体育祭の自分の団の命運がかかっているといっても過言ではない。それ故にどのクラスも一番力をかけているところだ。



俺がなぜかアンカーでその手前が健と、健自身としてはそれだけで勝てるだろうと踏んでいるようだが。まあ実際このクラスのメンバーは皆足の速さは結構あるし、そんなに心配することもないとは思うんだが・・・。



「やっぱ、問題なのはC組だよな・・・」



これだけが危惧すべきチームだ。なにせあそこには工藤と伊集院さんというこの学校である意味最強な二人がいるからな。正直なにが起こるか分からない。それにC組には陸上部や野球部などの運動部も多く在籍しているというしな。正直力は五分五分と言っていいだろう。



ほかのクラスは問題ないが、そこだけが心配要素だな。



キーンコーンカーンコーン



「お、ようやく今日の授業が終わったか。さてと、早く部室行こうぜ~」



 チャイムが鳴ると同時に席を立ち上がる健。ちなみにまだ終礼が終わってないんだが。



「もうあんたは気楽でいいわね。私と蓮君は選手決めでもうクタクタよ」



「へへ、俺はなんにもしてないからな。元気があり余ってるぜ!」



そう、もう一つ心配事はあるんだった。



「わかったから座れ。先生がお前を残念そうに見てるぞ」



ここ数日、健の様子はいたって普通だった。いやまあなにもおかしくはないんだけど。その姿はまるで夏休みに入る前の健と全く同じだった。夏休みを過ごして色んなことを体験したのは健も同じはず。だけどなにも変化がないというのはなにか不自然だった。



いや、変わるはずなんだ。変わらないとおかしいんだ。それだけのことを、健は体験したはずだから。それを俺は目の前で見ていたから。



なんにせよ、問題にならなければいいんだが・・・





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