第十一話 尋問会~告げられる真実~
今、この保健室で尋問会が開かれている。対象はもちろん俺で、ほかのドラゴン全員(特に玲から)質問攻めにあっている。
本題は俺がブラックドラゴンだということ、そしてそれをいままで黙ってたってことについてだ。自分的には別に黙ってたわけじゃないんだがまあそんなことを言ってもこの場を抑えることはできないだろう。ここは素直に受け答えすることが得策のようだ。
「さあ、話してもらいましょうか、蓮君」
さっそく玲が俺に話しかける。
「話すってなにを・・・」
「あなたがブラックドラゴンだってことについてよ!!」
玲が声を荒げる。どうやら少し怒っているようだ。
「いや~俺もそのことは親父に聞いただけなんだけど・・・」
俺は渋々答える。実際そのとうりだし、それ以上もそれ以下もない。自分がブラックドラゴンだってことを俺は実感したことがない。少なくともいままでは。
「本当にそれだけ??ていうかそんなわけないでしょ!」
玲がさらに俺を問い詰める。でもこれが真実だ。
「本当だって、実際自分でそのことを実感したことないし」
「!」
その瞬間玲が口を閉ざした。あたりの空気が一瞬変わった。あれ、どうしたんだ??
「あなたあの時の記憶がないの??」
再び玲が声を上げる。あの時ってなんだ??魔族が襲撃してきた時のことか?それともターゲットとの戦闘のことか?どっちにしたって俺は別にいつもとかわらなかったはずなんだが・・・
俺は玲のいう「あの時」がわからず聞き返す。
「あの時って??」
そういった瞬間工藤が口をはさんだ。
「そのことについては私がご説明しましょう」
そういって工藤は話しだす。俺にはあの時というのが全くわからない。今はこいつのいうことを聞くしかないのだろう。実際俺もあのターゲットに出会ってからその後どうなったか知りたいしな。
「単刀直入にいいますと、今回のターゲット・・・ウィスパーでしたか、あれを倒したのはほかでもない、あなたなんですよ」
「はあ!?」
俺は思わず聞き返してしまう。ターゲットを倒したのは俺?そんなばかな。刻印がなかった俺がターゲットに敵うわけがない。実際図書室の前に一度ターゲットとの戦闘になったけどあの時俺は何もできなかった。そうだあの時は伊集院さんが助けてくれたんだっけ。
俺はふとそのことを思い出した。結局は俺が敵う相手じゃないってことが結論だ。そんな奴を俺が倒しただなんて信じられるわけがない。
「突然そんな冗談言われても笑えねえよ」
俺はそう言ってふんぞり返る。これは工藤なりの冗談だろう。それにしては全く笑えない冗談だ。まあなんでこのタイミングで挟むのかもわかんねえけど。
「いえ、本気ですよ」
いつも笑顔の工藤の目つきが一瞬だけ鋭くなったような気がした。だがどうやらまじで本気らしい。ということは俺がターゲットを倒したことも真実ってことになっちまうじゃねえか。
「またまたご冗談を」
「冗談を言っているようにみえますか?」
そう言ってまた俺に視線を向ける。俺はその視線から逃げるようにあたりを見渡した。伊集院さんはともかく玲も健も真剣にこちらを見つめている。たしかに冗談を言える雰囲気じゃない。
「本当の話なのか?」
「はい」
その工藤の言葉が俺の頭の中で響いた。俺がターゲットを倒した。そんなばかな!
「いやだって俺には刻印もないし、力もないし・・・」
俺は必死にその現実から逃げようとした。その現実を受け入れれば俺の中のなにかが壊れるような気がした。
「刻印はありましたよ。あなたは刻印そのものを封印していただけで刻印がなかったわけではありません」
「そんな・・・そんなばかな!」
俺は玲達に視線を向ける。いつもならここでツッコミが入って笑いが起きるところなのに。でも今は玲も健もなにも言わずにただ工藤の言葉に耳を傾けているだけだ。
「嘘だ!そんなことがあるわけない。そんな一言で信じられるわけがないだろ!!」
俺は叫んだ。しかしその言葉は無情にも工藤によって打ち砕かれる。
「ここにいる全員が見ていましたよ」
「あなたがその圧倒的な力でターゲットを殺すところをね」
その瞬間、この保健室がまるで時間が止まったかのように静まり返った。
聞こえるのは窓から吹き込む風の音だけ。それ以外はなにも聞こえない。
殺した、俺がターゲットを殺した・・・この手で・・・
工藤はいつものような笑顔でそういったが、殺すという言葉が俺に強くのしかかった。
「そんな・・・俺が殺しただなんて・・・」
信じられない、いやそんなこと信じたくない!
「事実です。そうですよね、柳原さん」
工藤は玲に問いかける。
「玲・・・本当なのか?」
俺は玲に声をかける。そして玲は少しの間をあけてから口を開く。
「・・・本当よ」
その瞬間、部屋に強い風が吹き込んだ。そして陽の光が差し込んだ。とても眩しかった。
「そっか・・・」
「えっ?」
玲がそう言ったその瞬間、俺はなぜか突然そう返事をしてしまった。それがなぜだかはわからない。玲も予想もしていなかった返事が返ってきて驚いているようだ。
「いや、玲が言うなら本当のことなんだな~と思って」
「な、なによそれ!」
玲のその言葉は重く、そして悲しいものだった。それが冗談だなんて誰も言えない。俺はその言葉で、これが真実なんだと理解した。
「悪い、みんな少しだけ俺を一人にしてくれないか」
俺はみんなにそう言った。俺がターゲットを殺したのは事実。だがそれを受け入れるには時間が必要だった。一人だけの時間が・・・
「いいでしょう」
工藤が声をあげる。
「私が言いたかったことは、あなたに意志があろうとなかろうとあなたは絶大な力を持っている。その事実を知っていただきたかった。そしてその力は幸福を招くものではない、ということもね」
そう言って工藤は部屋を出て行った。
「・・・・・・」
伊集院さんは相変わらず無言のままだった。ただ俺を見つめているだけ。そしてそのまま部屋を出て行った。
「じゃあ、私たちも行くわね」
「また後でな」
そう言って玲と健も部屋を出て行った。その時、ドアに向かう途中の二人の背中がどことなく寂しく感じたのは俺の気のせいだったのだろうか・・・