表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/223

第百三十四話 予想外のお誘い~意外な二人は穏やかに~



「だから・・・あんた達みたいなチャラそうな男に私達興味ないの。だからそこをどいてくれないかしら。もしそれでもそういうことがしたいというなら、他をあたってくれるかしら。まあどっちにしたって断られるのがオチだろうけど」



「おいおい言ってくれるねえお嬢さん。だけど、少し言っていいことと悪いことがあるんじゃねえのかあ??」



 もうすぐ12時に近付こうとしている中、昼時になるにつれて御崎シティプラザの人出は更にも増して増えていった。



この辺りにはテレビなどでも紹介されるぐらいの店がゴロゴロある。そういう有名なところは確かに料理の味はお墨付きだろうが、それに比例して待ち時間が長くなるわけで。もし有名どころに行こうとするならば、もうこの時間ぐらいに並んでいないと長い長い行列の後ろの方で、1時間も2時間も待たされたあげく、「まことに申し訳ありません。今日はこれで終わりで~す。またのお越しをお待ちしています」な~んていう凄まじく残念でテンションが下がるイベントに出くわしてしまうだろう。



イベント特典としてたっぷりの疲労だけがこの強い日差しの元、残るだけだろうな。



その後のショッピングのことも考えて昼飯を早めにとる人は多い。そんなあらゆる人、人、人で賑わう通りの中で、一際嫌悪なムードを漂わしている一角がそこにあった。



周りの人間は・・・まあ見て見ぬふりか。そりゃな、いかにもやんちゃそうな男達と、気の強そうな女の子の間に割り入るなんてことをするには相当な勇気が必要だしな。それに面倒な展開になる可能性はほぼ100%だし。わざわざ争いに加入するというのも、ある意味バカのすることかもしれないな。



となると、俺はバカということになっちまうな。まあいいか。たまにはバカになることも大事だしな。まあ正直言うとたまにじゃない気がするけど、そんな細かいことは放っておくとしよう。



どっちにしたってあんな光景見せられたら、おちおちとCDを物色することなんてできないからな。求む!平穏で穏やかな時間!!



「しつこいわね。いやって言ったらいやだって言ってるでしょ!」



「いいじゃないの少しぐらい。少しご飯でも食べに行こうって言ってるだけじゃないか。ほら行こうぜ」



パシッ



 男グループの一人が千堂先輩の手を掴む。しかしまあなんとも強引でヘタレ感たっぷりな誘い方をしているのだろうか。それじゃあどんな人だって嫌がるだろ。しかも選んだ相手を間違えたな。確かに奇麗な人だが、お前が手を握っているその人は、そういうのが一番大っ嫌いな人なんだよな。



パーン・・・



そして、思った通りの展開が今目の前で起きた。



「いってえ!!」



千堂先輩は掴まれた手を勢いよく振り払い、相手の手を弾き飛ばしたのだった。それと同時に、男の情けない悲鳴が辺りに響く。



「汚い手で触らないでよ、この下衆!!」



まあそうなるよなあとは思っていたんだけど。普通ならこれだけ男達に絡まれていたら、多少の恐怖心も出てくるものだろうに。千堂先輩の中では苛立ちしか生まれなかったんだろうな。言いかえれば、その男グループに真っ向から一人で対抗しているって感じだな。



てか後ろの取り巻き。そんなところでおどおどしてるぐらいなら助けなりなんでも呼んでこいよ。本当に使えない奴らだなああいつらは。っと、そんな愚痴をこぼしている余裕はない雰囲気になってきた。



「やってくれるじゃねえの。だけど、少し調子に乗りすぎちまったようだなあ!!」



ビュッ!



そしてその瞬間、男が鋭い左フックを千堂先輩目掛けて打ってくる。千堂先輩のあの態勢じゃよけられそうもない。てかよける気配がない。ええいこうなったら・・・



バシイイッ!!



「・・・う~ん俺何回こうやったかな。そろそろ技の一つでも欲しいところだな」



「なっ・・・一之瀬・・・!?」



腕に走る衝撃の波。だがそれはいわゆる人間の力。一般的には強い力だろう。だけど俺が今まで居た世界から比べれば、その力は非力なものだ。この拳には殺意がない。それは当然のことだ。だけど俺が居た世界の一撃には、全てに殺意がある。俺を殺そうと思って刃を向けてくる。



殺意が込められた刃は強い。恐ろしいぐらいに強い。その刃に比べれば、この程度防ぐことは造作もない。それに、同じ人の力でもこの数倍もの威力のある拳を放つ奴を、俺は知っているからな。



「あ、千堂先輩。ちわーっす」



俺は笑顔で千堂先輩に軽く挨拶する。こうでもしないと変な雰囲気になりかねないからな。それに先輩であることに変わりはないし。こんな状況で言うのもなんだけど、この人に限ってちゃんと挨拶をしておかないと目をつけられそうだからな。まあもうつけられてるっていうツッコミは置いておくとしよう。



さてと・・・



「おいおい、お誘いに失敗したあげくに暴力って、そりゃあ男としてあんまりっていうかカッコ悪すぎやしないかい?もう少し色々と頑張った方がいいんじゃないのか?」



ギラッ・・・!



男をこれでもかという鋭い目つきで睨みつける。一寸もぶれずに、ただ相手の眼を捉えて鋭い眼光を飛ばす。この世界でわかったことだ。人間、本気で眼を見て睨まれると、平常心を保つことができない。俺はそれを不覚にもいつぞやの工藤から学んだ。本当に不覚だ。



「うっ・・・。くそ、おい行くぞ!」



「え、あ、おう・・・」



俺がこういうのもなんだかおこがましいことなんだが、もう一つこの世界でわかったことがある。



それはチャラそうに、そして感じ悪そうにしている奴は、実際にはそこまで強くないということだ。全てがそれに当てはまるとは言わないが、その比率は高い。本当に強い奴は、格好はいたって普通だ。だって強いんだから。自らの力で相手に立ち向かえるんだから、服装は普通だ。シンプルって言ってもいい。



だがああいう輩は違う。あいつらは格好で人に怖いという先入観を植え付けているだけだ。恐れと言う羽衣をまとって、相手に恐れをなすだけ。言うなれば、取ってつけた力というわけだ。その羽衣をとってしまえば、そこに恐れは生まれない。隠してきた本当の自分が露呈するだけだ。



だからそういう奴に限って、その先入観に呑まれさえしなければどうということはない。それに俺はもう知っているからな。本当の恐れが、どれだけ怖いものであるかを・・・



「・・・で、なんであなたがそこに居るの?」



「え・・・?」



 とと、そこでようやく千堂先輩は俺のことを気にかける。できればこのまま「じゃっ、俺はこれで失礼します」と言って、何事もなかったように立ち去りたかったのだが・・・。どうもやっぱりそういうわけにはいかしてもらえないらしい。



嫌悪感を抱く俺がこんなとこに居たら、面倒になることは必須だ。ここは早くこの場を立ち去らないと・・・



「まさかあなた、一人なの?」



「え??」



そう思った矢先、千堂先輩は俺の姿を見てそう言った。それは俺に対する疑問で、それに答える以外に選択肢はない。だけど答えればここを立ち去ることができない。・・・面倒なことになったな。



「あ、はい今日は一人ですが・・・」



「ふ~ん・・・そう。なら」



千堂先輩はそう言うと、くるっと向きを変えて後ろに控えていた取り巻きの方を向く。



「あなた達少し先に行っててくれるかしら。私は少し「これ」に用があるから」



千堂先輩がそう告げると、取り巻きたちは無言で頷いてその言葉に応えると、そそくさとどこかへと消えていってしまった。



「さてと。私は基本的に、誰かに借りを作るのが大嫌いなの。だからそうね、コーヒーでもおごるわ。丁度私も一息つきたいところだったし」



「は、はあ・・・」



そしてそのまま、こんな展開予想もしていなかったのに、幸か不幸か、なぜか千堂先輩とお茶することになってしまった。




<とある喫茶店にて>



カランコロン・・・



「いらっしゃいませ~」



 おしゃれで広々とした店内に白の壁を基調とした明るい雰囲気。足元には小さな黒板のようなものに手書きで「本日のおすすめ」と書かれたプレートが置いてある。壁には薄い木の板の上に書かれたメニューが掲げられていて、なんというかその・・・。とにかく若者に好まれそうな、オシャレな場所だった。



「二名様ですね。こちらへどうぞ」



そしてウェイトレスのお姉さんに窓際に置かれているテーブルへと案内される。千堂先輩は何食わぬ顔でその案内に従って席に着いていたが、俺はなんともぎこちないそぶりでいつもよりも非常にゆっくりと時間をかけて席に着いた。



まあ簡単に言えば、めっちゃくちゃ緊張してます。はい。



スッ



そんな中ウェイトレスのお姉さんは持っていたメニューの一覧を目の前にスッと差し出す。そのメニュー欄にはコーヒーを始め、数多くのメニューが記されていた。飲み物もカフェラテや紅茶、レモンティーなど基本的なのはもちろん、マンゴーなどフルーツを使ったものも多くあるようだ。その他にもケーキ各種やパフェなどのスイーツ関係も充実している。その全てを説明する時間は今はないので置いとくとして、気になるとすれば名前が良い感じに響いたザッハートルテなる代物だな。



「私は紅茶で。あなたは?」



「あ、えっと自分はコーヒーで」



本当はコーヒーはコーヒー関係でも、この「とろける甘さのカフェオーレ」というものが気になったのだが、一応手前上無難にコーヒーにしておいた。なんかこれ頼んだら「ふふ、意外と子供なのね」とかってバカにされそうだったからな。正直コーヒーに関しては甘党なのだが、今は我慢するとしよう。



「かしこまりました。少々お待ちください」



そしてウェイトレスが一礼してオーダーをカウンターへと伝えに行く。つまりここからは品物が届くまでしばし時間ができてしまうわけだ。品物がないから感想で茶を濁すこともできないし、否応なく会話に発展するわけで・・・。



「ま、先に礼を言っておくわ。さっきはありがとう。正直しつこくて困ってたのよ」



「え・・・?」



なんとも意外な二人の会話は、これまた意外にも千堂先輩からのお礼の言葉から始まるのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ