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第百二十八話 突き抜ける銀の刃~その音を、俺は知っている~



「はあ・・・はあ・・・」




 走る。ただひたすらに。行き交う人々の群を切り裂きながら走る。玲が生きていればいるだろう山のふもとの神社を目指して、ただひたすら走り続けていた。



生きていたら・・・ってことは、もうすでに・・・ってことになっている可能性もあるのか。あ~くそっ、そんなことどうでもいい。もしそうだろうとなんだろうと、どっちにしたって玲の元へ駆けつけることに違いはねえ。それに、玲がこんなことで死ぬわけがない。例えそれがターゲットだとしても、俺達の居ないところで一人孤独に死ぬわけがない。



「俺はまた玲を一人にした。自分の感情を玲よりも優先した。だから俺には玲の元へ駆けつける資格はない」



助ける・・・なにがあっても、例え自らの命を落としたとしても、玲を助ける。なにがなんでも。こんなところで、俺達の関係を終わらせはしない。健の想いも、玲の想いも絶対に無駄なんかにはしない。




このまんまさよならなんて・・・いいわけないだろっ!!



「くそっ!!」




こぼれ落ちた欠片、それを拾いに俺は向かう。失った全ての事柄を取り戻すべく、その足は神社へと向けられた。あきらめない、こんな運命のイタズラに負けはしないと、必死に抗っていた。






<山のふもとの神社>




 このオシャレな店が立ち並ぶ通りも、ここまでくればそういった店はなくなり、ぐっと緑の量が増えてくる。ここら一帯は元々は山だったので、ビジネス街、ショッピングモールと街が変化していっても僅かながらこういった自然が残っていた。聞くところによると元の景色のなごりを残そうと、あえて残しているということらしい。



どれだけ景色が変化し、状況が変わっても、決して変わらないものも確かにある。それを残していくこともまた、大切なことなのだと思う。そこに行けば、変わる前の心に戻ることができるから。前へ進んだ後に、振り向くチャンスを与えてくれる、それがこういうものなんだと思う。



タッタッタッ・・・



 俺はなんのためらいもなく一気に石でできた階段を登る。神社って言っても、本当にこじんまりとした神社だ。一応小さな鳥居が一つ、そしてかなりガタがきていそうな小さなお殿が一つあるだけ。中に入ろうとするなら床がすぐに抜け落ちそうで・・・って、神社に向かってこんなこと言ってたらバチが当たるな。



後は階段を登った先の少し広めの空き地があるぐらいで、それ以外はなにもない。しかし、一見誰も来そうにないこの神社も、祭りとなると話は変わってくる。実は、この神社の横に続く上り坂を幾分か行くと、この御崎祭のメインイベントの花火を見る、絶好のポイントがあるのだ。だから花火の時間に近づくとこの辺りには多くの人が集まってくる。それ故にしっかりとした街灯なども完備されているのだ。



だが今はまだ花火の時間には早い。辺りは少しずつ暗くなってきたが、ここまで来る間にも人影は全く見なかった。普通ならみんなあの通りで屋台などを楽しんでいるだろう。よっぽどの物好きでもこの時間にこの辺りをうろつくものはいない。



そこに、玲が一人俺達を待っていたはずだ。本来ならすぐに合流するはずが、ターゲットの仕掛けた工作にまんまと引っ掛かり、大きく時間を割いてしまった。



急がなければ・・・!!



タンッ



 そして俺は最後の石段を登り切る。



「はあ・・・はあ・・・玲!」



本来ならこのぐらいの運動など造作もないのだが、先程紋章を使ったせいで俺の中の力はほとんど使い切っていた。体は異様に重く、ここまで辿りつくだけで精一杯だった。そしてこんな状態で、戦えるわけがなかった。ましてやターゲットという強大な敵が相手ならなおさらだ。



だけどそんな現実なんかに目を向けず、俺は前を向いて玲の名を叫んだ。体はもう限界に達している。今もっているのは気力と強い意志のおかげだけだった。



「誰も・・・居ないのか・・・」



肩で息をしながら辺りを見渡す。そこには広い空き地が広がって、先に神社があるだけだった。人影はどこにもない。空き地に生える草木が風で揺れる音だけが、この場に響いていた。玲の姿はどこにもない。そして、あの黒田 大吾の姿もない。



ザッザッザ・・・



俺はゆったりとした足取りで歩く。鳥居をくぐり、お殿の前の広い空き地の中心地点まで歩いて止まった。なにもない広場、吹く風は昼の頃より幾分か涼しく、熱のこもった体を優しく冷やしてくれた。場所が場所ということもあったけど、高揚する感情をさますには丁度良いものだった。



この空間の中心点。ここにいると、なにもかもが自分を中心に動いているかのような気分になる。今ここで人為的に奏でられるものはない。耳をすませばただ風の音、そしてそれになびく草木の音だけが耳に入ってきて、その織りなす世界に引きずり込まれるような感覚を覚えた。



できるならもっとこの空間に浸っていたい。だけど、今俺がやるべきことは残念ながらそれではない。俺がやるべきことは・・・こんなにも優しい事じゃない。



「やはり来たか・・・呪われしドラゴン。一之瀬 蓮」



「!?」



その時、突然背後から声がした。前を向いていた俺は意表を突かれ、反射的に今まで歩いてきた後ろを見る。



「ここに来ることはわかっていたよ。まあ、少し遅かったかもしれんがな」



そこには、さっきまでの空間に居るはずなのに居なかった存在、そしてこの全ての状況を作り出した元凶とも言える存在。



黒田 大吾。その姿が確かにそこにあった。



「ここに来たってことは、もう俺がどういう存在なのか、気付いたんだろう?いや、さすがにそろそろ気付いてもらってないとこっちとしても少し困るんだけどなあ」



黒田は不敵に笑みを浮かべながら半ば挑戦的に俺に尋ねる。その姿は確かに人間の姿だ。それ以外のなにものでもない。だけど俺は今まで何度となく見てきた。ターゲットが、人間の姿をしてこの世界に存在している光景を。



まあ、俺達も竜族なのに人間としてこの世界に存在していることに、違いはねえんだけどな。



「お前は、ターゲット・・・魔族なんだろ。同じ竜族であるあの連中を利用して俺達を惑わし、接触した・・・。それがお前の正体なんだろ?」



俺がそう言うと、黒田はフフッと笑い、額に手を添える。



「いやあ~ご名答。その通り、俺はお前らで言うターゲットだよ。いや~いつ気付いてくれるか心配したぜ。俺が用意した余興に、お前らはいとも簡単に乗ってくれたからな。こんなに扱い易いとは思ってなかったよ。どうかな、楽しんでくれたかな?」



「お前のことなんてどうでもいい。お前はターゲット、それだけで充分だ。それで・・・玲をどこにやった。お前は何か知っているんだろ?」



俺は黒田の言葉を無視して言った。そして俺はあえて玲を返せ、などという攻撃的な言葉は控えた。僅かでも、少しだけでもいい、もしかしたら玲はこの件に関わっていないという可能性を抱きたかった。今までの状況を考えれば、大体の結果は見えてくる。だけど俺は信じたかった。なにも起きていなことをただひたすらに。



今目の前にある現実をできるだけ平和なものでありたかった。穏便に解決したかった。それは俺の心の弱さから来た言葉でもあった。



「全く・・・お前達は本当にあの女のことしか考えないな。何か聞けばあの女のことばかり口にする。こっちはもううんざりだよ。そんなにあの女がいいもんかねえ・・・」



「お前の見解なんてどうでもいい。早く答えろ。玲をどこにやったんだ!!」



俺の言うことがうんざりと言うのなら、俺はこいつの言葉を聞く方がもっとうんざりだ。もう何度となくキレそうになってきたが、それでも寸でのところでこらえてきた。俺達の仲間を、関係をこいつに語ってほしくない。いや、語れるものではないんだ本当なら。



知ったような口で愚弄しやがって・・・。もうそんなのは聞き飽きた。俺は玲を助けたい、それだけだ。だからつべこべ言わずに本題を話しやがれっ!



「はいはいわかりましたよ・・・。全くつれないねえ、お前らは。まあいい、そろそろ俺も面倒になってきた。引っ張るならもう充分引っ張ったからな。よし、なら教えてやろう・・・。柳原 玲は・・・」




その、瞬間だった




ダダダッ!!!



後ろから突然慌ただしい音が聞こえて、そして



ブシュワアッ!!



「!!」



俺の胸から、薄暗いこの空間に銀色が映える刃が姿を現した。そしてそこから、大量の赤い液体が吹き出した。



「かはっ!?」



ビチャビチャ



口から赤い液体が吐き出る。地面に飛び散り、先程吹き出た赤い液体で染まった地面に跳ね返って、液体が飛び跳ねる音が響き渡る。



ブシュッ!



そして見えていた刃は突然勢いよく引っ込み、その姿を消す。その代わりに、俺の体は自らの意識を無視して地面へと叩きつけられる。



ドサッ



「あ・・・う・・んあ・・・」



全身が大きく震える。そして下へ向けられた視線の先には赤い液体がじわりじわりと地面を浸食していた。あまりに突然の出来事に頭が真っ白になり、胸を中心に全身に走る激痛を感じ取れなくなっていた。だけど体は動かない。力が全く入れられない。かろうじて動かせれるとしたら手と、頭ぐらいのものだった。



「い・・一体・・・なに・が・・・」



そしてその時だった。



チャリン・・・



「!!」



地面に、なにか金属でできた紐のような・・・例えるなら鎖みたいなものが地面に触れる音が、耳に届いた。



その音を、俺は聞いたことがある。何度も・・・近くで。



「ま・・さか、そ・・ん・な・・・」



俺は震えが止まらない体を抑えながら、必死に頭を動かして後ろへと視線を移す。するとそこには、銀色に光り輝く鎖がだらりと垂れ下がっていた。そしてそれを伝うように、視線を上げていくと・・・



「れ・・玲・・・」




 そこには、鎖の先に繋げられた銀色に輝きながらもその身を赤く染めた刃を、片手に持つ玲の姿があった。





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