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第百二十六話 第二の力~存在の解析、そして殲滅~



バシッ!!




 猛スピードで吹き飛ばされる健を、俺は空中で抱きかかえる。その衝撃で一瞬胸が張り裂けそうになったが、それでも俺はしっかりと健の体を掴み、決して離さまいと空気抵抗や風などで強い力が加わっても必死に健を抱え続けた。



その後のことなんて考えてない。なにもかもがとっさに動き出したことで。だけどそれは間違いなく俺の意志で、そして・・・



ズザー!!



俺そのものの素直な気持ちであった。



「くっ・・・」



そのスピードを保ったまま俺の体はコンクリートの地面に叩きつけられる。ただの地面ならまだしも、コンクリートのようなごつごつした地面ではその摩擦で無事ではすまない。接触した部分の皮膚は剥がれ血が滲み、凄まじい痛みがじんじんと迫りくるように襲う。



だけど今の俺にとってそんなものはどうでもよかった。いや、多分体は正直に悲鳴を上げていただろう。しかしそれを大きく上回って、俺の意志、意識は強く、そしてそれはその痛みに向けられていなかった。



「健、しっかりしろ!!」



自らよりも他人を気遣う。それは一見絵にかいたような正義心あふれた行動のようにも見えるが、そうだったとしてだからどうしたというのだ。良い子ぶりやがってと笑うのなら笑うがいい。だが俺の意志は変わらない。誰かを守りたいという、その意志だけは!



「くっ・・・すまん蓮」



健の体にはなんの抵抗もなかった。完全に力が抜けきっていた。両腕はだらんと地面に垂れて、ずっと握り続けていた銀の二丁銃ももはや握る力は残されておらず、持っているというより置かれているという表現の方が正しかった。いかに今の戦闘が激しいもので、そして自らの持つ全ての力を賭けた戦いだったのかが痛いほどに伝わって来た。



声も弱々しく震えていて、服はびりびりに破れ一部分は熱で焼け焦げている。顔も所々がすすのようなもので黒く染まっていて、額からは赤い血がツーッと滴り落ちていて・・・くそっ!!



「はは・・・情けねえよな。あんだけ口では言っておいて、誰ひとり倒せずにこの様だ・・・。ほんと、役に立たない奴だよなあ、俺・・・」



「な、何言ってんだよ健・・・」



健は笑っていた。それもあの合宿の夜の時のように皮肉を含んだ笑みを。



「もしかしたら俺は・・・。ここに居ちゃいけない存在なのかもな・・・」



「だから何を言ってるんだよ健!!」



俺の腕の上で寝ころぶ健。だけどその口から出る言葉は俺には全く理解できなかった。いや理解したくなかった。おそらく多分俺は健の言っていることを理解しているだろう。だけど認めたくなかった。健の口から出るそんな言葉を聞きたくなかった。



「だから・・・俺にはみんなと」



俺は認めない!絶対に認めないっ!!



「やめろ!何言ってんだよ健。お前はなんのために戦ってきたんだ!そしてなんのためにこんなになるまで戦ったんだ!お前は今までずっと全力でみんなのためにやってきたじゃないか。それがなんで、なんで今そうなるんだよ!!」



「誰が言った!お前がここに居ちゃいけない存在だなんて誰が言った!?俺は認めない、認めるものか!!」



「蓮・・・」



もう自分でもわけがわからなかった。だけど確かにこの思いだけは存在していた。



健、そして玲の意志を、こんなところで、こんな奴らに阻まれてたまるか。そしてこんなところで終わらしてたまるか。もしそれを邪魔しようというのなら、俺は・・・



「俺がやる・・・お前達の想いを、決して無駄にはさせない。ましてやあんな奴らになんか邪魔なんかさせない」



「蓮・・・?」



スッ



俺は健をそっと地面に置いて、ゆっくりと立ち上がる。その時の俺は、なにも確証がないはずなのに自分の中でこの現実を打ち破ることができる、その術を自らが持っていることを理解していた。なぜだかはわからない。だけどわかる。わかるものは仕方がない。



「俺は俺の力、俺の意志で奴らを倒す。そして・・・お前達の想いを守る」



ザッ・・・ザッ・・・



そして俺はよろけながらも確かに足を出し、地面に突き刺さった自らの剣、漆黒の剣の元へと歩み寄り、その柄に手をかける。



「お、まだやる気なのか?一度はついた勝負だぜ?それもどれもこれもお前達に勝機などこれっぽっちもなかった戦いがな。あきらめが悪いというのは認める、だが何度やっても同じだ。どれだけやろうがお前達は俺達に勝てない。それが現実だ。受け入れたくないのもわかるが冷静に・・・」



「うるせえぞ、お前。それに、なにか勘違いしてるみたいだけど、俺達はまだ負けたわけじゃない。確かにお前らの攻撃を受けた。だがこうして俺は立っている。勝負などはなからついていやしない。それに・・・」



ギュッ



そして剣の柄を力強く握る。



「俺は・・・俺達はお前らなんかに負けやしない!」



シュピーン・・・



そして思いっきり剣を地面から引っこ抜いた。その漆黒の刃、紅き竜の紋様が姿を現し、俺の手に収まる。そしてその剣を前に構えて俺は静かに目をつむる。



(絶対にある。この状況を打開できるなにかが俺にはある。そしてそれは、この俺の頭の中の魔法書の中に確かに記されているはず・・・)



パラララ・・・



俺は頭の中に形成された魔法書のページを勢いよくめくりまくる。めくってもめくっても白いページ。文字も絵も何も書いてないまっさらなページの数々。本来ならそこに多くの魔法が記されているだろうが、俺にはそれがない。だけど、俺にはその普通のやつとは違って、数は少なくても状況を反転させるほどのものを持っている。



パラリ・・・



ページをめくり続け、やがてあの魔族に囲まれた時に放った全てを無に帰する魔法のページへと辿りつく。あの時も、なにもなかったはずの魔法書にたった一つ記述されていた。そしてその魔法で俺はその時のピンチを打開した。



だが、今俺が欲しているのはそれじゃない。もっと別の力、今のこの状況に合った力、魔法があるはずだ。



そして俺はそのページをめくった。するとそこには



(あった・・・)



真っ白なはずのページに、また一つ光り輝くページがあった。そこには一つだけポツンと、呪文が記されていた。そして俺はその呪文をすぐさま詠唱する。



「Dark analysis and control of existence・・・」



俺がそう唱えた瞬間



ピキン・・・シュウォン



紋章が激しく光った瞬間突然この場の時が止まり、景色が暗転する。だけど俺の思考回路は動いている。それも人間の域を余裕で超えた凄まじい回転で。今この場で動けるのは、俺の思考だけだった。



「解析を始める。存在を解析、存在の属性を解析、存在の心を解析、存在の魔を解析、存在の光を解析、存在の闇を解析、存在の、存在の、存在の・・・」



暗転した世界の中で浮かび上がる目の前に居る存在に関する全ての事柄が解析される。パソコンのウィンドウが開かれるように次々となにかが書かれたものが無限に開かれる。その一つ一つになにか数列めいたものがおびただしい量で記載されていた。普通なら理解できない。いや理解しようがない。この莫大な情報量は人間の思考回路では到底不可能な域にあった。



だが今の俺は理解できる。いや理解している。頭の中で動く思考回路がその全てを記憶し答えをはじきだす。おびただしい量の数列が、その結果を俺の頭の中に表す。目の前に居る存在の全てが俺の頭の中で解析される。



「解析完了、解析完了、解析完了、解析完了、完了、完了、完了・・・」



そして無限に開かれたものが凄まじいスピードで閉じられていく。そして・・・



「存在に関する全ての解析が完了オールコンプリート。これよりこの場の存在の全ては我が闇の統制を受ける!!」



・・・クワッ!



 そして俺は勢いよく目を開ける。その目は本来の黒色の瞳から金色に変わり輝いていた。そしてその視線は目の前に居る存在、俺、そして健を傷つけた男グループに向けられた。



「・・・存在の殲滅にかかる!」



バッ!!



そして俺は男グループ目掛けて勢いよく走りだした。



「ふん、なにか秘策でもあるのかと思えば、結局玉砕覚悟の真っ向勝負かよ。学習能力がないなあお前。それとももうあきらめてんのかな?まあどっちでもいい、お前がその気なら俺達も容赦なくお前を殺さしてもらう!」



そしてその男は右手を挙げる。



「死ねえ!!呪われしブラックドラゴン、一之瀬 蓮!!」



バリバリバリ!!



そして男の右手から無数の電撃が放たれ俺に襲いかかる。



「ふん、その程度の攻撃はもう飽きた。出直してくるんだなこのゲスが!!」



シュピーン・・・ギュワアアアンン!!



俺はその電撃を真っ正面から漆黒の剣でぶった切った。電撃は何の抵抗もなく真っ二つに割れていき、その身を空気中へと分散させていく。



「な、バカな!?俺の攻撃が切られるだと!?くそ・・・ふざけた真似をしやがって!!お前にも我が雷鳴の竜を存分に味あわせてやる。食らえ!!」



そして男が右手を俺の方へ向けた瞬間



「!?」



「・・・だから甘いと言っただろ」



俺の左手がその男の顔の目の前にかざされていた。



「てっめええなめやがって!!」



ガランガラン!



すると今度は俺の頭上に、またしても無数の鉄骨がぶら下がっていた。



「同じ手が通用すると思っているのか?」



ドンッ!



そして俺はかざしていた男を力強く押しのけると、頭上目掛けて剣を構えてその無数の鉄骨目掛けて剣を一振りする。



ブウォオン・・・シャシャキーン!!



俺の剣から放たれた刃の風は、無数の鉄骨を奇麗にいとも簡単に真っ二つに切り裂いた。



ガシャンガランガシャガシャーン!!!



そして俺の横に、真っ二つに切り裂かれた無数の鉄骨の残骸が降り注ぐ。



「やっろおおお!!!」



ギュリリリ・・・ギュルギュルギュワーン!!



今度は先程俺の刃が止められ、そして炸裂した空間がまた現れ、辺りの空間を歪ませながら俺を取り囲む。



「だから甘いと何度言ったらわかるんだ?」



スッ・・・



そして俺は剣を大きく振りかざして、思いっきりその歪んだ空間を叩っ切った。



ズシャアアアア!!



漆黒の剣はその空間をもろともせず、さっきはあれほど止められた空間をあっさりと切った。辺りの歪んだ空間はあっという間にふわりと消え失せ、その場に本来の空間が姿を現した。



「ふう・・・。あっけないな、本当に。ひねりもなにもあったもんじゃない」



ジャリ・・・



「な、なんなんだお前・・・!?」



ゆっくりと歩み寄る俺の姿を見て男グループの面々は激しく動揺する。その表情にはわかりやすいぐらいに恐怖の色が見てとれて、先程の威勢のいい声とは全く別の、非常に弱々しく情けない声となっていた。



それもそのはずだ。先程あれだけ効いていた技の全てを、いとも簡単に、あっさりと破られたんだ。誰だって動揺する。だが、俺の刃、そして俺自身はこの空間、そしてこの場における存在の全てを解析、把握している。いわばこの空間は俺のものと言ってもなんの支障もない。



だから残念ながら・・・



「すまないな。お前達には勝ち目などない。だから最後に一つだけ言っておく・・・」



そして俺はゆっくりと剣を構えて足に力を溜める。



「存在に優越などない。ましてや力でその存在が勝る、劣るなどということは有り得ないんだよっつ!!!」



ギュワアア!シュピーンン・・・



足にためられた力は極限に達し、そして・・・



「加速、存在の全てを我が剣で切り刻め!!」



バシュッ!・・・シャシャシャシャキーンシャキーン!!!



シュウウウ・・・



そして俺は一瞬にして男グループの後ろ側へ辿りついていた。



「バ・・・バカ・・な・・・」



ドサドサドサ・・・




そしてその場に男グループの4人が倒れ込んだ。





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