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第百二十二話 場違いなExistence~和に歪みと炎を添えて~



「ん・・・?」



 

 その時、声が聞こえた。




気のせい・・・ではない。そしてその声は俺達ではない人に向けられたものでも・・・ない。




今までなにも起こらなかった。ただ不安だけが心の奥底に浮かんでいて、だけど現実にはその不安とは裏腹に何も起こらなかった。いつものように会話し、いつものように歩き、いつものように時を過ごす。もうその不安は拭い去ってもいいんじゃないか、そう思ってしまうほどに今この時まで、俺達はいつもどおりに過ごせていた。



いつもどおり、それでいいじゃないか。なにが困るというんだ。いつもと同じだからいつもどおり。なにかおかしいとこでもあるのか?それ以外の変わったこと、特殊な事をそこに織り交ぜることになにかメリットでもあるのか?なにもせずとも均衡が保たれた今この時に、その均衡を破る必要がどこにある。もしあるというならぜひとも教えてもらいたい。懇切丁寧に一から十までな。




今俺達は、そんな言うなれば運命のイタズラ、神の気まぐれと言うべき事態へと巻き込まれようとしている。そして俺達にはそれに抗う術はなく、あるがままに全てを受け入れる以外に選択肢はない。



これがその第一歩、いや、もう既に俺達は随分と長く歩いていたのかもしれない。ただ今一つ言えることといえば



それを乗り越えなければ俺達に未来はない。ただ、それだけだ。



「おいおいシカトか?それとも忘れたとか言わないよなあ」




「相川 健人。それに・・・一之瀬 蓮」




 その声の持ち主は先ほどよりも少し粗めの声でまた話しかけてきた。今度は俺達の名前をその言葉に織り交ぜて、それが俺達に向けられていることを再度確定させる。



その声を、俺達は知っている。できるなら忘れたいが、残念ながら頭の片隅にその声、その姿は残されている。忘れもしない。その声の持ち主のことをそう簡単に忘れられるわけがない。



だからと言って、振り向けば確実になにかが起きる。そして進行する。なんとまあ面倒な展開だろうか。振り向かなくても、そして振り向いたとしてもなにかが起きることは必然だ。ならどうするか。もしどちらも結果は違えど少なからず影響が出るなら、取るべき選択肢は一つ。



「知らねえな。ていうか、こんな道端で気安く俺達の名前を呼ぶんじゃねえよ」



スッ・・・



振り向く以外に、なにかあるというのだろうか?




「ふんっ、相変わらずだなあお前は」




振り向くと、そこには思った通りの、というよりそれ以外なかったのだが想像した通りの姿があった。



黒田 大吾。この祭りの二日前、バスターミナルで玲がある男グループに絡まれていた時に、現れた人物。そのグループのリーダー格的存在であり、そして・・・玲と健の、小学校時代に関わっていた人物。



友好的な関係・・・なわけがない。なによりその存在は、健と玲達にとって悪しき存在であるのだから。




「相変わらず仲良しごっこか?ん・・・でも今はあの大事な大事な柳原がいないな。どうした、もしかしてもうそういうのにうんざりして愛想尽かされたのか?あいつに。だとしたらお気の毒だぜ」




黒田は健の低く相手を威圧するような声を聞いても動じず、さらに深く突き刺さってきた。その様は相変わらずで、あの時となんら変わらない存在がそこにいた。辺りに不穏な気配が立ち込める。ピリリとした緊張。それは先程の伊集院さんの一発の時の緊張感とは似て非なるものだった。




嫌な予感・・・そう表現した方が、今は適しているのかもしれない。



「誰だか知らねえが、俺達に何か用か?今俺達はお前みたいな奴と相手してるほど、暇じゃねえんだけど」



健は頭をポリポリと掻きながらさも面倒臭そうに黒田に言った。その表情、声そのもの自体は以前の時よりはまだましなものだった。それがあの時から今までの間に健の中で変わったことなのか、それはどうかはわからないが、それでも、変化があったことは確かだった。



だがそんな健の変化さえも、よしとしない存在、黒田 大吾が目の前にいた。その態度はただ健に突っかかるというよりも、どちらかといえばむしろ健をあえて挑発している。そんな雰囲気を俺は感じた。



なにかが違う。以前の時も感じたこの黒田という男に対する違和感。それがなんなのかは全くわからない。だけど体は感じ取っている。理屈うんぬんではなく、あくまで感覚的にその感触を感じ取っている。



俺の中でなにか実体化しない感情がその陰りを見せた。この感情はなんだ。不安か、恐怖か、それともこの男に対する俺の中の怒りか。いや違う、どれもがそれに重ならない。一致しない。なにもかもが当てはまらない。



この男、一体なにが目的なんだ?



「いやなに、そんな大した用じゃない。ただ、ちょっとばかしこいつらがお前らに用があるみたいなんでな」



そう言って黒田はスッとその場から横へとずれる。そしてそこに、新たな存在が俺達の前へと現れた。



「・・・って、またお前らかよ」



そこに現れたのは、そういえば黒田が出てきてから一切喋らず、印象がとてつもなく薄かったあの男グループの面々。数は4人でズラッと横に並んで俺達の前に立ちつくす。



「お前らで悪かったなあ相川。だけどさ、俺達もこのまんま黙ってるってわけにはいかないんだよね。この前は小学校時代の悪い思い出のせいで少しばかり動揺したが、それも小学校時代の話だ。今思えばお前はBランク。そして俺達は全員Aランク。格下であるお前に、俺達が恐れを抱く必要なんてはなから無かったんだよ」



その男グループの一人は健に向かってそう言った。しかしよくよく考えればこいつの言ってることってむしろ自分の首を絞めているような・・・。とと、そんなことを思っていたら、今度はこちらに視線が向けられた。



「そしてお前、一之瀬 蓮。あの竜王の息子にして死を司る呪われしブラックドラゴン。それを聞いた時には思わずビビっちまったが、聞いた話じゃお前通常時、今の状態じゃ魔法もろくに使えないらしいな。使えたとしても初歩中の初歩クラスの子供みたいな魔法しか使えないんだろ?」



男は俺に向かってさも見下す感じでそう言った。しかし、少し意外というかなんというか、俺に関する情報がかなりあちらに行き渡っているようだ。俺がブラックドラゴンというのはともかく、今の状態の俺じゃろくに魔力を使えない。そのことをなぜあいつらは知っているんだろうか?そもそも聞いたって一体誰から聞いたっていうんだ?



いや、今そんなことを気にしている余裕はないか。実際そのとおりだし、こうなってしまっては嘘をついても仕方がない。



「ま、その通りだ。今の俺はな~んにも魔法を使えない。使えるとしたらそうだなあ・・・武器精製魔法リファイメントぐらいかな」



俺がそう言うと、そのグループの面々はバカにするような笑みを浮かべながら俺のことを見る。笑いたければ存分に笑うがいい。むしろ俺はお前らに笑われるぐらいならどんだけでも自分のことを明かしてやる。お前らに隠していることの方が、バカバカしいし無駄な労力だからな。



「Bランクのクズにろくに魔法も使えないゴミか。お似合いじゃないか。良いコンビだぜ、お二人さん!」



「伊集院、そして「あいつ」がこの場にいたら面倒だったが、お前ら程度なら苦労せずにこの場で借りが返せそうだな。有難いことだぜ」



そして男グループは大きく笑いだす。辺りに不愉快な声が響き渡り、この楽しくて幸せで、温かな空気のこの場所をひどく歪め、汚していった。道行く人はその微笑ましい顔に陰りを見せながら俺達とこいつらの集団を眼に入れながら通り過ぎていく。



・・・この場違いな状況を作り出すことに何の意味がある。なぜこの温かな空気に抗う。なぜこの楽しい一時の邪魔をする。



さすがに、俺も少し頭に血が昇って来た。



「今・・・なんて言った。それ次第で俺はお前をぶちのめすぞ・・・」



「なにを自惚れてんだよ。そのセリフはこっちのセリフだっつーの。ぶちのめされるのはお前の方だ相川。だが俺達も争いは好まない。それも同族ならなおさらだ。だから、お前らにチャンスを与えてやる」



「もしここで土下座をして謝罪をするなら、俺達はお前らを見逃してやろう。どうだ?良い話だろ??お前みたいなクズにお情けをあげているんだ、嬉しく思えよ相川 健人」



ギュウ・・・



俯く健の握りこぶしがギリギリと音を立てながら震えている。その震えは腕、肩、そして全身へと伝わっていき、健の体を怒りの色で染めた。



もう誰も、今の健の怒りを鎮めることはできないだろう。無論、俺も止める気はない。



「さてと、どうする健。あちらはどうもヤル気みたいだぞ?」



そう言って俺は震える健の隣へと移動する。



「蓮・・・」



「やるんだろ、健。やるんなら俺も手伝う。お前を一人で戦わせはしない。それに、俺も少々こいつらには頭にきているからな」



俺がそう言うと、健はゆっくりとその顔を上げて、男グループの面々を強く睨みつける。



「もちろん・・・当たり前だっ!」





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