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第百十五話 要らない再会の時~再び忍び寄る過去の影~



「・・・・・・」




 たくさんの人が行き交う中で、その金髪のツインテールが妙に浮き上がって見えた。たくさんの人混み、それに合わせて様々な色の服を着た人々。そして鮮やかな色彩の看板や店の数々。目の前には多すぎるほどに様々な色が混じり合い、うずめいているのに、その髪の色だけはどの色よりもはっきりと見えた。



だけどそこに、今まで見たことのないようなものがその色に混じっていた。



「なあ、健・・・」



俺はすぐに健に話しかける。その声にはトーンというものがなく、ただ音としてだけ存在しているかのような声だった。



「ん?どうした蓮」



健はすぐさま辺りを見渡すのをやめ、俺に視線を向けてくる。



「あれって・・・玲だよな?」



俺はある一点を指さす。遠くの方に見える金髪のツインテールと、雰囲気的に少しやんちゃそうな男数人が道端でなにやら話している方向を。



「あれは確かに玲・・・」



その時、健の言葉が止まった。いや、全身の動きが止まったと言った方が正しいかもしれない。健の眼に玲の姿を映る中、その横に視線を滑らしてそこにあったものを見た瞬間、健の顔から血の気が引いて、突然青ざめたような表情になった。その表情は、まるで目の前に恐ろしく、そしておぞましいものを見たかのようにその視線は注がれていた。



玲と共に居る、数人の男子グループへ。



「あ、あれは・・・」



そして血の気が引いた健の顔に、急速にある感情が浮かび上がってきた。



「っ・・・」



それは怒り。そして焦り。無表情だったその表情には戻るはずだった域を飛び越えて一気に感情が高ぶっていった。こういうのを衝動的というのかもしれない。



「くそっ!!」



全身に力を込めて、本来なら行きつくはずのない限界以上の領域に感情で引き出して辿りつく。そうなればその存在を、その意志を、誰も止めることはできない。待っているのは結果だけ。勝ったとしても、負けたとしても、傷ついたとしても、そこに辿りついたことに違いはない。ただその時の自分の状態、感情が変わっていくだけだ。



「お、おいっ!!」



健は走り出していた。その光景を見て俺にはわからなかったことを健は理解し、行動に移していた。あの光景へ、自らが入っていくために走り出した。



「あれは・・・あれは玲の傷の根源だ!そして・・・」



「もう玲が関係してはいけないものなんだっ!!!」



「!!」



俺も無意識に走り出していた。健がなぜ走り出したかを言う前に。なにが起きているかわからず立ちつくしている及川を放って、俺は健の背中を追いかけていた。嫌な予感がしていた。あの光景が、遠くて確かなことはわからなかったけどそれが良いものであるはずがないと思った。そしてそれは健の言葉によって確信へと変わった。



玲の傷の根源。その言葉が意味することは・・・



「くそっ、なんでまたこんなときに!!」



なぜ今までなにもそんなこと起きなかったのに、突然こんな事態に陥ったのか。玲の過去を知っていきなりのことだ。これはなにかタイミングが良すぎる。言うなればなにもかもが出来過ぎていた。



だが今はそんなことはどうでもいい。今やるべきことは「俺達があそこに向かうこと」、いや違うな、「俺達が玲の元へ駆けつけること」それだけだ。それ以外の選択肢もないし例えそれ以外があったとしてもその選択肢をとることを俺は許さない。




「玲!!」



 無我夢中に走る。ただ前方に見えるものを目指して走る。近づいてくる目指すべきものを見つめながら、俺は考えるよりも先に動く、いわば直感的に走り出してから、ようやく今の状況を把握することができはじめている。俺はより速く今の状況を理解するためにも、自分の思考回路をフルに回転させる。



まずあの男のグループ。数は4人といったところか。服装はどうやら制服のようだが御崎山学園のものではない。どこか別の学校の生徒だ。上下ともに黒だがはみだしているのを見るとどうやらその下には赤や青のTシャツを着ているようだ。そしてもう一つ、むしろこれが一番危惧すべきところなのだが



玲の傷の根源。それは玲の過去の中の、それも小学校時代の話がそれに当たる。当時玲は竜族の小学校に属していた。それもどうやら家系的に上の学校。いわばお嬢様お坊ちゃんが通うところ。そして玲はそこで卑劣な嫌がらせ、言ってしまえば「いじめ」を受けていた。しかもその理由は実にくだらない。



玲がBランクのドラゴンだったから。



たったそれだけだ。それだけで自分よりも下に見下した。実に笑える、まさに滑稽だ。ただそれだけで他人を傷つけ心を傷つけ、感情を踏みにじった。ただランクが下だってだけで玲はいやがらせを受けた。くそっ、どこまでも不愉快な話だ。



そしてその後健に出会い玲は救われ、そして自らも変わることができた。それ以後はいやがらせは起きず、起きたとしても健がそれを未然に防ぐ、いや圧倒して寄せ付けなかった。



その後どうなったのかはわからない。でもこうして一緒に高校生活を送れている以上、そう悪くない道を歩んできたはずだ。だが今問題なのはそこではない。そのいやがらせが受けていたのが小学校時代であることだ。



小学校時代、つまりかなり幼少期だ。魔力もろくに使えない。例えAランクだろうとなんだろうと、素質があったとしても魔力をコントロールできなければただの飾りだ。その当時は争うにしても魔力ではなく自らの力。いわば拳と拳だ。だからこういっては皮肉だが腕っ節が強いであろう健がそいつらを圧倒することができた。魔力は関係のない争いだったから。



だが今はどうだろう。話を聞くとおそらくあれは同年代。つまり玲や健と同じく、よほど下手でないかぎり魔力はコントロールできている。少なくとも小学校時代に比べれば。そしてあの男のグループの集団の全員がAランクのドラゴン、すなわち竜族だ。



つまり今の戦力を表面だけ見れば、Aランク4人に対して俺達はBランク2人+通常時戦力外。表だけ見れば数でも実力でもあちらが圧倒的に有利だ。そして俺達は圧倒的不利だ。



だがここには人間たちが大勢いる。だからそう易々とは魔力は使えない。しかしもし魔力勝負になった時、果たして俺達に勝ち目があるのかないのか。



いや、今そんなことを考えることに意味はない。例えどんなに圧倒的な差だろうと絶望的な状況だろうと関係ない。目の前で困っている仲間を助ける。それだけでいいじゃないか。そしてそれ以外考える必要もない。



俺は決めたんだ。仲間を、みんなを守ると。例え今の俺が魔力をろくに使えずとも、俺は今出せる限りの全力で守る。力になる。それが今の俺の使命であり在り方だ。



「玲!」



そして今は玲を助ける。やるべきことはそれだけだ!





「あ、健、それに蓮君も・・・」



 走って向かってくる俺達の姿を見つけて玲は顔を向けてくる。一瞬だけもしかたら今では関係も良くなってただ懐かしくて思い出話でもしてるのかとも思ったが、そんなことは戯言だったことが今わかった。



今の玲はとても沈んだ顔だった。どう間違えても良い表情ではなかった。いつもの玲の笑顔が、そこにはなかった。あるのは不安や恐怖、そして困惑。そこに嬉しさや楽しさなんて微塵も浮かんでなかった。くそっ!!



「おいお前ら!!俺達の仲間になにか用か?」



健はその場に辿りつくなり言葉と視線でその男のグループを威嚇した。それに反応して数人が少したじろぐ。



「ああ!?なんだお前・・・ってお前。まさか、あ、相川 健人・・・」



そのグループの男子は最初こそその視線に抗うもその姿、その容姿を見て反応が変わる。どうやらそこに居る存在を誰であるかは知っているようだ。



「いやそんなはずは・・・」 「でもこいつさっき健とか言ってたぜ?」 「てことはやっぱり・・・」



どう考えても動揺している。目の前にいる人物と過去に出会っているだろう人物と照らし合わせ、真実が解き明かされると共に動揺はうねるように大きくなっていき、しだいにグループを飲み込んでいく。



どうやら小学校時代に健はかなりやんちゃだったようだ。こいつらだって竜族、小学校時代から今まで何百年と時は経っているはずなのに、それでもその存在のことを理解している。なんだ、健の存在を利用するというのが気に障るがこれなら拳を交えずともこの場を解決することはできそうだ。



俺はそう思ってた。この状態のままなら、すんなりと解決できると。しかし運命というのはなぜこうも面白おかしくするのが好きなのだろうか。この場を穏便に解決することを、運命はなぜか許してくれなかった。



「おい、お前ら。なにそこで突っ立っておろおろしてんだ?」



 突然、グループの後ろから男の声がしてこちらに何者かが近づいてくる。そしてその男はグループの隙間に割り込んで、俺達の前へと姿を現す。



「ん?お前は確か・・・そうそう相川 健人だったか?」



その男は姿を現すなり健の姿を確認してすぐにそれが健だと悟っていた。どうやらこいつも小学校時代の人物らしい。



しかしその風貌は先程の男たちとは違いなにか風格めいたものが漂っている。雰囲気でこれまでの奴らとは違い、いかにもリーダー格で、一筋縄にはいきそうにない人物だった。だがむしろ、俺はそいつが一体どこから出てきたのかということのほうが興味があり、それだけが彼に対する一種の恐怖だった。



「いや~久しぶりだな相川。まさかこんなところで会うとはな」



「俺はあんたのこと知らないけどな」



 その男はなにか親しげに健に話しかける。しかし健はそれを一言で一蹴する。その言葉に反応するように、周りにただならぬ雰囲気が漂ってきた。



「なんだよつれないな~。まあもうだいぶ経っているんだ。忘れていてもおかしくはないか」



男は健の言葉を微笑みながら返すと、スッと顔を上げてなかば睨みつけるように健を見つめて言った。



「俺の名前は黒田 大吾。小学校時代に会っているはずだが、一応ここは自己紹介しておくとしようじゃないか」






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