第八話 覚醒~血塗られた刻印~
俺は今絶体絶命のピンチだ。この図書室にいるドラゴンは俺一人。そして人間・・・篠宮さんがまだこの図書室に残っている。だが俺の目の前には・・・
今回のターゲットであるウィスパーが立ちふさがっていた。
俺がこいつにかなわないことは自分が一番わかっている。さっきの戦闘では俺はなにもできなかった。そう工藤がいったとうり傷一つつけることができなかった。さっきは伊集院さんが来てくれたから俺は助かったんだ。だが今ここにいるのは俺一人。俺がやらないと・・・俺がこいつを倒さないと篠宮さんが助からない。それだけは回避しなければならない。たとえそれで俺が死んだとしてもだ。
「くそっ」
俺は剣を構える。こうなったらやるしかない。自分の汗が滴り落ちる。そして時がとまったようにあたりが静かになる。
しかしその時、ウィスパーがその静けさを破るように俺に話しかける。
「お前はなぜそこまでしてこの人間を守る?」
「え?」
突然質問される。なぜ人間を守るのか・・・それは俺が竜族であり人間を守ることが使命だからか?それとも俺はそこにいるのが篠宮さんだからか?俺はわからなかった。ただ一つ言えるのはそこにいる篠宮さん・・・優菜さんを守ること。それが俺の使命だということだ。
「俺はどうしてもその人間・・・篠宮さんを助けたいんだ。だから俺はお前と戦う。だから俺はここにいる」
「それで自分が命を落としてもか?」
「ああ!」
俺は強くウィスパーに向けて叫ぶ。俺は篠宮さんを助ける。たとえ自分が犠牲になっても篠宮さんさえ助かってくれれば・・・
俺はまた剣を強く握る。ここにウィスパーが姿を現しているということは、ほかのドラゴン、伊集院さんや工藤達もその存在を感じているはずだ。じきにあいつらも場所を特定してここにくるだろう。そのためにも俺が少しでも時間を稼がないと・・・
たとえ倒すことができなくても時間を稼ぐぐらいは俺にもできるはずだ。どんなことになっても俺は時間を稼いでやる!
「ふ~全くお前はバカか!?人間と竜族は決して共存できないのにどうしてそこまで守ろうとするのだ?」
「なんだと!?」
ウィスパーの言葉に俺は反応する。人間と俺達ドラゴンが共存できない、それはどういうことだ?昔だってそして今だって俺たちは人間と共に生活してきたんじゃないのか?そして平和に暮らしてきたはずだ。
「なぜ俺たちは人間たちと共存できない?」
俺はウィスパーに問いかけた。
「そんなもの違う種族だからに決まっているからだろうが。お前たちが共に暮らせているのは人間の姿になって竜族ということを隠しているからだろう。お前たちの正体を人間たちが知れば脅え、そして恐怖を抱きそして必ずお前たちを殺そうとするだろう」
「現に一度、人間たちはお前たち竜族を殺そうとしたのだからな」
「!」
人間たちが俺達竜族を殺そうとした?そんなばかな。俺はウィスパーの言葉が信じられなかった。
「さてお喋りはもう終わりだ。どっちにしたってお前はここで死ぬのだからな!そうだな、その前にお前が必死に助けようとしているこの人間から殺すか」
「なに!?」
「普通にお前を殺したんじゃおもしろくないしなあ。どうせなら余興があった方が楽しいだろう?」
「やめろ!!篠宮さんに手をだすな!!」
なんで篠宮さんが殺されなきゃいけないんだ。これは俺とお前だけの戦いだ。篠宮さんを巻き込むわけにはいかない。くそっあいつは本気だ。このままじゃ篠宮さんが・・・
そしてウィスパーが槍を構える。そして詠唱を始める。
「ここにいる人間を食らいそして殺・・・」
「蓮君!!」
その時突然図書室のドアがあいた。そこには俺以外のドラゴン全員がかけつけていた。しかしウィスパーはもう詠唱を終えようとしている。
くそっ間に合わない、守らなきゃ、篠宮さんだけは守らなきゃ・・・俺が守らなきゃ!!
「ぬおおおおおお!!」
俺は篠宮さん目掛けて全力で走った。
「ライトウルフランス!!」
そしてウィスパーが唱え終わる。そしてさっきと同じようにウルフの形をした無数の槍が篠宮さんを襲う。
「間に合ってくれーーーーー!!」
俺は飛びついた。そして
グサッ
無数の槍が俺に突き刺さった。
そして血があたりに飛び散る。
「ぐは!?」
俺はそのままひざまずいた。刺さった槍から俺の血がぽたりぽたりと垂れ落ちる。槍は完全に俺の心臓を貫いている。
「蓮君ーーーーー!!!!」
玲の声が聞こえる。だがその声も遠のいていく。俺はこのまま死ぬのだろうか。だが篠宮さんは守れた。それだけで十分だ。それで死んだとしても・・・
ドクン・・・
なにかが俺の体の中で響く。これは一体・・・
ドクン・・・ドクン・・・ドクン!
俺の中でなにかが、なにかが目覚める!!
「は~はっはっはっはーーー!!惨めな死に方だなあ半人前ドラゴン!!お前は本物のバカだなあ!」
「よくも・・・よくも蓮君を!!」
玲がウィスパーに向けて走り出そうとする。だがそれを工藤が止める。
「!?、離して工藤君!!あいつは、あいつは蓮くんを!!」
「待ってください柳原さん。一之瀬君の様子がおかしい!」
「え?」
玲はもう一度俺の方に視線を向ける。
するとそこには無数の槍が刺さったままで立ちあがっている俺の姿があった。
「蓮・・・君・・・?」
「フフ・・・ハハハ・・・アー八ッハッハ!!」
俺は目をあける。赤く光る目、そして背中には大きな漆黒の翼。
そして俺は槍についている自分の血で顔に描く。
血塗られた竜の刻印を・・・
そして刻印が赤く光った。あたりに黒い波動が響き渡る。そして俺は目覚める。
「ようやくこの時がきたか。全くここまでくるのに時間かかりすぎだぜ!」
俺は落ちていた自分の剣を拾う。そして突き刺さっていた槍を全て抜き去る。
「さあてウィスパー、ここからが本番だ。楽しもうぜ、この殺し合いを。第二ラウンドの始まりだ!!」
「バ、バカな!確かにあいつに俺の槍は突き刺さった。あいつは結界もはれない半人前ドラゴンのはずだ。それなのになぜ!!」
ウィスパーは目の前の圧倒的な魔力を誇る俺の姿を見て慌てふためく。桁違いの魔力、そして威圧、ウィスパーはその姿に脅える。
「蓮君、まさか・・・」
玲が信じられないような光景を目の当たりにして口を開く。そして工藤が答える。
「はい。あれが一之瀬君の真の姿。竜族の中でも最強クラスの力を誇る血塗られたドラゴン。そう、あれがブラックドラゴン、死を司る竜です」