第百六話 Sea paradise~ここは、天国ですか・・・?~
「ふう・・・」
これでもかとさんさんと照りつける太陽の日差し、青く澄み切った空、真っ白で南国を思わせるような砂浜、そして・・・
キラキラと輝くこの雄大な海!!
これだけでもテンションマックス!!になりそうなものだが、今はこの景色さえも凌駕する男としての一番のファクターが控えている。そして今まさに俺達はその瞬間を待ち望んでいるわけだ。
「しかしなんだな、蓮。こうしてその時を待つってのも、なかなか良いもんだな」
隣で腕組をして海を見つめる健。目の前にこんなにテンションが上がるものがあるのに、それでも健はその誘惑に必死に耐え、湧き上がってくる興奮を抑えつけながらじっとそこに立っていた。あの健がこれなんだ、今まさにこうして待っているものがいかに重要なものかが十二分にわかる。
「ふむ、確かにこの待ち時間は男心をくすぐられるな。それに関しては俺も一切異論はない!」
自分で言うのもなんだが、あきらかにおかしなテンションになっていることは間違いない。だけどそれが普通なんだよな。むしろこれでどうかしないほうがおかしいんだ。いやむしろそうならなきゃ失礼だ。
これが健全なる男子の当然の反応なんだ。うん、そうに違いない!!
「いやはや、楽しみですねえ。うちの部の女子は奇麗どころばかりですからね」
と、ここで先程たてたパラソルの下になにやら色々置いていた工藤が戻ってくる。まあその顔はいつもどおりの笑顔なんだが、今回ばかりは珍しくこの場相応の笑顔だった。だがいつも笑顔なんだからそれが今だからこその笑顔なのかわからない。全くどこまでも面倒な奴だ。
ま、意外と実はめっちゃエロい奴だった、というオチもさもありげな・・・。いやさすがにないか。もしそうだったら冗談抜きで引くな(笑)
「そうなんだよな。なにげにうちの部の女子って全体から見たら超美少女だよな!まあ一人性格に難ありだけど・・・」
そう、最後の一言は触れないでおくとして、うちの部の女子、つまり玲と伊集院さんは、はっきりいって健や工藤のいうとおり半端じゃない奇麗どころだ。モデル並みといっても過言ではない。それは前に街へ出かけた時に充分すぎるほどにわかっている。
そして今、あと少しでそんな二人の「水着姿」が披露される。これはもうテンションが上がらずしてどうする!いけないことだとはわかっていても気分が高ぶってしまうのはしょうがないことだ。そしてそれを待つこの時間もまた、男にとっては果てしなく心躍るものだった。
二人の私服にもかなりドキッとしたが、はたして水着姿はどんな・・・
おっといかんいかん。もう少しでまじでそっちの世界に行ってしまうところだった。ここは冷静に、あくまで紳士な対応でいっておかないと・・・
「お~いみんな~!お待たせ~!!」
そして、聞き覚えのある声が耳に届いてくる。そして自動的に海を見ていた俺達の視線がその方向へとそそがれる!
「あ・・・」
・・・・・・
その瞬間、完全に言葉を失った。
「ゴメンゴメン、少し着替えるのに戸惑っちゃって。ちょっと待たせちゃったかな、って・・・」
「どうしたの?みんな。黙りこくっちゃって。あれ?もしかしてこの水着変かな・・・?」
玲はその水着姿を眺める俺達を見て少し戸惑う。まあそれもそのはずだ。女の子が水着で登場したのにも関わらず、男性陣の反応がない。本来在るべきはずの感想や歓声が全くあがらず、ただ無言で沈黙の空間を作り出している。それに戸惑うのも無理もない。
だが一番重要なところは、俺達がその二人の水着姿を見て無反応なのはその水着が似合ってないとか変だとかなはずがない。そう、俺達が無言になっちまった原因は
彼女たちの水着姿があまりにも似合いすぎていて、そして眩しすぎて。どう言葉に表せばいいかわからないからだった。
「い、いや。そんな、こと・・・ないぞ玲」
長年玲と一緒にいたはずの健がこれだ。その声は非常にカタコトで、いかにも動揺していることがわかる。それほどに、玲と伊集院さんの水着姿は衝撃的だった。
「ああ、もちろん似合ってるぞ。いやむしろ似合いすぎ・・・」
そして否応なくまじまじとその水着姿を眺めてしまう。
玲の水着は黒のいわゆるスカート付きのビキニ。上、というより胸元の方は中央の黒のリボンで結ばれていて、胸元のフリフリがなんとも愛らしい。そして下のスカートは黒地に白の細い線が一つ横にスッと入っただけのシンプルなもので、こちらもまた同様にフリフリが付いていて、動くたびにゆらゆらと優雅に揺れる。
いかにも玲のイメージに合うその小悪魔的な水着は、その黒色が玲の透き通った肌、そして金髪のツインテールをさらに何倍も引き立て、思わず直視できなくなるほどにそれは眩しくて、似合いすぎていた。
水着が似合っていることもそうだが、そのスタイルの良さにも思わず息を飲んでしまう。制服姿の時ももちろんスタイルはいいとは思っていたが、水着ともなるとその良さが鮮明にはっきりとみえてくる。スラッと伸びる脚、そしてキュッと締まったウェストもそうだが、特に目がいってしまうのはその胸元だった。
制服の時はあんまり感じなかったが、水着姿の玲のそれは意外と言ったら非常に失礼なのだが、思っていた以上に、その・・・豊かなふくらみがあった。
ってなに言ってんだ、俺?
「な、なに?蓮君。なにかおかしいとこあった??」
と、まじまじと見つめていたらさすがにおかしく思われてしまった。まあそりゃ自分をじっと見つめられたら落ち着いていられないわな。それに後半は確かにそういう眼で見てしまったのも事実だし・・・
「ああ、いやなんでもないんだ。ちょっと見惚れてしまってて・・・」
俺は笑いながらそう言って今度は伊集院さんの方に視線を向ける。
伊集院さんの水着は淡い紫色の水着。上は普通の中央で結ばれたビギニだが、下はえ~と、こういうのをなんていうんだっけ?まあとにかく薄い白色のスカーフのような長い生地が、ビキニを隠すように腰から巻かれていた。
その姿はまさに「清楚」という言葉が似つかわしく、淡い紫色の生地と伊集院さんの肌の白さがとても柔らかくマッチしていて、見ていて心が癒されるような、そんな姿だった。
しかしこうして見ると、伊集院さんは本当に細いな~と思った。今までもそう感じてきたけど、肩から見えるその腕は本当にか細く、その薄い生地で隠された下半身も、そのラインからとてもすっきりしているように見える。そしてなにより思うのは・・・
(・・・やっぱり白いな、伊集院さんは)
伊集院さんのその肌の白さは淡い紫色でもはっきりと浮かんで見えて、もし白い水着を着用してたら見えなくなるんじゃないかなと思うほど、伊集院さんの肌は雪のように白く、奇麗だった。
「いやはや、これはいい目の保養になりますね」
っと、ここでいきなり工藤がかましてきたぞ。今まで黙ってたかと思えば、その姿その口調はいつもとなんら変わらなかった。ちっ、なんかおもしろくねえな。工藤のデレ~とした顔も一度くらい拝んでみたかったのによ。
「め、目の保養ってなに言ってんのよ工藤君っ!」
玲はそう言うと顔を赤く染めながら、隠すように腕で胸元をおさえた。しかしその恥ずかしがる姿、そしておさえつけることでさらに胸元がふくよかに見えるその様は、見ているだけで男としての垣根が崩されそうだった。
ヤベ・・・真剣に鼻血でるかも。
しかしまさか工藤が玲のこんな姿を見せてくれるとは、悔しいけどこれは感謝しなきゃいけないのかもな。
「いえいえ。実際お二人の水着姿で一之瀬さんは今にも鼻血を出しそうですからね」
そう言って工藤は微笑みながら俺に視線を向けてくる。それに合わせて玲の視線もこちらに・・・
「!!」
俺は完全に不意をつかれてしまった。くそっ、前言撤回だ!やっぱりこいつに感謝なんて必要ねえ!!しかしどうする・・・。いきなり大ピンチに陥ってしまったが・・・
「え、えっと・・・」
さてどうしたものか。いきなりの大ピンチで頭がもう真っ白なんだが。だけどそれでも玲の視線が厳しいし・・・。どうする!?
「そ、そっか。一応私なんかの水着姿でもドキドキしてくれたんだ・・・」
「・・・え?」
そしてなぜか二人の間に沈黙が生まれてしまった。それも二人とも顔を真っ赤にしながら俯いて。なぜこうなったのかはわからないが、どうにもいかんなこの雰囲気は。だけどなんでこんなにも俺は顔を赤くしてんだろうか。これじゃあ玲を直視できない・・・。
「・・・・・・」
そしてそんな二人の様子を工藤は楽しんでいるかのようにニコニコしながら見ている。くっそ~、絶対ただじゃおかねえからな工藤!!
そして俺は工藤をギロリと睨みつける。それに気付いたのか、工藤は肩を竦めて言葉を繋ぐ。
「ああすいません。まさか本当にそうだとは思わなかったもので。これは失礼しました。あ、そういえば女性陣の方はもう日焼け止めはお済ですか?これだけの日差しですからね、私達はいいですがもしそれが困るのなら、あのパラソルの下にそういう関係のもの一式置いてありますから一度行ってみてはどうでしょうか?」
工藤がそう言うと、退路をみつけた敗走兵のように玲はくっと顔を上げて表情を緩ませる。
「そ、そうね!日焼けしちゃったら大変だもんねっ!!じゃあ有希も一緒に行こっ!」
玲は慌てふためきながら伊集院さんに言った。そしてそれに伊集院さんは一度だけ小さく頷いて応える。
「じゃあ私たちは少し行ってくるから少し待っててねっ!」
と、玲は言い残して、伊集院さんの手を引きながら逃げるように走っていった。そしてこの場に男性陣だけが残された。
「なあ蓮。ここは、天国か・・・?」
そんな二人の後ろ姿を眺めながら、健は感慨深そうにそう尋ねてきた。
「そうかも・・・、しれないな」
真っ白な砂浜を駆ける二人の美少女。その後ろ姿はとても眩しく、思わずこうして遠くを眺めるように見つめてしまうのだった。
いつも一緒にいた二人。いつもなら普通に接することができていたのに、今日はなんだか雰囲気もなにもかもが違っていて、初めて見る彼女たちの女の子としての一面がとても新鮮で、そして戸惑いもまた少し生まれていた。
「俺・・・、もうここで死んでもいいかも」
「・・・死ぬな健。今からが男としての本番だぞ?俺も少しというかかなりやばいが、頑張っていこうぜ・・・」
気の抜けたサイダーみたいな俺達は、そんな変な会話を交わしていた。
青い空、真っ白な砂浜、広く雄大な海。そして水着。そして水着!
なにもかもがキラキラと輝くなかで、俺達は戸惑いも喜びもありながら、この今日という日々を過ごしていくのだった。