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第九十九話 灯の影~それは、あってはならない疑問~

 


「もう一人の、自分・・・」




 俺はなにもかもを話した。あの暴走から白い世界に飛ばされ、もう一人の自分に始めて出会い、そして自分という存在がどんなものであるかを。その全てを包み隠さず話した。



信じられないかもしれない。だけどそれは嘘偽りのない本当のことであり、たとえ飛躍しすぎた話であっても、俺は正直に話した。



その言葉の一つ一つが俺の目の前で起きたことであり、そして俺はそれをみんなに全て話す必要があった。それが自分という存在を少しでも知ってもらい、ここに居続けるためには必要不可欠なことだった。




「その・・・自分の中にもう一人の自分が居たことは、蓮君は前から知っていたの??」




玲の顔には不安の色が色濃く浮かび上がっている。当然だろうな。いきなり目の前にいる人が自分には二つの存在があって、そのもう一人の方はとてつもない力を持っているなんて言われて、素直に信じられるわけがない。むしろそれが普通の反応だ。



「そう・・・だな。今まで何度も戦闘をしてきて、その度に残された結果を見て、さすがにそれはわかってたよ。自分じゃない誰かがこの体を使ってその圧倒的な力でターゲットを倒していると。でもそれが誰なのかはもちろんわからなかったし、それを確かめるものもなにもなかった。だけど・・・」




「それが誰でどんな人か、今回のそれでわかったってこと・・・??」




 そう、今まで自分に恐怖を抱いていたのはそのもう一人の自分がどんな人で、どんな力を持っているのかがわからなかったからだ。人間だれしも、未知なるものには恐怖を抱くものだ。それが自分に関係すれば尚更に。



だけど今回、初めてその人と対面した。姿は俺と全く同じでその人の本来の姿はわからなかったがそれでも、どんな人であるかは少し会話を交わしただけだったけど、それは今迄からすれば充分すぎる進歩だった。




知るということで、こんなにも安心感が生まれるなんて、闇に照らされた光は眩しすぎるほどに輝いていた。




「なるほど・・・。つまり今まで我々が「覚醒」と呼んでいたものはそのもう一人のあなたの方の姿のことを指していたんですね」




「まあ、そういうことになるな・・・」




さすがは工藤というところか。俺の中では相当な驚き発言だったが、そんな中でも工藤は的確に物事を整理し、そこから導き出される答えを提示していた。ほんとに、歩くコンピューターみたいな奴だな。




その通り、今までみんなが覚醒と呼んでいたものは、なにを隠そうもう一人の俺、フェンリルの姿だった。




なんらかの原因で俺とフェンリルの間の関係が入れ替わり、この体の所有権、いやこの表現は適切でないか、まあとにかくこの体を動かせる意識が入れ替わったってわけで、それは覚醒でも何でもなく、その姿もまた、俺という存在そのものだったってわけだ。




「しかしフェンリルでしたっけ?その方の名前は。なるほど、やはりあの衝撃からすればそのような事態でさえも起こり得る、というわけですか・・・」



工藤は俺に一度尋ねた後、なにやら独り言めいたことを呟きながら深く目をつむり、組んでいた手の中へとその顔をうずめた。



その様子はまるで僧侶が瞑想にふけるように精神を研ぎ澄まし、自らの意識の彼方へとその身を投げ入れるようだった。一人だけの時間、一人だけの空間、今の工藤を表すならこんな感じの言葉が似つかわしい。



今のあいつはまたいつものように、あいつだけが知りえる情報と状況を元に俺達が踏み入れられない領域へと、その身を投じているんだろう。無論、それに対して俺達がなにも言えるわけもない。



「・・・進みだした時間は止められない。それが自らの手によるものだったとしても、流れ始めた運命を止めることはできない・・・」



「全てはありのままに・・・か。我ながら、自分がやったことに対して「後悔」というものがでてきました。これもまた、ここに居続けることによるイレギュラー要素、ということですかね・・・」



 そして工藤はスッと顔を上げる。隠れていた顔が見えた時、その顔はいつもとなんら変わらない顔で、今まで起きていたこと全てが無かったことのように、その顔は憎たらしいほど笑顔だった。



「しかしまあ、今回あなたについて少なからずわかったことは大きな成果と言えるでしょう。これから戦っていく上で、あなたの力が必要になることはほぼ間違いない。そのためにも、あなたのことを知る必要があった。これは大きな進歩と言えるでしょうね。嬉しい限りです」



笑顔で話す工藤。その言葉には今回の一件に関するまとめの言葉のようなものだった。しかし、その言葉の中には一つだけ気にかかるものがあった。



(俺の力・・・か)



工藤の言ったこれからの戦いの上で必要となる俺の力。だけどその力は、はたしてここにいる俺の力か、それとももう一人の俺であるフェンリルの力か・・・



(・・・な~にを考えてるんだ俺は。これじゃあ今までとなんにも変わらないじゃないか)



俺は自分の気持ちの中でよぎったことが途端にバカバカしくなった。その感情は今まで、フェンリルと会うまでの自分の気持ち自身を克明に表したものだった。



たとえ俺の力だろうと、フェンリルの力だろうと、それがこの体、この存在の力であることに違いはない。確かに力というものなら、あっちの俺の方が圧倒的に上だろう。だけどそれに僻む必要はどこにもない。



一之瀬 蓮、そしてフェンリル、この二つの存在を合して初めてこの体の存在と成り得るのだから。俺達は二人で一つだ。俺でも在り続けるし、時にはフェンリルが現れることもあるだろう。だけどそれが、この体の存在であり在り方なのだ。



今回の一件で俺が掴み取ったことは、もう一人の自分の存在を認め、そして信頼することだった。




「さて、ここで少しおもしろいものを見せたいのですが・・・」



 工藤はそう言うと、自分の鞄の中をまさぐり始める。どうもこの工藤の動作を見ていると、恐怖感しか現れないのはなぜなんだろうか?普通こういう時って「何が出るんだろ~」みたいな感じにわくわくどきどきするもののような感じがするが。



まあ確かに違う意味でどきどきはするが、どうにもあの鞄から出されるものは例えおもしろいものでも、良いものではない気がしてたまらなかった。



「ありましたありました。実はこれなんですが・・・」



 工藤は探し物をみつけた喜びにでも浸っているのか、いつも以上に輝いた笑顔で俺達に向かって手を差し出す。



「あれ?これって・・・」



それを見て、玲が首をかしげる。健も同じようにその工藤の手に持たれたものを食い入るように見つめ、伊集院さんはそれを遠目からじっと眺めていた。



その工藤の手のひらには、深く、見る者を取りこむようで、それでいて煌びやかな光を放つ、紫色の一つの宝玉があった。



「これ、あのターゲット、エフィーが消えた時に床に転がってたやつよね??」



玲は覗きこむようにその宝玉を見ながら、そう言った。その言葉に健も小さく頷く。



「確か、蓮がターゲットを倒した後、なんかきらきら光る紫の光が現れてターゲットはそれと共に消えて・・・その後残ってたやつだよな?これって」



「・・・・・・」



俺は健の言葉を聞いて工藤の手のひらに乗っかってる宝玉をじっと見つめる。



その宝玉が放つ光と色は奇麗で、それでいて不気味さも感じられ、そして・・・



なぜだかそこに、悲しみを覚えてしまった。



「ふむ、その様子だとその時のことは覚えていないようですね。まああのとき既にあなたはあなたでなくなっていたようですし、無理もありませんか」



俺は暴走したということはフェンリルから聞いて知っている。だけどその時になにがあって、どんなことが起きたのかは知らない。そこのところだけポッカリと穴があいて抜き取られたように無くなっている。



「ああ、すまんわかんねえや。少し説明してくれるか?」



今聞いただけの情報は、この宝玉があのエフィーを倒した後に残されたもので、そしてそのエフィーを倒したのはなにを隠そう俺だということだ。またしても、結果だけが俺に残った形となっていた。



「あの時あなたはおそらく姿は変わっていなくてももう暴走していたんでしょうね。雰囲気といい殺気といい、今のあなたとはまるで違いましたから。そしてその暴走したあなたはエフイーをその圧倒的な力で一撃で倒し、そのエフィーは紫色の光を放ちながら消えて、そしてその場にこの宝玉が残った、まあざっくり説明しますとこんな感じですかね」



「・・・・・・」



 俺はもう一度工藤が持っている紫色の宝玉を見つめる。そしてあの時、暴走するまでの記憶を辿っていき、ターゲットであるエフィーの姿を頭の中に思い浮かべながらその宝玉とエフィーの姿を重ね合わせる。



「・・・なんか、今回のターゲットって今まで倒してきた奴らと少し、違ってなかったか・・・?」



俺がそう言った瞬間



「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」



突然、灯が消え去ったようにこの教室が静まり返った。



伊集院さんや工藤はともかく、ほかの玲や健の顔色は、あきらかに今までとは違っていた。



「・・・実は俺も、それは感じたかもしれない・・・」



沈黙が続く中、健は重い口を開き、その言葉を口にする。



「実はさ、ここだけの話俺があのターゲットに刺される前に、あのターゲットはなんだかそのターゲットとは思えないような雰囲気と口調で俺に言ってきたんだよ」



「「どうしてあなた達はそんなに強いんだろう。どうして私はあなた達の敵として、ここに居るんだろう」ってさ。そしてあいつは最後に言ったよ」



「「そしてどうして私は、その輪の中に入ることができないんだろう・・・」ってさ」



健はそう言うと、自分のイスに静かに腰かけた。ゆっくりとイスにもたれかかり、ギシッという音を響かせながら、ふうっと、小さく息を吐き出した。



「どうしてその輪に入れないんだろう・・・って、それじゃあまるで、俺達と同じ人間じゃないか。まあ正確に言えば俺達は人間じゃないけど、それでも俺はその時思っちまったよ」



「こいつは、可哀相な奴だと・・・」



天を仰いで話した健。その言葉は天井に反射して、やんわりといと惜しむように消えていった。



消えた言葉は今度は心の中でゆらゆら揺れた。悲しい音を、広げるように奏でながら・・・



「・・・あれは、ターゲット、魔族、だったんだよな・・・?」



 俺達の中で、一つの疑問が生まれていた。それは本来、俺達竜族の中ではあってはならない疑問だった。



魔族はターゲットは、本当に自分達の敵なのかと・・・



「・・・・・・」



もしそうなったら、どうなる?なにもかもが変わる。なにもかもが反転する。俺達にふりかかる全ての事柄が音を立てて崩れ去る。



今まで敵だと思っていたものが、今までそれが当然のことであり、それが自分たちの成すべきことだと思っていたことが、もしかしたらそれは「間違い」だったとしたら・・・



俺達は考えもしなかった。そんなことは選択肢にも上がらなかった。そんなはずはないと決めつけていた。だけど、どんなことにも「絶対」は存在しない。そんな当たり前なことをいまさら、俺達はその現実を叩きつけられていた。



「・・・困りますね。我々竜族において、その考えはもっとも危惧すべきことです」



「・・・!?」



 その時、俺達の中で宿った灯をかき消すかのように工藤は口を挟んだ。その目は冷酷で、怒りにも似たその眼差しは、俺達を強く、睨みつけていた。



「ただ一度、少し違った雰囲気のターゲットに出くわしただけでその様ですか。さて、今まであれほど言っていたあなたの「覚悟」とやらは、その程度のものだったんですか??」



その口調はもう完全に怒りの言葉だった。俺達の中で浮かびかけた疑問に対しての怒りだった。



「おい、俺達はなにもそんな・・・」



「じゃあなんですか!?まあいいでしょう、百歩譲って仮に今回のターゲットが我々に似た存在だったとしましょう。それでその姿に同情して見逃したとしましょう。それでどうなると言うんですか!?あちらもそれに応じて仲間にでもなってくれるとでも思っているんですか??」



「忘れていやしませんか。今回の戦闘で我々はどうなりました?まさかそれすらも見ていないなどと戯言を言うつもりですか??」



工藤はそう言って俺をギロリと睨みつける。その視線は刺し殺すような眼差しで、一瞬でも弱みを見せれば一瞬で圧倒されるものだった。



「それは・・・もちろん覚えているが・・・」



シャシャキーンン!!!



その瞬間



「!?」



俺の目の前に緑の刃が向けられていた。



「我々が倒れるのはまだいいですよ・・・。ですが、我々が倒れればどうなりますか?死ぬのは大勢のなんの罪もない「人間」達ですよ。たくさんの命が我々の失態で失われるんですよ!」



グイッ・・・



工藤はさらにその刃を俺に近づける。その刃先はかすかに顔の皮膚に触れるぐらいに近かった。



「我々がやっていることは遊びじゃない。単なる戦いごっこじゃない。その後ろに、大勢の命と想いが託されていることを、二度と忘れないでください。もしまた、そんなばかげたことを言うなら・・・」



「あなたを、殺しますよ?」



工藤の刃が俺の眼球に触れそうになる。少し動かせばすぐにでも俺の目は二度と光を見ることはできなくなるだろう。俺にはそれに従う以外に、選択肢はなかった。



「わ、わかった・・・。もう二度とこんなことを言わないように気を付ける・・・」



「・・・・・・」



 工藤はなおも俺を睨み続けた。俺はその間ずっと、少しでも動かないように全身に神経を研ぎ澄ましていた。



「・・・いいでしょう。わかってもらえれば結構です。少し荒っぽいことをしてしまいましたね、申し訳ありません。ですがわかってもらいたかったのですよ、我々のしていることがいかに重要なことなのかをね」



スッ・・・



そして工藤は俺から剣を離した。その顔にはもう怒りはどこにもなく、いつもの工藤の姿に戻っていた。



「はあ・・・はあ・・・」



 俺は肩を下ろして息を荒げる。そして自分の思考回路を回復させる。



工藤の言っていることはなにも間違っていなかった。俺達の中に宿った、生半可な気持ちが工藤の怒りに触れたのだ。



その生半可さがたくさんの命を犠牲にする。そんな当たり前のことを、俺達は忘れていた。



「さて、この話はもう終わりにするとして、一之瀬さんにはプレゼントがありますよ」



 工藤はそう言うと、また鞄の中をごそごそとあさりだす。その姿と、先程の出来事がつながらない。もしかして今のは一時の幻だったんじゃないかと、思わせるほどだった。



「お、これこれ。さあ、どうそ。これはあなたのものでしょ?」



工藤はそう言って、俺の前に手を差し出す。



「え・・・これは・・・」



その手に持たれていたのは




「ええ。確かあなたの言うところの、「ソラノカケラ」ってやつですね」





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