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第九十八話 ここに居続けるために~始めの言葉は謝罪の言葉~

※更新が一日空いてスミマセン>< これからはなるべく変わらず更新していきたいと思いますが、個人的事情でこれから少し忙しくなってしまいます。なので今回のように更新ができない時もできてしまいますが、そこのところも含めてこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m

<放課後 DSK研究部部室>




「さて、久しぶりにみなさん全員が揃いましたね」




 いつもの部室、いつものメンバー。今まで何度も足を運び、それでいて色んな事を感じ、体験して、様々な時間を共に共有してきた。



何度も特に用事もなく集まることが多かったせいか、ここにくることになんの感情も想いも生まれなかった。ここにくるのが習慣のようになっていた。



だけど今は違う。



俺は今日初めて、早くここに来たい、早くみんなと会いたいと、心からそう感じたのだった。




「まあみなさん思い思いに言いたい事などはあると思いますが、今日はとりあえず一之瀬さんの話を中心に回していきましょうか」




 そんな中工藤はいつもどおり、部活内での音頭を取っている。この光景もまた懐かしいものではあったが、いきなり話を振られて俺は少し戸惑う。



「あ、ああそれじゃあまずは俺から・・・ってなんで俺がみんなに話があるってお前は知ってるんだ??」



俺の考えていることを見透かす、そしてそれを先に言う。それがいつもの工藤であり、そう思えばそれはなんらおかしいと感じることはない。だがしかし・・・



これはさすがに出来過ぎていやしないか??まるで俺が今まで見てきたもの全ての内容を知っているかのような・・・




「いえいえ、いかにも重要な話がある、って顔をしてましたから。それに、今回の戦闘において一番影響があったのはあなたでしたからね。それに対するコメントはあって当然かと」



まあこういう返答がくることはわかっていた。今まで散々ここにいる工藤 真一君とは付き合ってきたわけだから、いやというぐらいにその態勢というか物言いには慣れている。



だけどなんだろうなこの感じは。いつもとなんら変わらないはずなのに、いつもの風景と完全に重ならない。同じであるといっても過言ではないのに、重ねた風景は非常に微弱ながら、ズレているような気がした。



まあ、気のせいだとは思うんだけど・・・



「まあいいや。話したいことがあったのは事実だし、お言葉に甘えて少し時間をもらうよ」




 そしてスクッとその場に立ち上がる。




「まず始めに言わしてくれ」



「みんな・・・本当にゴメン!!!」



その時



俺のその姿と言葉を聞いて、みんなが唖然とした。一瞬この部室の時間が止まったような、そんな感触がこの場にいる全員が感じ取った。



それほどに、俺が発した言葉はみんなにとっては意外なものだったようだ。



「・・・・・・」



俺は何も言わずに、ただ深くみんなに頭を下げていた。目をつむり、今できる精一杯の気持ちを込めて、俺はその謝罪の言葉と共に頭を下げていた。



そうしてどれぐらいの時間が経っただろうか。いや多分実際にはそこまで時間は経っていないんだろう。だけど俺とそしてここにいるみんなの間ではその時間は果てしなく、長くて遅く流れていっていた。



「な・・・」



だけどその沈黙が永遠に続くことは決してない。それは誰もがわかってる。だけどこの場の空気、雰囲気が、音を奏でることを拒絶しているようで、誰もなにも話せなかった。だけどその均衡も、一つの綻びで一瞬にして崩れ去る。そして解き放たれかのように、音はそこに流れ出す。



「なんでお前が、謝るんだ??」



 その言葉は、俺の言葉に対する反抗の言葉だった。



「今回の戦闘において、謝らなきゃいけないのはどう考えても俺達のほうだろ??蓮一人を苦しめ、そして蓮を一人にした。誰よりも苦しみ、誰よりも傷つき、誰よりも辛かったのはお前、蓮自身だろ!?」



健は勢いよく立ち上がり、強めの口調で俺に言った。その言葉には、遠慮や気遣いからくる「汚れ」が、一切感じられなかった。全ては健の、素直で正直な気持ちだった。



そしてそれは、ほかのみんなも同じだった。



「そうよ!今回の戦闘で蓮君が謝るところがどこにあるというの??むしろ蓮君に謝られちゃったら私たちはどうしたらいいっていうの?」



「・・・・・・」



 俺に振りかかる一つ一つの言葉はどれも、優しすぎた。眩しすぎた。俺にはもったいなさすぎる言葉ばかりだった。



今ならなんとなくわかる気がする。フェンリルの言った俺にとって大切なもの。親父が言った、生き物らしい「優しさ」というもの。その言葉の一つ一つの意味がどんなことを指し、なにを意味しているのか。そしてそれがどれだけ重要なものなのかが、今俺の目の前にいるみんなの声を聞いて、心の中に浮き上がってきた。



俺にはこんなにも良き友がいる。そして仲間がいる。そんなかけがえのない存在を、俺は少しでも守れたことがかつてあっただろうか。力になれたことがあっただろうか。



いや、そんなことがあるはずがなかった。



「・・・ありがとう。そんな感じで言ってもらえると、なんだか涙が出そうになっちまうな。だけどな、その言葉には間違ってることがある」



俺はそう言って閉じていた目をゆっくりと開き、そして体を起してみんなを見つめて言った。



「お前らはなにも悪い事をしていない。だから謝る必要もどこにもない。みんなは俺と違ってちゃんと、そして全力でターゲットと戦った。それで例え敗れたとしても勝ったとしても、それが悪い事であるはずがない」



「今回の一件で一番迷惑をかけたこと。それを引き起こした原因は俺自身の心の「弱さだ」!」



「暴走という、本来あるはずのない現象を引き起こしたのはな・・・」


 

 俺がそう言うと、健や玲はピクリと反応して俺の顔を見つめる。工藤も手を少し動かし、反応した素振りをみせる。しかし、一番意外だったのは伊集院さんだった。



本来なら本を読みながら話を聞いているはずなのに、今はしっかりと俺の顔を見て聞いている。それはもちろん普通なことなのだが、今の伊集院さんの雰囲気はあきらかにいつもと違っていた。



「ふむ。やはりご自分が暴走していたことを知っていましたか。あれほど正気を失っていれば、記憶など吹っ飛んでいるかと思っていましたが、まさか知っていたとはね・・・」



工藤はそう言うとスッと立ち上がり、一歩二歩とゆっくりとした足取りで歩いた。そして丁度俺の机を挟んで向かい側のところで止まると、その鋭い視線を俺に向けた。



「それならばこちらも変に気遣う必要はありませんね。遠慮なく本当の想いを語らせてもらいます」



「あなたは正気を失っていたにしろ暴走していたにしろ、我々、同じ竜族である仲間に、その刃を向けたことは事実です。そして我々を心身ともに痛めつけた。これがどれだけ重大な罪であるか、あなたにもわかりますよね?」



 工藤は言った。それは覆しようのない事実と現実を俺に叩きつけるように、工藤は俺を睨みつけながら言った。


その言葉には非常にとげがあった。相手を威圧し、完膚なきまでに叩きのめすほどの威力があった。おそらく、気の弱い奴や覚悟のできていないやつなら、ここで工藤に白旗をあげているだろう。もしくは強引に反論するかのどちらかだ。



だが、今の工藤の言葉にはなんの間違いもない。どれだけ強く言おうが罵倒しようが、言っていることは正しいのだから、反論しようにもできない。いやする必要がどこにもない。



俺にはその事実を認める以外に選択肢はない、それが現状だ。もちろんはなから俺もそのつもりだ。



俺はどこにも逃げやしない。この世界で在り続けるために、帰ってきたこの場所に居続けるために、俺は俺という存在を示してその存在を元に覚悟をしめす。



もう手放しはしない。この世界も、そしてみんなとの絆も・・・



「ちょ、ちょっと工藤君!!それは言い過ぎなんじゃない?今回の件では蓮君は・・・」



バッ!



 その時、俺は工藤の言葉に反論する玲の顔の前に腕を伸ばして、その言葉を断ち切る。



「蓮、君・・・?」



「ごめん玲。だけどこれは俺自身の問題だ。そして向き合わなければならない事実だ。工藤はなにも間違ったことをいっていない、今はそれに対して俺が」



「今ここにいる覚悟を、見せる時だ」



そして俺は工藤に視線を向ける。工藤の鋭い視線に対して俺は全く逸らさず、真っ直ぐにその眼差しを睨みかえした。



「もちろんわかってるさ工藤。今回の件、俺が暴走したことによりみんなに多大な迷惑をかけたこと。それはもちろん事実だし、どれだけのことをしようが許されるものじゃない。だけど、俺はその事実から逃げるつもりはない」



「俺はこれからも許されるならみんなと共に居たい。そのためにもまず俺は、あの後どうなったのかを正直に、包み隠さず全て話す。今はとりあえずそれを俺の覚悟の一つだと思ってほしい」



「今はそれでいいか?工藤」



 俺は工藤のその見る者の隠された心の内の全てを見極めるような眼差しに向かって言った。すると工藤は一時の間俺を睨み続けた後、ふっとした感じにその表情を和らげて言った。



「まあ、あなたがここに来た様子で生半可の覚悟で来たわけではないとはわかっていましたが、ふう・・・。やれやれ、最近私の少し強めの言葉も効果がありませんね。少しでも弱い部分があったら叩きのめそうかと思っていましたが・・・どうやらそんな隙間もないみたいですね」



工藤はそう言うとスタスタと自分の席に戻っていき、イスにゆっくりと腰かけた。そしていつものごとく手を顔の前に組み合わせてどっしりと構えた後、俺に視線を向けた。



「では改めてお願いします一之瀬さん。あの後あなたの身になにが起き、そしてどういったことがあったのか、我々に教えてください」



 

 俺はその言葉に小さく頷き、一度軽く深呼吸をする。体中にたまった重い空気を全部吐き出して新鮮な空気を吸い込んだ後、ゆっくりと眼を開けた。



「・・・・・・」



そこには、俺がこれから話そうとすることを真剣に聞こうとする、みんなの姿があった。みんなまっすぐ俺を見つめ、その眼差しには真剣さが充分に伝わってきた。



「・・・よし」



俺は一言だけそう言ってみんなの方を見つめた。もう隠す必要はどこにもない。今することはここにいるみんなの想いに応えることだ。俺は俺が知る全てのことを打ち明けよう、俺は心からそう思った。



それがみんなへの覚悟であり、俺がここに居続けるためには避けては通れない道だ。



「俺はあの後、知らない空間に飛ばされていて・・・」



 

 そして俺はみんなに今まで俺自身が体験したこと全てを話した。その内容は信じがたいものばかりだったが、なにも躊躇せずに全てを堂々と話した。



そしてみんながその事実を知った。俺の中にはもう一人の俺がいて、それがどんな存在であるかを・・・






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