7、ラジオ体操は武器
「おまえはなにをしているんだ」
これは美形さん。どっちも美形さんだけど、・・・面倒だ。最初の美形さん。
うう、びけいさんびけいさん、って連呼するのに耐性がついてきた自分がかわいそうだ。
さて、なにを、といわれましても。
ところで二番目の美形さんは何故に驚いた顔をしているんだろう。
美形連呼は避けたいので彼はどちらさんと呼ぼう。
わたしが首を傾げると、ああ、と美形さんは頷いた。
「もう話していい」
おっしゃ。
「お帰りなさい!」
え、なんで元気よくお迎えしたのにそんなかわいそうな子を見る目を向けられなきゃいけないの、わたし。
美形さんはそれはそれは深く溜め息をつくと疲れた表情をする。
そんな顔でも様になるって、わたしこの人のこと嫌いになりそうだ。
「私はなにをしている、と訊いたんだがな」
あ、この人、自分のことをわたしって言うんだ。お・そ・ろ・いですね!
「なにって、待っていました」
あなたを!ユー!
「・・・そっちではなく」
どっち?ああラジオ体操のこと?
「戦後日本人の武器のひとつです」
気にしないで。
・・・なんかこの説明だとだれかに怒られそうだな。
「武器?」
「平和的武器です」
善良的なね。きっとそのはず!
「わけがわからん」
うわあ!美形さん、すごい眉間の皴!あとになっちゃうよ。
折角お綺麗なのにもったいないですわ奥様!
「・・・陛下、差し出がましくも、会話をお邪魔することになり大変恐縮なのですが、わたくしをお呼びになった理由のご説明をいただけますか?」
お。どちらさんがはじめて喋った。
女の人かもなって思っただけあって、声も中性的だ。でも格好からして騎士だからぱっと見、男性と判断したんだけど、女騎士だっているかもしれない。なんたって異世界。
女性だといいなあ、わたしの心の潤いのために。
ところでさっき「へいか」って美形さんのこと呼んだよねあの人。
平価とかヘイカさんとかHey!蚊!とかじゃないよね。
・・・ないわ。最後のはないわ、自分。
だめだ。
近年稀に見るどころじゃなく史上最高に混乱してる。
平価なんて普段使わない言葉が真っ先に出てくる時点で通常運転じゃないぞ、わたしの大脳。
陛下、って国王陛下、いや、帝国?っていったから、皇帝陛下。
あ、でも、確か、帝国の国家元首が必ずしも皇帝というわけではないんだっけ。あれ?
「あのう」
わたしは動揺のあまり思わず美形さんの服の袖をくいくいと引っ張ってしまった。
「今度はなんだ」
しまった、けど、何も言われないので良しとする。
「へいかってもしかしなくとも皇帝陛下の陛下、ですか」
お願いだから違うといって。ヘイカさんであって。ね、ヘイカさん!
が、願いは虚しかった。
「もしかしなくとも、それだろうな」
あっさりと頷きやがったのだ、美形さんもとい陛下は。
わたしの小さな声は風に散る。
「・・・やらかしたー」
これは、うん。
薄々匂ってはいたんだ。どう見たって陛下?の態度は召喚の類じゃなかった。びっくり!って仰天した風でこそなかったものの、訝しげで間違ってもウェルカーム!ではなかった。
魔法はないって言われたしね。
でも、よりによってトリップ先が国家元首のもとって!
どうしよう
着々と帰還不可能フラグが立ちつつある。