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4、いなくなってしまった魔法

「ありがとうございました!」


た、助かった!

再び相見えた地面に感動してみょんみょん跳ねたり足踏みしたりしていると、我関せずとさっさと歩き出してしまった広い背中を追いながら、お礼を言ってみる。

返事はなかったけど、まあいいや、とりあえずこの人に付いていこう。


ぺたぺたと歩けば足の裏がひんやりとした。

失念していたけど、そういえばわたしは裸足なのだ。だってさっきまで家にいたからね。


庭園だから土で汚れるんじゃないの?って思うかもしれないけれど、今わたしたちが歩いているのは、人が歩くために造られたと思われる通路の上。

白い大理石のような汚れの見当たらない、磨き上げられたタイル状の石が隙なく敷き詰められた道で、同じく背の高い白い円柱が延々並んでいる。


落ち着いてあたりを見回せば今までいかにわたしが予想以上に混乱していたかわかるってものである。

冷静だったらここを温室なんて言わなかった。


多種多様な植物たちが空間一面を覆い、通路と同じ透明感のある白い石で作られた水路を、澄んだ水が絶え間なく上から下、右から左と隅から隅まで流れていく。

豪奢な造りのはずなのに、華美でもなければ、密やかで静謐で、そのくせ圧倒する雰囲気だ。

イメージとしてはバビロンの空中庭園である。

最近はユビキタス社会でなんでも情報を手に入れやすいので興味のある人はググってね。

わたしの説明より画像で確認したほうが、一気に明瞭になるよ!


それからしばらく互いに口を開かず黙々と足を進めた。

わたしは物珍しい景色に胸を弾ませてきょろきょろしていたおかげで気まずい思いはしなかった。

高い木もあれば、背の低い雑草のような小花も、大輪の高貴な花も、いっしょくたにいたるところに緑が溢れ、すぐ足元を水が奔る。

植物は整然としておらず、自然のままばら撒かれたようで、かといえば不思議と統一感があり絶妙なバランスで神聖さを保っているようだった。


「あの」

「・・・なんだ」


静か過ぎて、声が響くような気がする。なんだか喋るのも気が引けるな。


「この世界に魔法はありますか?」


問えば、ちらりと流し目をいただいた。

よ!色っぽいね!


「おまえの世界とやらにはあるのか?」

「概念は。もしかしたらあるかもしれませんけど、わたしはお目にかかったことがありません」

あったらいいなとおもいます。

「同じだ」


え!?あったらいいなとおもいます?


「魔法は絵空事の分野だ」

「あ、そっち。」


うお、声に出ちゃった。

ぱっちりと目が合う。や、そんなに流し目をいただいても困ります。食えるわけでもなしに。


「そっち、とは?」

「いえ、独り言です。お気になさらず」


美形さんは深くは訊いてこなかったのでわたしもそれからまた口を閉じた。


だんまり、おっきいのとちっこいのが歩く。

別にわたしが小さいのではないぞ。

比較対象である、この前を行く人がのっぽなだけだ。

わたしは小さくない。

小さくないぞ!


日本人女性(17歳)の平均身長157.9センチ(今年度学校保健統計調査より!)に少し届かないけど小さくない!


160センチ台の友達三人に周囲を囲まれて「ほら識ちゃん人間壁だぞー」とからかわれても断じて怒りなど感じない。


久し振りにバスで会った「同じ中学を卒業した同級生」略して「同中」の男子に「あれ、佐藤縮んだ?」と、どや顔されてもその手には乗らない。

「坂田くんが伸びたんだよー」とか「ちびじゃないもん!」とか甘酸っぱい恋がちらつくような、もしくは始まりそうな可愛いことは言わない。聞こえなかったふりで別の話をする。


八百屋の山崎さんがいつまでもわたしを永遠の中学一年生だと思っているようでも拳を握り締めて「おじさんありがとー」と無理やりあどけなく見えるような笑顔で頑張っていたりなどしていない。

でも正直「おつかいえらいねえ」で野菜をおまけしてくれるおじさんには感謝してる!

山崎さんとこの野菜は安くて新鮮でおまけもしてくれるからおじさん大好きだー!

でも時々それで経営上手くいっているのか不安だー!


今現在背が少しばかり控えめであることを気にしてなどいない。なぜならわたしの身長はこれからバリバリボキボキ伸びるからだ。

明日になれば、1センチ伸びてる。


そう眠る前に考えて、たくさんの夜を越えてきた!

兄さんの「そのうち伸びるよ」の笑顔が年々「伸びるといいね」の苦笑に移行しつつあるのに気づいても、その呪文で夜を越えてきた!


・・・呪文、魔法の呪文、ね。

フィクションではあたりまえにあって、概念も大体通じるこの言葉。

わたしは残念ながら出会ったことはないけれど、もしかしたらあるんだろうなとか考えたりもする。ないかもしれないけど。


神様、幽霊、宇宙人。素敵じゃないか。


こんなにもたくさんの人に概念が通じるんだ、もしかしたら空想かもしれないし、もしかいたら実際にどこかに存在していたりするのかもしれない。


あったらロマンだし、なくてもロマンだ。


が、しかし。


静かな庭園に絶えない清水の涼やかな音がこだまする。


・・・魔法はない、か。


ググる・・・言わずと知れたあのぐーぐるを利用して言葉、画像などを検索すること。派生してインターネットで検索すること。


どや顔・・・「どうだどうだ」=「どうやどうや」と自慢している顔。得意顔。


だいたいそんなニュアンスで

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