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42、宮廷談義(3)

「かつて色々あって王権が揺らいでしまいました。さて、そうしたらどうなるでしょう」

「え、いきなりですか」


突然出された問題にわたしが慄いて顔を上げるとサンファルさんはことさらにっこりと笑う。ちくしょう、なんて美人な笑顔だ。


彼はどこかの教師よろしく、立てた人差し指を軽く左右に振ってみせた。


どうやらサンファルさんの即席講義らしい。


彼の好意には大変申し訳ないが、厳然たるひとつの事実として、わたしは別に王宮の儀礼が複雑化したいきさつを説かれても説かれなくても生きていけるわけだが、


ちらりとサンファルさんを見上げると、件の笑顔がそこにある。


ちくしょう、なんて美人な笑顔だ。あれこれ2回目?


その、なんて美人な笑顔を視界の隅に、うーあーと唸りながらわたしは頭のエンジンを入れてみた。

なんだかついこの間まで受けていた世界史の授業をなんとなく思い出す。


わたしのクラスで世界史を教えてくれていた先生の口癖は


「暗記だけで歴史を乗り切ろうとか、おまえの頭はそんなに優秀か」


というわけで、

あの先生の授業はある意味では数学よりも頭を回転させなければならなかった。

ちょうどいまこんな感じにである。


何故そんな破目になるのかというと簡単な話で、合間合間で先生が生徒に意見を求めたからだ。

これをしたのはだれだれか、ではなく、だれだれがこうした。では、このあと世界はどう動くか。そうして、歴史はどう刻まれていくのか。おまえはどう思う?


とか、そんなふうに。


おかげさまでその世界史の授業は楽しい、という人間と、勘弁して、と慄く人間とで真っ二つに分かれた。ちなみにわたしは時と所と場合により楽しい、のスタンスだ。


っと、そんなことはどうでもいい。


わたしはうんうん唸って雑巾のように脳内を絞ってみる。


こんな必死になる必要性を全く感じないわけだが、サンファルさんのなんて美人な笑顔という名の得体の知れない威圧感を前にこれは理屈ではないのだ。見よ、あの笑顔を!


そろそろ沈黙とサンファルさんの無言の微笑みに冷汗が背中を伝い始めたころ、わたしの脳みそがおーいと戸を叩いた。


・・・あ!そうだ世界史だ!一回これに似た問題を世界史の先生に当てられた!

それで見当はずれな回答をしたわたしは密かに恥ずかしくてノートに意味もなくぐるぐるとシャーペンで落書きをしたという生温かい記憶がある。


そのぶんテストで、その記述問題は確か減点なしでクリアしたはずだ。

もう二度と間違えてやるもんか、と当時のわたしは思ったのだ。


どこかの偉い人が失敗をしない者は成功もしないという名言を残したけれど、まさかこんな形で身に染みることになろうとは思わなんだ。


恐る恐る顔を上げ、だめもとでわたしは口を開いた。


「・・・あー、えっと。貴族のみなさんが盛り上がる・・・?」


これで間違っていたら世界史の学会に論文を発表して新説の旋風を起こしてやる。

もちろん、地球に帰れたら、のはなし。


わたしの意気込みなんぞは知らないサンファルさんは、なんだか微妙な顔をして頷いた。


「・・・なんか、違和感のある回答だけど、まあ、正解ってことにしておきましょう。そうね。貴族を筆頭に他勢力が力を伸ばしてくる。」


よかった。世界史の教科書は正しかった。とかいらん安堵をしつつ、教師よろしく頷くその人を見上げながら、思わずぽつりと素直な感想をそのままわたしは呟いていた。


「サンファルさん、なんだかすっかり親切な解説キャラですね」

「きゃら?」


きょとんとするサンファルさんに説明するのも面倒なわたしが苦笑で濁して先を促す。彼は腑に落ちないと肩を竦めてみせながらも、


「まあ、親切ならいいんじゃない?受け取っておけば」


とすんなり話を再開してくれた。


「まあ、それで時の皇族が取った対策のうちのひとつが今まで減ったり増えたり微妙に形を変えたりしながら今日まで続いているのよね、結局」


そうだ。

元はといえば、これは世界史の話でもなければキャラクターの話でもない。宮廷儀礼の複雑化した経緯という、個人的にはあんまり重要ではない話をしている最中なのだ。


「対策、ですか?」


首を捻るばかりであるわたしに対し、サンファルさんはひとり訳知り顔でつらつらと滑るような語り口である。


「そう。私的行為に宮廷社会の位階操作という公的機能を担わせることで、皇帝の貴族支配を明白にしたかったのよね、たぶん」

「・・・・・」

「いちいち面倒なのは、そういう宮廷儀礼を権力分布の象徴へ変容させた以上、威信的性格をどうしても極めなければいけなくなったからじゃない?」

「・・・・・」


押し黙ったわたしに何を感じたのか、アメリがそっとわたしの顔を覗き込んできた。


「スィキ様?」


だいじょうぶですか?わかりますか?


彼女がどう思っているのか真実のほどはわからないが、わたしの現状の心ではアメリの労わるような顔がそう言っているように見えた。


わたしの腕に軽く触れたアメリの手を取って、わたしは今日一番と思える柔らかい笑みを返したつもりである。


「うん。よくわかんない」


知識のない人間がテキトーに都合よく歪曲して書いているだけなので細々したところは軽く華麗に読み飛ばしてください。

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